
受託開発の経験、次のキャリアでどう活かす? グラファーの「フルサイクルエンジニアリング」という選択肢
お客様の課題・要求をヒアリングし、要件を整理し、チームで形にしてきた──そんな受託開発の経験を持つエンジニアが、次のキャリアを考えたとき、その経験をどこで活かせるのか悩むことは少なくありません。
株式会社グラファーは、「We Remove Steps.」をミッションに掲げ、行政・民間の両領域で社会課題の解決に取り組むスタートアップです。SaaSの開発だけでなく、顧客の現場に入り込んだ“受託開発”にも取り組んでいます。
同社が掲げる開発アプローチは「プロダクト志向×多能工」。プロダクトマネジメントとエンジニアリングの意思決定権を一人に同居させ、課題発見から要件定義、設計、実装、テスト、そして運用まで一気通貫で担います。
AIの登場により、エンジニアの新しい働き方が注目を集めているなか、こうしたスタイルを2017年の創業当初から先駆けて推進してきた同社がこうした開発アプローチを続ける理由とは?
エンジニアリング組織を統括する河治 寿都さんと、AIソリューション事業を推進する黑﨑 脩さん。クライアントワークの経験が活かせるというグラファーの開発現場について、2人の執行役員に聞きました。
プロフィール
河治 寿都さん
Senior Vice President of Engineering
執行役員(エンジニアリング本部担当)
東京大学大学院卒業後、新卒で株式会社グリーにエンジニアとして入社。以降は越境EC、IoTベンチャー、ヘルスケア領域でTech Lead、VPoE、EMを歴任。2025年4月よりグラファーに参画し「Graffer AI Studio」の開発に従事。2025年9月よりProductチームのマネージャーに就任し、2026年1月より現任。
黑﨑 脩さん
Vice President of AI Solution Development
執行役員(AIソリューション開発担当)
神戸大学大学院理学研究科修了後、シンプレクス株式会社に入社。FX取引システムの導入・保守運用にプロジェクトリーダーとして従事。その後、大学時代の友人と共に起業し複数プロダクトを立ち上げ。2021年2月にグラファーへPMとして参画、2023年3月にVP of Product 兼 VP of Engineeringに就任。2026年1月より現任。
社会課題の解決に、あらゆる手段を総動員する
―― はじめに、グラファーがどのような会社なのかを教えてください
黑﨑:一言でいうと、社会課題を解決する会社です。 現在のミッションは『We Remove Steps.』。社会に根付いた「価値を生まない手順」をなくしていくという考え方は、創業当初から変わっていません。
事業は大きくGovtech事業とAI Solution事業の2つです。創業から続くGovtech事業では、行政手続きをスマートフォンで完結できる「Graffer スマート申請」や、AI自動音声案内の「Graffer Call」など、行政向けのデジタルプラットフォームを提供しています。現在250を超える地方自治体に導入いただき、7,000万人以上の皆様に使っていただいています。
AI Solution事業は、生成AIを軸にした民間向けの事業です。「Graffer AI Solution」というソリューションの中で、法人向け生成AIプロダクトの「Graffer AI Studio」、その活用の伴走支援、研修・人材育成サービスという形でご支援しています。私たちは、生成AIは一過性のブームではなく、長期的かつ不可逆な変化だと捉えています。そこに飛び込み、民間の社会課題を解決していこうという考え方で事業を展開しています。
―― 行政向けと民間向けで、領域がかなり異なるように見えます。2つの事業を同じ会社でやる意味はどこにあるのでしょうか
黑﨑:Govtech事業で培ってきたものを、AI Solution事業にそのまま生かすことができます。たとえば、行政向けサービスはマイナンバーカードの取り扱いや個人情報の管理など、セキュリティに求められる水準が非常に高いのが特徴です。私たちは、小さい会社ながら日本を代表するような行政機関を支援する中で、その水準をあたりまえのものにしてきました。この基盤があるからこそ、民間の大企業にも安心してソリューションを提供することができています。
―― AI Solution事業のソリューション提供について、もう少し詳しく教えてください
黑﨑:お客様の課題には3つの段階があります。「社員が生成AIを使える環境がほしい」という課題であれば「Graffer AI Studio」で対応し、業界ごとに共通する業務課題であればSaaSとして仕組み化して提供する。ただ個社ごとに根深い課題を抱えているケースもあって、そこは個社の現場に入り込んで、一緒に解決していく形を取っています。
課題の深さに応じて、汎用的なプロダクトから業界特化のソリューション、個社に入り込んだ受託開発まで使い分ける。全部やるからこそ、お客様の課題解決に対して最適な手段を選べるんです。
―― 2026年1月から、河治さんと黑﨑さんがそれぞれ執行役員として別々の組織を率いる体制になったと伺いました。2トップ体制にした狙いを教えてください
河治:もともとは商習慣の違い、提供するソリューションのフェーズの違いなどからGovtech事業部とAI Solution事業部に分かれた事業部制を採用していました。そして、それぞれで蓄積してきたノウハウが、実はもう一方でも生かせると徐々にわかってきました。そして、それが新規事業の種であることも。それならシナジーをつくってより挑戦できる体制を作ろうと、機能別の組織に切り替えました。
私がエンジニアリングの基盤づくり、黑﨑が事業の推進を主に担っていますが、明確に線を引いているわけではありません。
黑﨑:むしろ意図的に分けすぎないようにしていますね。お客様の課題解決は、お互いの得意分野を掛け合わせてこそ真の価値が出せる。同じ目標に向かってワンチームでやっていくということを大事にしています。
使ってもらえるものをつくる――。受託開発を再定義した開発思想
―― 先ほど、個社の現場に入り込んで課題を解決するというお話がありました。黑﨑さんご自身はもともとそうしたクライアントワークの経験をお持ちだそうですが、どういった経緯でグラファーに入社したのでしょうか
黑﨑:新卒で入った会社では、要件定義から設計、開発、テスト、リリース、運用まで一通り担当していました。ただ受託開発の場合、お客様のパートナーとしてさまざまな提案はしますが、最終的な意思決定はお客様側にあります。自分たちで“何をつくるか”を決められないもどかしさがありました。
その後、大学時代の友人と起業して自分たちでプロダクトを立ち上げました。売れたものもあれば、売れなかったものもあります。でも、自分たちで意思決定してプロダクトをつくっていく面白さはそこで実感しました。受託型のクライアントワークではなく、自分たちで決めていく方向に進みたいと思ったのが、グラファーに入社するきっかけとなりました。
―― そのご経験を経て、グラファーで再び顧客の現場に入る仕事をしているのですね。かつての受託開発との違いはどこにありますか
黑﨑:私が過去経験してきた受託開発では、お客様が要件を決めて、それをつくるという流れでした。しかし、グラファーでは本当にお客様にとって価値のあるものは何かを、こちらから問いかけるところから始まります。「つくったものを使ってもらう」のではなく「使われるものをつくる」ことを実践し続けています。
これができるのは、SaaS事業を通じて「市場」を見続けてきた経験があるからです。特定のお客様だけを見るのではなく、複数のお客様に共通する課題は何か、市場がどう動いていくかを見ながらソリューションを設計し、長期的な価値提供を目指してきました。その結果として、私たちのSaaSが市場に受け入れられてきたことが「使われるものをつくる」という考えが正しいという裏付けだと考えています。
さらに、個別のプロジェクトで得た知見やノウハウをしっかり社内に資産として還元することも重視しています。「売上が立てばそれでよい」という発想ではなく、得たものを武器として蓄積し、標準化して磨き上げています。
―― その開発スタンスは、いつ頃からグラファーに根付いているのでしょうか
黑﨑:2023年から24年にかけて「プロダクトエンジニア」や「フルサイクル開発」という言葉がエンジニア業界で注目された時期がありました。実はグラファーは2017年の創業当初から同じ考え方で開発を続けています。
社内では「プロダクト志向×多能工」と呼んでいるアプローチで、プロダクトマネジメントとエンジニアリングの意思決定権を一人に同居させ、課題発見から運用まで一気通貫で担います。
分業による分断を起こさないメリットは、顧客課題などの一次情報をリアルに感じることで最適なプロダクト・機能の企画・開発ができるとともにコミュニケーションコストを最小限に抑えてスピード感をもって実行できる点にあります。
黑﨑:私自身、入社直後にそれを強く体感した出来事があります。入社してわずか4か月で、担当したプロダクトのクローズを決断した時のことです。当時の上司に言われたのは、「一番そのプロダクトに向き合って、ユーザーのことも市場のことも理解しているのは黑﨑だろう。解像度が一番高い黑﨑の決断が、最適解だ」ということでした。入社4か月の人間にそこまで任せて、その判断を尊重してくれる。これがグラファーのカルチャーだと感じましたし、今も自分が大事にしている部分です。
―― エンジニアに大きな裁量がある環境ですね。一方、受託開発と聞くと「顧客から言われたものをつくる仕事」というイメージを持つエンジニアも少なくないと思います。社内ではどう捉えていますか
河治:グラファーの場合、お客様の課題に対してこちらから問いかけ、何をつくるべきかを一緒に考えるところから始まります。ですから、「言われたものをつくる」という感覚とはだいぶ違うと思います。
黑﨑:そうですね。私自身、かつては受託開発にもどかしさを感じ、事業会社であるグラファーへ転職しました。ただ、今は「SaaSと受託開発は、対立構造ではない」と感じています。
大切なのは目の前の課題解決に向き合い、どのように価値を届けるかです。SaaSであっても受託開発であっても、「お客様の課題を解決する」という本質は変わりません。
近年、AIツールの登場によりエンジニアの新たなキャリアとしてFDE(Forward Deployed Engineer)やプロダクトエンジニアが注目を集めているのも、その流れの表れだと思います。
グラファーのエンジニアも、「受託開発かどうか」という切り口では仕事を捉えていません。常に「ユーザーにとって本当に価値があることは何か」を考え、実践し続けています。
少人数×AIで大規模基幹システムのリプレイスに挑む
―― AI Solution事業では研修・伴走支援も提供しているとのことですが、具体的にはどのようなサービスを提供していますか
河治:たとえば、大手企業向けにご提供しているAI駆動開発の研修・伴走支援プロジェクト。目的は開発組織の生産性向上です。
研修初回は1日完結型で、チームごとに難易度の高い開発課題に取り組んでもらいます。AIの使い方はあえて伝えず、自分たちで試行錯誤しながら進めてもらうのがポイントです。 さらに研修中にもさまざまな仕掛けが用意してあり、参加者は数々の難題にぶつかりながら前に進むことが求められます。
その後の伴走支援では、研修で得た知見を現場に持ち帰り、実際の業務に導入していくプロセスのサポートを行います。たとえば、これまで14〜15人月かかっていた開発を3~4人月で完了させるという目標を立てて、週1回の定例でAIの使い方を振り返りながら、コーチング的に支援していくという流れです。
フォローアップの成果も出始めています。あるプロジェクトでは、当初の目標を“工数7割削減”に設定していたのですが、実際には9割近い工数削減を達成しました。 成果発表会ではお客様の担当役員の方が「衝撃でした」と驚いていたのが印象的でした。
―― クライアントワークの現場でも、同様にAIを活用しているのでしょうか
黑﨑:私が担当する大規模基幹システムのリプレイス案件でAIを活用しています。既存のソースコードを解析して仕様書に起こし、新しいシステムに移行するのですが、従来なら1画面のリバースエンジニアリングに3〜4日かかるところを、AIの活用でかかる工数を大幅に短縮しています。 このノウハウを再現性のある形に整えて、誰でもできるようにしていくのが今の取り組みです。
―― 社内の開発でもAIの活用は進んでいますか
河治:進んでいます。たとえばClaude Codeを活用しているチームでは、プルリクエストのマージ回数がおよそ2倍になりました。
面白いのは、エンジニア以外のメンバーにも波及していることです。フロントに立つメンバーやCSのメンバーが「この仕様ってどうなっていますか」とエンジニアに問い合わせていたのが、今はDevinに聞けば解決する。エンジニアが仕様の問い合わせに対応する場面はほぼなくなりました。
黑﨑:こうした生産性の向上があるからこそ、少人数でも複数の案件を深く担えるチームがつくれると考えています。AIをいかに使いこなせるかが一番のポイントです。
技術スタックより顧客の価値にこだわりたい
―― ここまでお話を伺ってきて、フルサイクル・フルスタックで開発し、AIを活用しながらお客様の現場にも深く入り込んでいく働き方が求められると感じました。こうした環境で活躍できるのはどんなエンジニアでしょうか
黑﨑:お客様の課題を起点に考えられる人だと思います。お客様が何に困っているのかを聞き出し、解決に導けるかどうか。相手のデジタルとの距離感に関わらず、丁寧に向き合える人が活躍していますね。
特定の技術スタックにはこだわっていません。自分でコードを書けることは前提ですが、お客様の現場に入ると、必ず一人では判断しきれない領域が発生します。そのときに、専門性を持ったメンバーと対話して協力を引き出せるか。技術力も大切ですが、こうした巻き込み力も重要だと考えています。
社内ではシニアから若手まで幅広いメンバーが活躍しています。任せられると判断したら積極的に任せていく文化なので、打席はいくらでもありますよ(笑)。
―― 河治さんはグラファーに入社して1年ほどですが、外から来た立場で感じた魅力はありますか
河治:お客様やフロントに立つメンバーとの距離がとにかく近いことですね。プロジェクトごとに、事業開発や営業が得意な人と開発が得意な人が集まってチームをつくり、お客様の課題に直接向き合いながら進めていきます。組織図上の役割で動くというより、課題ベースで人が集まる感覚です。
縦割りの組織だと、エンジニアは自分の担当領域しか見えなくなりがちですが、グラファーではそれがほとんどありません。全員がお客様の課題を理解した上で開発に入るので、認識のずれが起きにくい。入社して一番魅力を感じた部分です。
―― 最後に、今後の展望を聞かせてください
河治:少数精鋭のチームをたくさんつくっていく方向にシフトしていきたいと考えています。人を中心にして、事業領域を問わず案件にあたっていく体制です。ゆくゆくは、ビジネスサイドのメンバーと開発者が自律的に集まって課題を解決しに行くような組織をつくりたいですね。
黑﨑:エンジニアとして携われる案件の幅は、SaaSだけではなくなっています。官公庁や省庁向けの社会的影響の大きいシステム、AI-BPR、さらに業界特化型ソリューションなど、規模も種類もどんどん広がっています。
AIのレバレッジが効く社会課題に対して、少人数で深く入り込んでいく。 一つの技術領域に閉じない経験を積めるという意味で、エンジニアにとって大きなチャンスではないでしょうか。
