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インタビュー

技術でメディアの未来をつくる 月間訪問者数6000万の「日経電子版」を支える先進的なエンジニア組織とは

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株式会社日本経済新聞社

日本経済新聞社は、2010年に日経電子版を創刊。現在では月間訪問者数6000万(※1)、登録会員500万人(※1)、有料会員76万人(※2)を超える世界最大級の経済ニュースメディアとなっています。

日本経済新聞社には、業界の中でも先駆けてデジタルトランスフォーメーションの推進や、エンジニア組織の内製化に取り組んできた背景があります。本記事では、日経電子版に携わるエンジニアの澤紀彦さんと髙安伯武さんの2名にインタビュー。歴史ある企業でありながら、先進的なカルチャーを持つエンジニア組織についてお話を伺いました。

■プロフィール


澤様プロフィール
2009年3月東京大学工学部を卒業後、同年4月に日本経済新聞社に入社。同社にて内製開発の導入・推進や新サービスの企画開発を担当。


高安様プロフィール
メーカーにて新規事業やWebサービス開発を経験した後、2015年に日本経済新聞社に中途入社。開発のほか、エンジニア採用や組織づくりも担当。


Findy山田プロフィール
三菱重工業、ボストン コンサルティング グループを経て2010年、創業期のレアジョブ入社。レアジョブでは執行役員として人事、マーケティング、ブラジル事業、三井物産との資本業務提携等を担当。その後、ファインディ株式会社を創業。

2人からスタートし、拡大してきた内製開発

ーーまず最初に、お二人の簡単なご経歴や現在の仕事について教えていただけますか?

高安:
前職はメーカーで、新規事業やWebサービスの開発をしていました。2015年に中途で日経に入社しまして、バックエンドのエンジニアとして日経電子版のシステムを中心に開発してきました。最近は開発だけでなく、エンジニア採用やエンジニアの組織づくりにも関わっています。

澤:
私は2009年に新卒で入社して以来、ずっと日経電子版の企画・開発に携わってきました。入社後1年くらいに日経電子版の創刊を迎えて、その後業務が落ち着いたタイミングで、開発の効率化を図るために内製化のトライを始めたんです。最初は私と先輩社員の2人から始まって、少しずつ開発の内製を拡大してきました。

エンジニアの採用や組織づくりを続けてきて、内製開発が軌道に乗ってからは、日経電子版の既存チームが手を出していない領域の開拓にフォーカスしています。例えば、データの可視化やデータジャーナリズム、音声読み上げや機械学習を使った分析・サービスなどですね。

特に直近では、日経電子版のリニューアルのための機能開発をしていて、新しい記事推薦のアルゴリズムを作ったり、その推薦結果を見せるためのUXデザインを開発したり、といったことをしています。

ーー少しずつ開発の内製化を拡大されてきたとのことですが、現在のエンジニア組織の規模について教えてください。

澤:
日経電子版に限らず、会社全体でWebエンジニアリングをしている人の総数でいうと、80~100人くらいになります。この規模に達してから、人数としてはおおよそキープしている状況です。

ーー内製化の割合としては、現在どれくらいになっていますか?

高安:
日経電子版のソースコードにコミットしている人がおよそ80人で、そのうちの40~50人くらいが社員として働くエンジニアです。

澤:
我々にとっては記事データがコアなので、データストアや記事データのAPIを内製で整備したのが最初です。その後、スマホアプリを内製化したという順で、記事データとフロントエンドの内製開発に長く注力して来ました。一方で、認証や決済システムなどは、まだ100%内製化には至っていません。

高安:
業務委託などで外部の方も携わっていますが、以前は多かった請負開発は最近ほとんどなくなっていて、外部の方も社員と一緒に働いていただいている場合が多いですね。

攻めと守り、どちらの方向性も欠かせない

ーーエンジニア組織として注力していることや、目指す方向性などについて教えてください。

澤:
大きな方向性として、攻めと守りの2つがあります。例えば、高安さんが担当されているAPI側では堅牢性を重視されていますし、私は新しい技術を取り入れて事業価値を向上させることにフォーカスしています。大きな事業でステークホルダーも多いので、攻めと守りのどちらも重要だと考えています。

高安:
守りとしては、2019年1月にSREチームを立ち上げて、サービスの信頼性を担保することにも力を入れています。攻めとしては、開発スピードをいかに上げるかといった取り組みもしていますね。澤さんが取り組んでいるような、新しい記事の形を模索したり、それをどうユーザーに配信で届けるかという開発に注力しているのも、日経ならではだと思います。

澤:
新しい見せ方については日々模索していて、顧客体験の向上に努めています。例えばデータサイエンスを使った事業のためのデータ分析も、足元では進んできていて。それもデータサイエンスを内製化しているからこそ、できていることかなと思っています。

ーーエンジニア視点で見た時、会員登録490万人という規模のプロダクトに携わる面白さはどのようなところにあると感じますか?

高安:
ユーザーが多くデータ基盤も整理されているので、さまざまなデータを見ることができますし、それを踏まえた施策を検討することができます。エンジニアの裁量も比較的大きいので、開発するだけでなく、データを見て改善案を考えて提案して実装して、そのデータを分析するところまで関われたりします。そういうところは面白いと思いますね。

澤:
誰でも幅広く改善提案しやすい環境が担保されていますし、実際に職務範囲を超えて改善提案を実現しているエンジニアもたくさんいます。高度なデータ分析をする時にも、データが多いことはプラスに働くことが多いと思いますし、日経にはアクセスログだけでなくコンテンツのデータもたくさんあるので、分析したい人にとって網羅的にやりたいことが実現できる環境だと思います。

ーー分析した結果をUI/UXに反映していく提案ができたりと、そういったところにも面白さがあるということですね。

澤:
そうですね。有料会員の数も多いですし、日々のコンバージョン数も少なくないので、例えば申し込みボタンの色やテキストを少し変えただけでも、数字には敏感に反映されます。そういったところを改善していくダイナミクスは、多くのメンバーが感じている部分かなと思います。

また最近、Nikkei Waveという新しいアプリもリリースしました。これはAI が選んだあなたにオススメの記事や、日経の編集者が厳選した記事を同一のタイムラインに表示するサービスですが、全員エンジニアのチームで設計から実装まですべて行いました。。既存サービスの改善だけではなく、こうした新しいサービスに関われるのも日経で働くエンジニアの醍醐味です。

最先端の技術を積極的に取り込むカルチャー

ーーエンジニア組織の中で、大切にされているカルチャーがあれば教えてください。

高安:
最先端の技術を積極的に取り込んでいくところは、カルチャーの1つになっていますね。例えば少し前になりますが、2017年11月にモバイルのWeb版をリニューアルした時は、PWAの事例としてGoogle I/Oで取り上げられたり、Fastlyも国内でかなり早い段階で導入したりしました。

最近だと、Kubernetesベースのクラウド基盤を作っていて、2020年1月にGoogle Cloud Anthos Dayというイベントで事例を発表させてもらったりと、そうした新しい技術をキャッチアップしています。しかも、それを日経電子版というアクセスが多く高い信頼性も求められるシステム要件の中で、さまざまな工夫をしながら実装していくので、チャレンジがあって面白いところです。

また、バックエンドでプッシュ通知をする配信基盤があったり、単に記事を配信するだけではないシステムもいろいろと開発しています。実際はユーザーの目に見える部分より、もっと技術的な領域としては広いですね。

澤:
ちなみに、データ計測基板も内製化していて、そちら側には日々ものすごい量の書き込み量があったりします。

我々は新規サービスも手広く試みていますが、いずれにしてもメイン事業はニュース配信なので、ソーシャルメディアのように書き込みが多いものではなく、多くのユーザーに情報を広く届けることに特化しています。技術的に注力する領域としても、そうした部分にフォーカスしているために、先進的な技術を本番に取り入れやすいという側面はありますね。

ーー現在のエンジニア組織において、課題を感じている部分はありますか?

高安:
エンジニア組織の規模は大きくなってきましたが、もともとエンジニアの会社ではないこともあり、エンジニア向けのキャリアパスや評価制度などが十分に根付いていない部分はあるかなと。逆に言えば、これから入ってきていただくエンジニアの方が、そういったところを自身で作っていけるチャンスもあると思います。

澤:
ソフトウェアエンジニアやWebエンジニアに関しては、その存在が認められるような成果を出したり、人数規模も拡大したりできています。ただ、データサイエンティストやAIエンジニア、リサーチャーなどは、まだそこまでに至っていないので、さらに重要性を認識させ拡大していくというのが、次のフェーズにとって必要だと考えています。

1つの部署にあらゆる職種がミックスされた環境

ーーエンジニアと一緒に働く他部門の方とは、どのような関わり方やコミュニケーションをされていますか?

澤:
職務で部署が分かれているのではなく、日経電子版の事業で1つの部署になっているんです。1つの部署内にあらゆる職種がミックスされているのは、大きな特色だと思いますね。

エンジニアと同じフロアに、記者や編集者もたくさんいますし、企画職やマーケターなど、さまざまな職種の人たちと一緒に働いています。今はコロナの影響で少し状況が変わっていますが、ハードルなく日常的にコミュニケーションしやすい環境になっています。

採用では人事労務部と関わることもありますが、エンジニア採用にあたって困っていた既存の制度に関して柔軟に対応してもらったりなど、そういった部分でも相談しやすい関係が築けていますね。

ーー多くの方がスーツを着られている会社の中で、エンジニアの皆さんは自由な服装で働かれていますよね。そういった環境についてはいかがですか?

澤:
最初は「なんでTシャツ着てるの?」と聞かれたり、まわりの目が痛かったりした時もあって(笑)。非エンジニア職の人に内製開発開始を雰囲気で伝えるためにも、あえて意図的にエンジニアらしい服装や振る舞いをするようにしていた時期もありました。内製化を始めた頃なので、8年前くらい前ですね。その後、エンジニアが何十人という規模になって、今では何も言われなくなりました。

ーーエンジニアが働きやすい環境をつくるために、意識されていることはありますか?

高安:
転職してきて良いなと思ったのは、何も交渉しなくてもフルスペックのPCが支給されるところ。その辺りは、澤さんつくってきた文化ですよね。

澤:
そうですね、迷わず1番上のスペックで買っています(笑)。開発効率が下がることに比べれば、些細な額なんですよね。それでその人のモチベーションや効率が上がるのであれば、大きな投資効果を生むと信じていますし、会社にもそのように説明して納得してもらっています。

ーーその他にも、エンジニアの働く環境として特徴的な部分があれば教えてください。

高安:
エンジニアの成長には会社としてもコミットしたいと考えています。書籍購入や社内勉強会はもちろん、海外カンファレンスへの積極的な参加などにも取り組んでいます。今年はコロナの影響でなくなってしまいましたが、昨年行った海外カンファレンスに行ったメンバーは10人以上で、エンジニアの3人に1人くらいは参加していると思います。

澤:
カンファレンスへの参加だけでなく、登壇も促すようにしていて。国内でも海外でも機会さえあれば、ぜひ登壇してもらうようにしています。

技術でメディアの未来をつくっていく

ーーお二人がイメージされているキャリアパスも踏まえて、エンジニアにとってどのようなキャリアパスがあるか教えていただけますか?

澤:
この会社では、まだ勤続20年といったエンジニアは存在しないので、キャリアパスに関しては発展途上なのですが、それゆえに望めばさまざまな可能性があります。

高安さんのように、エンジニアリングマネージャーとしてのキャリアパスを育てていく方向もありますし、もちろん技術を深めたい方は、その技術を深めていただく方向もあります。私は新しい顧客体験の創出に関心があり、それを実現するために新しい技術を取り入れるのが好きなので、企画と開発の間のようなところを望んで、それが実現できています。

もちろん事業が今後どう成長していくかにもよりますが、エンジニアとしてのキャリアは、望めばいろんな可能性がある状況だと思います。

高安:
キャリアパスの文脈で言うと、日経には現状CTOがいないんですよね。最終的には、今いるエンジニアの中から役員になる人が出て、CTOのいる会社になると良いなと思っています。

ーーそれでは最後に、どのようなエンジニアに来て欲しいと考えているか、メッセージをいただければと思います。

高安:
今特に求めているのは、セキュリティエンジニアですね。それから、日経は事業会社なので、純粋なエンジニアリングだけでなく事業にも興味を持って、事業をエンジニアリングで伸ばしていく目線を持った方に、ぜひ来ていただきたいなと思っています。

澤:
日経は国内に限らず世界的に見ても、メディアとして新しい取り組みをすることができている企業だと思います。技術でメディアの未来を作りたい人と、我々の事業を一緒に作っていけたらと思います。


※1
https://marketing.nikkei.co.jp/media/web/file/NikkeiMediaReport202004-06.pdf

※2
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO61565400V10C20A7CR8000/