2021年3月、デジタル庁創設などを盛り込んだ「デジタル改革関連法案」の審議が、衆議院でスタートしました。2020年以降、COVID-19の影響によって、行政におけるDXが加速。GovTech領域に取り組むスタートアップの動きも活発化しています。
今、実際にGovTech領域で課題解決に挑むプレイヤーたちは、日々どのような実践を重ね、新しいルールや仕組みを生み出そうとしているのでしょうか。
2021年3月2日、ファインディの主催する「行政にエンジニアが関わる意義〜行政だからこそエンジニアが活躍できる面白さとは!?〜」では、行政のDXを牽引する経済産業省(以下、経産省)、クラウドサインで電子契約の社会実装を率いる弁護士ドットコム株式会社(以下、弁護士ドットコム)をお迎えし、主にエンジニアがGovTechに携わる意義や面白さ、チャレンジについて伺いました。
目次
登壇者
酒井一樹さん/経済産業省 デジタル化推進マネージャー
酒井一樹さん/経済産業省
橘 大地さん/弁護士ドットコム株式会社/取締役 クラウドサイン事業本部長
橘 大地さん/弁護士ドットコム株式会社
市橋 立さん/弁護士ドットコム株式会社/執行役員 CTO
市橋 立さん/弁護士ドットコム株式会社
アクセンチュア株式会社入社、戦略グループ通信ハイテク事業本部コンサルタントとして新事業戦略・事業戦略・マーケティング戦略の立案および業務改革支援などに携わる。起業を経て、2014年1月に弁護士ドットコムに入社、2015年10月より執行役員に就任。
モデレーター
山田 裕一朗/ファインディ株式会社代表
山田 裕一朗/ファインディ株式会社
行政サービスこそ、利便性高く。経産省によるDXの実践
初めに、経産省デジタル化推進マネージャを務める酒井一樹さんが、同省におけるDXに向けた取り組みを共有しました。
まず、酒井さんは経産省のDXへの眼差しについて「CivicTech」と「GovTech」を挙げながら説明します。
酒井一樹さん/経済産業省
それが近年では、市民自ら、行政や企業と共創しながら、テクノロジーによって社会課題を解決していく『CivicTech』が盛り上がっている。Code for Japanを筆頭に優れた事例が生まれています。
酒井一樹さん/経済産業省
酒井さんは「GovTechとCivicTechの両輪を回していく必要がある」と強調します。そのために、専門人材の登用や新たな技術・開発手法の導入、職員のリテラシー向上など幅広く取り組んできました。
では具体的に経産省ではどのような新たな仕組みが生まれているのでしょうか。酒井さんが事例として挙げたのが『Gビズスタック』と、そこに含まれる一連のサービス群です。
酒井一樹さん/経済産業省
例えば『GビズID』は、事業者が一つのIDやパスワードで、行政手続きを利用できるサービスです。民間のサービスではOpenID Connectなどの技術を使って共通認証ができるのだから、行政システムでもやろうという考えの元、開発されました。
酒井一樹さん/経済産業省
エンジニアリングの実装とともに社会的な実装に取り組む。日本社会全体に電子契約を実装する「クラウドサイン」
続いて、弁護士ドットコム取締役・クラウドサイン事業本部長の橘大地さんが、Web完結型クラウド契約サービス「クラウドサイン」をめぐる取り組みを紹介しました。
クラウドサインは2015年の10月にローンチし、導入企業数は14万社、契約送信の累計は400万件を超えました(数値は2021年1月現在)。「今後は行政が、もっとも使うサービスにしていきたい」と、橘さんは直近の成果も交えて語ります。
橘 大地さん/弁護士ドットコム株式会社
橘 大地さん/弁護士ドットコム株式会社
現在も東京都でのクラウドサイン利用の実証実験や、クラウドサインで締結した書面を商業登記の添付書類として取扱いが開始されるなど、電子契約の普及に向けて動いています。橘さんは「エンジニアリングの実装とともに、社会的な実装に取り組みたい」と熱を込めます。
橘 大地さん/弁護士ドットコム株式会社
例えば、取引先が10万社を超える企業があったとして。その企業が紙とハンコに固執していたら、取引先や下請け先は自社でリモートワークを導入したくても導入できない。
行政もまったく同じです。GovTechは業務の効率化によって、“国民的サービス”を向上する取り組み。そういう意識でクラウドサインも育てていきたいです。
特定の業界・ユーザーに閉じず、広く国民全体に対し、技術だけでなく、意思決定者が判断するプロセスの変革に携わるのがGovTechの醍醐味
それぞれの取り組みを共有した後は、弁護士ドットコムCTOの市橋立さんも交え、行政のDXやGovTechにエンジニアとして携わる意義について、より詳しく語り合いました。
山田 裕一朗/ファインディ株式会社
酒井一樹さん/経済産業省
その上で面白さを挙げるなら「今ならこの技術でしょ」と、意思決定者の判断に関与できることですね。
酒井一樹さん/経済産業省
山田 裕一朗/ファインディ株式会社
市橋 立さん/弁護士ドットコム株式会社
クラウドサインで紙とハンコの契約手続きが不要になり押印のための出社が不要になったとか、紙じゃないから営業が出先で契約書を紛失するリスクが無くなったとか。業務プロセス自体の改善にも寄与できるんです。
市橋 立さん/弁護士ドットコム株式会社
”技術でどう社会に貢献するか”の想いを持った多様なバックグラウンドを持つメンバーが複数のステークホルダーと協力して、技術だけでは解決できないGovTechに挑む
山田 裕一朗/ファインディ株式会社
酒井一樹さん/経済産業省
ちなみに酒井さんと同じくデジタル化推進マネージャーを務めている方には、どのようなスキル・経験を持つ方が多いのですか?
山田 裕一朗/ファインディ株式会社
酒井一樹さん/経済産業省
山田 裕一朗/ファインディ株式会社
市橋 立さん/弁護士ドットコム株式会社
スキルや経験ではなく価値観で言うと、技術だけに興味があるというより、技術でどう社会に貢献するかを考えている人が多い傾向はありますね。
山田 裕一朗/ファインディ株式会社
市橋 立さん/弁護士ドットコム株式会社
市橋 立さん/弁護士ドットコム株式会社
あと苦労でいうと、法律系知識のキャッチアップですね。電子署名法などは、自分でも読んで格闘して、社内の詳しい人に聞いて……を繰り返して理解を深めました。
山田 裕一朗/ファインディ株式会社
酒井一樹さん/経済産業省
外部から見ると、僕たちエンジニアだけが苦労して、活躍しているように見えるかもしれないのですが、それは事実ではありません。経産省の内部にも以前からDXを企んできた人がいて、そういう人がタッグを組んでくれているからです。
そう考えると苦労とか言ってられないし、感謝しないといけないなと思います。
行政のDXは他人事ではなく、誰もが当事者。情熱を持ち、地道に行動を起こすことで社会が良くなっていく
山田 裕一朗/ファインディ株式会社
酒井一樹さん/経済産業省
一つ大きな恩恵を挙げるなら申請主義からの脱却ですかね。申請をデジタル化するだけでなく「そもそも本当に何から何まで申請しないといけないんでしたっけ」を問い直し、無駄を省いていくことは非常にインパクトがあるのではと思います。
山田 裕一朗/ファインディ株式会社
市橋 立さん/弁護士ドットコム株式会社
例えば、私たちがIT戦略会議やグレーゾーン制度を利用したように。企業が、陳情やロビイングを通して「ここを変えてほしい」と働きかける。そうしたコミュニケーションを図りやすい仕組みは今後出てくるのかなと。
市橋 立さん/弁護士ドットコム株式会社
山田 裕一朗/ファインディ株式会社
橘 大地さん/弁護士ドットコム株式会社
「こうしたら社会が良くなる、顧客が良くなる」と気づいていながら何も実践しないのは、マーケットリーダーとして許されない。マーケットリーダーは社会を変えるためにアクションする義務があると考えています。
酒井一樹さん/経済産業省
では最後に転職を検討している人へ向けて、経産省と弁護士ドットコムそれぞれが「どんな人にチャレンジしに来てほしいか」を教えてください。
山田 裕一朗/ファインディ株式会社
酒井一樹さん/経済産業省
行政のDXは大変だし苦労もあります。でも興味を持ったのなら情熱を持って行動を起こしてみてほしい。少しくらいクレイジーだと思われても良いと思う。もし迷っている人がいたら、共に創る「共創」ではなく、共に狂い奏でる「狂奏」という言葉を贈りたいと思います。
市橋 立さん/弁護士ドットコム株式会社
活躍する人でいうと、既存の仕組みに敬意をもって、新しい仕組みの落とし所を作れる人ですね。全部ぶっ壊す!ではなくて。先人の知恵を尊重しつつ「この技術があれば絶対良くなる」と地道にステークホルダーを説得し、着実にインパクトを出していく。そうした取り組みに興味のある方なら、きっと活躍の機会は用意できる思います。
山田 裕一朗/ファインディ株式会社