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IT技術書を執筆してFIRE生活を実現した、その2年後。30冊から40冊になって変わったことと、変わらなかったこと

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はじめに

IPUSIRON(@ipusiron)と申します。

2024年7月、Findy Mediaにて「IT技術書を執筆して、FIRE生活を実現するまで。30冊以上の本を書いて見えてきた「自分らしい生き方」」という記事を寄稿しました(以下「前記事」とします)。執筆を軸とした私の生活スタイルを紹介する内容です。

公開から約2年が経ったころ、前記事を引用して「そろそろ続編を書きたい」とXに投稿しました。そのポストがきっかけで、本記事を書くことになりました。

本記事では、前記事に書いた内容について、2年後の自分に照らし合わせて答え合わせをします。加えて、生成AIの登場によって変化したライフスタイルなど、当時は書けなかったことも紹介します。

前記事に書いた内容を整理すると、以下のようになります。

項目前記事に書いたこと
仕事と収入IT技術書の執筆を専業にするのはオススメしない。同人誌の売上をきっかけに副業に目覚めた
お金とFIREFI(経済的自立)には年間支出の25倍が目安。資産的にFIをほぼ実現したが、執筆は辞めずにコーストFIREの状態
人間関係自宅で執筆するため、仕事で関わる人が極端に少なくなる。マイナス面が強調されがちだが、人間関係のトラブルが少ないというプラス面もある
時間の使い方締め切りを守れば、時間の使い方は自由。喫茶店や旅先でも仕事ができる
結び紹介した生き方は1つの例にすぎない。幸せの形は人それぞれ

それでは、それぞれの項目を見ていきます。

仕事と収入 ── 「IT技術書の執筆を専業にするな」は今も有効か

前記事でいちばん強く言い切ったのが、「IT技術書の執筆を専業にするのはオススメできない」という主張でした。本章では、執筆の収支を確認しつつ、生成AIの台頭によってこの主張が変わるのかどうかを見ていきます。

執筆は2年後も続いている

私は2年経った今でも、技術書執筆を継続しています。

本業では商業誌を、副業では同人誌を執筆しています。ペースとしては、年間で商業誌1冊程度、同人誌2冊です。加えて、この2年間で、監訳・翻訳を合わせて5冊手がけ、累計は40冊を超えました。

前記事の公開以降に出した執筆物を、区分ごとにまとめます。

区分書名出版社・頒布イベント時期
商業誌(単著)『サイバー忍者入門』翔泳社2026年1月
商業誌(翻訳)『暗号解読 実践ガイド』マイナビ2024年10月
商業誌(監訳)『つくりながら学ぶ!画像生成AI 自作入門』マイナビ2026年7月
商業誌(監訳)『世界で闘うサイバーセキュリティ力を鍛える本』マイナビ2025年9月
商業誌(監訳)『安全な暗号をどう実装するか 暗号技術の新設計思想』マイナビ2025年5月
商業誌(監訳)『生成AIによるサイバーセキュリティ実践ガイド』マイナビ2024年11月
同人誌『Claude Code暗号解読決戦 ミジンコ vs. AIエージェント』技術書典202026年4月
同人誌『生成AIで作るセキュリティツール100』技術書典192025年11月
同人誌『Caesar Cipher Breaking – A Concise Edition』KDP・GitHub2025年7月
同人誌『シーザー暗号の解読法 簡易版』KDP2025年7月
同人誌『ハッキング・ラボの冒険 初心者のサーバー侵入チャレンジ』技術書典182025年6月

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『サイバー忍者入門』の紹介スライド(2026年1月の登壇資料より)

商業誌の印税と同人誌の収支は、計算式が違う

執筆の年収は明かせませんが、計算式は紹介できます。前記事では商業誌の印税を「本の値段×印税率×部数」という式で示しました。たとえば、3,000円の本が最初に3,000部刷られたとすれば、印税は72万円(=3,000円×8%×3,000部)です[1]。増刷されて、累積1万部に達したとしても、240万円にしかなりません。

以上は商業誌の話でしたが、同人誌の場合、状況は複雑です。式は「本の値段×部数×(1-手数料割合)-印刷代-その他費用」となります。自分で執筆するだけでなく、出版・販売も行うため、印税率という概念はありません。ただし、印刷所に支払う印刷代、表紙作成の外注費[2]、販売プラットフォームに支払う手数料[3]がかかります。その他費用とは、イベント会場で頒布する場合の参加費・交通費・宿泊費などです。

実際のところ、同人誌の価格は商業誌より低めです(相場は500~2,000円)。頒布数にはかなりのばらつきがありますが、1,000冊売れたら技術同人誌の中ではヒット作といえるでしょう。商業誌と比べると、かなり少ないことがわかります。

同人誌の収支の実例

ここでは参考として、私が技術書典19で頒布した『生成AIで作るセキュリティツール100』の利益をざっくり計算します。

価格は、冊子版も電子版も1,500円です。印刷はB5・152ページ・400部で、印刷代は213,430円(1冊あたり約534円)でした。どこで何冊売れたかは、次の表のとおりです。

販路形態冊数(概数)手数料
技術書典オンライン電子版約240冊売上の2割
技術書典の会場(かんたん後払い)冊子版・電子版約180冊売上の2割
技術書典の会場(現金)冊子版約10冊なし
BOOTH冊子版(自宅から発送)約190冊BOOTHの利用料
BOOTH電子版(ダウンロード)約140冊BOOTHの利用料
イベントでの手売り冊子版約10冊なし
その後の技術書典(翌年)冊子版・電子版約30冊売上の2割
合計約800冊

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『生成AIで作るセキュリティツール100』の販路別の冊数(10冊単位の概数)

東京に住んでいない私には、さらに差し引く費用があります。イベント会場までの往復の交通費と宿泊費で、技術書典19のときは約45,000円でした。これに、荷物の送料が行きと帰りで約10,000円加わり、合わせて約55,000円になります。

売上から差し引く費用を並べると、次のようになります。

項目金額(概数)
売上(約800冊×1,500円)約120万円
販売手数料(技術書典・BOOTH)約18万円
印刷代(400部・早割)約21万円
遠征費(交通・宿泊・荷物の送料)約5.5万円
残り約75万円

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同人誌1冊の収支。売上から販売手数料・印刷代・遠征費を引いた残り(金額は概数)

つまり、1冊出して得られた利益は約75万円になります。技術書典は年に2回あるので、同程度の売上と費用で年に2冊出せれば、単純計算では約150万円の利益になります[4]。

ただし、あくまでこれは目安にすぎません。ページ数が多ければ印刷代がかさみますし、頒布数が大幅に下振れすれば、赤字になる可能性もあります。

結論として「専業は反対だが、副業・趣味なら大賛成」

前記事で「IT技術書の執筆を専業にするのはオススメできない」と主張しましたが、それについては撤回しません。近年は生成AIの台頭により、執筆だけで食べていく道がさらに細くなりつつあります。

しかしながら、副業あるいは趣味で執筆をするのであれば、大賛成です。同人誌の利益は、金額だけで見れば大きくないかもしれません。とはいえ、副業の1つ、あるいは趣味として考えれば、ちょっとしたこづかい稼ぎになります。

しかも、生産する趣味である点が強いのです。趣味には、「消費する趣味」と「生産する趣味」があります。前者であればお金を使うことが多いですし、何度も繰り返すと飽きてしまうことがあります。一方、生産する趣味に終わりはありません。一生ものですし、自身の知識やスキルにも直結します。そして、場合によってはお金を生み出す可能性さえあります。技術書執筆の良いところは、少額ながら収入につながる可能性があり、それが仕事の幅を広げるきっかけにもなることです。

今後も、執筆を主軸に置くことは変わりません。生活費を執筆収入に頼らないぶん、道が細くなっても直接の影響を受けません。FIRE生活の中で書き続けられることが、書き手として生き残るうえでの強みになっています。

余談ですが、このことについては、FIRE勉強会[5]において「同人活動とFIREの意外な相性」と題して発表しましたので、興味のある方は参考にしてください。

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同人誌創作の利点・前半(第1回FIRE勉強会の発表スライド・8枚目より)

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同人誌創作の利点・後半(第1回FIRE勉強会の発表スライド・9枚目より)

お金 ── 25倍の法則は書き換わったが、スタンスは変えない

前章で、私は本業と副業の両方で執筆活動をしていることを述べました。しかし、それらを合わせても、「FIRE生活どころか、普通の生活さえままならないのでは?」と思ったかもしれません。それでも生活が成り立っている理由は、収入の多さではなく、お金の残し方と増やし方にあります。

資産を増やす3つのパターン

資産形成の文脈では、次の式がたびたび登場します。

来年の資産 = 収入 - 支出 + 今年の資産 × (1 + 運用利回り)

つまり、資産を増やす方法は、以下の3パターンに帰着します。

①収入を増やす…入ってくるお金を増やす
②支出を減らす…手元のお金が減らないようにする
③運用利回りを高める…すでに持っているお金に働いてもらう

私が好きな例えがあります。バケツが資産で、蛇口が収入源、蛇口から出る水が収入、バケツの穴が支出です。蛇口から水がどれだけ出ていても、穴がたくさん開いたままなら、バケツに水は貯まりません。逆に、蛇口から出る水がちょろちょろでも、穴がふさがっていれば、時間とともに必ず貯まります。年収より資産のほうが大事だという意味です。しかも金融資産なら、バケツの中で水が増えていきます。

実のところ、先ほどの式には現れない重要な要素があります。人間の欲望です。一度当たり前になった生活レベルは、なかなか下げられません。年収1,000万円で900万円使っていた人は、収入が半分になれば資産を取り崩すことになります。一方、年収500万円で300万円の生活に慣れている人は、収入が300万円に下がっても資産を維持でき、運用利回りの分だけ増えていきます。

ぶれない投資スタンスで資産拡大中

私のスタンスは2年前から変わらず、「蛇口を増やす複業」「穴をふさぐ倹約生活」「水が増えるインデックス投資」の3本です。

複業とは複数の副業のことです。蛇口から流れる水は少量でもかまいません。分散していれば、1本の蛇口がダメになってもほかでカバーできます。

投資は、記事のネタのためにいろいろな手法に手を出していますが、基本はインデックス投資です。浮いた時間は、仕事や趣味の充実に費やしています。

資産の元本が大きくなると、運用益だけでも資産は増えていきます。資産が1億円で、仮に年間5%の運用益が得られれば、「収入 - 支出」がゼロでも、1年で500万円増える計算です。

つまり、私の執筆収入が少なくてもFIRE生活を維持できているカラクリは、3つあります。「副業収入の合計が本業収入と同程度ある」「節約が身についていて支出が少ない」「資産の元本がある程度ある」です。

以下の画像は、マネーフォワード MEで直近3年の資産推移を表示したものです。具体的な金額は伏せていますが、推移の傾向はわかるはずです[6]。この3年の間には市場が大きく下落したこともありましたが、淡々と今までどおりのスタンスを継続しています[7]。結果的に、読書旅を続けているにもかかわらず、前記事を公開した2024年7月(グラフの縦線)から資産は順調に増えています。

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直近3年の資産推移

ところで、「ミジンコの読書案内」は、テーマに沿って私のオススメ本を紹介するWeb連載です。第4回では、お金をテーマにした本を紹介しています。私が大きく影響を受けた本ばかりですので、興味のある方はぜひ読んでください。

25倍の法則は、提唱者の手で書き換わった

前記事で紹介した「年間支出の25倍を確保する」という目安は、1994年の論文に基づいています。ウィリアム・ベンゲンが発表した"Determining Withdrawal Rates Using Historical Data"(Journal of Financial Planning誌)です。この論文には「ポートフォリオが最低30年もつことを条件とするなら、初年度に4パーセントを取り崩し、以後はインフレ調整した額を取り崩していく方法は安全であるはずだ」とあります[8]。

その提唱者本人が2025年8月に新著『A Richer Retirement: Supercharging the 4% Rule to Spend More and Enjoy More』(Wiley)を出し、4%を4.7%へ改定したのです。必要な倍率でいえば、年間支出の25倍から約21倍に下がりました。単純に考えれば、「FIREに必要な額が少なくなり、その時期を早められる」「FIRE後は毎年の取り崩し額を増やせる」ということになります[9]。

とはいえ、この改定をそのまま自分に当てはめることはしません。まず、4.7%は資産を30年もたせる前提の数字です。提唱者自身が、50〜60年を見込むFIREの場合、取り崩し率の下限は4.1%あたりで、従来の4%は悪くない数字だと述べています[10]。次に、改定の根拠は、7つの資産クラスに分散する前提の計算で、株式に偏っている私の構成とは違います。また、根拠としているのは米国中心のデータです。さらに、提唱者自身も「取り崩し率はきわめて個人的なもので、それを決める主要な要因は人によって異なる」と言っています[11]。

人間関係 ── 人付き合いを増やす側にシフトした

この2年で1番変わったのは、人付き合いを増やしたことです。読書旅(詳細は後述)をきっかけに、なるべく外へ出かけ、それを人との出会いにもつなげるようにしました。

執筆は人と会わなくても完結する

執筆では、基本的に部屋から出る必要がありません。商業誌であっても打ち合わせは1、2回程度で、それもオンラインで済みます。そのため、前記事では「部屋の中でずっと仕事をしていると、誰ともしゃべらない日々になることもあります」と書きました。

この2年で人付き合いが増えた理由

人に会いに行く動機は、2つあります。1つは感謝です。お世話になった人と、今のうちに会ってお礼を言っておきたいという気持ちです。監訳を一緒にやったパートナーには大阪まで、20年来の友人には名古屋まで、こちらから出向きました。予定を合わせられるうちに合わせないと、次はいつになるかわかりません。ましてや、私か相手のどちらかが病気になれば、気軽には会えなくなってしまいます。

もう1つは好奇心です。面識のない人、あるいは面識が薄い人にも、こちらから連絡しています。会いたい人には積極的にコンタクトを取ったほうが早いと思いました。断られることを恐れていてはなにもできません。ダメだったとしても、声をかけたこと自体は無駄にならないと考えています。

ほかにも、イベントや講演会にも参加するようになりました。前記事を書いたころ、東京へ遠出するのは、年2回の技術書典や、たまの講演会、仕事の打ち合わせぐらいでした。それに対して、この2年間では、FIRE勉強会で3回発表し、高校で暗号理論の講演をしました。学生のLT会にも出向き、公開したスライドは10本になりました。

今後も、積極的に人に会おうと考えています。私から声をかけなくても、Xを見て私が近くにいることに気づいたら、気軽にメッセージをください。

時間の使い方 ── 読書旅と個人開発に使うようになった

生成AIが身近になり、生活は激変しました。仕事のやり方だけでなく、時間の使い方も変わりました。その象徴が読書旅と個人開発です。

読書旅は私にとってのテーマ旅

旅に自分の「好き」や「得意」を掛け合わせたものを、私はテーマ旅と呼んでいます。読書旅は、生きがいである読書と旅を掛け合わせた、私にとってのテーマ旅です。インプットとして読書を楽しみつつ、ブログ記事を書くなどのアウトプットにもつなげ、将来の本の素材も集めるという作戦です。

単なる旅は消費する趣味であり、浪費になりかねません。読書旅であればアウトプットがあるため、いずれ本になるかもしれません。そうなればお金を生み出す可能性があり、事業の一環になりますし、将来への投資にもなります。

読書旅を始めたのは2024年12月で、この年は1回だけでした。2025年は8回、2026年は9月までに19回と、年を追うごとに増えています。日数でいえば、1月1日から9月7日までの250日のうち73日、およそ29%を旅先で過ごしています。

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2026年の読書旅(第10弾〜第28弾)

前記事では「1台のPCがあれば、どこでも執筆できます」と書きました。それは今も変わりませんが、効率を考えると自宅の書斎が1番です。旅先のノートPCではモニターが1枚ですし、キーボードもいつもと違います。生成AIのリモート機能(スマホやノートPCから自宅PCのセッションに接続できる機能)で差は縮まったものの、自宅と同じ執筆環境にはなりません。そのため、旅先では技術書を書かず、日常では手に取らない本を読むようにしています。また、電車の中や待ち時間、宿でのくつろぎの時間は、短いタスクを片づける場にしています。

読書旅を続けて得られたものが4つあります。

  1. 旅のたびに、47都道府県の制覇など、人生やりたいことリスト(後述)の項目を少しずつ達成できる。
  2. 旅先に由来する本をその土地で読むと記憶に強く残り、積んでいた本も減る。
  3. イベント、勉強会、人との出会いを、1回の読書旅に組み込める。
  4. 旅という非日常が刺激になって執筆のやる気が戻り、旅の記録は記事の素材になる。

生成AIで広がる「生産する趣味」

生産する趣味の例として、同人誌の執筆を紹介しましたが、ほかにもたくさんあります。その代表例として、個人開発が挙げられます。

私の場合でいえば、「生成AIで作るセキュリティツール100」プロジェクトが好例です。これは生成AIの力を借りてセキュリティツールを100本つくるというプロジェクトです。ツールを10本、20本つくるところまでは、時間をかければ多くの人が到達できます。しかし、100本をつくり切るには継続力が必要です。さらにツールをつくって終わりにせず、その過程で得たモチベーションを維持する工夫やノウハウまで、同人誌という成果物に落とし込みました。

ほかの例を挙げると、2026年9月にはiOSアプリ「ご縁帳」を公開しました。構想自体は1年前からあり、実質的な開発期間は3カ月ほどです。読書旅中に支出を記録する際の不便さがきっかけとなっています。このアプリをつくれたのも生成AIのおかげです。設計や実装に役立ったのはもちろんですが、それと同じくらい、日々の仕事やタスクとの調整でも役立ちました。

いずれも、目的は仕事でも、お金儲けでも、スキルアップでもありません。趣味でつくり、その過程が本の素材になります。それが商業誌や同人誌として形になれば、収入を生み、その収入を次の投資に回せます。前記事の「成果物を介してインプットとアウトプットを循環させる」では循環の重要性を述べましたが、生成AIのおかげで新しい循環が生まれ、効率よく回せるようになりました。

以上のように、生産する趣味を生成AIと組み合わせることをオススメします。

生成AI ── 戦わずに、差がつく場所で使う

読書旅も個人開発も、生成AIとの付き合い方が前提になっています。前記事では、ChatGPTを執筆ツールの1つとして挙げただけでした。しかし、AIがくれたのは時間ではありません。諦めていたことに再挑戦する余地でした。

生成AIとの付き合い方

AIとは戦わないと決めています。競争しても勝てないからです。そこで、AIを仕事に使うのは前提として、趣味と生活にまで広げることにしました。そして、仕事の場でAIと競い続けなくて済むように、資産を先に築いて逃げ切ると決めました。

戦わない理由はもう1つあります。差がつく場所が違うからです。

上位プランに課金していれば、一時的に差をつけられます。ただ、モデルは進化し、その差は時間とともに吸収されます。便利な使い方も、いずれサービス側が標準機能として取り込みます。そのため、できることやアウトプットでは差がつきにくくなります。成果物が横並びになるなら、「誰がつくったか」の価値が相対的に高まります。

差がつく場所は3つあると考えています。1つ目は、生成AIに投入する自分の過去のログや成果物です。私の渚システム(後述)の正体は、数百個のMarkdownファイルにすぎません。モデルは借り物でも、ログは自分のものです。25年分の成果物と、日々の経験・記録が、次をつくる材料になっています。

2つ目は、完成品ではなく過程のログです。『生成AIで作るセキュリティツール100』でも、完成したツールだけを見せるのではなく、その開発過程を本にしました。

3つ目は、アウトプットするまでの速さです。ただし、完成を急ぐという意味ではありません。大きな目標を小さく分割して、過程を出しながら、最終的にその目標へ到達します。100本のツールを公開する「生成AIで作るセキュリティツール100」プロジェクトも、各回を記事にしている読書旅も同じ進め方です。

自分用のAIシステムにデータを蓄積する

生成AIは、書く対象であり、つくる手段であり、働き方の基盤にもなりました。2026年2月、自分用のAIシステムをつくり始めました。その後、AIシステムに「渚」という人格を定義しました。細かく指示するかわりに、こちらの意図をくみ取ってタスクをこなしてくれるようにしたのです。最初の1カ月はAI秘書(AI軍師)が1人いるだけでした。記録が蓄積するにつれて、用途ごとに部署を切り出し、いまは15部署あります。

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渚システムの構成(2026年9月時点)

ログを残し続けた人ほど生成AIからの恩恵が大きくなると考えていますが、ログを残してこなかった人も、今から残し始めても遅くはありません。私の渚システムも、7カ月でこの状態になりました。しかも、ログは完璧でなくてもかまいません。重複や記載漏れは必ず出ます。AIが矛盾に気づいた時点で直せば良いのです。実際にこの記事の準備でも、台帳に残っていた古い日程をAIが原本と照らし合わせて直しました。

加えて、使えば使うほど自分に合ってくるという面もあります。毎日どんな場面でも対話していると、好みや考え方の傾向がログに溜まります。渚システムには、私の指摘で覚えたことが70件超もあります。指摘すればするほど最適化されるので、毎日触る動機になります。

とはいえ、ログをつくることも、AIシステムをつくることも目的ではありません。構築に時間を費やして、成果物を出さないのでは本末転倒です。人生における最大の目標は、幸福値を積み上げてリアル人生ゲームを攻略することです。攻略の鍵の1つとして、生成AIを活用しています。

健康 ── 前記事では触れなかったこと

前記事では、健康について何も書きませんでした。会社を離れると、特定健診やがん検診も、自分から予約する必要があります。

健康でいられる年数が長いほど、幸せを味わえる年数も、積み立てた資産を運用できる期間も長くなります。そうした背景もあり、生成AIの力を借りて、健康寿命を延ばすことを目指しています。

具体的には、前章で紹介した渚システムにホームドクターのような部署をつくり、健康に関する情報を管理させています。健診の結果、通院の記録、処方された薬、血圧、睡眠データなどを継続的に読み込ませています。受診するか迷うような小さな違和感も登録します。個々では意味を見いだせなかった記録が、あとで別の診療科の所見と結びつくこともあるからです。

渚システムは、単発の相談相手ではなく、経過を踏まえて情報を整理するために使っています。
AIに任せるのは、記録を整理し、変化や関連性の候補を拾い上げ、必要に応じて受診を促し、医師に伝える材料を整えるところまでです。診断そのものは医師に任せるというスタンスです。

運用はできるだけ簡単にしています。体重や睡眠のデータは、形式を整えずに放り込みます。スクリーンショットでも構いません。最初から完璧な仕組みをつくるのではなく、まず記録を続け、必要になった時点でAIに整理や改修を任せます。私が意識するのは、日々のデータを残すことだけです。渚システム自体も、この方法で育てています。

データを蓄積するようになってから、受診のしかたも変わりました。医師が口頭で伝える内容を、きちんと把握するようになりました。録音して文字起こしし、AIに渡したいくらいです。検診の結果も、単なる「異常なし」ではなく、詳細なデータがほしいと思うようになりました。

余談ですが、渚システムでは契約している医療保険も台帳で管理しているため、万が一の保険請求時にも役立つと期待しています。

今後は、この仕組みを科をまたいで広げていきます。内科も眼科も歯科も、薬の明細も、献血や過去の健診の結果も、1か所に集めるつもりです。補助のある検査は使い、受診のたびに医師へ渡せる材料が揃っている状態を、手間を増やさずに保ちます。同人誌や個人開発は誰でも思いつきますが、健康の記録をAIに集める仕組みは、まだあまり見かけません。だからここに時間を使います。

おわりに ── 20年後が見えてしまった自分がしたこと

答え合わせの結果は、次のとおりです。

項目2年後の答え
仕事と収入「専業にするな」は撤回しない。生成AIの台頭で、執筆だけで食べていく道はさらに細くなった。副業や趣味としての執筆には大賛成
お金とFIREスタンスは変わらない。25倍の法則は提唱者が書き換えたが、自分のFIREの目安としては今も変えない
人間関係変わった。会いたい人には、自分から会いに行くようになった
時間の使い方変わった。自由な時間を、読書旅と個人開発に使うようになった
生成AI(前記事ではツールの1つとして触れただけ)戦わずに使う。差がつくのは、自分のログ、過程の記録、出すまでの速さ
健康(前記事では触れていない)生成AIに記録を蓄積して、健康管理を支える仕組みを作り始めた

この2年間で、書いた本は増えました。資産も増えました。それ自体は悪くありません。ただ、2年前の生活をそのまま続けていたら、20年後の自分がだいたい想像できてしまいました。それが自分の限界かもしれないと、勝手に悟ってしまったのです。

その状況を打破する一手として、人生やりたいことリストをつくり始めました。お金の不安は消えても、時間の使い道は誰も教えてくれません。FIREは手段であって目的ではありません。目的が空欄のままでは、少なくとも私にとっては、十分に幸せとはいえません。ドラクエでいえば、ゴールドと装備は揃ったのに、クエストログが空っぽという状態です。やりたいことリストは、リアル人生ゲームの実績解除一覧にあたります。リストの考え方とつくり方は、第3回FIRE勉強会で発表しました。

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FIRE後、時間の使い道は空欄になる(第3回FIRE勉強会の発表スライド・3枚目より)

人生やりたいことリストから選んで、いま手をつけているものが3つあります。主眼は、前章に書いた健康の仕組みを整えることです。

個人開発も続けます。ご縁帳の次に何をつくるかは、テーマとの相性と、長く続けられるかどうかで選ぶつもりです。読書旅も、そろそろ1冊にまとめる段階に来ました。2024年12月からの28回分が、そのまま素材になります。

そして、人生やりたいことリストをつくることは、自分の幸せを言語化することでもあります。前記事では、「幸せの形は人それぞれだ」と結びました。「事業に成功してお金を稼ぐ」「専門分野の世界で活躍する」「FIREを実現して自分のペースで生きる」「家族と幸せな日々を過ごす」など、いろいろな形があるでしょう。

ときどき立ち止まって、自分にとっての幸せが何なのかを考えてみるのも良いと思います。幸せの形は、年を重ねるとともに変化することもあるからです。自分にとっての幸せが明確になれば、考え方や行動も変化していくはずです。

本記事の読者が、それぞれ望む幸せをつかむことを願っています。

脚注
  1. 物理本と電子書籍で印税率が変わるため単純計算できませんが、ざっくりとこうなります。 ↩

  2. 表紙を外注したなら、外注費もかかります。私の場合、表紙作成を外注したこともありますが、大半は自作しています。 ↩

  3. 手数料は販路で違います。技術書典への出品は無料で、技術書典を経由して売れた分(オンラインと、会場でのかんたん後払い)から2割が引かれます。会場で現金払いにしてもらえば全額残りますが、現金で買う人はもう多くありません。詳細はブログ記事「かんたん後払いのメリット・デメリット」を参照してください。 ↩

  4. 当たり前の話ですが、利益には税金がかかるわけで、手元に残る額はここからさらに減ります。 ↩

  5. 「FIRE実践者が主催する勉強会 × 交流会」は、FIREに興味がある人向けの少人数制イベントです。前半はFIRE生活を豊かにすることを意識した勉強会で、後半は交流アクティビティを通じて参加者同士が自然につながれる交流会です。私も毎回発表・参加しています。 ↩

  6. より具体的な内訳を知りたい方は、ブログ記事「「2025年の振り返り」と「2026年の抱負」」 を参照してください。 ↩

  7. 株式投資の経験は20年以上ありますし、長期投資を続けていれば、大きな下落局面に遭遇することもあります。そうした局面も想定したうえで株式投資をしているため、退場しないことが1番重要だと考えています。 ↩

  8. 原文は"Assuming a minimum requirement of 30 years of portfolio longevity, a first-year withdrawal of 4 percent, followed by inflation-adjusted withdrawals in subsequent years, should be safe."です。 ↩

  9. 4%ルールでは、初年度に資産の4%を取り崩し、翌年以降はその額をインフレ率に合わせて調整します。必要な資産は「年間支出÷取り崩し率」で求められ、4%なら25倍(1÷0.04)、4.7%なら約21倍(1÷0.047)です。年間支出が240万円であれば、必要な資産は6,000万円から約5,100万円に減ります。資産が6,000万円であれば、初年度に取り崩せる額は240万円から282万円に増えます。 ↩

  10. 原文は"So if a person, let's say some of the FIRE folks are looking at 50, 60 years of retirement, 4% may not be a bad number for them, actually. I think 4.1% is where I've indicated the thing bottoms out."です。4.1%は、期間をどれだけ延ばしてもこれより下がらないという下限の値です。4.1%の場合は約24倍(1÷0.041)で、従来の4%(25倍)とほとんど変わりません。出典は脚注:11と同じです。 ↩

  11. 原文は"It's a very individual thing. What I call the eight elements or the primary determinants of the withdrawal rate vary from person to person."です。Podcastの「White Coat Investor・第464回」での発言です。 ↩

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