お客さまと伴走し、各社の課題と向き合う。長野雅広氏に聞いた、クラウドサービス開発だからこそ感じられる面白さと魅力
メルカリのSRE組織立ち上げに携わるなど、SREの先駆者としても知られる長野雅広さん。誰もが名前を聞いたことがあるであろう大規模なWebサービス開発に携わっていた長野さんは、2021年よりさくらインターネットで活躍されています。
さくらインターネットといえば、ガバメントクラウドサービス提供事業者に条件付きで認定されるなど、昨今大きな話題を集めている企業の一つ。
本稿では、長野さんから見た同社の魅力やクラウドサービスを開発する面白さについてお話を伺いました。
■プロフィール
さくらインターネット株式会社 SRE室 室長/クラウド事業本部 副本部長
長野 雅広(インタビュイー)
大学在学中に京都のスタートアップに参加し、以降は大規模なトラフィックを処理するWebサービスにおいてソフトウェアエンジニアとして活動。システムのスケーラビリティ強化とサービスの拡張に従事。ライブドアにおいては、Webパフォーマンスチューニングコンテスト「ISUCON」の創設に関わり、メルカリでは国内で最初期に立ち上げられたSRE組織の設立に携わる。2021年1月にさくらインターネットへ入社し、SRE室 室長とクラウド事業本部 副本部長を務める。2024年5月より子会社であるTellusの取締役にも就任。著書に『達人が教えるWebパフォーマンスチューニング〜ISUCONから学ぶ高速化の実践』(技術評論社、共著)。
ファインディ株式会社 SREチームリーダー
下司 宜治(インタビュアー)
新卒でヤフーに入社。2、3度の転職を経ながらサーバーサイドやSRE領域を担当。アンドパッドでは、VPoEとして採用・組織作り・技術的負債の改善からSRE、CRE、QA領域などプラットフォーム部分を担当。2024年4月にファインディへジョイン。ファインディではSREなどのプラットフォーム領域を牽引。
各社の多様な課題に向き合う面白さとやりがいが魅力
──はじめにご経歴について教えてください。
長野:エンジニアとして活動しはじめたのは大学生のときで、当時担当していたのはWebアプリケーションサービス開発の仕事です。大学卒業後はミクシィ(現:MIXI)やライブドア(現:LINEヤフー)で大規模なWebサービスの運営やスケーラビリティの確保などの領域を担当し、そのあとに転職したメルカリではSRE組織の立ち上げに携わりました。
2021年にさくらインターネットへ転職して、現在は2022年に立ち上げたSRE室の室長とクラウド事業本部の副本部長を兼務しているほか、2024年5月からグループ会社であるTellusの取締役も務めています。
──長くWebサービス開発に従事されていた長野さんから見て、クラウドサービスを開発する面白さ、難しさはどんなところにあると思いますか?
長野:幅広いお客さまがいることは、クラウドサービス開発だからこその面白さだと思います。個人としても前職でも「さくらのレンタルサーバ」を使用していたため、入社前からある程度は業務範囲を想像していたんです。しかし、実際に見てみると想像以上にお客さまの幅が広くて、いい意味でギャップを感じました。業界も規模も異なるお客さまに寄り添い、それぞれの課題に向き合って対応できることに、やりがいを感じますね。
ただ、さまざまなお客さまとお付き合いするなかで、全員がクラウドサービスに慣れているというわけではありません。また、toCのサービスのように新しい機能をすぐにお試しいただける性質のサービスではないところもあり、開発した機能を活用いただくまでに時間がかかることもあります。その点はクラウドサービスならではの難しさでもあるのかなと。
──開発した機能がなかなか使われないとなると、エンジニアとしては少し寂しいですよね。
長野:そういった点を解決するためにも、機能を開発した際は積極的に「お知らせ」を書くようにしています。そのほか、テクニカルソリューション本部のメンバーの方が行っているハンズオンにSREが参加し、お客さまの声を直接聞く機会を設けるといった取り組みもあります。実現できた回数はまだ少ないのですが、今後はこういった機会をもっと増やしていきたいですね。
──通常のサービス開発では、SREとお客さまが直接お話しできる機会は少ないと思いますし、貴重な取り組みですね。
長野:そうですね。条件付きでガバメントクラウドに認定されたことで、今後は官公庁や地方公共団体のシステム開発を担当するSIerの方々とお話しする機会が多くなっていくはずです。より良いサービスの開発に貢献するためにも、SRE室や開発に携わるメンバーとお客さまが直接お話しできる機会を増やすべきだと考えています。
インフラエンジニアだけでなく、多様なメンバーが活躍するエンジニア組織
──事業内容の特徴から、貴社はインフラエンジニアが多いというイメージを持っている方も少なくないと思いますが、実際はバックエンドエンジニアの求人も多く出されていますね。バックエンドエンジニアはどのような業務を担当されているのですか?
長野:「さくらのクラウド」や「さくらのVPS」など、さくらインターネットのすべてのサービスを支える基盤として、インフラエンジニアは重要な役割を担っています。同時に、サービス・インフラの基盤はソフトウェアによっても支えられており、それらを開発しているのはバックエンドエンジニアです。
具体的には、IAMなどの認証認可に関わるものやデータベース、コンテナといったものを開発してもらっています。マネジメントサービスの開発もバックエンドエンジニアの業務の1つですね。
──それらはバックエンドチームとして対応するのでしょうか。もしくは機能ごとの開発チームがあるのですか?
長野:ガバメントクラウドの領域でいうと、以前は1つのバックエンドチームとして対応していましたが、現在は機能ごとに担当を決めて6つのチームで開発を進めています。
バックエンドチームを分割する形で生まれたチームであるため、バックエンドエンジニアが主軸となっていますが、場合によってはバックエンドを主体としながらフロントエンドやインフラの領域にも携わっているメンバーも参加するなど、フルスタックなエンジニアリングチームとなっていることもあります。ちなみに、チームのなかには事業企画のメンバーもいます。
──企画職の方も同じチームのなかにいらっしゃるのですね。
長野:はい。エンジニアの視点だけではなく、利用者の視点も重要ですからね。現在体制を整えているところではありますが、いろんな視点を持ちながらみんなで考えて開発を進められるように、さまざまな立場のメンバーをチームの中に揃えられるようにしています。
──バックエンドエンジニアもサービスや機能の企画から携わることができるのでしょうか?
長野:もちろんです。さくらインターネットはエンジニア文化が強い会社であり、エンジニア発のアイデアをもとに事業企画のメンバーと相談して開発・リリースする、といった流れが以前からありました。
そういった流れを残しつつ、今後はより開発者のアイデアがサービスに活かされる体制を整えていきたいと考えています。
──開発手法についても教えていただきたいです。
長野:現在はスクラム・アジャイルを取り入れようと考えています。プロダクトオーナーが優先順位を決めて、その中でメンバーがタスクを決めて開発を進めていくという形にしていきたいなと。
ただチームごとに状況が異なっていて、インフラに近いチームは障害対応の必要もあるので、その辺りの体制を整えるのは今後の課題の一つでもあります。スクラム・アジャイルはさまざまな会社で取り入れられている手法だと思いますし、各社の事例を参考にさせていただきつつ、自分たちのスタイルを確立していきたいですね。
──組織の雰囲気についても教えてください。貴社はリモート前提の働き方を導入されていますね。リモートと出社など、メンバーの働き方が異なるなかで、何か工夫されていることはありますか?
長野:工夫というと少し違うのかもしれませんが、Slackのチャットやハドルミーティング、Zoomなどを積極的に活用して密にやり取りする文化が根付いていますね。会社としてコミュニケーションを重要視していることもあり、働き方に関係なくみんな活発に交流していますし、認識の齟齬などが発生してもすぐに解消できる風土があると感じています。
──ちなみに長野さんとエンジニアメンバーが交流する機会もあるのでしょうか?
長野:あります。最近は出席できないこともあるのですが、週に一度バックエンドエンジニアの交流会というものが開催されています。そこでは資料を用意するわけではなく、雑談会のような形で「最近SNSで話題になったもの」や「気になる技術」など、さまざまなことを気軽に話しています。あとは出社した際に、オフィスにいるメンバーと直接話すこともありますね。
「垂直統合」を目指し、パブリッククラウドサービスの開発に注力
──ガバメントクラウドについてもお話をお伺いしたいと思います。AWSやGCPといった競合サービスもいるなかで、どのようなサービスを開発していこうと考えられているのかお話いただけますか。
長野:お客さまに寄り添い伴走しながら「お客さまが求めているサービスを作りたい」と考えています。開発する時間も人手も限られているなかで、要望いただいている機能を全て開発するのは難しいのも事実です。「お客さまの課題を解決するため本当に必要なサービスや機能とは?」という問いを追求しながら、必要な機能にフォーカスして開発を続けていきたいですね。
──ガバメントクラウドを開発していく上で、何か気をつけているポイントはありますか?
長野:「ガバメントクラウドの開発」ではなく「『さくらのクラウド』の開発」だという認識をメンバーに定着させることですね。既存サービスである「さくらのクラウド」を機能強化し、デジタル庁の技術要件に適合させる取り組みを進めている、と認識しておくことが大切だと考えています。
また技術要件といってもサービス内容を指定されているわけではありませんし、お客さまはデジタル庁だけではありません。現在ご利用いただいている会社さまも含めた“パブリック向けのクラウドサービス開発”だということを念頭に置いて、機能開発チームとともにサービス内容を考えながら開発を進めています。
──「さくらのクラウド」の開発を通して、貴社が目指すゴールはどこにあるのでしょうか?
長野:まず実現しなくてはいけないのは、ガバメントクラウドの機能要件を満たすことです。残り2年もない短期間で開発しなくてはいけないものがたくさんあります。それらを無事に開発・リリースするためにも、強いチームを作りたい。それに向けて、エンジニアの採用に注力するとともに体制を整えつつ、開発の生産性を上げる取り組みもしていきたいです。
ガバメントクラウドの機能要件を満たしたあとは「垂直統合」をキーワードに、石狩データセンター同様、建物やサーバーを含めた全てを自分たちで作れるようになりたいなと。
物理的なレイヤーからソフトウェアまで全てを自分たちで、もしくは強く関わって作り上げられるようになりたいと考えています。
──建物やサーバーを含めた垂直統合というのはどういう事でしょうか?
長野:わかりやすい例を挙げると、データセンターですね。現時点で石狩にあるデータセンターは自社の設備です。石狩データセンターは部屋を区切って、順番に構築利用していくので、初期に作っていた部屋と現在作っている部屋では、中身が大きく異なっているんですよ。言い換えると、工夫がずっと積み重なって進化している。
「自社で運用して、自社で考えて、建物の部屋を作る」からこそ進化しているんです。そこがさくらインターネットの強みでもありますし、その考え方をベースとして、他の領域も自分たちで手を入れられるようにしていきたいと考えています。
組織に変化と成長をもたらすキーパーソンを求めてエンジニア採用を強化
──今後さくらインターネットに入社される方に期待したいのは、どんなところですか?
長野:さくらインターネットに変化と成長をもたらすキーパーソンとして活躍してくださることです。ガバメントクラウドの機能要件を満たすためには、組織として今より成長していかなくてはいけません。今いるメンバーと協力して、組織に良い変化を与えてくれることを期待しています。
──最後に読者へのメッセージをお願いします。
長野:さくらインターネットのビジョンは「『やりたいこと』を『できる』に変える」です。その実現に向けてお客さまと伴走しながら開発を続けています。
さくらインターネットの開発組織としてはまだまだ開発力を上げていかなくてはいけないフェーズであり、言い換えるといろんな挑戦ができる面白さが魅力だと思います。先ほどもお話した通り、強いチームをつくった上で垂直統合により、価値のあるものを生み出していきたいと考えていて、エンジニアとしても得られるものがたくさんある環境です。
現場のエンジニアとのカジュアル面談なども行っているため、ぜひお気軽にお声がけいただけると嬉しく思います。