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インタビュー

現場を知らずに、仕組みはつくれない──インドネシアで新しいモビリティ産業をつくるmovus technologiesの挑戦

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movus technologies株式会社

日本のオフィスでコードを書くエンジニアが、ときにインドネシアの現場に立ち、顧客の家を訪ねる──。movus technologiesは、インドネシアでライドシェアのドライバー向けに、車のサブスクリプションを提供するスタートアップです。日本で開発を行いながら、向き合うマーケットは100%が海外。ローンを組みにくい人にも車を届ける金融の仕組みと、審査から車両の調達・整備、支払い、回収まで続く長いオペレーション。同社のエンジニアはいま、その事業の根幹を支えるシステムを設計からつくり直しています。なぜ、その設計は画面の上だけで完結しないのか。VPoEの石川 里紀さんと、プリンシパルエンジニアのVincentさんに伺いました。

プロフィール

石川 里紀さん

VPoE

新卒で地方自治体向け業務パッケージ開発ベンダーに入社し、幅広い開発プロセスを経験。gumi・MIXIでモバイルゲーム開発や新規事業を担当したのち、IoTスタートアップなどを経て2019年にラクスルへ参画。印刷・物流事業を担当し、物流事業ではVPoEを務めた。2022年にベルトラへEngineering Directorとして参画し執行役員に就任。2025年9月よりmovus technologiesのVPoEとして、エンジニア組織を牽引している。

Deyro Vincent Johnさん

プリンシパルエンジニア

Azeus Systems、Grow Up Solutionsを経て、2019年にベルトラへSREとして参画。その後、ビズリーチで開発生産性向上を担うOrg.REを経験し、2021年にベルトラへ再参画。Lead SRE、SRE & Architecture Managerを経て、2024年よりTech Directorを務める。2025年11月よりmovus technologiesのプリンシパルエンジニアとして、プラットフォーム基盤を牽引している。

与信も、整備も、回収も。新しいモビリティ産業をつくる

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―― まず、movus technologiesがどんな事業を手がけているのか教えてください

石川:インドネシアでライドシェアのドライバー向けに、エコカーのサブスクリプションを提供しています。「Rent to Own」というかたちで、3年から5年かけて払い終えると、車がユーザー自身のものになります。

インドネシア国内にも、低所得者向けに車のローンを提供する金融サービスはあります。ただ、私たちが目指しているのは、単に車を使えるようにすることではありません。ユーザーが車を活用して安定した収入を得られる状態をつくり、支払いを終えたユーザーが資産を得る機会を提供することです。そこに、この事業の社会的な意義があると考えています。

そして、この仕組みを実現するためには、金融とモビリティの両方を担う必要があります。ローンを組みにくい人にも車を届けるため、審査から車両の調達・整備、支払い管理、そして必要に応じた車両の回収まで、一連のオペレーションを自社で担っています。モビリティと金融が重なった長いバリューチェーンを丸ごと持っていることが、私たちの大きな特徴です。

―― 現在、事業はどのようなフェーズにあるのでしょうか?

石川:現在は、インドネシア国内で一気に事業拡大を進めていく状態まで来ています。

ジャカルタ首都圏は4,000万人を超える世界最大級の都市圏ですが、交通インフラはまだ十分に追いついていません。私たちは単に車を提供するのではなく、その根本にある産業や交通インフラの仕組みそのものをつくろうとしています。

その実現に向けて、東南アジアNo.1の配車プラットフォームのGrab(時価総額2兆円、MAU5000万人のスーパーアプリ)とも日本企業として唯一パートナーシップを組み、ドライバーが車両を保有し、継続的に働ける環境を整えることで、現地の交通インフラを共に支えています。

ビジネスモデルとしては、日本の低金利で調達した資金をインドネシアで運用する仕組みです。このモデルによって、ドライバーが車を持ちやすい環境を実現しています。

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ジャカルタが抱える交通インフラ課題の背景(画像提供:movus technologies株式会社)

―― その事業をソフトウェアで支えるうえで、解くべき課題の中心はどこにあるのでしょうか

石川:中心にあるのは、多様で長いオペレーションをいかにシームレスにつなぐかです。車をアセットとして扱うので、マーケティングやCS、セールスに加えて、整備士がいて、支払いを回収するチームがいて、お金だけでなく車そのものを回収するフィールドコレクションのチームまでいます。バリューチェーンの長さと、チームの多様さが特徴です。

一つひとつの工程を自動化するだけなら、そう難しくはありません。効いてくるのは、前の工程と後の工程を接続して、全体をひとつの流れとしてシステムに落とすところです。どこか一カ所で詰まれば、全体が止まってしまいます。

そのため、どこにボトルネックがあるのかをデータで見えるようにして、分析できる状態を設計としてつくり込みます。工程をつなぐ設計こそが、いちばんの勘所です。

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審査から車両管理、支払い、回収まで、一連のバリューチェーンを支えるシステム構成(画像提供:movus technologies株式会社)

Vincent:ほとんどの会社では、ひとりのエンジニアが関わるのはバリューチェーンの一部分です。審査だけ、現場の回収だけなどで、私たちのように全部を見られる環境は、なかなかありません。movusでは、コードを書く前に、何をつくるべきかを事業のレベルで考える機会が多いんです。

加えて、面白いのは、すでにできあがった産業のためではなく、まだ社会にない仕組みそのものをゼロからつくれることです。

―― まだ誰も型をつくっていない事業だと、正解の見えないものをつくる難しさもありそうです

石川:そうですね、既存のサービスやデータをそのまま組み合わせれば済むわけではない、という難しさがあります。これまで自動車ローンを組めなかった人にも届ける事業なので、どんな基準で貸せるかを自分たちで考えて決めます。審査ロジックの組み立てから手がける必要があるんです。だから、扱う領域は広く、しかも一つひとつを掘り下げるととても深いのが特徴ですね。

多国・多事業展開に備え、設計をつくり直すフェーズが来た

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――movus technologiesの会社全体や組織体制について教えてください。

石川:現在、会社全体では約110名が在籍しています。そのうち大半はインドネシアで事業を支えるオペレーションメンバーです。一方、日本の開発組織は現在正社員で5名ほど。全国各地からフルリモートで開発を進めています。事業の現場はインドネシアですが、プロダクト開発の中核は日本にあります。エンジニアは日本からシステムを設計・開発しつつ、必要に応じて現地へ足を運び、そこで得た一次情報をもとに改善を重ねています。

――限られた開発リソースの中で、何に注力するかはどのように判断しているのでしょうか

石川:全領域のオペレーションチームに開発チームをつけて、それぞれのシステムをすべて内製でつくることもできますが、その方法は選びません。サードパーティのツールで解決できるところは任せて、社内のエンジニアは自社でしか溜められないノウハウが生まれるところに集中しています。

たとえば与信審査やIoT連携のような、私たちにしか解けないコアなコンポーネントは、時間をかけてでも深掘りします。

―― 既存のシステムを設計し直している最中だと伺いました。どのような目的で取り組んでいるのでしょうか

石川:目的は二つあります。一つは、立ち上げ期にスピード優先でつくってきたシステムを整えること。もう一つは、多国展開・多事業展開に耐えられる汎用的な設計へ引き上げることです。

Vincent:事業がインドネシアだけのうちに、システムをつくり直そうとしています。問題が起きてから直すより、最初からきれいに設計しておくほうが、結局はずっと楽ですから。動いているシステムを後から直すのが大変なことは、経験からよくわかっています。

そのため、SSoT(Single Source of Truth)の考え方に則り、顧客情報などのマスターデータは一元管理し、各システムはそれを参照する構成です。また、国ごとに異なる要件はコアロジックへ直接組み込むのではなく、アダプターとして切り出すことで、各国固有の要件に対応しながら拡張性を担保しています。

そうすれば、変えたくなったとき、その部分だけを国や地域ごとに差し替えられます。国が変われば法律もデータの置き場所のルールも変わるので、マルチテナントの構成や、国ごとに異なるデータの置き場所にも、最初から対応できる設計にしています。

石川:同じ考え方は、決済のように国ごとに事情が変わる部分にも当てはめています。ただ、人数が少ないので、マイクロサービスで割りすぎると、一人がいくつものシステムを見ることになってしまいます。まずはシンプルできれいな状態にして、本当に必要になったところから基盤化していきます。つくりすぎないよう、見極めながら進めています。

―― IoTデバイスとの連携も特徴だと伺いました

Vincent:車両にはIoTデバイスを組み込み、アプリと連携させています。位置情報や車両の稼働状況などを取得し、アプリと連携させながら事業のオペレーションに組み込むことが、エンジニアの役割です。

私たちのアプリは契約者向けなので、UIのつくり込み以上に、デバイス連携で何を実現するかが主眼になります。UI設計が得意なアプリエンジニアというより、ハードウェアとの連携まで含めて、デバイスとどう通信し、データをやり取りするかまで考えるのが得意な方にとても向いています。

しかも、IoTとの連携には、そもそも正解が世の中に落ちていません。ドキュメントを読んで何ができるかを考え、検証して、ようやく実装に入ります。答えの用意されていない領域から技術を選んでつくっていく。そんな挑戦が、これからどんどん増えていきます。

AIが変える、エンジニアの役割

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―― AIの活用も、movus technologiesの特徴だと伺っています。どのように取り入れているのでしょうか

Vincent:全社のAI活用は私が主体で進めています。最近、「movus kit」というものをリリースしました。共有のプラグインで、エンジニアがAIで開発するときのフローや、セキュリティを必ずチェックするタイミングといった組織のポリシーを組み込み、全社で使えるようにしたものです。

ノンエンジニアのメンバーでも、安全にものがつくれます。実際、エンジニアがほとんど手を出さずに、Bizのメンバーがつくった社内オペレーター向けのシステムが、2週間という短期間で実運用までこぎ着けました。もちろんエンジニアのレビューは入りますが、開発そのものは彼ら自身で進められるので、立ち上がりが速いんです。

―― PdMを置かず、Bizとエンジニアが直接バディを組む体制も、AI活用と地続きなのでしょうか

石川:そうですね。もともとPdMの採用も考えていましたが、AIが進化し、Biz側でもモノをつくれるようになりました。そうなると、Bizとエンジニアの間にPdMを挟んで、コミュニケーションのフローを長くする意味が、もはやありません。

Biz側はエンジニアリングに近づけますし、エンジニアもBizやプロダクトの側へ踏み込んでいきます。AIの活用を前提にすると、世の中的にもそういう流れです。だから今年に入って、Bizとエンジニアが直接、バディを組む体制にしました。

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movus technologies開発組織の体制図(2026年7月時点)

―― エンジニアがBizや顧客とのコミュニケーションにも染み出していくと、求められるものも変わりそうです

石川:手を動かしてものがつくれるという価値だけでは足りなくなり、誰の何の課題を解決するためにつくるのかという事業理解がより問われます。

データの使い方も同じで、一つのKPIを突き詰めればいいという単純な話ではなく、いくつもの指標をバランスよく見て判断しなければなりません。現場でKPIを追いやすくするために、AIで分析ができる仕組みづくり進めています。

Vincent:私たちの事業は、とにかくオペレーションが重い。だからテックチームの仕事は現場が少しでも滑らかに回るように、必要な道具を全部そろえてあげることだと思っています。データ基盤をつくって、現場が早く判断して、早く動けるようにします。以前は見えなかったことが、いまは見に行けるようになりました。

「現場を知らずに、仕組みはつくれない」ユーザーのもとへ向かうエンジニアたち

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―― ここまでAIやデータ基盤の話を伺ってきましたが、一方でお二人とも、日本で働きながら、プロジェクトごとにインドネシアへ行かれていると伺いました。現地に行かないと理解できなかったと感じたことはありますか

Vincent:たくさんあります。現地のオペレーションに同行して、ある顧客の家を訪ねたことがあります。その際に、現場の担当者がどうやってお客さんと信頼を築いているのかを目の当たりにしたんです。

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現地メンバーがユーザーを訪問し、利用状況や課題を確認する様子

インドネシアの商習慣は、日本やほかの国とはまるで違います。人との距離の取り方も、話の進め方も、それらすべてが取引というより、人と人の関係の上に成り立っているんですよ。

だからシステムも、その関係を支えるものとしてつくらないといけません。取引としてさばくのではなく、人との関わりを後押しする設計を考えています。こうしたことは画面の上だけでは設計できません。現場に立って、はじめて腑に落ちることです。

石川:エンジニアが現地に行くことは、movusでは当たり前の文化になっています。新しいシステムをつくるときは、要件を掘り下げる最初の段階から、エンジニア自身が現地に飛んで、一次情報を取りながら一緒につくります。

私たちが大事にしたいのは、仕様どおりにつくることではなく、エンジニアが現地に立って、事業と一緒に価値を高めていくことです。だからこそ、その働き方にこだわっています。現場で何が起きているかを理解してつくったものは、机の上だけで組んだものとは、仕上がりがまるで違いますから。

―― 最後に、どんなエンジニアに来てほしいか、メッセージをお願いします

石川:一緒に働きたいのは、「どんな技術を使うか」ではなく、「どんな課題を解決するか」から考えられる人です。特定の技術にこだわるのではなく、事業や目の前のお客さんに興味を持ち、「どうすればもっと良くできるか」を考え続けられる人と働きたいですね。

今はAIの力もあるので、未経験の領域に飛び込むハードルは以前よりずっと低くなっています。だからこそ、新しい技術や未知の領域にも臆せず挑戦できる人には、大きなチャンスがあると思っています。

会社のバリューにも「Enjoy Chaos」があります。想定外の出来事や変化を前向きに楽しみながら、新しい価値を生み出していける人にとって、movusはきっと面白い環境です。

組織だけがグローバルで、提供するサービスは日本向けという会社は少なくありません。一方で、私たちは事業そのものが100%海外です。

しかも、すでに成熟した産業の仕組みをなぞるのではなく、まだ整っていない市場で、産業やインフラの仕組みそのものをゼロからつくっていく。その当事者として挑戦できる環境があります。東南アジアの社会や産業の未来を、テクノロジーの力で形づくっていく。そんなスケールの大きな挑戦を、日本にいながら担える機会は、そう多くはないと思います。

Vincent:一緒に働きたいのは、自分のやり方に固執せず、新しい価値観や考え方を素直に受け入れられる、オープンな人です。

私たち自身、まだ知らないことの多い国で事業を展開していますし、これからはさらに多くの国へ挑戦の場を広げていきます。だからこそ、「世界にはさまざまな価値観や文化、考え方がある」と自然に受け止め、その違いを楽しみながら学べる人と、一緒に未来をつくっていきたいと思っています。

AIの時代になっても、エンジニアが学び続けられることは、まだ数え切れないほどあります。そしてmovusには、誰も挑戦したことのない課題に向き合える機会が数多くあります。

実際に現地へ足を運べば、画面越しでは見えなかった課題や、数字だけではわからないユーザーのリアルが見えてきます。そうした「答えのない問題」に向き合い、自分の手で解決策を生み出していく。そのプロセスに面白さを感じる人にとって、movusはきっと刺激にあふれた環境です。

ぜひ、そんな挑戦を一緒に楽しめる日を心待ちにしています。

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国境を越えて新興国の交通インフラづくりに挑むmovus technologiesのメンバー