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モンハン・スト6の舞台裏:大規模オンラインを支えるサーバー技術 × 開発を進化させるAIワークフロー

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ファインディ編集部

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技術でオンラインを支え、AIで開発者を徹底サポート!それを支える異業種の知見

2026年3月25日に開催されたオンラインイベント「モンハン・スト6の舞台裏:大規模オンラインを支えるサーバー技術 × 開発を進化させるAIワークフロー」。

本イベントでは、株式会社カプコンの『モンスターハンターワイルズ 』や『ストリートファイター6』を支える技術を題材に、AIワークフローと大規模オンライン基盤の意思決定の裏側を解説。ソリューションエンジニアの高本真宏氏がAIパート、シニアマネージャーの西谷宜記氏がネットワークパートをそれぞれ語りました。

既に様々なシステムにAIを活用しているカプコン。しかし、AIモデルを実運用するには堅牢な基盤が必要であり、Web系企業やSIerでの知見が同社の取り組みを支えています。異業種出身エンジニアの割合は増加傾向にあり、AIとデータで開発とQAを進化させる内製開発基盤を担う「ソリューション開発室」で約26%、100万人規模のプレイヤーをつなぐ通信・インフラ基盤を担う「ネットワーク開発室」で約32%を占めています(2025年度時点)。

本記事では、イベントで語られた内容を基に、具体的な事例と技術的な仕組みを解説するとともに、ゲーム開発の現場におけるAIやWeb技術の活用、異業種出身のエンジニアが活躍している背景を紹介します。

AIは開発者の創造性を最大限発揮させる補助役。導入の背景

カプコンがAI活用を推進する背景には、「AAAタイトル」と呼ばれる大作ゲームにおいて、開発の規模や品質への要求が一層高まっていることがある。

高本氏は「従来の人海戦術や手動でのワークフローでは、品質と納期の維持が限界に達しつつある。そのため、AIを個別業務の効率化だけでなく、開発フローに組み込み、開発のやり方自体を変える必要がある」と述べる。

同社は、AIを生成ではなく「クリエイティブの拡張」として捉えている。AIが反復的なタスクを担うことで、人間は面白さの追求や品質向上に集中する。高本氏は「『人の手でしかつくれない体験』を最大化するための武器として、AIをワークフローに組み込んでいる」と語る。

クリエイティブを拡張するためのAI活用

代表的な事例には、以下の3つがある。

統合的なAI活用による次世代オートプレイ(QA自動化)

物体検出や画像分類などのAI技術を用いて、人間と同様に画面から状況を読み取り、判断しながらオートプレイを行うシステム。従来のデバッグ用オートプレイ機能はあくまでデバッグ用途に限られており、最終的な製品版のチェックは人が行う必要があったが、本システムによってその工程の自動化が可能となった。

本システムは、物体検出や音響データ認識、ルールベース処理などを組み合わせた統合的なAI活用によって構築されている。

Deep Learningを活用した自動地形コリジョンテスト

ボットがフィールド上を巡回し、その様子を動画として記録。取得した映像を基に、AIによる画像分類を用いて、地形への埋まりや浮きといった不具合を自動判定する。従来は人間が目視で確認していた作業を自動化し、検証効率の向上を実現している。

MMLLM(マルチモーダルLLM)による開発文書インテリジェント・サーチ

ゲーム開発における企画書など多様な開発文書を対象に、チャットによる自然言語の問い合わせから該当文書を検索できるシステム。「AAAタイトル」では文書量が膨大で、フォーマットも多岐にわたり、画像情報も多い。

RAG(Retrieval-Augmented Generation)を用いた構成、MMLLMによるエンベディング、独自に構築したデータベースを組み合わせることで、画像情報も含めた文脈理解に基づく検索が可能となり、効率的な検索を実現している。

上記の取り組みはいずれも、機械学習やデータ処理といった既存技術の延長線上にある技術の組み合わせによって実現されている。

AI活用を支える技術スタック

インフラ面では、学習環境や推論基盤としてGoogle CloudやAWS、Azureなどのクラウドサービスに加え、要件に応じて社内サーバー上にもKubernetesクラスターを構築し、柔軟な運用を行っている。

データ処理基盤では、AirflowやPrefectなどによるデータパイプラインの構築や、BigQueryなどを用いたデータ管理を行い、大量データの処理・活用を支えている。これらはWebアプリケーションとして提供されており、フロントエンドにはTypeScriptやMaterial UI、バックエンドにはPythonやGoなどが用いられている。

課題起点で進める開発スタイルと技術選定

システム開発は、画一的なプロセスに従うのではなく、課題や要件に応じて柔軟に進められている。開発環境や技術選定も、エンジニアの裁量やボトムアップの提案によって決定されるケースが多いそうだ。

例えば、どのようなAIモデルを用いるのか、OSSをベースにファインチューンするのか、あるいはクラウドサービスで提供されているAPIを利用するのかといった選択が、課題に応じて検討される。

技術選定では、組織内でのノウハウ蓄積を目的とした一定のデファクトスタンダードは存在するものの、それに固執することはなく、要件に応じて最適な技術を提案・採用する方針を採っているという。

大規模かつ不確実な前提で設計されるゲームサーバー

カプコンのゲームサーバーは、Web API、状態管理、リアルタイム処理を組み合わせた構成で動作している。ログインや検索、データ更新といった処理はHTTPベースのWeb APIとして実装される一方で、ロビーのように複数ユーザーが同じ空間にいるような体験では、状態管理やリアルタイム性が重要となる。西谷氏は「Webの技術を土台に、ゲーム体験の要件を足していく」と説明する。

実際の運用では、同時接続数100万人規模、100万RPS(Request Per Second:1秒当たりのリクエスト数)を超えるアクセスが発生するなど、大規模トラフィックへの対応が求められる。加えて、プレイ状況や同時接続数を正確に予測することは難しく、リリース前に完全な負荷が読めないことが特徴だ。短時間でのアクセス集中も想定される。こうした不確実性の高い前提のもとで、システム全体の設計が行われている。

同氏は「ゲームサーバーで行っていることはWeb業界と地続きであり、違いは規模や同時性、ユーザー体験への影響などの前提条件である。ゲーム業界は別世界ではなく、あえて強い言葉を使えば『Webの知見をより厳しい環境で使い切る実践環境』だといえる」と語る。

『モンスターハンターワイルズ』のアーキテクチャーとは

西谷氏は『モンスターハンターワイルズ』を例に、同社のアーキテクチャを説明。Web APIはマイクロサービスアーキテクチャで構成され、機能ごとにサービスを分割することでスケーラビリティと開発効率を両立している。

一方で、リアルタイム性が求められる領域はAPIとは別の要件として設計されており、ロビーサーバーなどを用いた専用構成が採用されている。4人でのクエストプレイやストリートファイターでの1対1での対戦といった、さらに低遅延が重要なケースではP2P通信を選択するなど、要件に応じて通信方式を使い分けている。

また、異なるプラットフォーム間で同じゲームをプレイする「クロスプレイ」において、サーバーは各プラットフォームの差分を吸収し、同一の体験を提供する共通レイヤとして機能する。さらに、独自にサーバーを構築することで、体験設計の自由度が大きく広がる。例えばロビーサーバーでは、最大100人規模のユーザーが同時に参加できる空間を実現している。

一方で、自由度が増すほど設計上の前提条件も複雑になる。データ設計では、プラットフォームやユーザーの所属地域、ゲーム内条件の組み合わせによって検索条件が増大する。 そのため、キーアクセスに強いNoSQLと複雑な検索に対応できるNewSQLを用途に応じて使い分けている。

技術選定では、「巨大トラフィックへの耐性」「スケーラビリティ」「運用負荷の低さ」を重視しており、結果としてマネージドサービスの活用やベンダーロックインといったトレードオフを受け入れることもあるという。

同氏は「一見モダンな設計だが、最初からモダンを目指していたというよりは、持続的な運用を優先した結果、モダンになっていた。技術的な正解を探すより、『持続的に運用できるか』を優先している」と述べる。

各分野のプロフェッショナルが集結。異業種出身エンジニアの活躍

同社では異業種出身のエンジニアも活躍しており、課題に応じて以下のような分野のエンジニアが集結し、システムを開発している。

  • AIエンジニア:課題要件に応じた機械学習モデルの選定・構築
  • データエンジニア:学習のためのデータ整備、パイプラインの構築
  • アプリケーションエンジニア:システムを開発現場へ提供するためのWebアプリケーションの構築
  • インフラエンジニア:Webアプリや機械学習の推論エンドポイントを動かすためのインフラ構築

高本氏は「ゲームへのAI活用は、単なるモデル作成にとどまらず『システム構築』そのものである」と話す。そのため、AIエンジニアやデータサイエンティストに限らず、WebやSIer出身のエンジニアが持つスキルも即戦力として活躍できるという。

具体的には、MLモデルの構築・運用、データ分析、データパイプライン構築、クラウド・インフラ構築、Web・モバイルアプリ開発など、幅広いスキルが求められている。

西谷氏も「Web/SIer出身のエンジニアが大規模ゲームサーバーの中核を担っている」と述べ、ネットワーク領域においても同様の傾向が見られるとした。

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今の「やってみたい」を言葉にしてみませんか

カプコンでは、「大規模分散システムと高負荷対策の経験」「モダンなWebアプリやAPIの構築力」「技術で現場の課題を解決するマインド」など、WebやSIerで培ったスキルを生かし、異業種出身でも活躍できる環境があります。

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