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インタビュー

保育者の時間を、子どもたちに。保育ICT「ルクミー」の開発現場

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ユニファ株式会社

保育者が子どもと向き合う時間を増やしたい――そんな思いから生まれた保育ICTサービス「ルクミー」。その中核を担う写真サービス「ルクミーフォト」は、年間1億枚を超える写真を処理し、保育現場のデジタル化を支えています。

ユニファ株式会社では2025年10月、LLMと従来の機械学習を組み合わせた「センシティブ写真チェック」機能をリリース。保育者が1枚1枚目視で行っていた写真チェックを自動化し、業務負担の軽減に貢献しています。

今回は、ルクミーフォトチームのエンジニアリングマネージャー本間さんと、R&Dチームの藤塚さんにインタビューを実施。AI機能の開発プロセスから、1日100万枚を処理するインフラ設計、そして年間1億枚以上の写真基盤を刷新する大規模リニューアルの展望まで、詳しくお聞きしました。

社会貢献と技術的挑戦を両立できる環境とは?その実像に迫ります。

プロフィール

本間 隆介さん

「ルクミーフォト」チーム EM

前職ではソフトウェア開発に携わっていたが、自ら手を動かして開発したいという思いと、社会貢献できる企業で働きたいという思いからユニファへ。サーバーサイド開発を中心に、データベース、AWSインフラ、フロントエンドまで幅広く担当。現在は「ルクミーフォト」チームのマネジメントを担う。

藤塚 理史さん

AI開発推進部 R&Dチーム

これまでR&D部門での機械学習の新規技術調査や導入検証、またEC向けレコメンドモデルの開発・運用などに従事。自身も0歳から子どもを保育園に預けており、保育という社会課題を自分ごととして捉えられる環境に魅力を感じてユニファへ入社。

紙とアナログが残る保育現場。デジタル化で「子どもと向き合う時間」を増やす

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――まず、ユニファが「ルクミー」を通じて解決しようとしている課題について教えてください

本間:ユニファは「家族の幸せを生み出す あたらしい社会インフラを 世界中で創り出す」というパーパスを掲げています。

その実現に向けて取り組んでいるのが、保育者が保育に集中できる時間を増やすことです。保育園などはまだデジタル化が進んでいない領域が多く、紙ベースの業務が残っています。書類作成などの事務作業に時間を取られてしまって、子どもたちと向き合う時間がなかなか取れない。それが保育者の離職にもつながってしまうという課題があります。

そこで私たちは「ルクミー」という保育施設向けの総合ICTサービスを開発。連絡帳や登降園管理、写真販売といった業務をデジタル化することで、保育者の負担を減らそうとしています。

――本間さんが担当されている「ルクミーフォト」は、どのような経緯で生まれたサービスなのでしょうか

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本間:ルクミーフォトは、ユニファの創立時からあるサービスです。代表が自分の子どもを保育園に通わせる中で感じた課題から立ち上げました。

当時、運動会や遠足の写真販売は非常にアナログでした。部屋に番号付きの写真が並び、保護者は「何番と何番を買います」と選ぶ仕組みです。写真が探しづらく、好きな時間に選べないという課題がありました。

そうした不便を解消したいという思いから、写真販売をデジタル化するサービスを開発しました。

――現在のルクミーは、写真販売以外にも活用が広がっていますよね

本間:はい、立ち位置がかなり変わってきています。

連絡帳に写真を登録したり、「保育AI™ すくすくレポート®」というAIを活用した子どもの成長記録サービスに写真データをインプットしたり、連携している保育ICTサービスにAPI連携で写真を提供するといった形で、さまざまなところから求められるサービスになっています。

事業上の重要性としても、今もっとも注力しているサービスという位置づけです。売上貢献という意味でもそうですし、社内の自社サービス間での連携やAIのインプット元としても重要なハブになっています。

AI実装の最前線。LLM×従来MLのハイブリッド設計で実現

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――先日リリースされたAI機能「センシティブ写真チェック」を開発することになった背景を教えてください

本間:ルクミーフォトをお使いいただいている保育施設には、もっとたくさん写真を撮って販売していただきたいと考えています。その一方で、写真の販売枚数が伸び悩んでいました。理由をお聞きすると、保育者が写真を1枚1枚確認していることがわかりました。

園での水遊びなどで身体の特定部位などが写りこんでしまった写真、個人情報が写り込んだ写真、鼻水が垂れている写真など、保護者に販売してよいかどうかを販売前に判断しなければなりません。この作業がすごく大変で、写真の販売枚数を増やせないという声が多かったのです。

そこで、このチェック作業をシステムで自動化できれば、保育園側の業務負担軽減にもなりますし、私たちとしても写真をたくさん販売いただけます。Win-Winになれると考えて開発を始めました。

――LLM(大規模言語モデル)を採用した背景を教えてください

藤塚:従来の機械学習でこの課題に取り組むには、2つの壁がありました。

1つ目は学習データの不足です。従来の機械学習は大量のデータで学習しないと精度が出ません。しかし、センシティブ写真はそもそも数が少ない。身体の特定部位や個人情報が写り込んだ写真を何万枚も集めるのは、現実的ではありません。

2つ目は検出対象の多様さです。特に個人情報は、氏名、電話番号、アレルギー情報など項目が多岐にわたります。これを従来手法で一つひとつモデルをつくって対応するのはかなり難しいんです。

ですが、LLMであれば自然言語で「この写真に個人情報が写っていないか確認して」などとタスクを指示できます。少ないデータでも柔軟に対応できる点が、今回の課題に適していると判断しました。

――LLMの導入は順調に進みましたか

藤塚:いいえ。最初はLLMにすべてのタスクを任せてみたのですが、精度が出ませんでした。

たとえば露出写り込み判定の場合、写真の中でまず「人物を検出」して、次に「その人物の身体の特定部位が写り込んでしまっているかを判定する」という2つのタスクに分解できます。

LLMにまず人物検出のタスクだけをやらせてみたところ、写真の背景に写っている子どもや、画面端に小さく写っている人物が検出できなかったり、見逃しがあったりして、精度が出ないことが分かりました。

――どのように解決したのでしょうか

藤塚:分解したタスクごとにモデルを分けるというアプローチを取りました。

人物検出は人物検出に特化した機械学習モデルに担わせて、露出写り込み判定という後続のタスクをLLMに任せる。得意な領域を分担させることで、精度の問題を解決できました。

タスクを分解することで、他にもメリットがありました。LLMはアップデートのサイクルが早く、新しいモデルが出るたびに同じプロンプトでも出力が変わってしまうことがあります。つまり、モデルの更新作業が定期的に発生することを前提にプロダクトを設計する必要があります。

タスクを分解してLLMに任せる範囲を限定しておけば、プロンプトもシンプルに保てます。更新が必要になったときの影響範囲を小さくできました。

――AIモデルの開発は、藤塚さんが所属するR&Dチームが担当されたのですか

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藤塚:はい。R&DチームはAI開発推進部の中にあって、AI技術の調査・検証から、開発だけでなく、営業戦略・キャンペーンにかかる施策の効果検証まで含め幅広く担当しています。

今回のセンシティブ写真チェック機能の開発では、R&Dチームがモデル開発とAPI提供を担い、プロダクトチームがそのAPIを呼び出してサービスに組み込むという形で役割分担しました。

――プロダクトチーム側から見て、R&Dチームとの連携はいかがでしたか

本間:過去に顔認識機能でR&Dチームと連携した経験があったので、今回もスムーズに進められました。ただ、顔認識のときはシステム設計的に考慮ができていない部分があって、エラーが起きたときのリトライが大変だったんです。

そこで、今回はAmazon SQS(メッセージキューイングサービス)を導入して、処理結果のやり取りを改善しました。一つ前のプロジェクトでの学びを活かせた部分ですね。

――開発全体を通じて、どのような姿勢で進めたのでしょうか

本間:今回はリリースのスピードを優先しました。

もともとチェックしたい項目は他にもいろいろあったんですが、保育施設からの要望が強いもの、かつ実際に実現できそうなものという観点で3つに絞りました。

完璧を目指さずに、できるものからまずご提供する。お客さまからのフィードバックを受けて改善していこうという形で進めています。

1日100万枚を処理するインフラと、1人1台AIエディタの開発環境

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――ルクミーフォトのシステムは、どのくらいの処理負荷をさばいているのでしょうか

本間:1日100万枚を超える日もあります。その写真を基本的にすべて顔認識処理にかけていますし、センシティブ写真チェックも対象の保育施設様には全件実施しています。

藤塚:この規模を安定してさばけているのは、やはりすごいことですよね。

――それだけの処理量を支えるインフラは、どのように構成されていますか

本間:AWSを中心に構築しています。写真がアップロードされると、バックグラウンドで複数の処理が走ります。AWS Lambdaでサムネイル画像を生成したり、顔認識やセンシティブ写真チェックのAPIを呼び出したり。

アップロード枚数が増えたら処理するサーバーを自動で増やすオートスケールの仕組みも入れているので、負荷に応じて柔軟に対応できています。

――負荷が集中するタイミングはありますか

本間:ハロウィンや節分など、行事がある日ですね。運動会や遠足の場合は、外部のカメラマンが撮影して後日アップロードするので、タイミングが分散します。

一方、ハロウィンやクリスマスといった園内の行事は、保育者が貸し出し用の端末で撮影することが多いんです。撮影した写真は園のWi-Fiに繋いでその日のうちにアップロードされるので、行事当日の午前中に一気に集中するんです。そういったピークにも耐えられるよう、先ほどお話ししたオートスケールの仕組みで対応しています。

しかし、写真データの保管コストについてはまだまだ課題を抱えています。いかに保管コストを下げるかは、まだまだやりがいがある領域ですね。今後取り組んでいきたいテーマの一つです。

――技術スタックについても教えてください

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本間:サーバーサイドはRuby on Railsを使っています。Railsはフレームワークとしての完成度が高く、社内のエンジニアの習熟度が高かったことから選定しました。

セキュリティやパフォーマンスといった基本的な部分はフレームワークが担保してくれるので、私たちはつくりたい機能の実装に集中できます。また、RubyとRailsは毎年メジャーバージョンが上がっていて、新機能や改善が継続的に入っています。コミュニティがしっかりメンテナンスを続けてくれているので、安心して使い続けられる点も魅力でした。

――開発環境でのAI活用についてはいかがでしょうか

本間:開発本部全体で、1人1台AIエディタが無料で使えるようになっています。GitHub Copilot、Cursor、Claude Codeなどから選べます。月1回ぐらいで「こういう使い方が便利だった」というナレッジ共有会も設けていて、みんなで効果的な活用方法を学んでいますね。

また、エンジニアだけでなく、プロダクトマネージャーやデザイナー、QAエンジニアもAIエディタを使っているので、コーディング以外の活用事例も出てきています。

藤塚:具体的な事例でいうと、音声を活用したプロダクトのプロトタイプ開発があります。通常なら3カ月程度かかる規模でしたが、AIエディタを活用することで半分以下の期間で完成できました。

システムを理解し、手も動かせる。求めるのはプレイングマネージャー

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――ルクミーフォトチームでは、どのようなエンジニアを求めていますか

本間:技術的なスキルももちろん大切ですが、最も重視しているのは会社のビジョンへの共感です。自分ごととしてサービス開発に携わっていただける方だと、モチベーション高く働けると思います。ユニファには子育て世代の社員が多く、メンバー自身がサービスの必要性を実感しながら開発に取り組んでいます。

技術面でいうと、AWSのインフラを活用して、写真の処理をバックグラウンドでさばくようなところに興味や経験がある方は、すぐに活躍いただけると思います。S3やLambda、SQSといったサービスを使った開発ですね。

――将来的にEMを担える方も求めているとお聞きしました

本間:はい。今後、ルクミーフォトチームを分割する構想があります。ゆくゆくは、そのうちの片方のチームでEMを担っていただきたいと考えています。

ルクミーフォトは巨大なシステムで、歴史もあるサービスです。技術的な判断が必要な場面も多いので、システムを理解した上でチームをリードできる方が向いていると思います。場合によっては自分で手を動かして修正もできるという方だとありがたいですね。

ただ、入社後すぐにEMをお任せするわけではありません。まずはエンジニアとしてシステムの理解を深めていただいてから、マネジメントを担っていただくことを想定しています。

――働き方についても教えてください

本間:居住地を問わずフルリモート勤務が可能です。ドキュメントやチャットでのコミュニケーションを前提とした開発スタイルなので、場所を選ばず働くことができます。

年間1億枚以上の写真基盤を刷新。難易度の高いプロジェクトが始まる

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――ルクミーフォトの今後の展望を教えてください

本間:写真販売サービスとしてスタートしたルクミーフォトは、今では大きく進化しています。連絡帳への連携、連携している保育ICTサービスへのAPI提供、AIを活用したサービスへのデータ提供と、写真の活用先が広がり続けています。今後はカレンダーなど写真以外の商材も扱っていく予定です。

こうした成長に対応するために、大きく2つの軸で大規模なリニューアルを計画しています。1つ目はECサイト側。購入しやすいUI/UXへの改善を、高いサイクルで回していきたいと考えています。2つ目は裏側のサービス。写真や動画を保管するマイクロサービスとして、さまざまなサービスから利用できる基盤にしていく構想です。データ構造の設計やAPI設計も含めて取り組んでいきます。

――技術的にはどのようなチャレンジがありますか

本間:年間で最大1億枚を超える写真を扱っているので、過去数年分の写真を検索しても、現実的な速度で結果を返せるパフォーマンスが求められます。

また、サービスを止めずに新しい構成へ移行していく必要があります。移行設計も含めて、やりがいのあるプロジェクトになると思っています。

――AI連携の展望についても教えてください

藤塚:いくつか構想があります。まずは顔認識の精度向上、それから良い写真を優先的に表示するためのスコアリングです。

さらに、自然言語で写真を検索できる機能も考えています。先生が卒業アルバムを作成するときに、「クリスマスの写真」「運動会の写真」と入力すれば該当する写真が見つかる。顔認識と組み合わせれば、「この子の運動会の写真」という検索もできるようになります。

本間:将来的には、動画や音声といったメディアも扱っていきたいですね。

――最後に、読者へメッセージをお願いします

本間:ルクミーフォトは、ユニファの創業時から続くコアサービスです。保育という社会課題に向き合いながら、年間1億枚規模の写真基盤を進化させるという技術的にもやりがいのあるチャレンジが待っています。社会貢献と技術的な挑戦を両立したい方、ぜひ一緒に取り組みませんか。