新型コロナウイルスの世界的な流行をきっかけに一般的になったリモートワーク。
時間や場所に依存せず、面倒な通勤の時間からも解放されることから、エンジニアをはじめとする多くの労働者が、継続的にこの自由な働き方が続くことを期待しています。
一方で、2022年後半頃から「仕事上のコミュニケーション不全」を理由に、完全リモートの仕組みを見直し、社員の出社頻度を高めることを求める企業が国内外を問わず増えてきています。
今回は、転職を検討されるエンジニアにとっての最大の関心事でもある「リモートワーク」「企業の出社方針」について、Findy独自の調査結果も交えながら直近の動向をお伝えしたいと思います。
「出社回帰」を求める国内外の企業の動き
2023年8月、オンライン会議用システムを提供する米国・Zoom社が「出社可能な社員に一定のオフィス出社を求める」方針を発表し、一部で非常に話題になりました。
コロナ禍における“リモートワーク”の象徴ともいえるZoom社によるこの方針転換は、現在の「働き方」を巡る議論の流れを色濃く反映していると言ってよいでしょう。
上記のZoomの声明以前から、アメリカのTech Giant企業では「出社回帰」の方針が相次いで示されてきました。
海外での報道によると、Googleは「今後、週3日以上の出社をしているかを勤務評価の一部に組み込む」ポリシーを打ち出したとのこと。
また、AmazonやMetaなどのソフトウェア企業でも週3日以上の出社を求めることが一般的になりつつあります。
こうした「出社回帰」の流れは日本も例外ではなく、「原則出社」の方針やリモート・出社を組み合わせたハイブリッド型の働き方に転換する企業が増えていると言われています。
「日経トレンディ2023年10月号」に掲載されている調査結果では、回答者の6割以上が「週3日以上出社をしている」と回答しており、1~2年前と比較して確実に、働く人の出社頻度が高まっていることが伺えます。
「日本のWebエンジニアの働き方」は変わってきているのか?
上述の通り、国内外で企業からの「出社回帰」の要請が高まってきている中で、日本のWebエンジニアの働き方が変化しているのか、否か、についてFindyの調査結果をもとにお話ししたいと思います。
まずは、2023年2月に実施した「エンジニアの転職や働き方に関するアンケート(n=395)」の結果(下図)をご覧ください。
同調査では、23年2月の調査時点で「現状の働き方・出社頻度」について、約75%のエンジニアが「リモートメインの働き方(週3日以上のリモート)」をしていると回答しています。
ただし、22年9月に行った同様の調査と比べると「フルリモートで働いている」という回答の割合が62.4%→54.7%と大きく減少しており、減少幅こそ決して大きくはないものの、傾向として上述した「出社回帰」のトレンドに即した結果となっています。
一方、同調査では「転職時にリモートワークを希望するか?」という設問も聞いていますが、こちらは約8割が「リモートメインの働き方を希望する」という回答結果が出ています。
求職時に「リモートワーク」を希望されるエンジニアの割合は依然として多く、今後「出社回帰」の傾向が強まった際に、働く人と企業との間での希望のギャップが生まれやすくなることが予想されます。
実際、「勤務先企業が出社回帰の方針を出したことがきっかけとなって、転職活動を行った」と答えたエンジニアは44.8%にも及んでおり、企業の「出社回帰」の方針がエンジニアの転職市場に与える影響はかなり強いものと思われます。
なお、上記結果は世の中的にもかなりの驚きを持って受け止められており、レポートの公開時には多数のメディアで取り上げられました。
上記X(当時はTwitter)についたコメントを見ると
- 身近にもそれ(出社回帰)で転職した知り合いがいる
- 地方在住エンジニアとしてはリモートの有無は死活問題
- 自宅に最高の開発環境があるから、移動するなりのメリットが必要
といった声が寄せられており、特に個人の生産性の観点からリモートワークの継続を望む声が強いことが定性的にも見てとれます。
日本のWeb企業の出社方針の現状
ここまでは、「リモートワーク」を巡る世界的な潮流の変化、およびそれを受けたエンジニア個人の動向について記載してきました。
こうした変化を受けて「企業側が何を考えているのか?」についても言及したいと思います。
Findyでは、上記の調査の結果を受けて、2023年7月に同社を利用中の企業113社に対してアンケート調査を実施しています。
(以下、Findyを利用中の企業 = 自社サービスの開発を行うWeb系企業を中心とした結果であることを予めご承知おきください)
同調査では、直近の企業の採用意向の変化や採用手法といった設問に加えて、「出社方針」についての設問を多数実施しています。
まず聞いているのは、「エンジニア組織の出社やリモートワークの方針を誰が決めているのか?」という質問です。
結果から申し上げると、CTOやVPoEなどエンジニアリング部門独自で意思決定がされているケースがおよそ3割、エンジニア出身のCEOが決めているのが約1割にとどまり、ほぼ同等の割合でビジネスサイド出身のCEOや事業責任者が意思決定を行っているという結果となりました。
実はこの「誰が方針を決めているのか」という問いが直近の「働き方」を紐解く上での1つの重要なファクターになっている可能性があります。
というのも、同調査の結果から「働き方の意思決定を誰がしたか?」によって、特に“フルリモート”での働き方が選択される比率がおよそ2倍違うという結果が表れています。
前提として、「エンジニア組織が独自に意思決定ができる」という組織や事業のフェーズの違いが回答に表れている側面も考えられるため、一定解釈の必要性がありそうですが、結果だけ見ると意思決定者の違いによって、エンジニアの働き方の方針が大きく異なっているという側面が存在していそうです。
留意いただきたいのは、企業の状況によって求める「成果」や「生産性」の定義が異なるであろう点です。
一般的にリモートワークを認める企業の方針は「個人」の生産性の最大化に焦点が当てられていることが多いと感じます。
他方、出社を求める企業の多くがコミュニケーション面での課題の改善をその理由に挙げており、より「チーム」で成果を出すことにフォーカスをしている傾向が見られます。
また、企業の思惑として「採用」の観点からリモート継続を選択される企業も増えています。企業が採用観点でリモートを選択・維持する際のモチベーションは概ね以下の3つです。
- 母集団形成(候補者の方を集める)の観点
- 候補者へのアトラクトの観点
- 選考プロセスの歩留まり低下の観点
働く人のモチベーション維持や生産性といった観点だけでなく、「リモートにしないとそもそも人が採れない」という現実的な課題感から、リモートの継続を選択する企業も少なからず存在します。
企業にとって、採用は継続的に成果をあげる上で非常に重要なイシューであり、短期的に成果を上げることと同列で重要な課題です。
特にエンジニア採用においては「出社方針」が非常に重要な意味をもつファクターであることは企業も認識されており、各社頭を悩ませている点でもあります。
今後、企業の選考に進まれる方で「出社方針」をこだわりの条件として設定される方は、ぜひその企業が「どういった意向でその方針を選択しているのか」「選択することでトレードオフとなる別の価値をどう担保しているのか?」など、その企業がどういった意思決定をしているのかをカジュアル面談などで確認されると良いのではないかと思います。
なお、出社に関する方針は今後しばらくは状況を見ながら各社が最適化を図っていく領域かと思いますので、Findyでも継続的にユーザー・企業両方への調査を行い、情報を発信していきたいと思います。Findyマイページ内で定期的にコンテンツを更新してまいりますので、ご興味のある方はぜひ下記より会員登録(無料)いただけますと幸いです。