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エンジニアが自宅野菜サーバーを運用して得られた、IoTの「収穫」

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株式会社シスマック / DXソリューション事業部 部長

梶原 睦

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その技術・ドメインの真の魅力と奥深さを探求する連載シリーズ「私は〇〇チョットワカル」。今回はIoTをテーマに、エンジニアリングの技術を活かした水耕栽培の実践を通して、趣味と技術が交差する面白さを掘り下げていきます。

解説するのは、梶原睦/ムツミックス(@Mutsumix_dev)さん。Raspberry Piや各種センサーを用いた水耕栽培の取り組みを続ける中で、関連する技術同人誌をこれまでに3冊執筆しています。定点カメラによる自動撮影や環境データの可視化、運用負荷を下げる工夫など、実際に手を動かして得られた知見をもとに、IoTを“継続して楽しむ”ための考え方を紹介いただきました。


自己紹介

はじめまして、ムツミックスと言います。本業の方では技術者派遣や企業からの受託開発を行っている株式会社シスマックで 、DXソリューション事業部の部長を務めています。

この記事では私が趣味で行っている「エンジニアリングの技術を活かした」水耕栽培について紹介したいと思います。

自宅で水耕栽培をしています

私は2024年4月ごろから、賃貸の自宅の一角で水耕栽培を始めました。

最初に水耕栽培について説明をすると、「土を使わずに液体肥料(養液)だけで植物を育てる栽培方法」のことです。

スチールラックに百円ショップで買った容器を材料にした栽培装置を並べ、液肥で満たし、LEDの光を浴びせるという栽培方法で、レタスを中心とした野菜を育てています。

水耕栽培装置の全体像

いつの間にか熱中し、気がついたら関連する技術同人誌を3冊書いていました。

2025年11月に開催された技術書典19での出展の様子
2025年11月に開催された技術書典19での出展の様子

先日はRPACommunityさんのオンラインLTイベントで水耕栽培をテーマにLTをしました。

きっかけは持て余していたRaspberry Pi

全てのきっかけは手のひらサイズの小型PC、Raspberry Piを購入したことでした。興味本位から買ったのはいいものの、しばらくは持て余していました。活用方法はないものかとUdemyで教材を探していたところ、見つけたのがこちらの講座でした。

それまではソフトウェアエンジニアとして、PCやサーバー上で完結するプログラムしか作ったことはありませんでしたが、自分で作ったものが現実世界とリンクする技術に「面白さ」を感じました。

教材自体もとても学びの多いものでしたが、DIY型IoTキット作成講座の中で水耕栽培について触れられていて、そこで初めて水耕栽培というものの存在を知りました。

これまで室内で野菜を育てたい、という動機から普通に土を使った野菜の栽培にはチャレンジしたことはありました。しかし、土の処理が面倒だったり、光が足りずに正常に育たなかったりで挫折をした経験がありました。

しかし、ものは試しとペットボトルを容器にして水耕栽培に挑戦したところ、本当に土なしで植物が育っていったので驚きました。土でしか育たないと思っていた植物が、液体の中に根を伸ばしていく姿にまた「面白さ」を感じました。

ペットボトルで水耕栽培しているミントの様子

生育ペースが生活のスタイルとフィット

ちなみにレタスをタネから育てて食べられるようなサイズに育つまで、大体45日間です。このサイクルが自分にとっては長すぎず短すぎない適度な長さでした。

サイクルが早いと手間をかける間隔も短くなり面倒くさくて嫌になるし、収穫まで時間がかかりすぎると途中で飽きてしまうと思います。さらに仕事をしていると、平日は忙しくて全く世話ができないという日は当然あります。1ヶ月半で収穫でき、1週間に一度程度の水やりで十分育ってくれる水耕栽培は、私にとってとてもちょうど良い栽培方法でした。

エンジニアリングとの親和性

水耕栽培はエンジニアリング、つまり

面白いことに週末にぼーっと水やりをしていると、どうしたらたくさん育つのかのアイディアが次々に沸いてきます。「別の品種を試してはどうか」「液体肥料の濃度を変えてみようか」「もっと暖かい部屋に持って行こうか」などです。また、葉っぱが枯れたり、ひょろひょろのまま大きくならないような生育不良に悩まされることも多く、その時も何が悪かったのか原因を調べて対応策を考えます。

こういった試行錯誤で得られた「わからないことでも頑張って調べて修正していったら解決に近づく」という経験の積み重ねが大きな自信を私に与えてくれました。

2025年5月、シネマ de LT会という映画館を貸し切って行われたLTイベントで「水耕栽培はエンジニアリングである、つまりエンジニアリングは水耕栽培である」という理論を提唱しました。

「工学は工夫を学ぶから工学だ」、という言葉を聞いたことがあります。このLTをした時は、水耕栽培で工夫をし続ける時の頭が、仕事でシステムエンジニアとして頭を使っている時と似ているな、程度の気持ちでこのスライドを作成しました。

『斉民要術』、『農業全書』といった書物を歴史の授業で聞いた覚えのある人もいると思います。主語の大きな話になりますが、人類は歴史的に農業生産の向上のために工夫を積み重ね、ノウハウを書物に刻み、実践を積み重ね繁栄をしてきました。そういった意味で「エンジニアリングは水耕栽培である」という主張はあながち的外れな超理論でもない気がしています。

インクリメンタルな改善

そして面白いのが、一度うまくいった方法は資産として残り、そこに新たな工夫を積み重ねていける点です。一つ、例を紹介します。

私の水耕栽培は、水で浸したスポンジに切れ目を入れて種を埋め、発芽させることから始めています。

スポンジに切れ目を入れている様子

卵のパックなどの容器にスポンジを並べて芽が出るのを待ち、根がある程度まで伸びたら栽培装置に移します。この発芽のプロセスにいくつかの課題があり、発芽率が上がらないことに悩んでいました。

そんな中、蓋付きの製氷皿を使う方法を取り入れたところ、季節に関わらず発芽率がぐんと上がり、以降はレタスの発芽で悩むことはなくなりました。これは継続的な収穫を目指す自分にとって、革新的なテクノロジーでした。

https://x.com/Mutsumix_dev/status/1917688696704491909?s=20

構築したシステム

IoTやプログラミング技術を掛け合わせて、水耕栽培のレベルをもう一段階アップグレードさせることができます。ここからは、私が水耕栽培をする中で構築したシステムを紹介します。

使用するプログラムや手順は全てGitHub上で公開しているので、興味のある方はぜひ活用してみてください。ご意見も大歓迎です。

定点カメラで自動撮影

植物の成長を自動で記録するための装置です。Raspberry Piに接続したWebカメラを定点カメラとして使い、一定間隔で撮影した画像をGoogle Photosにアップロードする仕組みです。
前述したUdemyのDIY型IoTキット作成講座にて紹介されていた仕組みを真似て自分なりにアレンジしました。Google Photos APIsを使うので、API や GCPの勉強になりました。工夫した点としては、GCPはテスト環境だとAPIのトークンが1週間で切れてしまうので、その時はAmazon SNSで通知を送るようにし、また高解像度のWebカメラにも対応できるようにしています。Google Photosにアップロードをすれば、タイムラプス動画も簡単に作れるので、百聞は一見にしかずで、条件による生育の違いが一目でわかります。
このプログラムの結果として、水温の違いによる生育速度の違いの検証ができ、収穫量増に貢献してくれました。

camera_system_overview.drawio

温度・湿度・CO2濃度可視化システム

センサーを用いて、温度・湿度・CO2濃度をモニタリングしています。SwitchBot は一般消費者向けにさまざまな製品を出していて、その中の1つに温湿度計も備えたCO2(二酸化炭素)濃度センサーがあります。アプリ上で数値を確認することもできるのですが、実はAPIでも値を取得することができます。
AWS Lambdaでセンサー値取得のためのPythonスクリプトを書き、ThingSpeakというサービスにデータを保存、最終的にGrafanaでダッシュボードを作り、最新の数値だけではなく、値の推移も含めて確認できるようにしています。
Grafanaを使って育児記録を可視化しているという記事を目にしたことがあり、似たようなことをやってみたい気持ちがあったので、この仕組みで取り入れてみました。

system_overview.drawio

栽培装置周辺のセンシング

水温・水位や装置周辺の明るさ、またポンプに異常がないかを検知するための騒音の値を、Arduino互換機であるSeeeduino Lotusに各種センサーを接続して取得しています。
Raspberry Piにシリアル通信して、こちらもThingSpeakにデータを送信・保存させ、Grafanaのダッシュボード上で確認できるようにしています。

この仕組みを導入したきっかけは、より植物と栽培装置に近いところのデータを取りたいという思いからでした。ただ、センサー類を多用すると配線・プログラムが複雑になり、ちょっとした修正でも手順が煩雑になり、そうなると面倒くさがりの自分はメンテナンスしなくなりそうだという懸念がありました。そのためできるだけ配線の取り回しが少ない手法・機器を探しこのシステムが完成しました。
おかげで基盤を小さなタッパーの中にまとめられて物理的なポータビリティ(可搬性)を高められました。

sensor_system_overview.drawio

device_open

seeeduino-dashboad

工夫したこと

私が水耕栽培をする上で気をつけていることは次の3つです。

運用の負荷を下げる

植物を育てることは地味に時間や手間がかかります。

経験がある人はわかりますが、たとえば水やり一つとっても結構な手間です。水がなくなることは、死に直結するのでやらないわけにはいきません。水耕栽培では肥料を希釈した養液が必要になるので、それを用意する手間も余分にかかります。

水耕栽培を始めた頃は株ごとに容器を用意していて、そのため水やりの手間も膨大で水耕栽培が嫌になりかけたのですが、大きな容器で複数の株を育てる方法にしたところ、大変うまくいったので、全ての容器を大きなものに置き換えました。すでに紹介した製氷皿を取り入れた発芽方法も運用負荷の低減に貢献してくれました。

技術的な工夫で言うと、先ほど紹介した温湿度・CO2濃度可視化システムは、元々はRaspberry Piに接続した環境センサーで取得したデータを、クラウドにアップロードしていました。ただ機器を動かすたびにプログラムが停止してしまうので、どうにも手間だと悩んでいたところ、API対応のセンサーに出会いサーバーレス化が実現しました。結果的に劇的に運用負荷が下がり、サーバーレス化のありがたさを実感することになりました。

省スペース

私は賃貸の物件で水耕栽培をしているため、使えるスペースは有限です。そこで、スチールラックに収まるサイズで発芽から収穫までが完結することをモットーにした装置の構成にしています。「縛りプレイ」という言葉がゲームではありますが、ある程度の制限を課した方がアイディアを捻り出そうと人は努力しますし、達成できた時の喜びはひとしおです。

触れたことのない技術を取り入れる

あることを実現しようとした時に複数の選択肢がある場合は、どれも使ってみることにしています。

可視化のためのツールにはThingSpeak, Grafana, Mackerelといった選択肢を試すことで、それぞれの製品のできること・できないことを知れます。クラウド基盤もAWS・GCPを併用することで、不要なこだわりや苦手意識を持つことなく、妥当な技術選定ができるようになります。周りにもいませんか?自分が知らなくて勉強するのが億劫なだけなのに「〇〇はなんか使いにくそう」と遠ざけてしまう人。私はそういったスタンスは人間の習性でもあり、バグだと思うので、多くの経験をするというパッチで対応するようにしています。

大切にしている3つの軸

ここまで私の「水耕栽培」へのこだわりについて書かせていただきました。本当にこれがFindy Mediaに掲載されるんでしょうか。このテーマにOKをしてくださった編集部の懐の大きさには感謝しかありません。ありがとうございました。

今回の記事を書くにあたって、これまで作成したシステムを振り返りましたが「誰かの真似がしたい」「とにかく楽がしたい」が自分のモチベーションになっているようで、なんだかこっ恥ずかしいです。ただ同時に、水耕栽培が私の技術的好奇心の実験場になってくれている、ということにも気づきました。

まとめとして、私が普段大事にしている「好奇心」「感動」「楽しさ」という三つの軸について書かせていただきます。

好奇心を持ち続ける

これは水耕栽培でも何でも良いのですが、仕事の本業以外に、継続的に触れている「何か」があると、新しい技術・サービスを活用するきっかけが生まれます。私にとってはそれが水耕栽培だったのですが、具体的な例で言うとこんなことがありました。

2025年の初め頃、「センサーを使ったデータ収集には興味があるけれど、ブレッドボードや配線・はんだ付けは過去に挑戦したものの、全く楽しくなく、時間もかかる。後片付けも面倒なので、避けられるなら避けて通りたい」と思っていました。

そんな折、Claudeが2025年の3月ごろにWeb検索をチャット内で行えるようになったというリリースがありSNSでも話題になっていました。そこで、Claudeに私のセンシングに関する課題を投げかけ、Webの情報を集めてもらうことにしました。

その結果、Groveというシンプルなコネクタで各種センサーと接続できるSeeeduino Lotusという製品をSeeed という深圳にある会社が販売していると知り、非常に助けられました。

自分ではいくら検索しても出会えなかった具体的な製品の情報を、AIが教えてくれたのです。それはこのAI時代に生きていたことの恩恵を受けた瞬間でもあったので、感動を覚えました。

感動することが一番の学び

自分の興味関心に従うままに何かを調べて、見つけた課題に挑み、解決できたり新たな知見を得られた瞬間というのは、私たちに無限の感動を与えてくれます。そうした感動を知れば、暇つぶしなんかする暇なんてなくなります。

私はこの気持ちを原動力にこれからもさらに水耕栽培の可能性を探究していきたいですし、願わくば水耕栽培仲間がたくさん増えたらいいなと思っています。

それがぼくには楽しかったから

気候変動に伴う生育不良、燃料高による輸送コスト増、インフレなど、野菜の価格の押し上げ要因は今後も減るどころか増えることが予想されます。天候に左右されず、土を使わず、スペースを必要とせず、収穫の予測がつきやすい水耕栽培は、多くの人にとって魅力的な技術です。かねてから食料自給率の低い我が国で、かつてなく食の安全保障の必要性が叫ばれるべきだと思っていますが、自宅で野菜を育てることができる水耕栽培は、その解決策になり得ます。つまり水耕栽培は、単に趣味のための技術ではなく、今後多くの人を助けるポテンシャルを持つ技術です。

それに、ここまで読んでいただいた方には伝わっているとは思いますが、水耕栽培はお得である以前に、とても楽しいものです。はじめてスポンジに植えた種が芽吹いた朝や、収穫したレタスで作ったサラダの味は今でも忘れられません。

自宅でサラダが毎日穫れると思うとワクワクしませんか?これを機にぜひ、水耕栽培の液体肥料ならぬ沼にハマってください!

ちなみに、この記事を読んで水耕栽培を始めたいと思った方がいましたら、最初はサンチュから始めるのをお勧めします。水耕栽培界隈で有名な格言に「先ずサンチュより始めよ」というのがあります。

最後に

最後になりますが、これを読んでいるエンジニアの方は、これまで仕事をしたり技術書を読んだり、あるいは勉強会などの場で、興味を持った技術に関するアイディアをお持ちかもしれません。ぜひ自分の持っている技術を好きなことと結びつけることの喜びに出会って欲しいと思います。あなたの頭に植え付けられたアイディアという種は、実践の場という培地で芽吹き・花開き、また次の好奇心という種を生み出すはずです。

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