医療ヘルスケアの未来をつくるために—エンジニアと医師が挑んできたメドレーの開発のこれまでと今
テクノロジーを活用した事業やプロジェクトを通じ、「医療ヘルスケアの未来をつくる」ことをミッションにかがけ、オンライン診療・電子カルテなどの機能を搭載したクラウド診療支援システムや、医療介護業界の人材不足解消を目指す採用システムなどの事業を展開している、株式会社メドレー。
今回は、執行役員でインキュベーション本部 プロダクト開発室でグループマネージャを務める田中清さんと、同じく執行役員で経営企画室長を務める島佑介さんのお二人にインタビューを実施。
医療ヘルスケアの領域でチャレンジを続けるメドレーの開発体制や、エンジニアから見る医療プロダクト開発の面白さなどについてお話を伺いました。
株式会社メドレー 執行役員
インキュベーション本部 プロダクト開発室
第一開発グループ グループマネージャ 田中 清
2000年独立系SIerにてアプリケーションエンジニアとして勤務した後、コンサルティングファームにて様々な基幹システムの企画・開発に従事。その後、株式会社サイバーエージェントに入社。サーバーサイドエンジニアとしてソーシャルゲーム、動画サービスの立ち上げ、開発を担当する。2016年より株式会社メドレーに参加。
株式会社メドレー
執行役員
経営企画室長 医師・島 佑介
2009年東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院での初期臨床研修を経て、日本赤十字社医療センターで消化器内科を専攻。その後ボストンコンサルティンググループに入社し、製薬企業における製品戦略の立案や、病院を含めたヘルスケア領域における経営改善などのコンサルティングを経験。2016年より株式会社メドレーに参加。
それぞれの経歴を持つ2人がメドレーに入社を決めた理由
──まず最初に、お二人の簡単なご経歴やメドレーに入社された経緯について、お伺いしてもよろしいでしょうか。まずは、田中さんからお願いします。
田中:
メドレーは5社目です。キャリアのスタートはSIerでアプリケーションエンジニアとして開発を経験し、その後30歳目前にITコンサルへ転職しました。コンサルティングファームでは基幹システムの企画や開発に携わっていました。その後、サイバーエージェントに5年在籍し、サーバーサイドエンジニアとして大規模なシステム開発やサービスの立ち上げ、開発を担当していました。
メドレーは、もともとサイバーエージェントの同僚が入社したことで知っていたのですが、
その頃ローンチされたオンライン診察の「CLINICS」のLPを見て、直感的に「これがやりたい」と思ったんです。今まで聞いたことがないサービスでしたし、私自身ももっと身近な生活に関わるサービスに携わりたいと思っていました。
当時は、X-Techと呼ばれるベンチャーが活発化してきた時期でもあります。X-Techでは、エンジニアだけでプロダクトを作っていてもなかなか変えられない部分があると思いますが、その点メドレーは医師や医療従事経験者など、医療ドメインにスペシャリティのあるメンバーを含め、ビジネスサイドにも様々なバックグラウンドを持つ業界のプロがいる、ということが入社の決め手でした。
──ありがとうございます。続いて、島さんもお願いします。
島:
私はもともと消化器内科の医者を6年勤めており、いわゆる医者の一般的なキャリアを積んでいくと思っていました。ところが、大学病院などいくつかの病院で働いているうちに、医療のさまざまな面にある非効率性に課題を感じるようになったんです。実際に、私たちの年代では、医学部を卒業し臨床の現場を経験したのち、コンサルや起業する人も増えてきていました。私自身もその一人です。ビジネス的な目線で医療の構造を勉強しようと、ボストンコンサルティンググループへキャリアを移すことにしました。
そこで3年くらいの期間をかけて、病院の経営改善をテーマに取り組んでいこうと考えていたのですが、1年ほど経った頃、大学の同級生でもあるメドレー代表の豊田と話をする機会がありました。その時、オンライン診療の規制緩和を受けて、今から新たなサービスを立ち上げるという話を聞いたんです。
病院の経営改善も患者さんにとってメリットをもたらすものですが、オンライン診療の新しいシステムを作り、広めていくことも大きなインパクトがあるなと。さらに、今しかできない新しいことなので、チャレンジしたいと思ったのが入社の決め手です。
──お二人が担っている役割やプロダクトへの関わり方について、教えていだけますか?
田中:
当初は「オンライン診療システムCLINICS」のプロダクトマネージャーとして、プロダクトの方向性を決めたり、実際に開発もしていました。直近は、当初開発していたオンライン診療だけでなく、電子カルテや予約システムなど、「クラウド診療支援システムCLINICS」として提供するプロダクトの数が増えてきたこともあり、アプリや基盤、QAなど、医療プラットフォーム全体に関わる部分を横串で担う役割をしています。
島:
入社してから3年半ほど、「CLINICS」の事業部長を務めていました。最初はまだ何もなかったので、事業組織をつくり、部署を立ち上げたり、オンライン診療システムの販売をしたり…。それから、田中さんとも話しながらプロダクト側とのコミュニケーションを取ってきました。
今は、少しづつ組織が大きくなり、それぞれの部署に責任者を置けるようになってきたので、事業全体の数字を見たり今後のビジョンを考えたり、外部と連携したりといったところに時間を割けるようになりました。ここ1年は事業部長を離れて、会社全体の投資やM&Aなど、いわゆる経営企画の業務に従事しています。
「医療ヘルスケアの未来をつくる」ことを目指して
──会社全体やプロダクトのミッションについて教えてください。
島:
メドレーには、人材プラットフォーム事業と医療プラットフォーム事業の2軸があり、「医療ヘルスケアの未来をつくる」というミッションを掲げています。
そのうち医療プラットフォームとしては、患者さんの治療の継続率を上げていくこと、より良い医療サービスの提供をテクノロジーの力でサポートしていくことが総合的なミッションになると考えています。
例えば、オンライン診療やオンラインでの服薬指導が適切に普及していけば、通院のハードルが下がり、患者さんの定期的な受診や薬の服用がしやすくなる。飲食店をオンラインで予約できるように、病院もオンラインで予約できるようになれば、通院もしやすくなる。患者さんが過去に受診した記録や家族の病歴、健康データなどをアプリで一元管理できるようになれば、これまで以上に効果的・効率的な医療サービスが提供できるようになるかもしれない。患者さんのアプリをハブに、様々なデータ授受ができていくことをイメージしています。
──島さんが感じられてきた病院の課題に、実際にアプローチでき始めているという感覚はありますか?
島:
そうですね。まだ、足りないピースはいくつかあるとは思うのですが患者さんの利便性に寄与することによって、通院継続がされるようになり、結果的に医療機関も効率的な経営ができるようになります。また、合わせて私たちは電子カルテなどの基幹システムも作っているので、純粋に経営の効率化にも取り組んでいるという状況ですね。
医療の現場に足を運びながらの試行錯誤
──医療の領域でシステムを作られていく上で、特に難しさを感じるのはどういったところでしょうか?
田中:
最終的には、患者さんの診療の体験を向上させることがポイントになりますが、そのためにどこから進めていくのか、が難しいところです。
オンライン診療だけでも、患者はスマートフォンやPCを用いて居場所を問わずに診察を受けることができますが、それと併せて医療機関側における診療効率の向上がセットになるだろう、ということで電子カルテの開発がスタートしました。
私も電子カルテ開発の立ち上げにあたり、現状理解のためにいくつかの医療機関に伺ったことがあるのですが、国のガイドラインや標準規格があって、現場で使っているプロダクトが思った以上に複雑だったんです。だから「CLINICS」はUXをすごく大事にしていて、できるだけ機能を盛り込みすぎないように、足りるところと足りないところのバランスを取るのが難しいなと思いますね。
──医療機関で使われているプロダクトの複雑さというのは、例えばどんなところにあるのでしょうか。
島:
電子カルテに関して言うと、診療報酬の条件がややこしいとか、薬も新しいものがすぐ出たりなど、複雑なところがたくさんあるんです。
また、電子カルテは基幹システムなので、院内の検査システムや画像データなどの機器に接続できるのが当たり前になっていて、ほとんどオンプレミスなんですね。
院内にサーバーがあるからこそできる連携が多くあるので、我々が提供しているWebブラウザ型のクラウド電子カルテと、どう連携していくのかに苦労したり…。
田中:
苦労しましたね。
島:
提供し始めた頃は、「たしかにクラウドは将来性があるけど、今使っているシステムとの連携ができない」と言われてしまったこともありました。そこは様々な工夫を重ねて連携できるようにしたり改善を繰り返しながら、ニーズに応えて信頼を獲得できるよう努めてきました。
──オンプレミスだと病院側には最適化されているけど、患者さんの目線から見ると足りないということですね。
島:
おっしゃる通りです。やはりデータをすべて患者さんに還元していないことは、患者さん側にとってデメリットですよね。どういう病名がついてどういう処方がされて、どういう検査結果でどういう解釈がされているのか、といったことは患者さん側も知っておくべきだと思っているんです。
とはいえ、医療者側からすると、逐一説明していくのは厳しいのでシステムに頼りたい。
ゆくゆくはそこまでやれたらと思いながら携わっていますね。
医療に関わる領域ならではの、意義の大きさ
──エンジニアとして、メドレーならではのチャレンジングな要素はどんなところにあると感じますか?
田中:
医療の領域では法制度やガイドラインの遵守、また扱うデータの重要性からセキュリティ面も非常に重要なポイントとなります。医療機関の業務内容理解と共にそのような点も意識した設計能力が必要とされています。
ただ可能な限りAWSなど外部ベンダーの提供するフルマネージドサービスを活用しないと現実的にも要件を満たすのは厳しく、時間もかかってしまうため、新しい技術もレガシーな技術もうまく活用しながらスピード感を持って開発していく能力も必要となります。
そのようなガイドライン等の固い要件を読み解き、整理して設計した上で、正しい技術選定を行いスピード感ある開発を進めていくのは、これまでに経験したことのないチャレンジだと感じています。
──医療の領域に関わっているからこその面白さというのは、どんなところに感じられますか。
田中:
やはり、やっていることの意義の大きさを感じるところですね。時には、厚生労働省の方から「技術的な意見が聞きたい」と声を掛けていただくようなこともあって。そういったことは、今までの仕事では経験することがなかったことですし、責任の大きさも含めてチャレンジングで面白いことをやっているなと感じます。
──実際に医療機関に足を運ばれるというお話がありましたが、エンジニアメンバーで課題をヒアリングしに行くこともあるのでしょうか?
田中:
そうですね。機能を改善して欲しいという要望も、実際に使われているところを見た方が「これってなぜ必要なんだっけ?」といったところがわかりやすいので。
中には、課題を正しく認識して要望を上げるのが難しい場合もあって、「本当に困っているのは、この部分ですよね」とその場で確認できたりするので、とても重要なことだなと思いますね。
事業部と開発の溝を解消し、相互理解の関係性へ
──事業部とエンジニアのコミュニケーションについてお伺いしたいと思います。島さんは医療やコンサルの業界からメドレーに入られて、エンジニアの方とのコミュニケーションはいかがでしたか?
島:
医者とエンジニアって、属性が結構近いと思っているんですよ。お互いに専門職で、考え方も似ているのかなと。メドレーに入ってエンジニアと接するようになっても、特にコミュニケーションのスタイルを変えたりはしていないですね。
田中:
実際に、現場の医療機関に行って医師の方と話すこともあるんですが、たしかにエンジニアと通じるものがある気がしますね。現場でエンジニアと話すと喜ばれる医師の方もいらっしゃいますよ。
島:
でも、実は事業部側とプロダクト側で、あまり仲が良くなかった時期もあったんですよ(笑)。オンライン診療のプロダクトを始めたばかりの頃、事業部側が顧客からの細かい要望を伝えると、開発側から「これはできない」と返ってきて。事業部からすると「顧客に説明できないからやってくれ」となるんですが、プロダクト側は「いや、もっと大きな話があって」みたいな。そういう感じで、お互いの期待値やタイムラインがうまく握れていなかったんですよね。
──溝があった時期もあったと。それはどのように解消されてきたのでしょうか。
島:
1つ目のプロダクトでの経験から、「ここは事前に相談しておこう」とか「ここは難しいところなんだな」とか、お互いに作法がわかってきたことが大きいですね。経験値が溜まってきて、2つ目の電子カルテ、3つ目の調剤薬局向けのプロダクトと、コミュニケーションがどんどん楽になっていきました。
田中:
最初の頃、私たちはまだまだ医療のことが分かっていなかったし、事業部側もプロダクトのことが分かっていなかったんですよね。それが様々な経験をしていくうち、お互いに前提を理解し合えるようになっていきました。
すれ違いの要因として、全体最適と個別最適の考え方の違いがあるんじゃないか、といった話もしましたね。プロダクト側は、SaaSとして全体最適なものを提供していくことを重視しますが、医師の方から「同じ風邪であっても人によって症状が違う」という話を聞いて、根本に個別最適の考え方があるんだなと。そんな考え方の違いを、オフサイトミーティングで話したりもしました。
島:
予算の考え方や、会社として変わってきたところもあります。昔は、あまり考え方や期待値がマッチしていないなと感じるお客さんに対しても、そこは二の次にして一律にご提案してきたこともありました。
今はきちんと期待値コントロールをした上で、ビジョンに共感してくださるお客さんと一緒にやりましょうと。営業側でも、そういうコミュニケーションができるように落とし込んでいきました。
これも、お互いの理解が進んだ結果だと思いますね。
エンジニアが事業ドメインを深く理解する
──御社のエンジニア組織について、特徴や重視していることがあれば教えてください。
田中:
メドレーでは医療を変えていく、という長期の取り組みをしているので、エンジニア自身が事業ドメインの内容を理解することを大切にしています。
ただ、なかなかハードルが高く、特に途中から入社された方にとってはキャッチアップが大変な面もあります。そのため、入社時のオンボーディングでフォローしたり、オンボーディング期間が終わった後も教え合える環境を作ったりと、ドメイン知識の共有には力を入れています。
──技術選定の考え方や、技術的な面での面白さなどについても教えていただけますか?
田中:
技術選定に関しては、国が出しているガイドラインやセキュリティ要件などがあるので、その影響を受けることがあります。そういった制約の中で、いかにどの技術を組み合わせて、且つスピード感を持って運用コストをかけずに全体設計していくかというのは、面白い部分だと思います。
先ほどの電子カルテの例で言えば、クラウド上にある電子カルテと病院内のネットワークにを繋ぐためのプログラムをGoで開発したり、プログラムの監視にAWS IoTを使ったりと、課題を解決するために技術を組み合わせて技術選定しています。そうした最新技術に対するアンテナも重要で、実際にくわしいメンバーも多いですね。
エンジニアの総合力で、医療ヘルスケアの未来を一緒につくりたい
──それでは最後に、今後どのようなエンジニアを求めているか教えてください。
田中:
メドレーは「作る・広める・守る」の軸を通すことを考えて経営しています。
最高のプロダクトを作り、それをどこまでも広める努力をし、適切に法律やルールを守る。
この好循環のすべてのはじまりは、まず「最高のプロダクトを作る」ことです。
「医療ヘルスケアの未来をつくる」というのは、全社員の人生をかけたプロジェクトで、それを先導するのがメドレーのエンジニアです。
9月には、調剤薬局向けのサービスとしてオンライン服薬指導支援システム「Pharms」をリリースしました。「CLINICSオンライン診療」と組み合わせることで、診療から服薬指導まで一気通貫でオンライン体験を患者に提供することができるようになります。
これからもテクノロジーをベースとしたプロダクト開発を通じた取り組みを加速させ、より強固なプラットフォームを実現し、医療の新しい未来をつくっていきたいと考えています。
ビジョンに共感してくれるエンジニアは着実に集まってきていますが、壮大なミッションの達成に向けてプロダクトの成長や新規プロジェクトも活発な状況で、まだまだ個人としてもチームとしても開発力を向上させていかなければなりません。
エンジニアの総合力を発揮して自分たちの子供や孫の世代に残すより良い未来を一緒に作り上げていきたい!という方、難しいけど壮大なミッションにチャレンジしてみたいという方にお会い出来ることを楽しみにしております。