まさにワンチームによる総力戦。「エンタメ×テック(知的好奇心×感動体験)の推進」社員の熱量で、ここからさらに加速させていきます。代表取締役社長 村田 茂
――就任から1年。コロナ禍で大変だったと思いますが、振り返ってみていかがでしたか。
就任し、世の中はコロナ禍になり、それに対応してきた1年でした。ただ、最初に立ち上げた方針の「エンタメ×テック(知的好奇心×感動体験)」は、1年間で社員に浸透し、それを具現化する為の内製化も滞りなく進めることができました。内製化に必要なエンジニアを中心として約30人の採用に取り組み、それを達成できたことは大きいと感じます。
また、既存の電子書籍事業(「Reader Store」と「ブックパス」の運営サポート)の知見がかなりたまってきて基礎体力がついてきたことと、より相乗効果が出てきたことで、昨年度は過去最高の業績となりました。今年度は、昨年度で十分高まった基礎体力をもって新規事業に着手でき、R&Dなどの取り組み対しても余力が出てきました。当社の“テック”が飛躍的に推進できた、非常に意味のある1年でした。
――その中で特に感じたことはありますか?
常々思っていることは、会社経営は時代と共にアップデートが必要だということです。特に理念や思想の持ち方は重要で、SDGs、グローバル、ワークライフバランスなど、変容していく激しい世の中で柔軟な対応が求められます。その中で、社員、お客様、株主、ビジネスパートナーが、”win×4”、4方向の誰もが犠牲になってはいけません。歴史的構造的に利益が偏る場合は、ロジカルに是正をする知恵と努力、そして未来予想は必要不可欠です。
今放映しているNHK大河ドラマの渋沢栄一は熱いですよね。明治維新というのは、グローバリズムのうねりの中で知識と道徳をアップデートさせた日本国民の市民革命ですが、革命家たちの未来予想図が羅針盤になっていました。旧態然とした理念や思想、成功体験は、時に未来にとっての障害になります。明治維新の時代は、国民の熱量とリアルな武器が手段でしたが、現代の我々の武器は、社員の熱量とテックです。
経営にとっての羅針盤は、現状の問題解決と、全く新しい未来的体験価値の提供です。そして、本質的な構造理解と、最新の現状理解が大切です。それをなくして未来予想は不可能であり、単なるエゴとなってしまいます。ビジネスは必ず成功させなければならない。その為、各ファンクションにおける実務上のディテールの判断は、私より詳しい専門家である社員に委ねています。その社員が真にプロフェッショナルであるかどうかの見極めが、この1年、経営者にとっての最大ミッションだったと思います。
――これまでの社長のキャリアを教えてください。
私のキャリアは出版社(CBS・ソニー出版社:現ソニー・ミュージックエンタテインメント社のグループ会社)からスタートして、新卒で入社し、長く編集者をしていました。書籍やコミックをたくさん作って来ましたが、特に雑誌の編集歴が長いですね。雑誌というメディアは、0から1の構築ではなく「1を大きくすること」で、世の中の役に立つ新しい形での情報提供、トレンドに対して独自の意見を出していく展開、言い換えるなら情報提供者と社会を繋ぐことを行ってきました。他にも、”オートバックス”や”ソニープラザ”、”ヴァージン・メガストアーズ”などのフリーペーパー(店頭雑誌)を制作していました。業界のビジネス構造の理解を深めて、新しいビジネスの仕組みを作ることも好きでした。
その後、ソニー・ミュージックエンタテイメントグループの中で、さまざまなエンタメに携わって生きてきました。なので、商材として得意としているのは、やはりエンタメですね。雑誌の「1を大きくすること」だけではなく、究極的には「0から1の構築」です。
「0から1の構築」「1を大きくすること」、このふたつの組み合わせが、エンタメビジネスの基本です。その象徴となるソニー・ミュージックエンタテインメント社側で担当している直近のビジネスとしては、小説&イラスト投稿サイト「monogatary.com」のプロジェクトから誕生した音楽ユニット・YOASOBIです。小説を音楽・映像化する新しい取り組みが大ヒットし、今では原作小説の書籍化や映画化など、幅広い展開をしています。これもはじまりは、エンタメ×テックなんですよね。当社でも、この組み合わせの別の形として、ECの知見を活かした事業ができると思っています。ちなみに「monogatary.com」の開発は、当社がサポートしているんですよ。
――今後は具体的にどのようなことに取り組まれていく予定ですか?
昨年度の方針は「エンタメ×テック」。ストーリーは「内製化」→「収益性の高い新規事業の創出」→「自立」でした。
今年度は「エンタメ×テックの推進」に加え、「既存事業の収益性の改善=商人(あきんど)テック」。この両方のさらなる「加速」です。
推進方法としては、ウォーターホール型の一発勝負ではなく、アジャイル型のウーダループで検証を重ねて解を導き出す方法が良いと思っています。これは昨年度からの採用活動でもいえることで、検証に検証を重ねながらノウハウを作り上げていくことで、経営にとって最重要な人事基盤を強化することができました。
今年度はいよいよ本格的に投資を始め、「エンタメ×テック」を加速させます。テックによって社会へ貢献し、ユーザーはもちろん、クリエイターや業界に対して喜ばれる仕組みが作れたら素敵だなと思います。そして、何よりも嬉しいのは、社員が各々のミッションをプロとして遂行していること、会社愛を感じることですね。まさにワンチームによる総力戦、レボリューションの始まりです。
――「Reader Store」と「ブックパス」の運営企業は株主でもありますが、どのような関係でしょうか。
受託ではなく、あくまでパートナーです。システム構築から、販促の企画、ASPサービスの運用など、あらゆる面において株主と一緒に行っていて、非常に良い関係ですね。
「Reader Store」を運営するソニー・ミュージックエンタテインメント社は、エンタメのコンテンツが豊富で、さらにソニーグループには最先端のテクノロジーも整っています、また、「ブックパス」を運営するKDDI社は通信キャリアですから、スマホやネットに関するテクノロジーはもちろん、インフラもアセットもたくさん持っています。株主の良いところを最大限に活用させてもらえば、もっと面白いことができるでしょう。新しい技術やトレンドにアンテナを張り、それを取り込んで、エンジニアリングの腕を上げていく。当社のエンジニアには、そういう姿勢を求めています。
――最後に好きな本、おすすめの本を教えてください。
私は外国文学が好きなのですが、今回はアメリカ文学を挙げると、40~60年代のビート・ジェネレーション時代、ウィリアム・S・バロウズ、アレン・ギンズバーグ、ジャック・ケルアックなどを若い頃は好んで読みました。現代へ繋がっていく狭間の時代の中で好きなのは、人間の喜怒哀楽の先、最後に幸せの本質に辿り着くような、リチャード ブローティガン、フィリップ・ロスの作品です。かなり心酔しました。
80年代に入って、ジョン・アービング、ポール・オースターなどポストモダンと呼ばれる作家による現代アメリカ文学は、映画化されている作品も多く、村上春樹や柴田元幸によって翻訳、紹介されています。
この中でおすすめしたい本は、ポール・オースターの最高峰であるニューヨーク三部作、『ガラスの街』『幽霊たち』『鍵のかかった部屋』です。推理小説ではありますが、人間の内面に入り込んだ謎解き小説ですね。アメリカの推理小説は、他にもレイモンド・チャンドラーとダシール・ハメットという素晴らしい作家がいます。ウィットに富んだ文学的表現に溢れ、アイデンティティを題材にした推理小説は、日本のロスジェネやサブカルがお好きな方にはとてもハマると思います。文体も難解ではなく、純文学的にも面白いので、ぜひおすすめしたいです。
代表取締役社長 村田 茂 プロフィール
1990年、株式会社CBS・ソニー出版入社。音楽誌、コミック、単行本などの編集を経て、『デジモノステーション』を創刊、編集長となる。2007年に株式会社ソニー・マガジンズの代表取締役に就任。その後、統合先である株式会社エムオン・エンタテインメントの代表取締役を経て、株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント デジタルコンテンツ本部の本部長に就任(現職)。2016年に株式会社ブックリスタの取締役に。2020年4月1日より、同社の代表取締役社長に就任し、現在に至る。