大手企業で進むDX内製化。東急とパイオニアが取り組むエンジニア組織づくりとは?

エンジニアリングの重要性が社会に浸透する中で、内製化に踏み出す企業が増えています。とはいえ、大企業であるほど、内製化を進めるための課題は多く、その内情は第三者からは見えにくいもの。そこでファインディでは、大企業でDX内製化を推進している東急株式会社の宮澤さんとパイオニア株式会社の岩田さんを招いて「DX内製化の裏側に迫る〜東急とパイオニアが目指すエンジニア組織〜」と題したイベントを開催。コロナ禍で組織を立ち上げ、大企業の組織変革に挑戦しているお二人に話を聞きました。本稿は、イベントの内容をまとめたものです。

登壇者プロフィール

宮澤 秀右さん/東急株式会社VP of Engineering 

2021年4月、東急に入社。同年7月にデジタル内製化組織「URBAN HACKS」を立ち上げ、同社のDXを本格的に推進。「リアル+デジタルの融合」により新しい体験価値を、お客様との共創により提供し続ける組織・仕組みづくりを実行。長期経営構想にある「City as a Service」の実現を目指している。2015年まではソニーグループの各社で勤務し、スウェーデンのソニーモバイルでIoTのUXデザイン/企画統括を務めた後、日産自動車に入社。そこでもデジタル内製化組織の立ち上げを実行し、コネクテッドカーに関するソフトウェアとUXの開発を統括した。

岩田 和宏さん/パイオニア株式会社/常務執行役員CTO, Cross Technology Centerセンター長

パイオニア株式会社に2021年3月入社。モノづくり企業からモノ×コト(IoT)のサービス開発・事業推進を目的としたデジタル内製組織(Cross Technology Center)を立ち上げ、パイオニアの変革を担う組織、制度、文化づくりを行っている。 以前は、大手企業からスタートアップまでエンジニア、経営者として幅広く経験し、直近ではJapanTaxi(現Go)の取締役CTOとして、立ち上げから参画して組織づくり、配車アプリ事業、広告サイネージ子会社の立ち上げなどを牽引。

DX内製化を進める東急とパイオニアの現状とは?

──最初にそれぞれの企業について、簡単に概要をお話いただけますか。

宮澤さん:東急グループは交通と不動産を中心に、生活サービス、ホテル・リゾートと計4つの領域で、幅広く事業を展開しています。2022年9月2日には、グループ設立100周年を迎えました。

現在、我々が取り組んでいるのは“City as a Service”構想です。これまでのリアルビジネスにデジタルを組み合わせることで、一人ひとりに最適なサービスを提供できるような街づくりを目指しています。

岩田さん:パイオニアは1938年に創業して以来、最先端のテクノロジーを活かした製品・サービスを提供してしてきました。ダイナミックスピーカーから始まり、現在はカーナビゲーションなどを含めたモビリティ領域に特化して、カーエレクトロニクス事業をメインに展開しています。

──エンジニア組織の現状や規模についても教えてください。

宮澤さん:2021年に東急のデジタル内製化を担う組織「URBAN HACKS」を立ち上げました。130社あるグループ企業の中心となるデジタルプラットフォームをつくるべく、フロントのサービスデザインからバックエンドのサーバーサイド、インフラまで、一貫して開発する体制を構築しています。

URBAN HACKSは現在50名ほどの組織に成長していて、東急線アプリや東急カード、ホテルアプリなどを開発しています。それらの開発を通して発覚したバックエンドや既存システムの課題を解決しつつ、共通基盤の開発を進めているといったスタイルです。

岩田さん:パイオニアはモノづくりの強さを活かしてモビリティデータを活用したソリューションサービス企業を目指していて、私が所属する「Cross Technology Center(以下、CTC)」の役割は、その変革を担うことです。

CTCはAI技術部やデータインテリジェンス部、モバイル開発部などの部隊と、パイオニアのコアサービスであるナビゲーションやサウンドに関する技術を扱うコアスキル部隊とで分かれており、全体で約300名ほどのメンバーがいます。

ギャップ萌えを狙う?組織づくりの鍵は「ブランディング」

──お二人がこれまでどのように組織づくりに取り組んでこられたのか、お話いただけますか。

宮澤さん:2021年4月に入社してから3ヶ月ほどでURBAN HACKSを立ち上げて、一番大変だったのはエンジニアへのブランディングです。東急グループは知名度こそあれど、エンジニアからしてみると「自分のスキルが活かせる場所があるのか?」といった疑問を抱く人も少なくないでしょう。そのため、立ち上げた当初は、URBAN HACKSの取り組みをエンジニア目線で魅力的に伝えていくことを意識していました。

また、内製化したとしてもスピードを上げられなければ意味がないため、社長直下の組織にしています。そうすることで、QCTの面でもメリットを出すことができるため、体制づくりはかなり重要なポイントだと思っています。

──決断までに時間がかかるとなると、内製化のメリットも薄くなりますしね。岩田さんはいかがですか?

岩田さん:私は2021年の3月に入社してから約5ヶ月後にCTCの前身となる組織を立ち上げました。組織を立ち上げる前にまず取り組んだのは、メンバーとの1on1です。ヒアリングを通して、現状の課題を洗い出した上で戦略を立てるようにしていました。

またパイオニアにはハードウェアや機構設計、組み込み技術などを専任とするエンジニアもいます。そのため、0→1でソフトウェア組織を立ち上げるのではなく、カルチャーの融合・変革をテーマに組織づくりをしていましたね。最初は小さく取り組み、徐々に仲間を増やしていくことで、徐々にアジャイルなカルチャーを浸透させていきました。

宮澤さんと同じく、社内外へのブランディングも意識して行っていました。

──ブランディングに関して具体的にはどのようなことをされたのですか?

岩田さん:徹底的な情報発信ですね。企業規模が大きくなるほど、中の様子がイメージしづらくなってしまいがちです。そこで私たちは、情報の透明性を高めるために、どんなエンジニアが所属していて、どのように仕事を進めているのか、実際に使用している技術などについてnoteなどで発信するようにしています。

面談をしていると、20代の若い世代の中にはパイオニアの存在を知らない方もいらっしゃるので、認知の獲得という観点でも情報発信は重要だと実感しています。

──ブランディングについて、宮澤さんが意識されているポイントはありますか?

宮澤さん:URBAN HACKSは“ギャップ萌え”を狙っていて(笑)。「東急なのにそんなことやっているの?」と思っていただけるような発信を意識していました。電車のドアステッカーや窓上の広告も活用しつつ、Findyをはじめとした採用サービスにもご協力いただきながら、少しずつ認知を拡大させて採用活動に取り組んでいるところです。

内製化を進めるためには、まず現状の課題を正確に捉えることが重要

──DX内製化を進める中で、難しかったことはなんでしょうか?

岩田さん:組織内の人間関係です。もともと新卒採用の文化が強かったため、既存メンバーと外部から採用したメンバーとの関係構築には、苦労したこともありました。

CTCはパイオニアの変革を担う組織ですし、社内の組織であることが必須と考えていました。そのため、苦労はありましたが2年ほど取り組み続けた結果、最近ようやくカルチャーを醸成する土台ができてきたかなと。現在も改善を続けている最中ですし、理想の組織にいくまでにはもう少し時間がかかると思います。

──同じく社内で組織を立ち上げた宮澤さんはどう思われますか?

宮澤さん:内製化は目的ではなく、あくまで手段です。私たちの場合、デジタルを使ってリアル企業がどのように事業を変革していくか、そのための手段として内製化を位置づけています。

各企業によって内製化を進めるタイミングや方法は異なると思いますし、DXの進め方に明確な正解はないのではないのではないでしょうか。ですので、岩田さんがされていたように、社内でヒアリングを重ねて抱えている課題を正確に捉えて戦略を立てることが大切なのだと思います。

──ベストな方法があるわけではなく、状況に合わせて分析しながら考えていくことが大事だと。

宮澤さん:もう一つ言えるのは、内製化のメリットは小さく始められることです。最初は5~10人で始める形であっても、そこでできたプロダクトやサービスを通して企業や組織の風土を変えることはできます。エンジニアリングの力を証明できれば、周囲の理解も得られるのではないでしょうか。大風呂敷を広げるのではなく、まずはスモールスタートで取り組んでみることが一つの成功要因になるように思います。

──岩田さんはいかがですか?昔に戻ったとしたら、どのように進めますか?

岩田さん:まずは、現状とあるべき姿を言語化することから始めますね。その後フェーズを定義していき、どのようなステップで進めていくか、という流れで進めると思います。
行動に落とし込めなければ意味がないため、現時点の立ち位置を明確にして、現状と理想のギャップをしっかり認識することが非常に重要だと考えています。

──自分たちの現状を可視化することが大切なのですね。可視化について、宮澤さんがトライされたことがあれば聞かせてください。

宮澤さん:ビジョン・ミッション・バリューをわかりやすく伝えることは意識していました。その上で、途中で変更する前提で10年間のロードマップを策定しました。URBAN HACKSは5ステップを10年かけて進めようとしていて、現在のフェーズは1.5だと思っています。ロードマップを示すことで一つの判断基準ができますし、組織の軸がブレなくなるため重要な取り組みだと思います。

組織の底上げにつながる。リアルとの接点から生まれる面白さ

──DX内製化に取り組む面白さは、どういった部分にあると思いますか?

宮澤さん:デジタルだけでは完結しないプロダクトやサービスづくりができることですかね。東急では、鉄道や不動産などのアセットを活用して、さまざまな挑戦が可能です。リアルとデジタル、片方だけではできなかったことでも、両方を組み合わせることでお客さまに新しい価値を提供できます。リアルとデジタルが連動するサービスやプロダクトをつくることが強い差別化に繋がるため、やりがいを感じる部分です。

岩田さんサービス・プロダクトの改善スピードの向上が、今までできなかったことへのチャレンジにも繋がっていく点ですかね。PDCAを高速で回してサービス・プロダクトを改善していくのが当たり前な現代において、それができないのは競争力の源泉がないようなものです。そういった積み重ねが組織レベルの底上げにつながっていくと思いますし、DX内製化に取り組む醍醐味だと思います。

──チャレンジが増えることが醍醐味なのですね。URBAN HACKS、CTCだからこその面白さについてもお聞きしたいです。

岩田さん:モノからサービスまで、全てに携われることですね。パイオニアにはハードウェア部隊もいますし、AI技術に関わることもできます。グローバルに事業を展開している点も含めてリアルとの関わりが多く、エンジニアリングがプロダクト・サービスの成長につながっていると実感できる瞬間に面白さを感じます。

宮澤さん:我々の特徴は社会性が高いサービスを提供していることに加えて、自分たちが開発したプロダクトがお客さまに使われているところを実際に見る機会が多いのもポイントです。

自分ごととして開発に関われる面白さは、リアルな事業を展開している企業だからこそ味わうことができるのではないでしょうか。これは余談ですが、URBAN HACKSメンバーの中には沿線外に住んでいるメンバーも当然いて、その中の数名は開発を進めるうちに沿線内に引っ越しているんですよ(笑)

──リアルとの接点が多い企業だからこそ、得られる面白さがあると。ちなみに、Web企業出身のエンジニアでもURBAN HACKSやCTCで活躍できる場所はあるのでしょうか?

岩田さん:私も前職ではWebサービスを開発していましたし、活躍できる場所はたくさんあります。むしろ、Webエンジニアの知識・経験がある方にぜひ来てほしいなと思っています。

宮澤さん:URBAN HACKSもWeb系出身者がほとんどですね。Web系の技術がある方は、間違いなく活躍できます。URBAN HACKSは東急内で伸びしろが大きい組織ですし、東急の弱点を補完する役割として、やれることはたくさんあります。

エンジニアの理想郷を目指し、進化を続けていく

──内製化を進めるにあたり、技術的負債を解消するための投資に関して、ビジネスサイドとコミュニケーションをする際に工夫していることはありますか?

岩田さん:パイオニアには事業部門がたくさんあるため、CTCでの技術情報の発信とエンジニアからの問い合わせを引き受ける組織をつくって窓口を一本化しました。状況の把握や技術の話などをしっかりと伝えることで、社内の期待値を調整するようにしています。コミュニケーションパスやそのプロセスには常に気を遣って組織づくりを行っていますね。

宮澤さん:大きく二つあります。一つ目は小さくつくり始められることを社内にアピールすること。東急は何千億円という莫大な予算をかけてビルを建てるようなビジネスをしている企業ですので、投資に対して敏感なんです。しかし内製開発であれば、ピザ1枚を食べられるような人数のチームで世の中を変えるプロダクトを開発できます。小さく始められるというメリットを社内に伝えることがポイントですね。

もう一つは、ビジネスサイドの課題意識に対してアプローチをかけていくことです。規模の大きい企業は、過去のシステムを含めてベンダーさんにロッキングされている部分があります。その点についてはビジネスサイドも課題意識を持っていますし、URBAN HACKSとして変革に貢献できる可能性があると丁寧に説明することを意識していますね。

──なるほど。成長しているエンジニア組織は、エンジニア同士のコミュニケーションの齟齬や属人化といった課題もあると思うのですが、そのような点についてはいかがですか?

宮澤さん:URBAN HACKSはコロナ禍で立ち上がった組織で、最初からWeb会議が当たり前でしたし、オンラインでもコミュニケーションは活発です。そもそも「自分たちがやらないと誰も解決できない」という意識をもったメンバーが集まっているため、コミュニケーションの齟齬は生じにくいのかなと。また、ドキュメントを残す文化を育成していて、属人化を防ぐための取り組みも進めています。

岩田さん:現時点で属人化の課題はありますね。CTCでは部署内外問わずプロジェクト制にしていて、チームとして評価をするような制度にしています。また、宮澤さんがおっしゃっていたようなドキュメントを作成するのはもちろん、自然と知識がシェアされる体制・仕組みを作ることが大事だなと考えています。

──仕組みでカバーするというのは、組織規模に関係なく大切な観点なのかもしれませんね。最後に、お二人が目指す理想のエンジニア組織を教えてください。

宮澤さん:URBAN HACKSはシニアやリーダークラスのメンバー、いわゆる即戦力人材を集め続けてきました。メンバー全員がフラットな自律分散型組織として走り続けているのですが、その状態をいかに維持して展開していくのかが今後の課題となっています。今の東急の規模だとエンジニアメンバーをもう少し増やす必要があるのですが、これまでと同じやり方は通用しないかもしれないなと。とはいえ、マネージャーを置けばいいといった単純なことでもありません。100名になっても機能しうる仕組みづくりにチャレンジしていきたいなって思ってます。現在の状態を維持しながら組織を拡大することができれば、エンジニア組織の理想郷に近づけるのではないかと考えています。

岩田さん:私たちも自立分散型の組織が理想であり、その状態に達したら、我々が定義するフェーズ3に辿り着けるのではないかと考えています。各々が自ら課題を見つけて手を動かしていけるような組織にしていきたいですね。

──東急とパイオニアが今後どのような組織になるのか、第三者としても楽しみです。宮澤さん、岩田さん、本日は貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました!