
モノとデータ、そして国境を超えて──Belongが築く“現場発”エンジニアリングの新境地
日本で培った技術を武器に、アメリカ市場へ――。2025年11月、株式会社BelongのCTO 福井さんがニューヨークに拠点を移します。
株式会社Belongは、伊藤忠グループの一員として中古スマートフォンの買取・販売・レンタル事業を展開する企業です。同社は、中古スマートフォンを対象に卸売・流通を手がけるWe Sell Cellular社との協業を本格化させることを決定。日本で開発したシステムを米国市場に展開し、現地にエンジニアリング力を提供することになりました。
なぜCTO自らが渡米するのか。グローバル展開の舞台裏と組織やカルチャーの魅力について、福井さんと、同社ディレクターのLarssonさんにお話を伺いました。
プロフィール
福井 達也さん
執行役員 CTO
大学院で情報科学修士を取得後、2013年から5年間、Goldman Sachsにてソフトウェアエンジニアとして活躍。その後2018年から2年間、Googleでテクニカルソリューションエンジニアとしての経験を積み、2020年にBelongに入社。CTOとして、技術戦略の立案やエンジニアリングチームの立ち上げ、サービス開発を行う。趣味は、釣りと技術書を読むこと。主著に『エンジニアリング組織開発』
Larsson Larsさん
ディレクター
コンピューターサイエンス出身で新規事業やベンチャー関連企業でマネージャー&プロダクトエンジニアとして15年以上活躍。2017年に来日後、自身で企業を立ち上げ約6年間経営する傍ら、ベンチャーの外部CTOや大手企業の新規事業支援も手がける。2025年3月からBelongに参加し、組織の成長に貢献。
意思決定を日本が主導していく――CTO自ら渡米する理由
――2025年11月、CTOである福井さん自らアメリカのニューヨークに拠点を移す予定だと伺いました。この決断に至った背景を教えてください
福井:BelongがWe Sell Cellularという米国企業との協業を本格化させることになったのが大きな背景です。もともとスマホの中古市場はアメリカが先行しており、市場規模も日本とは比べものにならないくらい大きいんです。より大きな市場に取り組むことで、Belongとして次のステージに進めると考えました。
――We Sell Cellularとの協業で、何を実現しようとしているのですか?
福井:We Sell Cellularは米国で強い販売チャネルとオペレーションセンターを持っていますが、自前のエンジニアリングチームではありません。これまでは外部に開発を委託したり、別の会社からエンジニアが派遣されてきたりという状態でした。
一方、Belongの歴史を振り返ると、エンジニアリングチームがオペレーションチームをエンパワーメントしてきた経緯があります。自動化や標準化、スケールといった観点でエンジニアリングの仕組みを提供することで、より効率的で発展的なビジネスができるようになってきました。
We Sell Cellularには強力な販売力とオペレーション力がある一方で、それを最大限に活かすためのエンジニアリング力がまだ不足している。だからこそ、Belongが日本で培ってきた技術力で貢献していくことで、強力なシナジーが生み出したいと考えています。
――CTO自ら渡米するのではなく、他の方に任せるという選択肢はなかったのですか?
福井:もちろん他の選択肢も検討しました。ただ、ビジネスの理解、テクノロジーの理解、そして言語スキル。これらすべてを満たして現地で素早く動けそうという観点で考えると、やはり私が適任かなと。
私はすでに日本でBelongのビジネスもシステムも熟知しています。だから、アメリカのチームから相談を受けた時に、「ああ、それは日本でこういう経緯があって、今こうなっているから、こうしたらいいんじゃないか」とすぐに判断できます。
もし新しく人を雇って任せるとなると、技術的なスキルはあっても、Belongのビジネスモデルやシステムの成り立ち、社内のさまざまな部署との関係性といった文脈がわからないですよね。それを一から理解してもらうには、かなりの時間がかかってしまいます。
そこで、CTOの私がアメリカに行って日本のチームとも連携する体制を取ることで、アメリカでの開発チーム立ち上げと日本での既存事業、両方をスムーズに進められると考えたんです。
――会社としても福井さんの渡米を後押ししてくれたのでしょうか?
福井:むしろ「行ってくれ」という感じでした(笑)。社内では「グローバル特命」と呼ばれています。個人的にもチャレンジがあると思っていて、面白いかなと思ったんです。
これまで外資系企業で働いてきた経験の中では、プロダクトの方向性や技術的な意思決定は本国で決まって、日本側は実装する側面が強かった。
でも今回は日本側に決定権があって、どういうロードマップやシステムをつくるのか考えられる立場です。日本から海外に技術を展開していく。これは外資系企業とは真逆のパターンで、すごく面白い挑戦だと感じています。
――どのような計画で進めていく予定なのかを教えてください。
福井:まず来年は、データ整理とオペレーションシステムの導入に取り組みます。その後、販売システムとの連携を強化していく計画です。
私自身がアメリカに行きますが、日本のチームとも連携しながら進めていきます。日本にいながら、アメリカ市場のシステム開発に関わることができる。グローバルなプロジェクトに興味があるエンジニアにとっては、良い機会だと思います。
数百万台を個別管理。モノとデータの同期という複雑さ
――Belongが扱う中古スマホ事業には、どのような技術的な難しさがあるのでしょうか?
福井:Belongでは日本国内だけでも年間数百万台の中古スマホを扱っています。この規模になるとエクセルでは管理できません。また、中古の特徴として、一つひとつ状態が違うことがあります。
新品であれば同じモデルは全部同じ状態ですが、中古は違います。バッテリーの最大容量が違う、見た目のグレードも違う。この一つひとつを個別に把握して管理する必要があるんです。
――かなり複雑なんですね。一般的なWebサービスとは異なる難しさがありそうです。
福井:SaaSなどのWebサービスであれば、データベース上の情報を更新すれば完結します。注文ステータスを「処理中」から「完了」に変更すれば、それで処理は終わりです。
しかしBelongでは、データの向こうには必ず実物の端末が存在します。だから、システム上で「この端末を倉庫のAからBに移動」と更新しても、実際に端末が動いていなければ現場は混乱してしまいます。逆に、現場で端末を移動させてもシステムに反映されなければ、在庫が合わなくなるんです。
モノとデータを常に同期させるための統制や仕組みを考えなければならない。そこが難しさであり、同時に面白さでもあります。
B2C、B2Bの双方でサービスを展開しているBelong。中古スマートフォンならではの「モノとデータの管理の難しさ」が事業の面白さでもあります(画像提供:株式会社Belong)――具体的にどのような仕組みで個別管理をしているのでしょうか?
福井:IMEI(端末固有番号)というスマホに必ず割り振られている番号をキーにして、一台一台を管理しています。
まず検品の段階で、専用の検品ツールに端末を挿します。するとBluetoothが動作するか、防水性能はどうか、といった検品結果が即座に返ってきます。その結果とIMEIを紐付けて、調達価格、販売価格、在庫のロケーション、グレード、すべてを個別に管理しているんです。
そして注文が入った時、どの端末をアロケーション(割り当て)するかというアルゴリズムが動きます。古いものから出していくのか、ロケーション的に取りやすいものを優先するのか。システムが判断して、オペレーションの方が実際にその場所に行って端末を取ってくる。
システムの判断と物理的な動きが、常にセットで動いているんです。
――それだけ複雑な要件だと、既製の在庫管理システムでは対応できないですね。
福井:そうですね。以前とあるエンタープライズERPに見積を依頼をした結果、全部カスタマイズになってしまい、数億円という規模になってしまったことがありました。そこで、自分たちで作れば費用を抑えつつやりたいことが実現できる。そう判断して、フルスクラッチで独自システムを開発しました。
さらに、Belongでは一般消費者向けのB2Cと、企業向けのB2Bの両方を展開しています。それぞれで求められる機能や在庫の流し方が違うため、その両方に対応できる柔軟なシステムが必要なんです。
先入れ先出しではないなど会計上の要件も絡んできますし、中古という特性上、同じモデルでも状態によって価格がまったく違う。こうした複雑な要件すべてに対応できるのは、自社開発しかありませんでした。
――エンジニアの役割も、Webサービス開発とは違ってきそうですね。
福井:そうなんです。Belongでは、エンジニアがシステムだけでなく、オペレーションの業務フロー自体の改善提案をすることもあります。
例えば、「このシステムを効率的に動かすには、現場での端末の置き方をこう変えた方がいい」とか、「この作業の順番を入れ替えれば、システムとの連携がスムーズになる」といった提案です。もちろん、現場と議論しながら、実際に運用可能かを確認しながら進めます。
データとシステムだけでなく、実物の端末が動くオペレーションまで含めて最適化していく。そこに面白さを感じているメンバーも多いですね。
――そのほかに特徴的な取り組みはありますか?
福井:AI活用にも積極的に取り組んでいます。開発では、Claude CodeやCopilotなどのエージェンティックコーディングを導入して、エンジニアの開発効率を上げています。
すでに実装されているものとしては、新機種のスマホ情報を自動で収集するシステムがあります。AIを使って新機種情報を検索・収集し、ストレージやカラーといったメタ情報も自動で集めて、社内のカタログをほぼ使える状態にまで仕上げているんです。
今後は、カスタマーサポートでのプレイブック自動更新や問い合わせの自動分類など、さらに活用範囲を広げていきたいと考えています。
「強くてニューゲーム」大手の資本力とスタートアップ感の両立
――Belongの開発組織の特徴を教えてください。
福井:Belongは伊藤忠グループの企業です。大企業の資本力がありながら、スタートアップのような裁量とスピード感を併せ持っているのが特徴です。
社内では「強くてニューゲーム」と呼んでいるんですが、資金面での安定性がある一方で、新しいものを立ち上げていくカルチャーも大切にしています。スタートアップのようなスピード感を持って動いているんです。
資金調達のプレッシャーがないので、創業期から必要な投資をしっかり行える環境だったんです。エンジニア採用も、短期的な収益を気にせず、中長期的な視点で進められたのは大きかったですね。
――資金調達を気にしなくていいというのは、開発面にどのような影響がありますか?
Larsson:資本が安定しているからこそ、しっかりした開発プロセスを構築できるのもメリットです。
一般的なベンチャー企業では、次の資金調達に向けて短期的な成果を求められることが少なくありません。ですが、Belongにはその必要性がない。資金調達のために流行の技術を無理に取り入れるのではなく、お客様が本当に必要としているものを見極めて開発できる。これは大きな強みだと思います。
――本質に集中できることで、どのような開発スタイルを実現しているのでしょうか?
Larsson:オペレーションセンターで実際に端末を扱っている以上、システムの不具合は直接ビジネスに影響します。間違った仕様でリリースすると、現場が混乱して売上にも影響が出てしまう。
だから急いでつくるのではなく、しっかりと品質を確保してリリースするという姿勢が尊重されています。丁寧な開発スタイルを実践できる環境は、エンジニアにとってありがたいですね。
――品質を重視する一方で、新しいことへの挑戦も大切にされているそうですね。
Larsson:はい。大切にしているのは、失敗を恐れずにまず挑戦してみる姿勢です。
最初から絶対成功だという保証はないですよね。だからこそ、やってみて、うまくいかなければ少しずつ方向を変えていく。アメリカ展開もそうですし、新しい機能実装でも同じです。そういう姿勢を、経営層だけでなく各エンジニアも持っています。
――CTOとして、メンバーにはどのような姿勢を求めていますか?
福井:自分たちが作っているプロダクトがどうあって欲しいかを、エンジニア自身が考えつつ、提案してほしいといつも話しています。
オペレーションの方から「こういうことをしてほしい」という要望が来ることもあります。ただ、それをそのまま実装するのではなく、一旦消化して、「こうあるべき」という世界を考えて逆提案する。
ユーザーの方から要望をいただくと、それぞれ個別の課題に対する解決策になっていることがあります。でもエンジニア側でデータの知識、システムの知識を持っているからこそ、「こっちの要望とこっちの要望、実は汎用的な機能を作れば両方解決できるんじゃないか」と気づける。そういうオーナーシップを持ってほしいと思っています。
――そのようなボトムアップの提案はよく行われているのですか?
福井:はい。ジュニアメンバーがADR(Architecture Decision Records)を作成して提案してくることもあります。それをレビューして、妥当性があれば議論の俎上に載せる。誰が言ったかではなく、内容で判断しています。
Larsson:そういう意味では、ジュニアメンバーも成長しやすい環境だと思います。マネージャーが各メンバーを必ずサポートするので、挑戦して失敗しても次につながる。
組織としてはまだ6年目なので、まだまだ成長できる部分はあります。ただ、チームとしての一体感はしっかりできていて、みんなで良いものを作っていこうという雰囲気がありますね。
――現状、チームは多国籍なメンバーで構成されていると伺いました。チームビルディングの面で課題はありますか?
Larsson:現在、外国籍のメンバーが4名在籍しています。アメリカ展開に向けた準備としても、多様な視点を持つチームをつくる必要があります。
ただ、外国人を採用するだけでダイバーシティが生まれるわけではありません。組織の文化が偏ってしまうと、真の多様性は実現できない。本質的にダイバーシティを持った組織をどうつくるかは、難しい課題です。
そのやり方には正解があるわけではありませんが、お互いをより良くしていこうというコミュニケーション姿勢があれば、試行錯誤しながら進んでいけると考えています。
日本の技術で世界を変えてみませんか?グローバルに挑むエンジニアを募集
――Belongではどのようなエンジニアを求めていますか?
福井:技術力やスキルセットももちろん大切ですが、それ以上に重視しているのは姿勢です。国籍や性別に関係なく、課題に向かっていく姿勢がある人と一緒に働きたいと思っています。
自分たちが作っているプロダクトがどうあって欲しいか、エンジニア自身が考えて提案する。そういうオーナーシップを持った方に来ていただきたいですね。
Larsson:私自身、これまでのキャリアの中で常に新しい挑戦を求めてきました。コンフォートゾーンから出て、新しい環境に飛び込んでいくことを重視しています。
そして、持っているスキルに固執せず、謙虚に学ぶ姿勢を持つこと。これがエンジニアとして成長し続けるために大切だと考えています。そういう方と一緒に働けたら嬉しいですね。
――Belongで働くことで、エンジニアはどのような経験が得られるのでしょうか?
福井:自分たちが作っているプロダクトが大手企業にどんどん導入されて、買取台数も増えていく。システムの成長が直接見えるというのは大きなやりがいです。
それから、グローバル環境で成長できる機会も用意しています。海外のカンファレンスなど世界のトップエンジニアが集まる中で学んでほしいので、「カンファレンス渡航補助プログラム」という制度をつくりました。
そういうトッププレイヤーの中で、自分たちも良いポジションで戦えているという実感や、楽しさ、モチベーションを感じてほしいと思っています。
――最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。
福井:Belongでは現在、バックエンドエンジニア、データエンジニア、AIスペシャリストなど、さまざまなポジションでメンバーを募集しています。
中古スマホという実物を扱いながら、最先端のテクノロジーで課題を解決していく。BelongにはWebだけのサービスでは味わえない複雑さと面白さがあります。B2CとB2Bの両方で事業の立ち上げにも関われます。
そして今、私たちは日本で培った技術を武器に、アメリカ市場という新しいフィールドに挑もうとしています。日本企業が海外で技術的な意思決定を主導する、稀有なチャレンジです。
自分の技術で世界を変えたい。グローバルな舞台で本気の挑戦をしたい。そう考えているエンジニアの方、Belongで一緒に挑戦しませんか。
