人事ERPシェア1位*、20年以上の大型システムに変革を。技術的負債の解消と開発者体験の向上に本気で取り組む
1996年に誕生した大手法人向け統合人事システム「COMPANY」の開発・提供を行う、株式会社Works Human Intelligence(以下、WHI)では、会社の重要施策の1つとして開発生産性向上プロジェクト「Development capability Improvement Project(以下、DIP)」を進行中です。
約1,200法人グループが利用する大型パッケージシステムで、技術的負債を解消しながらアジリティの高い環境へ移行するには、どのような課題解決プロセスを歩むのでしょうか。DIP発起人であるDMO新村さんと、製品開発の現場から技術的負債に向き合うTechnical Executiveの足達さんに、変化する開発現場のリアルと、このタイミングでWHIに入社する魅力について聞きました。
プロフィール
DX推進室 DMO(Division Management Office)
新村北斗さん
SIerを5年経験し、中途入社。「COMPANY」の製品開発を経験した後、新製品の開発、営業、導入コンサルを経て、製品のクラウド化に伴いSREの立ち上げを担う。2022年から現職。
就労管理プロダクト開発部門 Technical Executive
足達穣さん
2003年に新卒1期生として入社。勤怠管理領域の製品開発を約10年経験した後、SaaS開発の技術基盤チームに参画。その後SREを経て、現在は勤怠管理領域の開発をしながら既存製品のクラウドシフト/モダナイズの推進に取り組んでいる。
技術的負債を解消することの重要性が伝わり全社施策に
ー まずは「COMPANY」の技術的負債の特徴を教えてください。
足達:「COMPANY」は約1,200法人グループが利用し、約510万名の人事データを管理する、ERP市場 人事・給与業務分野 シェアNo.1*の製品であり、人事管理、給与計算、勤怠管理、タレントマネジメントなど、人事にまつわる業務領域を広くカバーしています。個社ごとのカスタマイズをせず、標準機能に全ての機能を搭載することで、業務網羅性が高く、複雑な日本の人事制度への適応性が高いと、評価をいただいてきました。
しかし機能が豊富になると同時に、システムは肥大化し、複雑性が高まってしまいました。今後もお客様のニーズにスピーディに応え、進化を続けていくために、よりアジリティの高い技術環境に移行していく必要があるのです。
* 2022年度 ERP市場 - 人事・給与業務分野:ベンダー別売上金額シェア(出典:ITR「ITR Market View:ERP市場2024」)―どのような経緯で開発生産性向上プロジェクト「DIP」が始動したのですか?
新村:SREとして活動していた当時、解決が難しい問題が多く、開発組織全体に閉塞感を感じていました。そこでさまざまな部署の開発者と1on1を行った結果、「必要なツールが使えない」「承認を得るまでのプロセスが長い」「情報の正確性がわからない」といった、開発者体験を損ねる障壁があることがわかりました。
また同時期にCTO協会が提唱する“2つのDX”という概念を知り、Digital TransformationとDeveloper Experience(開発者体験)は両輪で進めていくべきだ、という考え方に強く賛同しました。組織筋力を測るDX Criteriaを試したところ、当然、結果はよくありませんでした。
そこで経営層や投資家へ、技術的負債の解消の重要性を伝えましたが、「それよりもお客様がすぐに使える機能開発を優先してほしい」となかなか理解を得られませんでした。ところが、「COMPANYのコードは数千万行以上あります」という一言をきっかけに、その規模感と重要性が伝わり、社をあげて「DIP」を推進できるようになりました。今では開発工数の10%を割いて、肥大化と複雑化の解消に取り組み、同時に開発者体験の向上にもつなげています。
― 「DIP」始動後は具体的にどのような変化がありましたか?
新村:一気に開発環境の改善が進みました。ハイスペックなPCの利用とともにフリーアドレス制を導入し、今ではリモートワークが基本の働き方になりました。入社時に10万円のリモートワーク手当が支給されるため、自宅の開発環境も十分に整えていただけます。
またGitHubやSonarQubeを導入しコードの品質管理をしやすくする取り組みもありました。
足達:PCスペックが変わるだけでビルドのスピードが劇的に変化し、Copilotのサジェスト精度も向上します。なにより使いたいマシンとツールで仕事ができることは、開発者のやる気に直結しますよね。
新村:開発者のみんなには、「使いたいマシンやツールがあったら私たちが導入を推進するから、どんどん教えてほしい」と伝えています。すると現場からは「開発環境をよりよくしていく、強い味方が現れた」という声をもらうようになりました。この反応はとてもうれしかったですね。
技術的負債に取り組むため組織体制を変更
― 理想的な環境ですね! 組織編成の観点ではどのような変革がありましたか?
新村:テクニカルリードの責務を専任する「Technical Executive」という役職をつくりました。これまでは部門長が、プロダクトオーナー、ピープルマネジメント、そしてテクニカルリーダーという3つの責務を兼任していましたが、1つの部門は100名という規模です。1人でその3つの責務を担うには、規模が大きすぎます。業務を分割し、その2人が同等の役職者として部門をまとめる体制になりました。
足達:私はこれを機に、部門長からTechnical Executiveになりました。これまでは3つの役割を担っていたので、緊急で対応しなければならないことや組織マネジメントなど、複数の業務で手一杯でした。今は技術的負債の解消と開発者育成に集中して取り組めるようになったので、大きな変化を感じます。
― 技術的負債への取り組みとは、どのようなことをしていますか?
新村:冒頭に申し上げたように「COMPANY」の開発課題は、肥大化と複雑化です。そのため、まずは不要機能の削減を進めており、お客様とのコミュニケーションを担当する社内のコンサルタントや営業と、毎週ミーティングで議論しながら機能整理をしています。
ー 営業やコンサルタントと一緒に進めるんですね。
足達:そうですね。「COMPANY」はワンソースですべてのお客様の課題解決を行なっているため、多くの機能が実装されています。一方で、今ではあまり使われなくなった機能も紛れていると、営業やコンサルタントも混乱しますし、お客様への説明が増え負担にもなります。本当に使える機能が厳選されている状態であることが、営業やコンサルタント、そして何よりお客様にとって最適なことなんです。だから立場は違っても共通認識を持って、技術的負債に向き合っています。
― 営業やコンサルタントは開発の味方になっているんですね。ところで技術的負債への取り組みは、新機能追加や不具合修正に比べて、評価されにくいということはありませんか?
新村:決してそんなことはありません。大前提として「DIP」は会社の5大施策の1つとして重要視されているので、このプロジェクトに関わること自体が誇らしいと感じている社員も多いです。
また当社の評価制度では、目標達成を基準とする「MBO評価」と多面的なフィードバックを受ける「Value評価」という、2つの評価指標があります。DIPの活動ももちろん目標に定めることが可能で、実績や成長も正しく評価されます。
アジリティを高める開発手法へのアプローチ
― リリースサイクルのスピードアップという観点では、どのような取り組みがありますか?
足達:現在は1ヶ月単位のイテレーションで開発し、3ヶ月分をまとめてリリースしています。勤怠や給与に関わる重要な基幹システムなので、1度のリリースに慎重さが求められているという面から、現在のリリース頻度は年に4回です。
しかし、新規サブシステムを公開した時にはもっと早くフィードバックループを回したいですし、もっと早くパッチの提供をしていくべきだと考えています。そこで、大きく2つのアプローチでリリース最適化を進めています。
1つは、開発着手からリリースまでのリードタイムを短くするための取り組みです。CI/CDやQEに携わる専任チームをつくり、パイプラインの整備やテスト自動化によるシフトレフトに取り組んでいます。
また、現状はCOMPANYシリーズの中でも「人事」「給与」「勤怠」の3製品はまとめてリリースを行っていますが、これを製品ごと、あるいは製品内のさらに小さなモジュール単位に分離することにも取り組んでいます。これにより影響範囲を限定し、より小さく早くリリースが行えるようになります。
もう1つはデプロイの頻度を改善していくことです。SaaSであればリリースされたものは即時デプロイされるのが一般的だと思いますが、「COMPANY」はまだこの部分が最適化されていません。リリースされた新バージョンをお客様の環境にいつデプロイするのかは、お客様とご相談の上決定しています。
まずは修正パッチを、我々のリリースに合わせてお客様環境に随時デプロイできるように改善を行っています。今後も継続してアジリティを高めていくことで、SaaSとしてより早くお客様に価値を提供できる製品に進化させたいと考えています。
― アプリケーションの変更を含む、大規模な施策のようですが、進行する上で注意していることはどんなことがありますか?
新村:600人の開発組織全体で取り組むことなので、開発活動のメトリクスを重視しています。Metabaseを使い、工数、チケット、ソースコードなどの情報を可視化したり、開発チーム単位のメトリクスを閲覧可能にし、マネージャーだけでなくチームの誰もが活用できるようにしています。
― プロジェクトは着実に進行しているようですが、課題はありますか?
新村:そうですね。開発手法を変えるということは、知見がないものに挑戦するということです。それは開発者の成長と同義だと思っています。
ソースコードの改善のためには既存コードやフレームワークへの理解や、リファクタリングスキル、CI/CD、クラウドサービスの知識など、さまざまな事柄を勉強して取り入れないといけません。
― なるほど。開発者の成長をサポートする仕組みはありますか?
新村:研修サポート制度はいろいろありますが、最近では業界でも一目置かれるような専門性と権威性のある方を講師にお招きし、勉強会やワークショップを開催しています。
今年9月にはテスト駆動開発の第一人者による、テストコードのあるべき姿や品質スピードに対する考え方をテーマとした、講義とワークショップを行いました。また、コード解析や品質管理の専門家に当社のソースコードを実際に見ていただき、分析や品質向上についてディスカッションを行いました。
足達:当社の開発者は皆、勉強熱心で最新の開発手法についてもよく知っています。実践形式のワークショップやディスカッションを通して、業務に落とし込むところまでの機会提供をしています。
「難しいことは楽しい」を体現するならWHI
― WHIは今まさに変革の時なのだとわかりました! おふたりにとって今、WHIで働くことの魅力はなんでしょうか?
新村:DIPは完遂型プロジェクトではなく、開発文化を少しづつ丁寧に変えていく変革プロジェクトです。2027年までにという区切りは設けていますが、その後もずっと続けていきます。
これは私の仕事観ですが、今は開発のみんなでわいわい取り組む、熱中できるものを見つけた感覚です。この先DIPの目標を達成した次は、どんなことにわくわくできるだろう。そうやって仕事を楽しんでいるんですよね。
足達:新村の「はたらくを楽しむ」姿勢は、当社のバリューの1つでもあります。私は新卒からずっと勤怠管理プロダクトに携わっていますが、まだここでやりたいことが山のようにあるんですよね。つまり私にとっては、新村が言った“熱中できるもの”が、ずっと目の前にある状態とも言えます。完全クラウド化が実現できたとしても、本当にやりたいことはもっと先にありますから。
― WHIでしか経験できない、仕事のおもしろさはありますか?
新村:1つはとにかく社会への影響力が大きいことです。COMPANY製品は大手企業さまに導入いただいており、各社の担当者さま同士が企業の垣根を越えて交流する機会も提供しています。すると法改正による人事視点での困りごとについて、意見が一致することもよく発生します。
そうした時に、お客様の声を集めて要望書を作成して政府へ提出したことで、制度を変えた事例もありました。さらに今では法制度の施行前に、「現場の声を教えて欲しい」と政府から協力要請をいただくことも増えてきました。このように日本全体の「はたらく」をもっと楽しくできている実感を得られるのは、当社ならではだと思います。
足達:また技術者としては、単一アプリケーションにはない複雑性があるので、純粋に開発がおもしろいです。20年以上継続していてもまだ新しい発見に出会えるんですよ。
私が担当している勤怠管理領域で向き合っているのは、人の働き方そのものです。労働基準法や条例で最低限定められたルールの上に存在する、多様な働き方を「COMPANY」というワンソースの製品でいかに実現させていくのかを考えることは、とても複雑で、とてもおもしろい。
新村:その難しさを技術的にどう解決させていくかは、技術者としての腕の見せ所ですね。大規模システムの複雑さこそおもしろい。挑戦のしがいがある。そう感じてくれる開発者と一緒に働きたいですね。