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インタビュー

2つの方向から”DXの山”を登るー三菱重工業が今進めるデジタル化・内製化の在り方とは

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三菱重工業株式会社

三菱重工業株式会社では、デジタルによってカスタマーエクスペリエンスをより良くしていく、デジタルエクスペリエンスデザインの取り組みが進められています。

今回は、プログラムディレクターの川口賢太郎さんと、データアナリシスチームリーダーの田村さんにインタビューを実施。前回のインタビューからの変化や、コロナによる影響なども踏まえ、現在の三菱重工業が取り組むデジタル化や内製化の状況について、お話を伺っていきます。

三菱重工業株式会社
成長推進室 デジタルエクスペリエンス推進グループ プリンシパルエンジニア
川口 賢太郎

大学・大学院で建築デザインを専攻、三菱重工業入社後は建築デザイナーとしてさいたまスーパーアリーナなどを担当。その後、MBAにてアントレプレナーシップファイナンスを専攻、製品開発・事業開発に担当業務を移行する。現在はプリンシパルエンジニアとしてデジタルエクスペリエンスデザインに取り組んでいる。趣味は忌野清志郎。

三菱重工業株式会社
成長推進室 デジタルエクスペリエンス推進グループ 主席
田村 仁志

大学・大学院で建築デザイン・人間環境工学専攻、三菱重工業入社後は建築コンペティション、設計、現場に従事。2012年より電気自動車関連プロジェクトのマネジャーとしてスペイン現地に3年駐在しIoTやビジネス企画を経験。帰国後、社内製品のデジタル化推進に携り、今年4月よりデジタルエクスペリエンス推進グループにてデータ分析強化チームのリーダを担当している。

■インタビュアー

ファインディ株式会社 代表取締役
山田 裕一朗

同志社大学経済学部卒業後、三菱重工業、ボストン コンサルティング グループを経て2010年、創業期のレアジョブ入社。レアジョブでは執行役員として人事、マーケティング、ブラジル事業、三井物産との資本業務提携等を担当。その後、ファインディ株式会社を創業。また、現在もHRBP(ヒューマンリソースビジネスパートナー)としてレアジョブに関わっている。

社内でのDXに対する意識の変化は?

──前回のインタビューをさせていただいてから半年が経ちました。御社内でDXに対する意識の変化はありますか?

川口:
今のところ、社内でも世の中でも、DXはまだバズワードの域を越えておらず、理解が浸透していないと思っています。

私たちは、DXをものすごくシンプルに理解しています。私たちのお客様、経営者や従業員、パートナーといった方々の不満や願望を、デジタルという手段を使って、既存のサービスを改善したり新たなサービスを開発したりして解決していく、ということです。

15年前なら「この課題をこう解決したい」というアイデアがあっても、それを実現する手段がそもそもなかったり、ものすごく高価だったりして、手段のところがボトルネックになっていました。それが現在では、手段としてさまざまなデジタルを活用できることになったことで、課題をより簡単に解決できるようになりました。

デジタルとはクラウド活用だとほぼほぼ言い換えられるとも考えています。クラウドを活用することで、工数や費用などが削減でき、また技術の取得が容易になりました。それによって、自ら素早く課題解決できる、そして継続的に課題解決できるようになりました。

私たちはDXをこのようにシンプルに捉え、自らがモダンなテクノロジーを活用し、事業課題の解決に継続的に取り組んでいきます。そして今は、そのための体制や人材を強化している段階です。

2つの方向から”DXの山”に登る

──引き続き体制を強化されているとのことですが、改めてどのようなエンジニアを求めているか教えてください。

川口:
ITの投資領域は、すでに解決策があるコモディティ領域と、解決策を生み出すこと自体が競争優位に繋がる競争領域の2つに大きく分かれます。

コモディティ領域というのは、例えばSaaSなどで提供されている既存のシステムを活用して事業課題を解決していく領域。競争領域というのは、IaaSやPaaSを使って独自のシステムを開発していく領域です。そして、システム間の連携が大切な要素になっていくと思っています。

DXの山脈は、コモディティ領域の山と競争領域の山から構成されると考えています。私たちは、コモディティ領域から登るのか、競争領域から登るのか、どちらか一方からしか登らないとは考えていません。両方から登っていこう、と考えています。なので、私たちは、コモディティ領域から入山いただくメンバーも、競争領域から入山いただくメンバーも募っています。

単純すぎる分類かもしれませんが、例えばITベンチャー出身の方であれば左から、SIer出身の方であれば右から、一緒に登って行っていただければと思っています。

それから、前回のインタビューでも挙げさせていただいた、基礎力、ラーニング、アウトプット。この3点は、変わらず一貫して私たちが求めているものになります。

内製化に取り組む部分が、より明確に

──どういった部分を内製化していくべきかについて、よりクリアになられている印象ですが、その辺りはいかがでしょうか。

川口:
私たちの組織は、SoE領域を中心としています。具体的には、お客様とのデジタル上の接点となるカスタマーポータルなどが挙げられます。

もちろんコーポレートサイトはありますが、製品を購入いただいたお客様専用のカスタマーポータルが提供できていない事業部門もまだあります。なので、デジタル上の接点を設けて、その裏側に、お客様からの問い合わせを管理するCRMや、お客様の元にお納めした製品をコネクテッドした上で管理するIoTシステムを構築しています。

この中で、例えばCRMは、すでに世の中にいろいろと良いSaaSが出ていますので、SaaSのシステムインテグレーションを手の内化しながら、活用していきます。一方で、IoTというのは、ビジネスやオペレーション上の課題を、テクノロジー的にどう解決すれば良いのか、まだ明らかになっていない。つまり、研究開発要素が多々あるところです。こういったところは、私たちが自ら開発しています。

私たちが手がける領域の開発を進める中で、SaaSを活用すべきところや、自分たちで開発すべきところというのが、より明確になってきていると思います。

──自社での開発を進めているIoTの領域について、より具体的に教えていただけますか?

川口:
IoTは大きく2つの系統に分けられて、技術的に言えば産業機械系ではサーバーレス化を、産業プラント系ではコンテナ化を図っています。

社内での注目度上昇、カルチャーの変化も

──Findy経由で入社された方を含め、徐々にエンジニアのメンバーが増えていると思います。社内での注目度はいかがですか?

川口:
社内での注目度は上がっています。それは採用によるものだけでなく、いくつかの施策に取り組んでいるためだと思います。

例えば、社内イベントの主催は、その1つです。クラウドベンダーの方を講師としてお招きして、クラウド技術についての勉強会を開催したり、私たちが支援している部門や、自らDXを進めている部門の方々に登壇いただいて、「こんな風にデジタル化を進めています」と事例を紹介していただいたりしています。それによって、「デジタル化って、こういう風に進めればいいんだ」と、他人事でなく自分事として取組方のイメージをもつことにつながっているように思います。

その他には、社内向けのテックブログを立ち上げて発信しています。テックブログでは、人を知ってもらうためのメンバー紹介や、私たちが採用している技術の紹介などをしています。そうした草の根的な活動もあって、認知度が上がっているのではないかなと思います。

──Web系やスタートアップ出身の方なども入られて、社内の雰囲気やカルチャーに変化が出てきた部分はありますか?

川口:
そうですね。私たちの部門内でのインパクトと、私たちの部門を超えたインパクトの両方が、すでに出ていると感じます。

例えば、私たちはアジャイル開発をしていくと言っても、なかなか精神論を超えておらず、例えばスクラム開発のプロセスを導入できていたわけではありませんでした。しかし、新しくジョインいただいたメンバーの方々がリードする形でプロセスを回し始め、ナレッジやスキルが溜まってきました。

その結果として、実際にプロダクトのプロト開発が進み、事業部門への提案に至ったり、といった風に変わってきました。

──ベンチャー的な文化が、御社に持ち込まれつつあるということでしょうか。

川口:
はい、その通りです。

コロナの影響下で、変化したことは?

──昨今ではwithコロナの時代となる中で、デジタルへの投資を加速していく動きもありますか?

川口:
コロナの影響でデジタル投資を、とはなっていません。けれども、コロナ以前からデジタル投資を開始していましたので、着々と進めているといった状況です。

──以前のインタビューでは、非常にモダンな開発環境に驚いたのですが、最近はリモートワークが基本になっているのでしょうか?

川口:
はい。3月の初めからリモートワーク主体に切り替えていまして、以前と変わらないプロダクトビリティで運営ができています。

もともと私たちの組織では、Slackをはじめとしたコミュニケーションツールを導入していることもあり、リモートワークになっても支障がないどころか、むしろコミュニケーションの頻度が多くなったという声も挙がっています。

withコロナ時代=withマスク時代ですから、オンラインの方が表情が見えてコミュニケーションしやすい面もあります。ただ、オンラインだけでなくリアルの場も用意していて、例えばデザインシンキングのトレーニングなどで、一同に会する機会を設けています。

実際に現場へ足を運ぶ、工場への出張も

──しばらくはコロナの影響があったかと思いますが、IoT系の現場に行くような出張も徐々に始まっていますか?

川口:
はい。IoT化する機械を作っている工場への出張も始まっています。

──工場に行くというのは、多くの方にとってすごく新鮮な体験ですよね。

田村:
そうですね。初めてそういう場に来られる方も多かったので、少年のような目で見ていただきました(笑)。今まで写真や数字でしか見たことがなかったものが、「こうなっているんだ」と。

機械のメカニカルな部分に感動してもらえると同時に、PLCと言われる機械を制御する、そしてデータを取得する大元になる装置があるんですが、「データってここからやってくるんだ」とか、そういった部分は非常に関心をもってもらいました。

──逆に、工場にいる側の方々はどういった反応をされていましたか?

田村:
新しく入社頂いた方々に自己紹介をしてもらったのですが、皆さんが経験されてきたものが三菱重工にはないもので、「インターネット上では見たり聞いたことのあるアプリとか」と、工場側の皆さんもとても関心を示していました。そういう人たちが三菱重工に来てくれたんだと感動していましたね(笑)。

──IoTのシステムとしては、どんなデータをどのように取っているのでしょうか?

田村:
お客様がどんなものを作っていて、どんな速さで生産していて、どんな時に停止しているのか。そういったものを、全てデータとして取ることができます。データを取る方法として、センサーやカメラを主に使っています。

時系列データといわれるもので、秒単位でとっているものが多いのですが、センサーから取得した値が時間や状況とともにどう変化していくのかに注目して分析しております。

川口:
今までは、お客様の元にお納めした機械を、お客様がどんな風に活用いただいているのかが、私たちメーカーにはよくわからなかったんです。生産設備ですから、お客様が機械の稼働率を上げたいことは理解しているのですが、どういった部分の稼働率が低く、どんな改善をすべきなのかを把握する術がありませんでした。

それがIoTシステムによって、どの部分の稼働率が低かったのか、その時に機械はどんな状況だったのかといったデータが取れるようになりました。そして、それを元にどうすれば稼働率を上げられるのか、といったインサイトを導き出すためのデータ分析に入っていきます。ここを担っているのが田村です。

技術者だからこそ経営者になっていく

──田村さんのこれまでのキャリアを教えていただけますか?

田村:
私も川口と同じく、建築のデザインからキャリアをスタートしております。それを10年ほどやっていて、建設現場にも2~3年行ったりしていました。その後、海外のMBA留学に行っています。

それが終わってからは、スペイン政府と日本政府の国際プロジェクトで、電気自動車を普及させるプロジェクトに携わっていました。当時はM2Mと呼ばれていたのですが、電気自動車から取れるデータを分析して、いかにビジネスに繋げるかという取り組みで、スペインの現地で足掛け4年ほどプロジェクトマネージャーをしていました。

そのプロジェクトが完了した後は、デジタルのプロジェクトをいくつか立ち上げて、それを統括するような仕事をやっておりました。今年4月からは、データ分析を強化すべく、そのチームをリーダーをしています。

──これまでのご経験を、現在の業務にどのように活かされているか教えてください。

田村:
組織の目的はビジネスをいかに良くしていくかにあり、そのための手段としてデータ分析があります。なので、課題をうまく解くだけでなく、課題を適切に定義する、つまり”何のために分析するのか”という部分を非常に大切にしています。課題の設定に、これまでの経験が役立っていると思います。

現在の業務は、分析作業だけでなく、自社やお客様の課題に対してデータ分析で何ができるのかや、データ分析をソリューションにどう結びつけるのか、といった上流部分も、事業部門と一緒に考えていきます。

このように何を分析していくべきかを一緒に考えて提案していくところが、私たちのチームの最大の提供価値でもあると思っています。

──まさにそういう部分に興味を持つ方に、ジョインしていただきたいということですね。

田村:
はい。技術をお持ちで、エンジニアとしての仕事からもう1ステップ、ビジネスにも関与していきたいという方に、ぜひ来ていただきたいと思っています。環境としても、事業部やお客様との会話が常にできるようにしております。

川口:
三菱重工業では、技術者だからといって経営にタッチしないということはありません。むしろ、技術者だからこそ経営者になっていくという意識が高いかもしれません。技術と経営の革新は社是にもなっています。

実際に、私たちはテクノロジー系のトレーニングだけでなく、ビジネスモデルプランニングやデザインシンキングなど、さまざまなビジネス系のトレーニングプログラムを設けて、基本的に全員が参加しています。

ーー川口さん、田村さん、本日はありがとうございました。