「お金に困っている人をゼロにする」ビジョン達成の鍵は、モダンな開発環境と意思決定の速さ
株式会社ARIGATOBANKは「お金に困っている人をゼロにする」をビジョンに掲げ、2020年11月に設立されました。
2021年7月より提供開始した「kifutown」は、個人間で簡単に寄付し合えるプラットフォームアプリです。リリース開始から半年程度で現時点の累計インストール数はすでに600万を突破し、多くの反響を呼んでいます。
今回は、CEOの白石さん、CTOの河津さんをお招きし、会社設立から1年も経たずにアプリをリリースできた秘訣や、プロダクトの魅力についてお伺いました。
■プロフィール
白石 陽介(トップ写真の向かって右)
株式会社ARIGATOBANK 代表取締役CEO
ヤフーにてY!mobile、Yahoo!マネー等の立ち上げを経て、決済プロダクトの統括責任者に就任。PayPayを立ち上げる。2019年株式会社ディーカレットにCTOとして参画。デジタル通貨事業を立ち上げる。2020年11月株式会社ARIGATOBANKを設立。
河津 拓哉(トップ写真の向かって左)
株式会社ARIGATOBANK CTO
ヤフー、NTTデータ、ディーカレットを経て2020年11月より現職。プロダクト開発に必要な先端技術の取り入れ、チーム組成、アライアンス構築等、職務職責に限定されない広範な活動により事業推進に寄与。
必要な人に届けたい。ARIGATOBANKが目指すもの
──会社ができたきっかけをお聞かせください。
白石:もともと前澤がお金贈りをする傍らで、大学の教授とともに民間でベーシックインカムを試みるプロジェクトを実施していたんですね。その中で、個人にお金が行き渡ることによって心の余裕が生まれたり、新しいことに挑戦する気力が湧いて来たりと“良い動き”が生まれることがわかりました。
とはいえ、前澤も無限にお金があるわけではないですし、お金贈りを永遠に続けることはできない。リソースも足りていないので、前澤のお金贈りをプラットフォームにして、世の中全体で新しい動きを目指すためのプロダクトを作れないか、という目的でARIGATOBANKを立ち上げました。
──前澤さんの「社会をより良くしたい」という強い思いから誕生した会社なんですね。
白石:はい。弊社はビジョンドリブンな会社であり「お金に困っている人をゼロにする」というビジョンに共感しているメンバーが集まってくれているのも、大きな特徴だと思います。
河津:ただ自分の仕事をするのではなく、ビジョンの実現に向けて、自分のスキルを通じてどのようなことをすれば良いのか模索する、プロダクト志向のカルチャーも醸成されていますね。
──テックブログなどを拝見していると、役職や経験に関係なく積極的に議論されている印象を受けるのですが、実際にはどのような雰囲気なのでしょう?
河津:おっしゃる通りで、白石や私はもちろん、入社したばかりの社員でも立場に関係なくフラットにアイデアや意見を発信できます。プロダクトをより良くするために、議論も積極的に行っていますし、それが情報の透明性の高さにも繋がっている。メンバー全員が一丸となって取り組んでいるのが、私たちの魅力ですね。
新発想のプロダクトで、誰かのチャレンジに貢献できる面白さ
──2021年7月にローンチされた「kifutown」について、プロダクトの詳細を改めてお教えいただけますか。
白石:一言で表すと、新しい寄付のプラットフォームアプリです。
寄付をしたい人が金額や人数、条件を設定してプロジェクトを立ち上げ、それに共感した人が応募する。寄付者は応募者のコメントを見て、手動で当選者を選ぶことができますし、抽選で選ぶこともできます。
今までは寄付をしようと思ったら、NPOなどの団体にすることが多い印象があったと思います。最近ではクラウドファンディングなども活発で、個人に対して寄付することができるようになったものの、寄付者がプロジェクトを起案するケースは、恐らく「kifutown」が初めてなのではないでしょうか。
──寄付者が応募者に直接お金を渡すのでしょうか?
白石:いいえ。寄付者に入金いただいて、弊社が当選した方へ振込処理をしています。現在は銀行振込ですが、今後はプリペイド残高で寄付できるよう開発を進めていて、今その作業が佳境です。
銀行振込だと時間も振込手数料もかかるので少額寄付をしづらいのですが、プリペイド残高の譲渡であれば、1円相当からでも手数料をかけずにお金を動かせるようになる。寄付の頻度や金額の自由度が高まると考えています。
──さらに寄付が活発になりそうですね。「kifutown」の中で発生した印象的なエピソードがあればお聞かせいただけますか。
白石:親孝行をしたい方に向けたプロジェクトを立ち上げたことがあり、それは印象に残っていますね。プロジェクトを立ち上げた理由は、母が亡くなって父も大病を患っており、私自身も38歳(※2022年2月現在)で、親と過ごす時間が刻一刻と減ってきているのを実感して、自然と「親孝行をしよう」と思うようになったからです。加えてユーザーが親孝行をするきっかけにもつながると良いなと思い、寄付プロジェクトを立ち上げました。
そうすると、たくさんの方が応募をしてくださって。「当たるかわからないけれど、いいきっかけになったので親に連絡しようと思いました」「久々に両親に会いに行ってみました」といったコメントを書いてくださっている方もいらっしゃいました。
小さなきっかけがあれば、人は動くことができるし「kifutown」がそのトリガーにもなりえるのだと実感した出来事ですね。
──当選した人はもちろん、当選しなくてもプロジェクトをきっかけに行動する人がいる。サービス内で“良いことの連鎖”が起こっているのですね。
河津:私も2つプロジェクトを立ち上げたことがあります。ものづくりにこだわりがある人、楽しみながらこだわっている人に向けたプロジェクトを一つ、もう一つは挑戦したいことがある人に向けたものですね。
後者のプロジェクトでは、当選した方がジャズピアノに挑戦していらっしゃるそうです。自分のプロジェクトが誰かのチャレンジに貢献できたと知った時は、とても嬉しかったですね。
ビジョン実現に向けて、メンバーが一丸となって立ち向かう
──会社設立から1年も経たずにアプリをリリースされていますが、ここまでスピーディーなアプリ開発を実現された理由はどこにあるのでしょう?
河津:理由としては複数あると思いますが、何より大きいのは、スキルのあるエンジニアが、0→1フェーズをリードしてくれたことです。
目指すプロダクト像についても大まかな世界観でしか語られていなかった頃から、拡張しやすさ、万が一ピボットした際のことも考慮してアーキテクチャを選んでいるのもポイントですね。バックエンド、フロントエンドともに、変化が生じることを前提にデザインが組まれています。「kifutown」では寄付と応募のマッチングだけではなく、複雑な業務システムも具備していますが、全体としてスムーズに開発できていると思います。
開発の効率を高めるため、エンジニアメンバーにハイスペックな開発端末を貸与しているのも要因かもしれません。
──ハイレベルなメンバーが揃っている、かつ開発端末に投資されてるからこそ、実現できたことなんですね。
河津:そうですね。また私たちはメンバーから出てきたアイデアは、それがプロダクトに資するものであれば基本的に実現したいと考えていて、技術選定についてはプロダクトの各コンポーネントをリードする担当者に権限移譲をしています。担当者の決定を尊重しているし、各自の責任範囲を明確にすることで、能力を最大限に発揮できる環境ができていますね。
──意思決定の早さは、確固たる信頼関係があり、その上で権限を分散されていることが要因なんですね。アーキテクチャについてもお聞かせいただけますか。
河津:Google Cloudのマネジメントサービスを全面的に採用しています。なぜなら、短期間でプロダクトを開発するためには、作って壊してリリースしやすいサービスにすることが重要であり、かつ、多くの方にサービスをお届けするために十分な性能も必要になります。それらを安定的に支えるアーキテクチャを重要視しているからです。
バックエンドはマイクロサービスアーキテクチャを導入していて、各アプリケーションはコンテナで稼働します。コンテナもただ動けばいいわけではなく、デプロイや障害への対応などを加味し、自律的に管理するために稼働Kubernetesで動かしています。さらにKubernetesをホストするのは大変なので、Google Kubernetes Engineというマネージドサービスを採用しています。
金融系サービスには間違いがあってはならないことが前提であり、トランザクションに誤りがあってはいけません。そのためアプリケーションの実装を安全な形にするのは当然ながら、データベースにもCloud Spannerという強力なアトミック性のある製品を使っています。
──自分たちでこだわって作るビジネスロジックの部分と、完全性を担保してくれるインフラを組み合わせているのですね。
河津:はい。これらをできるだけマネージドにしていくことで、トータルでは運用コストも下げられます。
バグフィックスのパッチを当てるよりも機能開発のほうが楽しく感じることが多いと思いますので、技術選定の際にはエンジニアが機能開発に集中できる環境を構築することを意識していました。
──なるほど。これらの技術導入は、河津さんが意思決定をされたのですか?
河津:一番最初は何を作るかはさておき、不確実であることだけがわかっていて「作って壊してリリースしやすいサービスを作るためには、Google Cloudが一番フィットするのではないか」という仮説を立てたのは私です。
それが本当に開発にフィットするかどうかの技術検証は、メンバー全員で行いました。私が発案したものではありますが、みんなで作り上げてきたものですね。
チーム同士の信頼関係によって生まれる、ARIGATOBANKの強さ
──具体的な開発の進め方をお教えいただけますか。
河津:「プロダクトマネジメント」「モバイルアプリ」「kifutownバックエンド」「決済バックエンド」といった4つのチームを作っていて、それらを総合し会社全体でスクラムを回しています。
お互いの強みを発揮する形でのチーム運営ができているし、チーム同士も尊重し合っている理想的な環境になっているのではないかと自負しています。
──コミュニケーションを促すために実施されているものはありますか?
河津:メンバー全員でディスカッションする全体ミーティングを週に2回設けていて、そこで日々の開発を進捗報告していますね。
白石:この全体ミーティングは、PdMとPOを兼任している私がリードしていて、スプリントプランニングやサイクルを回していく部分については、河津やテックリード陣がそれぞれのファンクションについて責任をもって進めています。
上から下に、下から上に、一方的に報告するのではなく、連携しながら活発に議論をして、プロダクト開発を進められていますね。
──なるほど。実際に開発をする際はどのような環境で行われているのですか?
河津:基本的にはフルリモートですが、オンサイトができる環境も用意しています。オンライン、オフラインでそれぞれ働いている環境が異なると情報の格差が生まれてしまうので、社内WikiのシステムとしてConfluenceを採用して運用しています。また各自の取組状況が可視化できるように普段のタスクの管理にはJiraを使っています。
何かに取り組む際には基本的には全てConfluenceにドキュメントを置いて、それを管理するチケットがJiraにある。GitHubでPullリクエストを作成する際には、この目的の達成のPullリクエストである、ということがわかるように、JiraやConfluenceを参照するといったスタイルです。こういった社内のナレッジベースを中心にして、コードを書いたり、仕様策定のディスカッションをしたりしています。
また、全ての開発で相互にPullリクエストをレビューする形で進行しています。各コンポーネントのQCD(Quality、Cost、Delivery)に責任をもつポジションとしてテックリードがいて、メインにマージをするソースコードを実際に取り込む際には、彼らの承認が必要ですが、実装方針やテクニックのディスカッションなどは時に普段のチームを超えて相互にレビューをしていて、様々なバックグラウンドを持つメンバーの知見を相互に交換できるようにしています。
──双方向のレビューや、情報の非対称性をなくすといった取り組みも積極的に行われているのですね。
河津:はい。Pullリクエストに関してはタイトルや本文の書き方のテンプレートを用意していて、それを埋めれば何をしたいのかわかるようになっています。
──リモートワーク時のコミュニケーションに悩まれている企業も少なくないですし、とても参考になる取り組みなのではないかと思いました。
河津:ありがとうございます。
──本番環境へ反映するまでの時間はどのくらいなのでしょう?
河津:ものによっては5分で反映することもありますね。社内の意思決定の速さが私たちの武器であり、これからも維持をしていきたいなと思っています。
とはいえ、意思決定の速さにはレベルがあると思っていて。新しい機能をリリースする時などは、ユーザーに価値を提供できるのかどうか、的確な表現になっているのかなど、多角的な目で見て判断したいと思っているので、基本的には白石の承認を得てから本番に反映しています。
一方で、不具合を解消したいといった時、あるいは次に提供する機能を先回りして下位互換性のあるかたちでサービスに反映しようといった判断は、各チームの責任の範囲のなかで決定しています。
要は、物事のレベルに応じて意思決定をするスタイルですね。一番早い事例でいうと、話し合いの中でメンバーがある機能を思いついた時「それはいいね!すぐにやろう」となり、その場で開発して、その日のうちにリリースしたこともあります。
トラブル対応であれば、今進めている開発より問題の解決を優先することもあります。トラブルを解決する時間は1時間とか、早いものだと15分で解決したものもあります。スピード感を持って対応しているのも、我々の強みですね。
熱い思いを持った仲間とともに、未開の地を開拓していく
──最後に読者の方へメッセージをいただけますか。
河津:「どうすればお金に困る人がゼロになるのか?」といったことを考えた時、そもそもの課題を特定するのはとても難しい。私たちは、大きな社会課題に向き合い続けています。世界を見ても解決策が見つかっていない「お金に関する課題」を解決したいと思える人は、きっとバリューを発揮してくださるのではないかと思っています。
前代未聞の挑戦をしているというやりがいがあるとともに、モダンなアーキテクチャや技術を扱う面白さもありますし、未開の地に踏み込んで行きたいという方にジョインしていただきたいですね。
白石:私たちは、答えがないものに対して、手探りで歩みを進めています。新しい課題を解決したいという想いを持ち、仲間と一緒に切磋琢磨しながら前進することを楽しめる方は、きっとARIGATOBANKに向いていると思うので、ぜひ一度お話しできると嬉しいです。
──本日はお時間をいただきありがとうございました!