「やりたいこと」を「できる」に変える。さくらインターネットが目指すのは、日本を代表するデジタルインフラ企業
さくらインターネットは、生成AI向けクラウドサービス「高火力」の第一弾として、ベアメタルシリーズ「高火力 PHY(ファイ)」の提供を2024年1月31日よりスタートしました。このサービス及び事業をリードしているのは、副社長兼執行役員の舘野正明さんです。
「生成AI向けのクラウドサービスには社会的意義がある」と話す舘野さん。その発言の背景にあるものは何なのか。また、前職では食品メーカーに勤務していた舘野さんが、さくらインターネットに転職することになったユニークな経緯についてもお伺いしました。
■プロフィール
さくらインターネット株式会社 副社長 兼 執行役員
舘野 正明(インタビュイー)
茨城県出身。金沢大学経済学部卒業後、味の素株式会社に入社し、国内食品事業を中心に営業を10年経験。2002年にさくらインターネットに入社し、2004年に執行役員に就任。以降、ほぼすべての事業・サービスに企画担当・事業責任者として関わる。2008年に副社長就任。現在、経営戦略やマーケティングなどを管掌。ゲヒルン株式会社取締役兼任。
ファインディ株式会社 取締役 CTO
佐藤 将高(インタビュアー)
東京大学 情報理工学系研究科 創造情報学専攻(※)卒業後、グリーに入社し、フルスタックエンジニアとして勤務する。2016年6月にファインディ立上げに伴い取締役CTO就任。2024年7月に一般社団法人 日本CTO協会の幹事に就任。
(※)大学院では、稲葉真理研究室に所属。過去10年分の論文に対し、論文間の類似度を自然言語処理やデータマイニングにより、内容の解析を定量的・定性的に行うことで算出する論文を執筆。
食品メーカーからの異色の転職は、ゲームがきっかけ
──はじめにご経歴について教えてください。
舘野:私は大学卒業後、味の素で営業職に就いていました。ずっと国内食品事業に携わっていたのですが、ふとしたご縁でさくらインターネットに転職することとなり、現在に至ります。
──どのようなご縁があったのでしょうか?
舘野:ゲームつながりですね。私はもともと某ゲームのプレイヤーとして情報サイトも運営していて、活動を通して別のサイトを運営していた方(以下、Aさん)と親しくしていました。
当時は福岡で勤務していて、出張で東京に行く機会があった際に「Aさんに会いたいな」と思い、声をかけたところ、他のプレイヤーも集めて数人で会おうという話になって。秋葉原にある喫茶店でオフ会することになったんです。オフ会に集まったのは、私とAさんと同じゲームのプレイヤーだった二人。その二人は、現在さくらインターネット研究所の所長をしている鷲北と元取締役の林でした。
──ゲームがきっかけで、さくらインターネットの人と知り合ったと。
舘野:ええ。オフ会はとても盛り上がって、二人からMMORPG(オンラインゲーム)を教えてもらい、福岡に帰ってからすぐに購入しました。そこから鷲北や林のゲーム仲間とプレイするうちに、あるプレイヤーと仲良くなり、それが元CEOの笹田だったんです。
彼と一緒に夜な夜なドラゴンを倒しに行くようになり、オフ会も頻繁に開催していました。よく飲みに行くほど仲良くなったある日、笹田から「会社を大きくするために、営業を増やしたい。舘野は営業をしていたよな?」と聞かれたんです。私は食品メーカーの営業で、全くの畑違いだったため「食品会社の営業だぞ?」と返したら「舘野はゲーム用にPCを自作してるし大丈夫だよ」と謎の太鼓判を押されて。「笹田がそう言うなら、行ってみるか」と転職を決意しました(笑)。
──珍しい経緯で転職されたのですね(笑)。転職後はどのような仕事をされていたのですか?
舘野:営業としてさくらインターネットに転職したのが2002年で、2年後の2004年に執行役員営業部長となりました。当時は社長が営業部長を兼任していたため、上場準備中のガバナンス的な問題を解決するための抜擢だったのでしょう。
執行役員営業部長となった時、社内には営業部、技術運用部、カスタマーセンター、管理部しかなく、営業は企画・マーケティングなども含めて技術系以外の仕事を全て請け負う部門だったため、本当にいろいろな仕事を担当していました。
──2004年といえば「さくらのレンタルサーバ」がリリースされた記念すべき年でもありますよね。
舘野:そうですね。歴史に例えると、さくらインターネットの現代史が始まった年だとも言えます。
営業部は「さくらのレンタルサーバ」の企画・PJT管理を担当していて、部下の一人が企画を担当し、私は企画部門の責任者として関わっていました。その後も「さくらの専用サーバ」や「さくらのVPS」など、デジタルインフラ系のビジネスに関わってきていて、現在は生成AI向けのクラウドサービス「高火力」の事業にも携わっています。
GPUベアメタルサーバー「高火力 PHY」とは
──2024年1月から「高火力」の第一弾としてベアメタルシリーズ「高火力 PHY(ファイ)」の提供を開始されていますね。「高火力 PHY」とはどのようなサービスなのでしょうか?
舘野:AIやディープラーニングに最適なGPUサーバー「高火力コンピューティング」のラインアップの一つで、高性能なGPUを専用サーバー形式/ベアメタル形式で提供するサービスです。「NVIDIA H100 Tensor コア GPU」をサーバー1台当たり8基搭載しており、LLMや生成AIなどのトレーニング、データセットの解析など、あらゆる分野で高いパフォーマンスを発揮します。なお、初期費用はなく月額料金だけでご利用いただけます。
──生成AI向けのクラウドサービスがいろいろある中で、開発を決意された経緯が気になります。
舘野:マスターブランドである「高火力コンピューティング」ができた経緯からお話しすると、2012年ごろからディープラーニングが話題となり、GPUを画像処理以外に使うGPGPUにも注目が集まっていました。最近では画像処理以外でもGPUを使うことが当たり前になっていますが、当時は新しい技術の一つだったんです。
代表の田中とも「GPUに関するサービスを開発したい」という話をよくしていて、ハードウェアなどの低レイヤに関する造詣が深いメンバーがジョインしてくれたことをきっかけに「高火力コンピューティング」を立ち上げました。その後、「NVIDIA V100」という当時の最新GPUを搭載したモデルや、情報通信研究機構のGPUコンピューティング基盤の提供などを通して、GPUやスーパーコンピュータに関する技術的・事業的な知見を得ることができました。
そんな中で、2022年に誕生したのがChatGPTです。爆発的な生成AIブームが到来し、世界中でGPU争奪戦が始まったと言われていますよね。そこで、さくらインターネットは過去の事業を通して生成AI向けのサービスを提供できる条件が揃っていたこともあり、「高火力」シリーズの開発に着手することになったのです。現状では、生成AI向けの計算資源ニーズはLLMに代表される大規模なトレーニングが主たるものであるため、まずは大規模トレーニング向けに「高火力 PHY」の提供からスタートしました。
──「高火力 PHY」の活用事例があればお教えいただきたいです。
舘野:AI技術を活用したさまざまなソリューション・製品を展開している株式会社Preferred Networks様にて、生成AI向けの機械学習クラスタの構築に「高火力 PHY」をご活用いただいています。
──「高火力」の事業に携わっている人数はどれくらいいるのでしょうか。
舘野:現在は60~70名ほどの社員が関わっています。(※2024年7月時点)半分以上がエンジニアで、そのほかに企画職やプロジェクト管理、PMO、営業など、さまざまな職種のメンバーが事業に携わっています。
「デジタル敗戦」からの脱却をサポートする社会的意義のある事業
──生成AI向けのクラウドサービスや「高火力 PHY」におけるやりがいはなんだと思いますか?
舘野:マクロとミクロ、両方の視点があると思います。前者でいうと、日本社会や産業のデジタル化を支えるインフラ基盤を提供すると同時に、生成AIという画期的なテクノロジーに真正面から取り組む事業であるというのは大きいなと。社会的意義のある事業であり、非常にやりがいを感じられます。
後者でいうと、自分が携わっているものに対するフィードバックがSNSなどで可視化されているため、世の中へのインパクトを実感できます。また、ガバメントクラウドに条件付き認定されたことで、多くの社員が「周囲から『ニュースを見たよ』と声をかけてもらえるようになってうれしい」と話していました。
──マクロ視点での「社会的意義のある事業」であるという点について、詳しくお伺いしたいです。
舘野:時代の画期となりうるテクノロジーに対して国がどのようにアプローチしていくかによって、その後の国としての成長や隆盛が決まります。日本は内燃機関では自動車産業などが生まれ、半導体も工程や種類によってはかなりのシェアをもっていますが、インターネット領域では外資系企業にプラットフォームを握られているのも事実です。
デジタル敗戦を繰り返さないためには、生成AIの開発が鍵となるはず。生成AIは、かつての内燃機関や半導体、インターネットといったもの以上のインパクトを世界に与える可能性を秘めています。生成AIの開発を支えるべく、日本の社会や産業が必要としている計算能力を提供することは、大きな意義があると言えるのではないでしょうか。
──開発を通して、日本の発展に貢献できると。反対に、生成AI向けのクラウドサービスならではの課題、難しさはどのようなところだと思いますか?
舘野:体制づくりは難しいところだと思います。
生成AIを取り巻く状況は日々変わっているため、最新情報をキャッチアップするのは非常に大変なんです。とはいえ、生成AIの状況によって国や市場のニーズも変わっていきますし、スピード感を持って情報をキャッチアップしなくてはいけません。圧倒的なスピード感に対応しながら開発を進めるには、どのように体制を整えるべきなのか考える必要がありますね。
──現在はどのように対応されているのですか?
舘野:人を異動させるといった正式な組織化には時間がかかるため、まずはプロジェクト型組織として、既存組織に籍を置いたままバーチャル組織を作成しました。エースクラスの人材を中心にバーチャル組織に参加してもらいつつ、経験者のキャリア採用も同時進行で進めています。
日本を代表するデジタルインフラ企業に向かって、事業拡大を目指す
──今後の展開について、可能な範囲でお話いただけますか。
舘野:「高火力」でいうと、開発済みのLLMのファインチューニングやインファレンス(推論)など、用途が拡大していくことでユーザーの裾野も広がっていくはずです。市場やユースケースの変化に応じて、機能の拡張や新サービスをタイムリーに提供していきたいと考えています。
──ありがとうございます。会社として掲げられている目標についてもお聞きしたいです。
舘野:日本を代表するデジタルインフラ企業となることを目指しています。デジタル前提の社会づくりに貢献し、社会に必要不可欠な存在になりたいと考えています。直近では、ガバメントクラウドの正式認定を目指すとともに、生成AI向けのクラウドサービスに注力していく予定です。市場のフロントライナーになり得るサービスだと自負していますし、日本の社会産業にインパクトを出していきたいですね。
我々がより良いサービスを提供することで各産業が成長し、日本全体を元気にできるような、「日本にさくらインターネットがあってよかった」と思ってもらえる会社になることを目指しています。
──最後に、読者へ向けてメッセージをお願いします。
舘野:さくらインターネットは「『やりたいこと』を『できる』に変える」をビジョンに掲げています。インターネットで熱量を持って挑戦する全ての人をサポートするべく、さくらインターネットのお客様やパートナーはもちろん、デジタル化に取り組む日本企業や社会産業というような、さくらインターネットに関わるすべてのステークホルダーの「やりたいこと」を「できる」に変えたいと考えています。そのビジョンを実現するため、日本を代表するデジタルインフラ企業になるためには、エンジニアの存在が必要不可欠です。
また、さくらインターネットでは技術的な興味を追求することが会社としてのアウトプットにつながりますし、技術が好きな”生粋のエンジニア”がたくさんいます。そういったエンジニアの存在が競争力の源泉であり、さくらインターネットの強みです。ハードウェアなどの低レイヤに関する知見も身につくため、そういった部分に関心のある方にはぴったりの環境だと思います。
さくらインターネットのビジョンに共感して「我こそは!」という方は、ぜひご応募ください!