エンジニア採用のカギは、情報開示とコミュニティへの貢献。加えて、地道な施策を繰り返すこと

去る4/10、オンライン開催されたDeveloper eXperience Day 2021で「急成長スタートアップのエンジニア採用戦略 〜エンジニア採用が加速する中での採用の悩みやベストプラクティス〜」と題してパネルディスカッションを行いました。

成長期のスタートアップにおいて、エンジニア採用は大きな課題となっています。そこで、急成長を見せるキャディ株式会社、株式会社SmartHRのCTOを招き、両社の採用戦略について伺いました。ファインディCTOの佐藤 将高がモデレータを務めました。

パネリスト

芹澤 雅人さん / 株式会社SmartHR CTO

芹澤 雅人

ナビゲーションサービスを運営する会社に新卒で入社。経路探索や交通費精算、動態管理といったサービスを支える大規模な WebAPI の設計と開発を担当。SmartHR にはサービスリリース直後から参加し、開発業務のほか VPoE としてエンジニアチームのビルディングとマネジメントにも従事。

小橋 昭文さん / キャディ株式会社 CTO

小橋 昭文

スタンフォード大学・大学院にて電子工学を専攻。世界最大の軍事企業であるロッキード・マーティン米国本社で4年超勤務。ソフトウェアエンジニアとして衛星の大量画像データ処理システムを構築し、JAXAやNASAも巻き込んでの共同開発に参画。その後、クアルコムで半導体セキュリティ強化に従事した後、アップル米国本社に就職。ハードウェア・ソフトウェアの両面からiPhone、iPad、Apple Watchの電池持続性改善などに従事した後、シニアエンジニアとしてAirpodsなど、組み込み製品の開発をリード。2017年11月に、キャディ株式会社を加藤と共同創業。

モデレーター

佐藤 将高 / ファインディ株式会社 CTO

佐藤 将高

グリーにてフルスタックエンジニアとして勤務後、2016年6月にファインディを立上げし、取締役CTO就任。趣味は筋トレ。大学院では、稲葉真理研究室に所属。過去 論文間の類似度を、自然言語処理やデータマイニングにより定量的・定性的に算出する論文を執筆。

採用は施策の結果が出るまで長く、PDCAを回すのが大変。施策を打ちつつ、情報収集するのがカギ

エンジニア採用について苦労したことやうまくいった施策など、具体的にお聞きできたらと思っております。

佐藤 将高

エンジニア採用を進めていくに当たって色々な課題に直面したことと思います。ファインディでも成長フェーズ別のエンジニア採用の課題をまとめておりますが、創業メンバーを集める難しさ、企業やエンジニア組織が大きくなっていく中で生じる大変さなどがあると考えています。それぞれ、いまどのようなフェーズにあるのでしょうか。

佐藤 将高

芹澤 雅人

SmartHRはサービス運用開始から6年目に入り、プロダクト開発に関わるエンジニアは50名を超えています。昨年は30名弱を採用しており、今年もそれと同等かもう少し多いくらいの目標を掲げて採用を進めているところです。

小橋 昭文

キャディでソフトウェア開発に携わっているエンジニアは30名強です。これからが急成長のフェーズで、3〜4倍の組織規模を目指してがんばっているところです。
両社とも企業規模が大きくなってきて、採用する人数も増えて、急成長のフェーズですね。エンジニア採用で直面した課題をお聞かせください。一番苦労したこと、辛かったシーンなど、教えていただけますか?

佐藤 将高

小橋 昭文

ほぼすべてが大変、というのが正直なところです。とても難しかったのが、母集団形成ですね。求めるエンジニア像と、世間にいるエンジニアがどういう風に重なるのか。それを理解しながら採用を進めるのが、難しかったです。「どういう仲間が欲しいのか?」「どういう仲間を探しているのか?」という理想像は描けますが、実際とのバランスを考えながらPDCAを回さなければなりません。採用においては施策から結果までの時間が長いので、PDCAを回すのも難しいですね。
確かに、長いですね。今期はこういう施策をやってみようって取り組んでも、春にやったことの結果が夏にわかるくらいです。スピードを上げてPDCAを回したくても、思い通りにはいきません。

佐藤 将高

小橋 昭文

SmartHRさんは色々な施策を打っているので、参考にさせてもらっています。色々な施策を打ちつつ、情報収集して定性的に効果をはかっていくことが重要なのかなと感じます。その点では、私たちも最近うまくいっていると感じています。

小橋 昭文

王道に縛られることなくペルソナを考えるというのも大きなポイントですね。キャディは製造業の改革に取り組んでいますが、一般的にはエンジニアがあまり触れることのない領域です。

小橋 昭文

SmartHRも労務や人事という、日々の開発では意識されることのない領域を扱っていらっしゃいます。こういう、普段意識することのない領域に対して、貢献したい、一緒に働きたいと思っている人はどこにいるのか、創業期には誰もわかっていませんでした。いまでもわかっていないことはたくさんありますが、王道に縛られず色々なところにリーチしていくために、「エンジニアとはフロントエンドのアプリを書く人」ととらわれることなく、ペルソナを広げたり定義を広げることが効果的なんです。

情報発信の重要性:新しい情報の公開と内部事情の開示

なるほど。SmartHRではどのような施策を実施していらっしゃいますか?

佐藤 将高

芹澤 雅人

労務や人事に関するプロダクトがイメージしにくいというのは本当にその通りで、募集するエンジニアが弊社サービスのユーザーであるケースは多くありません。ですから「こういう物を作っています」「こういう風に作っています」「こういうチームです」という情報をなるべくこまかく発信することを意識しています。

芹澤 雅人

とはいえ、最近はエンジニア採用に苦戦しています。「SmartHR エンジニア ピンチ」というキーワードで検索すると先日私が書いたテックブログがヒットすると思いますが、これは発信を怠っていたなという反省の記事です。それを建て直すためにどういう風に発信していくべきか、練り直しているところです。

芹澤 雅人

手前味噌になりますが、すごい勢いでサービスも組織も大きくなっていて、状況はどんどん変わっていっています。定期的に情報を発信していかないと、半年前とは全然違う開発スタイルになっていたりします。
弊社でもブログを開始したけど運用が一番大変だったという経験があります。エンジニアの方から見れば、本当にやりたいのはブログの執筆じゃなくてサービス開発ですもんね。でも、仲間も集めなきゃいけないし、そのためにはブログも書かなきゃいけないので、大変ですよね。

佐藤 将高

キャディさんではどのような情報発信をしていますか?

佐藤 将高

小橋 昭文

なぜ発信するのかというところをしっかり考えていきたいと思っているところです。企業のテックブログは、メディアを作るのが目的ではありません。私たちは仲間を探す中で、私たちがどういう者なのかをうまく表現したいと思っています。

小橋 昭文

そう考えるとギブファースト、新しい情報を世間に公開して共有するということがひとつの目的になると思います。もうひとつは、私たちはこういうスタンスでこういうことに取り組んでいるという内部事情を開示すること。前者の方は、新鮮なネタを探すためにパワーが求められます。後者の方は、記事に自然と出てくるような組織体制を作れるといいなと思っています。

創業初期はリファラルやTwitterで採用。規模拡大につれ、エージェント経由の応募が増加

さて、イベント参加者の方から質問もいただいています。「語りづらいとは思いますが、組織を離れる人数についても触れていただけると嬉しいです」ということですが、離れる人と入ってくる人とのバランスについてどう考えていらっしゃるか、話せる範囲で構わないので教えていただけますか?

佐藤 将高

芹澤 雅人

エンジニアについては、昨年の離職者はゼロです。僕はほぼ創業期からSmartHRにいますが、トータルで見ても離職者は少ないですね。

小橋 昭文

私たちも状況は似ていて、創業期からいますが離職者はほとんどいません。組織のフェーズが変われば人が入れ替わっていくことはこれから先にあると思いますし、人材流動性という観点からも、新しい組織の新しいフェーズに適した人材が活躍する場をつくるという観点からも、離職が悪いとは思っていません。ただ、現状ではほぼいなくて、過去1年ではゼロです。
両社とも離職者がほとんどいないとは、すごいですね。

佐藤 将高

もうひとつ質問を取り上げたいと思います。「組織の中でのエンジニアの割合はどのくらいですか?」ということですが、いかがですか?

佐藤 将高

小橋 昭文

キャディの正社員の比率では、3分の1くらいがエンジニアです。コーポレートが5分の1、残りが事業、営業などです。

芹澤 雅人

SmartHRは全体で400人くらいの組織で、エンジニアは50人くらいです。8分の1くらいですね。割合として一番多いのは、ビジネスサイドです。カスタマーサクセスと言われるポジションのメンバーも多いですね。

小橋 昭文

それは事業のフェーズが一定のグロース段階に入って、対顧客の接点を増やすことが大切になってきているということですか?

芹澤 雅人

各部門で個別に採用戦略を練っているので、全体のバランスを考えてのことではありません。需要を反映してこのような数字になっているのだと思います。エンジニアが思うように採用できていない結果でもあるので、個人的にはエンジニアの比率をもう少し高めたいと思っています。サービスとしてまだまだグロースするフェーズにあり、機能追加も続けているので開発案件が落ち着いてきている訳ではありません。
次の質問ですが、「リファラル、スカウト、求人応募の比率はどのくらいでしょうか。フェーズによって変わっていくイメージがありますが、創業期からの変化も含めて聞いてみたいです」とのことです。

佐藤 将高

芹澤 雅人

数字はいますぐには出せないのですが、それぞれの分野で採用目標数値を定めています。初期はリファラルが多くて、だんだんエージェント経由が増えていきました。いま苦戦しているところは、自己応募が少なくなってきていることです。先ほどの話に通じますが、認知を獲得して、そこから応募につなげてもらうところがうまくいっていないというのが今の課題です。

芹澤 雅人

また、この1年間はリファラルの施策を打てていません。従来は知り合いのエンジニアをご飯に誘ったり、イベントに呼んだりしていたのですが、新型コロナウイルス感染症の拡大によりそれができなくなりました。ニューノーマルに適した方法を模索しているところです。

小橋 昭文

私たちは事情が違います。これは私の個人的な理由によるものですが、26年間アメリカに住んでいたので、創業期に日本での人脈がゼロというところからスタートしました。リファラル採用がほぼ不可能という状況で、最初はTwitterでつながってスカウトしたりしていました。最初はスカウトの比率が高く、次第にリファラルを広げていって、資金力がついてきてからエージェントに協力してもらえるようになったという経緯です。
リファラルゼロの状態から始める創業期って、それは相当に大変でしたね。

佐藤 将高

コミュニティへの貢献は採用にもつながるWin-Winの施策

苦労話をうかがえたところで、次はポジティブな話題に移りましょう。これまでに実施したエンジニア採用施策でうまくいったことについて、お聞かせください。

佐藤 将高

芹澤 雅人

ひとつ、飛び道具的な施策があります。2018年に、認知獲得のためにRubyKaigiのスポンサーになりました。スポンサーセッションではエンジニアが登壇して自社の紹介をすることが多いのですが、弊社からは社長の宮田が登壇しました。Rubyで開発していて、Rubyのおかげで成長できたので、そこに還元していきたいという気持ちを込めて、強いメッセージを発信しました。そのうえで「弊社はいまピンチなので助けてください」と素直に言ったら大きな反響がありました。#RubyでSmartHRを助けて というハッシュタグを作ったらツイートしてくれる人が多く、実際にそこから応募してくれた人も何人かいました。
スポンサーとしてRubyコミュニティに貢献できるし、Rubyを使って開発したいエンジニアにとっては「SmartHRって面白そうだな」と思ってもらえるし、Win-Winな状態ですね。

佐藤 将高

小橋 昭文

キャディもRubyを使っていて、RubyKaigiなどでコミュニティに還元するということには前向きです。しかし最近では利用している言語が増えてきて、RustやKotlinも使っています。一昨年はRust.Tokyoのスポンサーになり、Rustをどのように使っているか、どういう風にコミュニティに助けられているかを話す機会をつくりました。

小橋 昭文

技術という観点では、私たちは画像解析や数値解析もやっています。そういった場で得られたTipsなども、合うコミュニティに参加してピッチしていくようにしています。私たちがどういう風にスキルセットや言語を活用しているかというのが刺されば、こちらもWin-Winな状況になるはずです。

小橋 昭文

母集団形成や認知度向上という直接的な施策ではありませんが、職種のペルソナをひたすら横に広げてみるというのも効果的でした。たとえばアプリ開発者の仲間が欲しいとして、アプリ、言語、OSと様々な切り口があります。React Nativeアプリの開発者が欲しいときに、ReactとReact Nativeのコミュニティはあまり離れておらず、ReactでWebアプリを開発している人の中にもNativeアプリを作りたい人がいます。そういう風にペルソナをどんどん広げていくと、色々な切り口で色々な人にリーチできるようになります。

採用プロセスは広報活動でもある。エンジニアが立ち会うことで選考のレベル感を担保する

芹澤 雅人

応募が増えて忙しくなると選考のレベルがぶれますよね。忙しくて熟考する余裕がないから、とりあえず合格にするとか。そういう入口のスクリーニング品質を下げないというのは、採用のサイクルを回すために大切だと思っています。

芹澤 雅人

そのために弊社では採用面接を現場のエンジニアが行うことを続けています。その結果、色々なメンバーが平均的に高い面接スキルを身につけているので、選考のスケーラビリティを確保できています。

小橋 昭文

採用プロセスって、ある意味では会社のスタンスを示す広報活動でもありますよね。面接官がどのように接してくれたかということも広まったりします。採用面接と言いながら、実際には双方向の面接になっているので、受け入れ側としても面接されているという気持ちで向き合っていくことが重要だと思います。
多くの会社で聞かれる悩みのひとつに、最後にこの人に内定を出すか出さないかという判断が難しいというものがあります。どうするか迷ったら、どのように決めていますか?

佐藤 将高

小橋 昭文

最後で迷うことがないよう、途中で見極められるように設計してあるはずです。仮に、本当に最後までいって迷ったら、なぜ迷っているのかきちんと考えるべきでしょうね。なぜ私は迷っているのかという自己分析をして、それが本質的な理由であればお断りすべきでしょう。採用を含めて、仲間を探すときには「本当に一緒に働いて大丈夫か」「お互いに幸せになれるか」を双方が考える必要があると思います。
正社員と業務委託に関して質問をいただいています。「正社員の採用は難しく、業務委託の比率が高まっています。業務委託についてどのように捉えていますか?」ということですが、キャディさんはいかがですか?

佐藤 将高

小橋 昭文

私がリファラル採用できないということで、初期には業務委託の方が数名いらっしゃいましたが、最近はすごく少なくなっています。週に2日などの関わり方では、開発のスピードを維持できませんから。

小橋 昭文

組織が拡大する中で、きちんと仕事を分解して協力をお願いできる体制を整えることは、事業の成長を支えるために必要だと思うので、そういう方向に徐々に進んでいければいいなとは考えています。

芹澤 雅人

同じく、業務委託は積極的に採用しておらず、数名しか在籍していません。理由も同じで、すごくスピーディに状況が変化する中で開発しているので、週5日フルコミットしてくれるという条件は必須と考えています。業務委託の方にも、顧問をのぞいて基本的には週5日で参加してもらっています。そういう条件でエンジニアを募集しているので、必然的に正社員が多くなりますね。
最近はフリーランスで週3日と週2日に分けて働きたいというエンジニアのニーズも増えていますが、こちらの2社のニーズを考えると必然的に正社員が中心になるということですね。

佐藤 将高

エンジニアの観点を入れ、地道な施策を継続することが重要

最後に、エンジニア採用担当者の方に向けてメッセージをいただけますか?

佐藤 将高

小橋 昭文

応募者の観点から、エンジニアの気持ちを理解して向き合っていくことがすごく重要だと思っています。だからこそ、エンジニアの観点や意見を極力取り入れた施策が功を奏すると考えています。エンジニアが意見をしっかり表現すること、これからもがんばっていきましょう。

芹澤 雅人

採用というのは、地道な施策を継続的にやることが大事だと身をもって痛感しています。採用しておしまいではなく、きちんとオンボーディングして、サクセスしていただく。会社で活躍してプロダクトが成長することで、より一層の採用需要増や会社のブランディングにつながっていく、というサイクルときちんと設計すること。これが採用において一番重要だと思います。
ありがとうございました。

佐藤 将高