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インタビュー

「事業を伸ばすエンジニア」は何を考えている?~創業5年で30億企業を育てたCTOに聞いてみた~

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株式会社Red Frasco

生成AIが急速に普及する今、「エンジニアの価値とは何か」という問いが、改めて私たちの前に立ちはだかっています。コードを書くだけであれば、AIがますます得意になっていく。では、人間のエンジニアにしかできないこととは何なのか──。

その一つの解が、「事業成長にコミットするエンジニア」という在り方です。"不動産業界のインフラになる"をミッションに掲げる株式会社Red Frascoの共同創業者であり、CTOを務める吉田拓真さんは、前職時代から一貫して、技術の美しさよりも「事業が伸びるかどうか」を第一に考えてきました。その結果、Red Frascoは創業からわずか5年で約30億円の売上高を誇る企業へと成長。名目GDP約66兆円という超巨大な不動産市場で確かな手応えを掴んでいます。

吉田さんが歩んできた道のり、そして「事業を伸ばす」ために何を大切にしてきたのか?その答えを紐解いていきます。

プロフィール

吉田拓真(よしだ たくま)さん

取締役CTO

長野高専専攻科を卒業後、2013年に株式会社リクルートへ新卒入社。不動産ポータルサイト「SUUMO」のフロントエンド開発から開発プロセスの改善まで幅広く手がけ、通期MVP獲得。2019年、不動産業界のDXを推進するため株式会社Red Frascoを共同創業し、CTOに就任。「事業を伸ばすエンジニア」として、大東建託グループをはじめとする大手企業の事業成長を技術で支えている。

理想と現実のギャップから学んだ、事業貢献の本質

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── 吉田さんがエンジニアを志されたきっかけを教えてください

吉田:中学生の頃、プログラミングに出会ったのがきっかけです。自分の手で動くものをつくることが楽しくて、高専に進学しました。そこでプログラミングコンテストのリーダーを経験し、「自分は他のエンジニアよりもチームで何かをつくり上げることに向いているのかも」と気づきました。

高専5年生の頃に参加したリクルートのインターンでは、偶然配属された「SUUMO」の部署で優秀な学生たちと一緒にプロジェクトを経験。「世の中には、こんなにすごい人たちがいるんだ」と衝撃を受け、自分にない視点や考え方を持った人たちと一緒に働きたいと、新卒入社を決めました。

── 実際に働き始めてからは、いかがでしたか

吉田:正直、最初はかなり戸惑いました。高専では“正しいシステム”をつくるプロセス論などを学んでいたため、価値を生み出しているよいシステムは、「正しくつくられ、正しく動いている」と思い込んでいたんです。ところが、実際のビジネスの現場でつくられているものはすべてがそうではありませんでした。

たとえば当時の私の考える“いいシステム”は人の手を煩わせないものでしたが、実際の現場はむしろ人の関与を織り込んで成立していました。システムに改善できる箇所が多く残っているのに、一方で、サービスはすごく成長していて、売上げも上がっているギャップにとても驚きました。

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── 理想と現実のギャップに直面したんですね

吉田:「いいシステムって何なんだろう」と、すごく悩みました。大規模なサービスには、多様な役割の人が関わっていて、目標や思惑が折り重なり、それぞれが最善を尽くした結果、必然的にシステムが複雑になっていくことを目の当たりにして、理想を実現することの難しさを実感しました。

このことから、いいシステムをつくったり、事業を進めていくということは、限られた資源と各種制約の元で、価値(ユーザー・収益など)の最大化を行う、一種の最適化問題を解くことに近いのかなと理解しました。“システムを正しくつくること”は、ビジネスにおいては一側面であり、万能の解ではないんだなと。

同時に、早くリリースして“世の中に価値を問う姿勢”もすごく大事なんだと気付かされました。ユーザーがたくさん使ってくれると、売上げや利益につながります。スピードと完璧な設計や美しいコードを両立させる難しさに対峙し、とても悩みました。

先輩に「お前が悩んでいる間も、給料を払っているんだぞ」と言われたことがあります。“正しいシステムをつくる”、“キレイなコードを書く”などよりも、組織の中で働く上でやるべき事がある。事業が求めることとエンジニアとしての自分のやるべき事のギャップに葛藤しました。

最終的には、時間をかけて考えぬくことは大事だけれど、考えを価値に変える速度も大事で、まず事業を前に進め、そのうえで自分たちの技術を使って課題やボトルネックを解決していく──「事業貢献が第一であり、技術はそのための手段である」という、答えに落ち着きました。

── 葛藤を乗り越え、入社2〜3年目で大きな成果を出されています

吉田:SUUMOのスマホサイトの刷新プロジェクトを一部任せてもらいました。UI/UXの改善を繰り返し、A/Bテストを回しながらCVRを上げていったんです。サイト内でのCVRが上がれば事業全体の収益性が大きく改善されます。恐らく、少なくないインパクトを生めたのではないかと思います。リクルートは若手にもチャンスをくれる会社で、その経験があったからこそ、改めて「事業貢献とは何か」を体感し、自分自身の価値観の形成に影響したと思います。

── その他、価値観形成に影響を与えた印象的な経験はありますか

吉田: 実は、私にとっていちばん濃い経験は“保守”と“クローズ”です。昔につくられ、十分なメンテナンスがされないまま収益を生まなくなったサービスを、私がシステム担当として閉じる——そんな案件を多く任せてもらいました。新規で立ち上げた件数より、結果的にクローズに立ち会った件数の方が多いかもしれません。

この経験から学んだのは、どれだけコードが美しく、アーキテクチャが優れていても、事業がうまくいかなければサービスは終わるという当たり前の事実です。エンジニアとしての自分の価値観はここで大きく変わりました。大事なのは「いかに正しくつくるか」だけではなく、いかに“死なないように”つくるか。すなわち、サービスとして継続的に価値を提供し、その対価としてきちんとお金をいただける状態を維持することを第一義に置く——今の私の基準は、この現場から生まれたものです。

課題の宝庫「不動産業界」の面白さ

── 2019年12月にRed Frascoを共同創業されています。なぜまた不動産業界を選ばれたのでしょうか

吉田:一つは、課題が山積みだからです。不動産業界は正直、全然スマートじゃありません。FAXが現役で使われていたり、業務の多くが手作業だったりしますが、だからこそ技術の活かしどころがたくさんあります。私は課題を解決するのが好きなタイプで、不動産業界はやればやるほど課題が見えてきて、「こうすれば解決できるのに」ということが無限に見つかるんです。取り組めば確実に改善できる手応えがあり、とても面白い領域と思っています。

それに、不動産は“衣食住”の一つで、基本的人権に関わる重要な領域です。人生の中で最も大きな金額的ウエイトを占める意思決定の一つでもあり、住む場所の選択は生活の質に直結します。たとえば日当たりが悪ければ気分は沈みがちになり、逆に自分に合う物件に出会えれば暮らしは豊かになる。より良い住環境への選択肢を増やし、よいマッチングを増やすことには社会的な意義があると強く思っています。

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── 一方で、不動産業界は構造的にレガシーな部分が残り変革が難しい業界でもありますよね

吉田:最近はAIの進化が著しいですが、AIでも不動産業界を簡単に変えることはできないと思います。たとえば、不動産には物件を一意に識別する「ID」がそもそも存在しません。住所はありますが、それも実は曖昧で、同じ建物でも表記が複数存在することがあります。そのため、不動産のデータベースをつくろうとしても、“どの物件を指しているのか”を特定することすら難しいんです。

加えて、不動産取引にはプライバシーの配慮なども必要です。自分の購入価格が誰でも見られるとなると、多くの人が抵抗を感じるはずです。一方で、AIが機能するためにはこうしたさまざまなデータを学習する必要があります。こうした構造的な矛盾があって、これは一企業では解決できません。だからこそ、きれいなデータ入稿の仕組みを整えることや匿名化の工夫など、自分たちにできるところから少しずつ変えていく。その積み重ねこそが、私たちの挑戦です。

一気通貫で成長に向き合う、スペシャリストの矜持

── Red Frascoは、どのような事業を展開しているのでしょうか

吉田:一言でいえば、不動産領域に特化した、集客から開発までをトータルで支援する会社です。通常、Webサイトを一つ運用しようとすると、広告代理店、開発会社、SEOのコンサル会社など複数の会社が関わることは少なくないと思いますが、それだと本来やりたかったことがなかなか実現できません。各社がそれぞれの立場で動くため、全体最適、つまり、限られた資源や制約の中で価値を最大化する”最適化問題”として解きづらくなります。私たちは、それを全部まとめて引き受けて、“事業を伸ばすこと”に愚直にコミットします。これが、Red Frascoの強みです。

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現状は、たとえば大東建託グループ様の「いい部屋ネット」さんとご一緒しており、ほかにも賃貸領域以外のトッププレーヤーの会社様ともお付き合いさせていただいております。

── 開発を手掛ける企業はたくさんあります。大手プレイヤーが、なぜRed Frascoをパートナーに選ぶのでしょうか

吉田:私たちが選ばれる理由は大きく二つあると思います。

一つは、私たちが不動産領域のスペシャリストであることです。賃貸・売買などの業務フローや、各物件データの扱い、集客から成約までのファネルまで踏み込んで理解し、各クライアント様のビジネスにも本気で向き合います。時にクライアント様以上に詳しいと自負できるレベルまで把握したうえで、ご提案します。

もう一つは、単なる受託開発ではなく、こちらから事業成長に必要なことはすべて積極的に提案していくスタイルです。一般的な受託開発だと「こういうサイトをつくってください」と言われて「はい、やります」で終わりがちな一方で、私たちは必要に応じてKGI/KPIの設計、目標数値や検証計画、課題・解決方法を示し、事業の成長にコミットする形でクライアント様に伴走します。

私たちはクライアント様の事業が伸びなかったら存在価値はないと考えているため、「サイトをつくりました」「集客しました」で終わらせず、「しっかり利益が出ましたか?」まで責任を持つ。そうした姿勢が、選んでいただいている理由だと考えています。

事業貢献のためなら、戦略提案も泥臭い作業も厭わない

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── 創業から5年で売上が30億円規模まで成長されました。急成長の要因はどこにあるのですか

吉田:売上目標を追わず、目の前のクライアント様の事業成長に徹底的にコミットしつづけたことだと考えています。創業直後は代表とデータ担当(CDO)と私の3人だけで、一人が複数の役割を担わざるを得ませんでした。エンジニアだからと線引きせず、専門外であっても Web デザインの意思決定、SEO、広告運用、計測設計など、事業を伸ばすために必要なことはすべてやりました。

その結果、事業の改善ループが回り始めました。すなわち、“サイトを改善する → より効率的に大きな広告費を投下できる → データが蓄積して意思決定の質が上がる → さらにサイトが改善する”という循環です。同時に、人の改善ループも回りました。“1人の多能工化が進む → 協業が加速する → 改善の速度が上がる”という流れです。

この二つのループが重なり合うことで、クライアント様の事業の成長にコミットができ、より信頼いただき、結果として賃貸領域以外の領域のクライアント様にも規模が広がっていきました。

こうした正の循環を愚直に積み重ねた結果として、気づけば売上は30億円規模に到達していた、というのが実感です。自分たちの売上げ規模はあくまでクライアント様からのご期待なので、売上を上げるのではなく、今までと変わらず期待に応え続けることを愚直にやっていこうと考えています。

── 本当に一気通貫で支援を行うんですね。ほかに、Red Frascoならではの施策はありますか

吉田:いい部屋ネットの開発の話になるのですが、このサイトをより伸ばしていくためには、物件数を増やす必要性があるのではという議論になったとき、私たちは物件数の増やし方を大東建託様になったつもりでご一緒に検討・議論に参加させていただきました。

このとき、最終的にフランチャイズ展開という解へたどり着き、今では180店舗以上まで増え、物件数も大幅に伸びました。ここでポイントなのは、事業成長に必要なことであれば、エンジニアリングといった守備範囲にかかわらず考え、提案し、実行まで伴走する——そのスタイルだったからこそ、今回のような協業が実現できたのではないかと考えています。自分たちのできることを狭く定義しない。事業成長に必要なことなら何でもやる。 それが Red Frasco ならではのスタイルかなと思います。

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「いい部屋ネット」の物件周辺環境を検索する機能。こうした直接CVRに影響しない「おもてなし機能」にも力を入れています。

同時に、数字に直結する改善だけをやることに固執はしておりません。実際にいい部屋ネットを使うユーザー様の体験、我々の言葉だとおもてなし機能なども大事にしています。たとえばいい部屋ネットには物件の周辺環境の地図機能があり、スーパー、コンビニ、病院などが半径数百メートル以内にどれだけあるかを競合サイト様より詳しく表示できるんです。正直、この機能があるからといってCVRがあがって反響が増えるわけではありませんが、住む場所を選ぶという人生の大きな意思決定において、この情報があるとないとではその後の生活が変わると考えています。

数字に直結する改善だけをやっていると、どうしてもサイトが無機質・キメラ的な存在になってしまいますが、私たちはユーザー様が賃貸を借りたあとの生活も大事にしたい。数字と体験のバランスを取ることが、長期的なユーザー様の信頼につながると信じています。

AIに代替できない仕事がRed Frascoにはある

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── 今までの吉田さんのお話を聞いて、それは「自分の仕事じゃない」と思うエンジニアの方もいるかもしれません

吉田: エンジニアの守備範囲って何だろう、という話です。もし境界線を引くなら、“私の仕事かどうか”ではなく“事業の成長に効くかどうか”です。極端にいえば、事業を伸ばすために必要なら、泥臭い作業(トイル)をやり続けるでもいいかなと。

それに、最近はAIの性能が大きく上がり、従来のやり方だけでは通用しない場面が増えています。ただ一つ言えるのは、AIは“言う”ことはできても“動かない”ということ。関係者と対話し、意図をすり合わせ、優先順位を決め、実装して結果を出す――事業の成長にコミットしてやり切るところは、今も人間の役割です。だからこそ、これからのエンジニアに必要なのは、AIより深く事業にコミットする姿勢だと考えています。そこに、人間のエンジニアとしての価値があると思います。

── 不動産というITだけで解決しないビジネスのおもしろさですね。とはいえ、Red Frascoはエンジニアが15名程度の少数精鋭のチームです。なぜ、このような大規模プロジェクトを担えているのですか

吉田:少数精鋭で担えているのは、人数が少ないからこそ、自分たちが多能工になる(=Canを増やす)しかなかったということと、人以外の部分でプロジェクトを回す仕組みを洗練するしかなかった。一気通貫の体制で分業のオーバーヘッドを抑え、事業の成長に直結する部分へ資源を集中させる。さらに、小さな改善を高速に積み上げ続けて成果に確実にコミットする、こうした工夫を迫られたからこそ、仕組み化も進み、結果的に少人数でも大規模案件を担えるようになったのかなと思います。

── Red Frascoには、どのような方が向いていると思いますか

吉田:やはり“自分の仕事が事業成長に貢献することを実感したい人”と働けたらいいなと思っています。専門的な技術を活かしたいギークな方も歓迎していますが、「なぜこの技術が必要なのか」「その技術を使って誰に、どんな価値を届けるのか」まで想像できる人と仕事ができたら嬉しいです。

よく“Will / Can / Must”という枠組が語られますが、私たちはその中でもあえてCan を重視しています。なぜなら、事業を伸ばすうえでは、“やりたいこと(Will)”よりも“今、提供できること(Can)”が成果に直結するからです。クライアント様に期待されている以上、私たちは成果を出さなければなりません。「やりたいことをやらせてください」だけでは成立しないんです。

── かなり明確ですね

吉田:はい、本当に共感してくれる人と一緒に働きたいですね。私たちは不動産業界という、まだまだ変革の余地が大きい領域で戦っています。AIでも簡単には解決できない構造的な課題に真正面から向き合っている。その挑戦に面白さを感じてくれる方がいたら、ぜひ仲間になってほしいです。

── これからのRed Frascoでは、どんな挑戦ができますか

吉田:“技術なしの改革は存在し得ない”これが私の信念です。泥臭く仕事を続け、信頼を積み重ねていくと、クライアント様から新しい大きなチャレンジも任せてもらえるようになります。そこでは絶対に高度なエンジニアリングの知識や技術が必要になります。

事業貢献の姿勢と技術力は両輪です。“何でもやること”と“技術を極めること”は矛盾しません。むしろ、事業の本質を理解するからこそ、どこでどんな技術を使うのかが見えるのだと信じています。

今はまだ全社で30人程度の小さな組織ですが、だからこそ一人ひとりの影響力が大きく、自分の手で事業を、業界を、少しずつですが変えていける実感があります。衣食住の「住」という、人の人生に直結する領域で、本質的な課題解決に取り組める。そんな環境で、一緒に未来をつくっていけたら嬉しいです。