林業・水産業とテクノロジーの相性は?~農林水産省とウーオが推進する第一次産業のDXとは~【後編】

2021年4月6日(火)、ファインディ株式会社が主催するオンラインイベント「農林水産省とウーオが語る!林業・水産業をITで変えるチャレンジ」が開催されました。
第一次産業といえば、「食べチョク」や「ポケットマルシェ」のような生産者と消費者を繋ぐ産直ECサイトが登場するなど、ITの活用が進んできている分野の一つです。
本イベントでは、第一次産業のDXを推進している農林水産省の長野さんと北山さん、株式会社ウーオの土谷さんに、現場の課題や今後の展望についてお伺いしました。
イベントの後半に行われた参加者からのQAのトーク内容をお届けします。

前編はこちらから

登壇者プロフィール

長野 麻子さん / 農林水産省 林野庁 林政部 木材利用課長


東京大学文学部フランス文学科卒業後、農林水産省入省。バイオマスをカスケード利用する国家戦略策定に携わった後、株式会社電通に出向してソーシャルビジネスの企画、食料産業局食品産業環境対策室長としてフードロス削減に向けた国民運動を手がけるなどして、2018年7月から林野庁木材利用課長に。公共建築への木材利用、木づかい運動、木材輸出など木材需要の拡大に向けて全国営業中。

▼参考
SDGs達成に向けて~官民連携でつくる社会環境~

北山 勝史さん / 農林水産省 大臣官房デジタル戦略グループ デジタル政策推進チーム 企画専門職


北海道札幌市出身。農業高校の林業科を卒業後、林野庁へ入庁。 北海道の現場で日々の図面作成に苦労していたことから、GISソフトなどを活用し業務を行う。 本年度からデジタル政策推進チームへ配属となり、デジタル地図の整備について検討を行っている。 日曜プログラマー。

▼参考
農林水産省が取り組む、ID連携・データ項目標準化・地理データのベースレジストリ構築

土谷 太皓 さん / 株式会社ウーオ CPO


神奈川県出身。新卒でクックパッド株式会社に入社し、レシピサイトやクックパッドAndroidアプリのサービス開発を担当。PT. COOKPAD DIGITAL INDONESIAへの出向を経て、より上流の水産業でインパクトを起こしたいと考え、株式会社ウーオに入社。

▼参考
ウーオが水揚げ直後の鮮魚をスマホで発注できるプラットフォーム「UUUO」公開、資金調達も実施

モデレーター

河村 佳太 / ファインディ株式会社


東京大学経済学部卒業後、国内コンサルティング会社を経て2015年横浜DeNAベイスターズに入社。チームのIT担当アナリストとして球団に当時最先端のITツールを導入するなど球団のDXを推進し、日本シリーズ進出に貢献。 2021年ファインディ株式会社にジョイン。

前編はこちらから

参加者からの質問に答えるQAへ

木材は国産の方が輸入品よりも安い

──続いてQAに移っていきたいと思います。木材価格に対する質問が届いていますね。「国産の方が高いんじゃないか?」「中国だと安いんじゃないですか?」とありますが、実際のところはどうなんでしょうか?

長野さん

昔は国産のヒノキなどがとても高い時期がありましたが、現在の日本の木材価格は恐らく世界最低水準ですね。価格的にはそんなに高くないので、何か木材を使うときはぜひ国産材を選んでください(笑)。

──国産材が安いとは意外ですね!中国産の方が安いイメージでした。

長野さん

それでいうと逆に中国に丸太を輸出している状態ですね。輸入と国産の割合は6:4くらい。他国と比べて安く輸出してしまっているので、もう少し国内で使って価値を付けて、地域にお金が落ちる方がいいと思っています。

長野さん

輸入する際は、カナダやアメリカ、あとはヨーロッパの木材が多いです。その辺りの木材は強度があり白くて綺麗だからです。しかし、今はコンテナが世界的に不足しているため、輸送コストが高く、輸入材が入らないので、現場がすごく混乱しています。ある種の変革期を迎えているとも言えるかもしれません。

長野さん

これまで、大手のハウスメーカーなどは、国産材よりも安定供給されていて使いやすいということで外国産材を使っていたんですが、今は国産材の生産も増えてきましたし、安定的なサプライチェーンを繋ぎ直す時期に来ていると感じます。

インドでの体験と漁師との出会いから水産業のインフラになるサービスに関わるように

──続いて土谷さんに、「この事業に取り組まれたきっかけや理由、原体験は?」という質問が来ています。

土谷さん

僕自身の話としては、そもそも前職のクックパッドに入ったのは「人に共感できるサービスを作りたい」という気持ちがあったからなんですね。あとは小さい頃から海外に行く機会が多くて、インドとかにも行っていたんですが、「自分とあまりスキルが変わらないはずなのに、なぜこんなに生活水準が違うのか?」という疑問がありました。そこから誰もが活躍できるような仕組みを作りたいという気持ちが強くなって、インフラに携わりたいと思うようになったんです。

土谷さん

会社の話をすると、ウーオは創業者の板倉が鳥取の網代港の出身で、祖父・曽祖父がカニ漁の漁師をしていて、船長として船を持っている家系でしたと。板倉は東京の会社に就職したんですが、帰省する度に船の数が減ったり使われなくなったセリ場が廃れていったりというのを目の当たりにして、「水産業にも課題があるんだ」って考えるようになったそうです。板倉の幼馴染も船長をしているんですが、「子供には継がせたくない」と言っていて。理由としては石油や燃料費など支出は高騰してる一方で、収入が減っている、産地の魚価が低下しているのが理由です。これは、漁師さんの頑張りだけでは解決できない課題でもあるんですよね。

土谷さん

水産業は、漁師さんが魚を獲ってきてくれないと何もビジネスが始まらないものです。最終的には漁師さんのために、水産業の課題を解決していきたい、という想いで板倉が起業してできたのがウーオです。

水産業の商流は歴史的背景で長かったが、物流の発達でそれも変わりつつある

──水産業は私たちの生活になくてはならない産業ですし、未来のためにも今この瞬間から変えていく必要がありますよね。続けて土谷さんに「なんでこんなに商流が長いんですか?」という質問がきています。こちらはいかがですか?

土谷さん

歴史的なことも関係していると思うんですが、例えば鳥取から東京まで届けようと思ったら、大阪や名古屋等の中間地点で別の運送会社に荷物を受け渡すなど、次から次に転送していく必要があって、そのために市場が機能していた。そうしたことから現在の商流になっているのかなと。

土谷さん

あと、法律で市場に買い付けに行ける人って決まっているんですね。仲卸は荷受けから買わないといけなくて、そこを飛ばしてはいけないというルールがある。でも、去年の6月に市場法が改正されて、仲卸が産直をしてもいいし、荷受けもスーパーや飲食店に直接魚を届けてもいいということになりました。スーパーが僕らと同じような買参権を持って、産地に入ったりとか消費地に直接買い付けたりってこともできるようになって、徐々に変わってきていますね。

──「販路を拡大すると、今度は輸送が問題になるんじゃないかなと思います」というコメントもあります。

土谷さん

答えはイエスです。ただ、輸送ルートは“頑張ればなんとかなる”ので、毎日なんとか調整をしています。

土谷さん

市場間をつなぐ市場便っていう、地元の運送会社さんがやっている流通があって、そこは箱単価で鳥取~広島を500円で届けてくれるんですが、「今までそこに届けたことないよ」って言われるようなことが毎日起こっていて、なんとか届けてくれるようにお願いしていますね。

林業ではIoT機器が丸太を刻むのに役立っている例も

──次は北山さんに来ている質問ですね。先ほど(前編)、長野さんよりAIを使って木のサイズを測れるサービスがあるというお話がありましたが、林業におけるIoT機器の導入は現状はどこまで進んでいるのでしょうか?

北山さん

導入がどれくらい進んでいるかでいうと、山の中でも電気・電波が取れるところはあって、工場なんかだとIoT機器みたいなものも比較的入ってきています。実際に山を歩いたりする状況だとまだ電波が取れないので、導入が難しいところがあるというのが現状ですね。

──実際に使用されているIoT機器にはどのようなものがあるんですか?

北山さん

木を切り倒して規格の長さに切るときに、重機の先についてるカメラが木の曲がりを判断して、「ここは2Mで切った方がよく売れる」「結点が出づらい」「ここは4mで切れるよ」みたいなことを教えてくれる製品もありますね。ただ、実際に丸太を刻んで製材にしていくとなると、外側からは木の中が見えないので、AIで判断するのは難しいところなのかなと。

部分最適でなく、全体最適を実現すべく、ステークホルダーのヒアリングを進める

──政府の方が必ず通る問題として、競争入札という縛りは避けて通れないと思うのですが、そうなると企業と連携しようとした時になかなか難しいという印象があります。その辺りってどう対応されているんでしょうか?

長野さん

基本は競争入札ですね。政府としては「こういうものをして欲しい」っていうのを言った上で一番いい提案をとるというのが基本なんですが、実際にサービスを考える際はいろんな企業の話を聞いています。

北山さん

競争入札については価格で決めるのが大半かと思うんですが、価格と技術、内容をある程度の割合で評価して点数に直して決めるものや、価格を出してしまった上で企画を審査する企画競争っていうタイプもあります。こういうものだと、競争入札でも良い方法が取れる場合がありますね。

──価格だけはなく内容で決められるような仕組みもあるということですね。企業と取り組まれることも踏まえて、今後目指されているのはどういったところなんでしょうか?

長野さん

今までは“全体最適”を目指せていなかったんですね。でも、今年度は全体最適に向けて、調査をしていて、各社のいろんなステークホルダーのヒアリングを進めていきます。土谷さんが先ほど話されていた実体験のところなど、とても勉強になりました。

長野さん

各地で森林組合や木材コーディネーターの方が、「どうしたら現場の作業が楽になるのか」「効率的になるのか」と考えていると思うので、今後はそこを応援していきたいなと。また、現状では放置されている森林も多く、そもそも持ち主が不明というものもあり、まだまだ課題を抱えています。これからは森林保護なども含めて、皆さんにもっと森林のことを考えてもらえて、かつ山主さんにもっとお金が戻るような形をDXで実現できないかなと妄想しております。

ゆくゆくはウーオを通して持続可能な水産業を目指したい

──ありがとうございます。長野さんより森林保護というワードがあったんですが、ウーオとして海洋支援という観点でなにか取り組まれていることはありますか?

土谷さん

今すぐはできていないっていうのが現状なんですが、私たちは最終的に「持続可能な水産業」を目指しています。資源管理という観点でも、どこで魚を獲ればいいのか、どうやって管理していけばいいかっていうのは、結構いろんなITの会社がサービスを開発されていて、素晴らしいなと思います。

土谷さん

ただやっぱりビジネスなんで、今よりもっと魚を売りたいと思っています。僕らは需要の元データっていうのを持っているので、将来的に「ウーオを見てこの魚取りに行くぞ」って思ってもらえるようになるといいなと。

土谷さん

今の漁の仕方は、「まず漁に出て魚を取ってきて、市場にセリにかける。セリの結果が出るまではどれくらいの価格で売れるのかわからない」という感じなんです。セリの仕組み自体は素晴らしいと思うんですが、売上予測も立てにくいというのが現状です。

土谷さん

そこを解決するためにも、ゆくゆくはウーオを見ればどの魚をどのくらい獲ればどのくらいの売上になるのかというのがわかるようにしていきたい。漁師さんが計画的に予測が立てられる状態にしていきたいなと思っています。それが水産資源の管理に関わるかは分からないですが、乱獲や一網打尽に獲る、みたいなことがなくなっていけるといいなと。

──需要が明らかになれば適切な量がわかるし、今後のことも考えた計画的な漁ができそうですね。

長野さん

養殖の魚は使われているんですか?

土谷さん

取扱の検討を始めている段階ですね。天然鮮魚って天候にすごい左右されてしまいますし、「今日は全然獲れませんでした」みたいなこともあるんですが(苦笑)。やはりスーパーは最終的に安定供給を求められるため、そうした場合は今までだと冷凍品や海外のものに頼っていたり、養殖を使用したりされているんですね。

土谷さん

養殖も漁師さんがやってらっしゃるので、天然鮮魚から養殖魚という流れについても今度取り組んでいきたいと思っています。ただ、現状としては目の前の天然鮮魚を取り扱っている感じですね。

業界の改革に挑む上ではその業界でのビジネスの歩み方を知るのが大事

──土谷さんに「大きな改革に挑まれていると思うんですが、業界からの圧力はないですか?」って直球の質問が来ているんですが(笑)答えられる範囲でお伺いしてもよろしいですか?

土谷さん

「思ったよりない」というのがシンプルな感想です。ただ、圧力じゃないんですけど、水産業におけるビジネスの歩み方を知らないと危ない。危ないというか、失礼なことをしているんだなっていうことがありますね。僕らはまだまだ若い会社なので、お客さんに迷惑かけたことはありましたね……。

土谷さん

圧力がかかるということではないですが、水産業のドメインの歩き方をちゃんと知ろうねっていう。そこを壊すことも出来ると思いますが、それって僕らが求めていることではないので。

土谷さん

ただ基本的にはめちゃくちゃ応援してくれますね。一緒にご飯とか行かせてもらうこともあるし、「もっともっと変えていこう」って言ってくださる方もいらっしゃいます。

林業・水産業が求めている人材とは?

──人との繋がりを深めるというのは、レガシー業界のDXの本質的なところですよね。ありがとうございます。最後にどんな方にチャレンジして欲しいのか、どんな人が活躍しているのかという点についてメッセージをいただければと思います。ウーオでは実際にエンジニア採用にもかなり力を入れていらっしゃるということで、土谷さんからお伺いできればと思うんですがいかがでしょうか?

土谷さん

まず“魚好き”な方はぜひチャレンジして頂きたいですね。既存の構造を変えるのが難しい業界ですし、「こんなこと起こるの?」って驚くことの連続なんですが、それをパターン化して、このケースはこう対応するっていう流れを作るのは面白いと思います。やらないといけないことが膨大にあるというよりは、突き詰めていくとロジカルで解決できることがたくさんあるので、そこはエンジニアの方こそ活躍できるところかなと。

土谷さん

あと、他業界で活躍されてる方は、そこでのベストプラクティスが一気に水産業を変える、新しいスタンダードになる可能性を秘めていると思いますね。魚についてめちゃくちゃ知っているというよりも、水産の構造とか全然わからなくていいので、とにかく他の分野でサービスを提供して技術で解決したっていう体験をそのまま水産業界に当てはめれば、解決できることってたくさんあると思うんです。魚好きで新しいチャレンジをしたい方は、ぜひウーオにジョインしていただきたいですね。

──ありがとうございます。続いて北山さん、どういう方に林業分野に来て欲しいかメッセージをいただければと思います。

北山さん

実際に山に行って課題を解決することが多く、固定された仕組みができ上がっている世界なので、土谷さんがおっしゃったように、“外の視点”がとても重要だと思っています。他の分野で活躍していた方からすると、「別の方法で簡単に実現できるんじゃないの?」っていう発想が出てくると思うので、他業種の視点を持っている方が入って来ていただけると大変ありがたいなと思います。

北山さん

宣伝になりますが、農林水産省ではエンジニア採用みたいなこともやっていて、ニュースで取り上げたりもしてもらっています。興味をお持ちの方は、ぜひ調べていただけるとありがたいなと思います。

──今回のイベントを通して、林業も水産業もテクノロジーで変えていけるところが多く、大きな可能性を秘めた非常に面白い業界なんだなと感じました。長野さん、北山さん、土谷さん、参加者の皆さん、本日はどうもありがとうございました!