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インタビュー

playground流 “少数精鋭×AI駆動開発”の組織論 〜AI時代に最適な組織とは?〜

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playground株式会社

“コードの9割をAIが生成”、“Figmaからコードへの変換精度90%”、“テストカバレッジ95%”——playground株式会社がAI駆動開発で実現した成果は、前回の記事で紹介したとおりです。

では、なぜplaygroundでこれほどの成果が出せたのでしょうか。

その答えは、同社の事業特性にあります。主力サービスである電子チケット発券サービス『MOALA』は、“5分の遅延が開演の遅れにつながり、開演が遅れれば1曲減らさざるをえない”、そんな緊張感の中で運用されています。この“止まれない”という制約が、品質ファーストの組織設計を必然にしました。

2年前に「AIネイティブな会社にゼロからつくり直す」と宣言した同社は、開発プロセスだけでなく、QA体制や組織構造まで再設計してきました。結果として、AI以前から積み上げてきた土台が、AI時代に大きな武器になったといいます。

事業の制約は、どのように組織設計につながり、なぜAI駆動開発を加速させたのか。そのストーリーと事業の魅力について、代表の伊藤さんとエンジニアの舟口さん、塚原さんに聞きました。

プロフィール

伊藤 圭史さん

CEO / CPO

上智大卒業後、IBMにて戦略/ITコンサルを経験したのち起業&売却した連続起業家。直接プロダクトマネジメントを統括するほか、戦略/新技術開発/新規事業/知財など、会社の中長期の成長に向けたアクションを担当。

舟口 翔梧さん

開発リード

上智大在学中から開発をスタートし、気づけば15のプロジェクトを同時に担当する超売れっ子エンジニア兼経営者に。 「生きる意義を感じるプロダクトをつくりたい!」という熱い想いで自身の会社を休眠させてplaygroundに入社。圧倒的な0→1経験と人間力で「舟口さんと働きたい!」と入社するエンジニアが相次いでいる。

塚原 慎也さん

AIX / インフラマネージャー

東京大学工学部を卒業後、野村総合研究所へ入社。その後playgroundに参画し、インフラ開発・運用をリード。ドームクラスの公演では、電波が不安定な環境下で5万人を1時間以内に認証するという特殊要件を満たす基盤を実現している。またAIX(AI Transformation)として問い合わせ対応の95%自動化を達成するなど、AIネイティブな会社づくりを牽引している。

5分の遅延が大事故。制約が育てた品質ファーストの文化

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―― 前回の記事では、仕様駆動開発やFigma連携など、AI駆動開発の具体的な手法を伺いました。今回は、なぜplaygroundでAI駆動開発に適した環境が整っていたのか、その背景を教えてください

伊藤:私たちの事業が、“絶対に止められない”という制約を持っていたのが大きいと考えています。その制約が品質ファーストの組織設計を必然にし、結果的にAI駆動開発の土台になりました。

電子チケットは5分の遅延が大事故扱いされるビジネスモデルです。ライブの開演時間は決まっていて、遅れた分だけアーティストのパフォーマンス時間が削られてしまいます。5分遅れると開演が5分遅れる。開演が5分遅れると1曲減る。だから私たちにとっては大事故なんです。

―― 一般的なWebサービスとは、求められる品質水準がまったく違うのですね

伊藤:しかも、現場の環境も過酷です。5万人が同時に来場し、一人当たり数秒で処理しなければならないにも関わらず、通信環境は不安定で、夏場は端末の処理速度に影響を与えるくらい暑くなる。システムが安定稼働できる条件とはほど遠い現場だといえます。

その中で「良いサービスだ」と言ってもらうための一番大切なものは何か。それは品質です。だから、とにかく品質で勝負する。創業当時から、どうやったら品質を高められるかを考え続けてきました。

―― 品質ファーストの方針を、どのように組織設計に落とし込んでいったのですか

伊藤:私は組織戦略を考えるにあたって「組織は戦略に従う」、ざっくりいうと「ビジネスモデルと組織は常に整合していなければならない」という思想を大事にしています。

弊社のビジネスモデルの要諦は品質ファースト。その品質を担保するには、社員が個の力を最大化するために独自スタイルを貫くことを許容する“個の足し算”ではなく、みんなで作った戦術を全員が当たり前に守ることで“個の掛け算”を生み出すような組織をつくるべきだと考えました。

この文化を浸透させるため、“戦術遵守”をバリューの一つに掲げています。採用時も、戦術を緻密に考え抜いたり、チームの戦術のうえでうまく自己表現ができるような方を選ぶことを徹底してきました。

これらがたまたまAI駆動開発と非常に相性が良かった。AIは曖昧な指示では正しく動いてくれませんが、私たちは“正しさ”を明確に定義し明文化する文化をずっと育ててきた。だからAIが活躍しやすい環境がすでにできていたんです。

仕様駆動×テスト駆動の土台がAI時代の武器に

―― 品質ファーストを実現するために、どのような組織体制を構築してきたのでしょうか

伊藤:先ほどお伝えしたように、playgroundは5分でも止まったら大事故となる電子チケットを祖業としているので、創業時からQA専任のメンバーを採用するなど品質担保に力を入れてきました。

さらに、私が仕事の基本はQAだと考えているので、若手には職種を問わず極力QAを経験することを奨励してきました。QAと本気で向き合うと、論理的かつ緻密に物事を考えるクセがつきます。また、一つのプロダクトがどう動いていて、どこが壊れやすくて、どこが重要なのか、論理的に理解できるようになります。このような思考のクセやスキルを持った人はどんな業務に取り組んでも、すぐに人並み以上の成果を出せるようになります。

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―― playgroundのQAは、一般的なQAとは役割が違うのでしょうか

舟口:当社のQAはいわゆる“テスター”ではありません。品質を担保するための仕組みそのものを設計しています。だからQAから上がってくるのは単なるバグ報告ではなく、仕様漏れや仕様の詰めの浅さへの指摘なんです。“QA表はもはや仕様書”と言えるくらい、プロダクト開発に寄与していますね。

塚原:具体的には、QAも仕様書のレビューに入って「この書き方だと、どう動作してほしいのかが曖昧です」といった指摘をします。開発に入る前にQAが仕様の穴を潰すので、手戻りが大幅に減りました。

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―― QA体制が整っていたことが、AI駆動開発への移行にも影響したのでしょうか

塚原:大きく影響しましたね。当社のQAは、もともとリスクベースでテスト戦略を立てていました。これは「ここは特に危ないからきちんとやろう」「ここは優先度を下げてもいい」と機能ごとに区別をする考え方です。

また、「このユーザー体験は絶対守らなきゃいけない」というクリティカルユーザージャーニーが事前に定義され、ドキュメントとして整理されていました。どれを重要なテストケースとするかという指標も用意していました。

だからAI時代が来たときに、必要なインプットがすでに揃っていたんです。これをそのまま使えばすぐ達成できるという状態でした。

―― QAがここまで機能するためには、開発プロセス側の工夫も必要だったのではないでしょうか

伊藤:はい。QAが仕様の穴を見つけられるのは、そもそも仕様書がきちんと存在しているからです。私たちは、AI時代が来る前から仕様駆動とテスト駆動の二本柱で開発を進めてきました。結果的に、これがAI時代にマッチしました。

―― ではテスト駆動開発の事例についても教えてください

舟口:テストの生成とテスト仕様書の設計をAIにやらせています。これによって、「仕様書は正しいが実装が間違っている」といった問題の発生を防いでいます。全社目標としてテストカバレッジ9割を掲げ、現在重点的に進めているところです。

伊藤:仕様書を正しく書き切れば、テスト仕様書はAIが自動で生成できるようになります。そうなると、QA担当者の仕事は“テストを書くこと”ではなく“AIが正確にテストを策定・実行できる環境を整えること”に変わる。今まさにそこに取り組んでいます。

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―― 具体的な成功事例があれば教えてください

舟口:AIでテスト駆動開発を進めるにあたり、最初のチャレンジとして選んだプロダクトが「BioQR」でした。playgroundが独自開発した、イベント入場に特化した顔認証システムです。

このプロダクトはテストの難易度が非常に高いのが特徴です。実際の顔とカメラを使わないと正確な品質を保証できないため、テストの準備の手間が膨大。しかもコード変更の影響がわかりづらく、でも品質の低下が入場の事故に直結してしまう。極めて難しい業務です。

―― そこにAIを導入したのですね

舟口:はい。開発側でできるテストは全部AIに任せる方針で進めました。テストコードの生成をAIに任せたところ、複雑なコードが絡み合うプロダクトにもかかわらず、3週間でテストカバレッジが95%に到達しました。残りの5%はそもそも到達しないデッドコードなので、実質100%に近い状態と言えます。

―― テストカバレッジ95%を達成したことで、開発現場にはどんな変化がありましたか

舟口:「BioQR」の開発が怖くなくなりましたね。以前は何か手を入れるたびに「この部分が漏れるんじゃないか」「問題が起きるんじゃないか」という不安があったんです。それがなくなり、攻めた開発ができるようになりました。新しい取り組みや先進的な機能の組み込みも、積極的に進められるようになっています。

塚原:QAの観点でも大きな変化がありました。プロダクト側のテストカバレッジが95%に達したことで、QA側のシナリオテストを効率化できる。プロダクト側で品質が担保されているからこそ、QAとしても次のステップに進みやすいんです。

舟口:「BioQR」での成功が、他のプロダクトにも波及しました。「『BioQR』でできたなら、他でもいけるよね」という空気が生まれたんです。今では週次のAI分科会で、各プロダクトのカバレッジ進捗を共有しています。全員が95%を目指して取り組んでいる状況です。

少数精鋭とAIの両輪で成長が加速した

―― AI駆動開発を成功させる上で、組織体制として意識していることはありますか

伊藤:少数精鋭です。現在は正社員30名強で業務委託を加えても50名くらいという規模ですが、以前は今の倍以上で、業務委託の比率が高い時期もありました。正直、全員の動きを把握できている人は誰もいない状態でした。

私がCPOに専念する方針に切り替えたことを機に開発スタイルや組織の抜本的な見直しを行いました。方針や戦術を明確にして、価値観や目線が合う人を厳選して採用する方針に変えていくなかで、結果として本当に強い少数精鋭のチームができ上がりました。

―― 人数が減って、成長スピードに影響はありませんでしたか

伊藤:逆説的ですが、少数精鋭になったことで成長が加速しました。プロダクトの開発スピードは上がったし、業績も大きく伸びました。

少数精鋭は規律や品質の守りやすさ、コミュニケーションや意思決定の速度・品質が全然違います。加えてAIが登場してくれたことで少数であることの最大のデメリットである時間の有限性が大きく低減したのも大きかったです。

―― 少数精鋭になったことで、開発現場にはどんな変化がありましたか

舟口:技術的な意思決定がすごくスムーズですね。目線が揃っているので、技術選定や方針決定で迷うことがほとんどなくなりました。

塚原:インフラの立場からも同じことが言えます。各プロダクトの構成や設計が標準化されて、管理が非常に楽になりました。以前は属人的でバラバラだったんですが、今は統一されています。

―― 塚原さんは全社的なAIトランスフォーメーションをリードされてきたそうですが、少数精鋭だからこそ実現できたことはありますか

塚原:セキュリティの統制です。AIに社内知識を読ませると生産性は上がりますが、機密情報が漏れるリスクもあります。少数精鋭で全員の動きが見えるからこそ、権限管理を徹底できています。また、AIの影響で爆発的に増える成果量に伴い発生しがちな品質低下も、本当に強いメンバーが揃っていたことでまったく感じずにいられています。

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―― 開発チームだけでなく、ビジネス職メンバーにもAI活用を広げているそうですね

塚原:はい。ビジネス職メンバーも全員Cursorを使っています。コーディング経験がない人たちなので、まず「こういうところに使えるんだ」と実感してもらう必要がありました。

そこで、業務の課題を持ってきてもらって、その場で私がバイブコーディングして見せる会を何回かやったんです。「ほら、できたでしょ。みんなもできるよ」と。ハードルを下げることを意識しました。

今では「これってバイブコーディングでいけるんじゃない?」という発想が、非エンジニアの間で当たり前になってきています。文化として定着しつつありますね。

―― 具体的な活用事例があれば教えてください

伊藤:採用業務で活用しています。たとえばスカウト送信の際、候補者のレジュメをもとに、当社の採用基準に対するマッチ度を項目別に判定させています。もちろん、最終的な判断は必ず人間が行う前提です。候補者情報の取り扱いについても、先ほど塚原が話したように、権限管理とセキュリティは徹底しています。

スカウトは返信までの時間が返信率に直結します。1時間の差が大きく効いてくることがわかっていたので、AIで初動を速くできるようにしました。書類が届いた数秒後にはAIが評価とスカウト文面案を出してくれるようになった結果、返信のリードタイムは3分の1程度まで短縮できました。

入場待ちの列が消えた日。現場で実感するプロダクトの価値

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―― プロダクトの価値を実感したご経験はありますか

伊藤:あるアーティストの武道館ライブに「BioQR」をご利用いただいたときの話です。

当時、コロナの影響で“21時までに終演しなければならない”という要請が発信されたことを受け、1分でも開演が遅れると、その分だけ演奏する曲を減らさなければならない、という厳しい制約が突然生まれたときでした。

そんな絶対に遅延が許されない状況下で「(予定していたスマートフォン型の電子チケットを辞めて)一番速く入場できる仕組みに切り替えたい」とライブの主催者からご連絡をいただき、「BioQR」の導入が決まったのが、公演1か月前。こちらも相当なプレッシャーでした。

当日、入場ゲートの前で見守っていると、どんどん人が流れていきます。「BioQR」は本来、不正転売防止で作った技術なのでチェックできている項目は多くなったのですが、入場スピードは平時と比較してむしろ上がっている。開演30分前には列が消え去っていました。

このライブ、実は私が昔から大好きだったアーティストで、仕事関係なくチケットを買ってライブに参加していたのですが、開演時刻ぴったりの17時30分に鳴り始めたイントロを聴いて、人生で一番くらい号泣しました。マスクがあって本当によかったです(笑)

―― 入場体験はそれほど変わったのでしょうか

伊藤:変わりましたね。入場する人が歩くスピードよりも認証スピードの方が速くなると“入場列がそもそも発生しない”ことに気づきました(笑)。

以前は証明写真と顔を照らし合わせる本人確認や荷物のチェック、チケットの確認というプロセスをスタッフが行っていました。紙やスマートフォン型の電子チケットだと入場まで2時間かかることがあったといいます。本来、不正転売対策を強化するために作ったはずの「BioQR」がこの問題を完全に解消してしまったので驚きました。

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―― エンジニアも現場に行く機会があるのでしょうか

舟口:はい。エンジニアも定期的にイベント現場に足を運びます。入社したエンジニアはみんな、現場から帰ってくるとテンションが上がっていますね。みんな口を揃えて「定期的に現場に行ったほうがいい」と言い出します(笑)。

私自身も音楽フェスの現場に初めて行った時、自分のエンジニア人生に色がついて見えたような感覚になりました。入場ゲートに立っていると、ファンの方々が次々とやってくる。スマートフォンをかざして、顔認証が通って「シャリーン」と入場できた瞬間に「入れた!」と笑顔になる。「すごっ!」と口に出して驚いてくれる。自分がつくったプロダクトですが、「これはすごい!」と思いましたね。

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塚原:私も同じです。前職で金融系システムを扱っていた時は、新しい仕組みをつくっても「動いて当たり前」という世界。現場で好意的な反応が返ってくることはほとんどありませんでした。

一方playgroundの現場では、朝早くからイベントを楽しみに集まったファンの方々の反応を間近に感じることができます。顔認証がスッと通った瞬間、「おお!」という声が上がる。その場でユーザーのフィードバックを感じられるのは、本当に嬉しいですね。

―― 最後に、今後の展望を教えてください

伊藤:短期的には、不正転売対策を含めた最高の入場シーンをつくることを目指しています。

エンタメ業界には、素晴らしいコンテンツと熱狂的なファンがいます。しかし、その価値が十分にアーティストや業界の収益につながっていない部分があると感じています。その原因の一つが、不正転売です。

たとえば、東京ドームでライブをした際のチケットの売上は一般的に約5〜6億円。その傍らで転売市場には、ライブによっては1億円が流出しているケースもあるくらい膨大なファンのお金が流出しています。こうした不正な転売をなくすことで、エンタメ業界は収益性を大きく改善できると考えています。

そして中長期的には“イベント業界のデジタルインフラ”をつくりたいと考えています。“夢を与える仕事を、夢の職業にする”が私たちのミッションです。MOALAを利用すると、本来各社がもらえるはずだった生み出した付加価値に見合った収益を正しく受け取れるようになる、そういうプロダクトをつくっていきたいですね。

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