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場を支えることもアウトプット。AI時代に、コミュニティがくれるもうひとつの軸

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「きのこカンファレンス」実行委員長

ariaki

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AIの進化や技術の変化が加速するなかで、「このままの学び方でいいのだろうか」と、漠然とした不安を感じるエンジニアも少なくないでしょう。

そんな時代だからこそ、会社という枠を飛び出した「コミュニティ」の存在が、私たちエンジニアにとっての「もうひとつの軸」や、安心できる「居場所」になるのかもしれません。

「アウトプットは、すごい技術の発信じゃなくてもいいんです。場を支えることも立派なアウトプットだと思っています」

そう語るのは、「技術書同人誌博覧会」や「きのこカンファレンス」など、数々の技術コミュニティ運営に関わってきたariakiさん。今回は、変化の激しい時代を生き抜くための「居場所」のつくり方と、明日からできる小さな第一歩について伺いました。

AI時代の不安。「会社だけ」の世界から抜け出す意味

—— 最近、AIの進化や技術の移り変わりの早さから、「自分のスキルが代替されるのでは」と焦りを感じているエンジニアが増えているように感じます。ariakiさんは、現場のこうした「焦り」をどのように見ていますか?
身近に、強く追い込まれている人が多いという印象はありません。ただ、漠然とした不安は、多くの人が抱えているように感じます。

昔からずっと「学び続けなければいけない」というエンジニアの風潮やマインドは変わらないと思うのですが、最近どんどん職業の細分化が進んでいますよね。SREやプラットフォームエンジニアリングなど、エンジニアのロールが専門化していく分、各専門職で求められる学びがどんどん深くなっているように思うんです。

これまでは専門分野そのものを自分で深掘りしていくスタンスだったのが、AIがいろんな工程を代替して助けてくれる時代になったことで、「どういう専門分野があって、どうアプローチしていくか」という方法論や、自分なりの判断軸をつくっていくことが、より求められるようになってきているんじゃないかなと、個人的には思いますね。

—— そんなプレッシャーの中で、会社という組織を飛び出して「社外のコミュニティ」に関わることには、どんな意味があるのでしょうか?
実は私、元々は比較的小さい開発組織の中で働いていて、ずっとあまり外に出ていかない感じだったんですよ。当時は名古屋に住んでいたので、今ほど勉強会やカンファレンスが頻繁に開催される環境でもなく…。会社の外にも、エンジニア同士が交流する場があること自体、知りませんでした。自分自身も人見知りだったので、わざわざ遠出してまで知らない場所へいく必要性も感じていなかったんです。

自分にとっての情報源は会社や本、動画だけで、実際にエンジニアたちが何を課題に思っているか、どういう風に学んでいるかは全く見えていませんでした。当時の私は、いわば「狭い世界」で完結してしまっていて、自分の立ち位置を客観的に見られなくなっていたのだと思います。

でもあるとき、勇気を出してコミュニティに関わり始めてみたら、いろんなことを考えている人がいると知り、「これまでの自分の働き方や進め方が本当に正しかったのかな」と思うことが多くなっていきました。なので、いろんな人の意見を聞かないといけない。会社だけじゃなく、日本全国のエンジニアと繋がっていくことで、自分の立ち位置を相対化できるようになると思ったのがきっかけですね。

学びの“途中経過”が誰かの背中を押す

—— 実際にコミュニティに参加してみようと思っても、「自分には発信するようなすごい技術がないし…」と、つい足踏みしてしまう人も多いと思うんです。
アウトプットしたことがない人は、「自分なんかが情報発信してもいいのか」という気持ちがあって、すごいものを出さなきゃと思いがちだと思うんですよね。例えば言語について解説するなら隅から隅まで解説した一冊の解説書みたいな。でも、そうやって準備に時間がかかればかかるほど、出すハードルが高くなってしまう。なので、少しの時間で出せるものから手をつけてみる。こうした「小さく始める」という意識が、ひとつの大事なセンスなのです。

本当に初めは、どこから手をつけていいかわからないと思うんです。たとえば、これまで触れたことのない領域として盆栽を始めるとしたら、何から学べばいいかまったくわからないと思うんですね。そんな時に「1日目、2日目に何を学んで結果がどうだったか」という記録があったら、自分も学んでみようという気持ちになれます。

たとえ学び始めて1日でも、昨日の自分と同じ場所にいる誰かには、渡せるものがあると思っています。2日学んだなら、1日目の自分に向けてバトンを渡せばいい。学びの結果だけでなく過程もアウトプットしたらいいんじゃないかなと思いますね。

—— なるほど、「結果」ではなく「過程」でもいいんですね。ただ、年齢や年次が上がってくると、余計に「変なものは出せない」とハードルを感じやすくなりそうです。
そうですね。たとえば30代になって『テックリード』という名前がついてしまうと、その肩書きでちょっとした学びを出してもいいのかと思う人もいると思うんですよね。だからそういったハードルを自分自身に課してしまわないように、アウトプットのハードルを下げていくのは重要です。

私が自分で始めた最初のイベントは「エンジニアの登壇を応援する会」で、初心者が、初めてのLTに挑戦できるような勉強会でした。一番初めにやったのが『夏休み自由研究LT大会』で、8月くらいだったので、エンジニアリング以外でも夏休みの自由研究みたいに好きなことを発表するという内容でした。

人数的には20人くらいだったと思うのですが、大根の話や鉄道の話など、自分の趣味や好きなものについて話してくれる人が多かったように記憶しています。技術の話じゃなくてもいい、それくらいアウトプットのハードルを下げていいんだよってことですね。

—— 大根の話でもいいんですね(笑)。そうした小さな発信を続けていくと、コミュニティが徐々に自分の「居場所」に変わっていくものなのでしょうか?
軸がいくつかあると思っているのですが、一つ目は、コミュニティに参加しても自分が喋らないと関わりが薄くなると思うんですね。例えば、友達がいなくてカンファレンスに行くと適当にトークを聞いて帰ってきちゃうと思うのですが、自分が発信するようになれば「こういう風にトークしたいな」という視点で話を聞けますし、「フィードバックが欲しいから懇親会に参加しよう」と思いますよね。自分が発信することでいろんな人と関わりたいという気持ちになって、そこが自分の居場所になっていきます。

次に、発信を続けることで、自分が何を話す人なのかが自分にも相手にも見えてくる。特定の分野に詳しい人として少しずつタグ付けされていく感じで、それが自分の輪郭になって、周りから認知されることが居場所に繋がっていくと思います。

場を“支える”ことも立派なアウトプット

—— とはいえ、やっぱり「人前で話すのはどうしてもハードルが高い」という人もいますよね。そうした方は、どうコミュニティに関わっていけばいいのでしょうか?
コミュニティには「参加する人」「発信する人」「場をつくる人」の3種類がいると思うのですが、誰かが支えて発信しているから続いていくと思うんですね。コミュニティは、発信する人だけでは続きません。誰かが場を整え、支えてくれるからこそ、発信する人も安心してアウトプットできる。だから、コミュニティを支えることはアウトプットを守ることでもあり、それ自体もひとつのアウトプットだと言えます。安心して発信できる場があるから、誰かが初めて話せるし、その発信を見た別の誰かが、また次の一歩を踏み出せる。そういう循環を守ることも、コミュニティを支える大事な役割だと思っています。

また、役割って固定じゃないんです。学生時代を思い出すと、掃除当番はずっと同じ人が担っていたわけではありませんよね。教室を使う側にもなるし、掃除する側にもなるし、もしかしたらいつか授業する側になるかもしれない。それと同じで、自分がいろんなことができるよっていう気持ちに基づいて参加してほしいですね。

—— 役割を固定せず、いろいろな形で関わっていいのですね。「支えるアウトプット」として、明日からすぐできる具体的なアクションはありますか?
登壇した人に対して懇親会などで「面白かったです」と直接声をかけることだと思ってます。フィードバックは発信する人のモチベーションに繋がるので。あとはXで実況ポストをしたりアンケートを書いたり、参加ブログを書くなど、参加者の視点でもできることはたくさんあると思います。

また、最近は「北区.dev」「埼京.dev」「多摩.dev」など、地域の名前を冠したローカルな勉強会が増えていますよね。関東以外でも、名古屋で立ち上がった「俺の勉強会」のように、気軽に参加できるエンジニアコミュニティが増えてきているように感じます。仕事帰りにそういう勉強会に出て、雰囲気を感じて帰るだけでもいいと思います。

—— そうした小さな参加や支えが、結果的に誰かの背中を押すことに繋がっていくのですね。

ええ。過去に「エンジニアの登壇を応援する会」を1年半くらいやっていまして、そのイベントに参加したから「登壇が怖くなくなってカンファレンスで喋れました」と言ってもらうことが結構ありました。そういう声を聞くと、やっぱりすごく嬉しいですよね。

誰かの発信を応援して広げていく行為は価値がありますし、場をつくって支えることで誰かが活躍して感謝されるというのは、すごく良い循環を生み出すんです。

迷いながら進む、若手のための「きのこカンファレンス」

—— ariakiさんが実行委員長を務める「きのこカンファレンス2026」についてもお聞きしたいです。登壇者が40代以上に限定されているので、若手からすると「自分はまだ対象じゃないかも」と遠慮してしまいそうですが。
実は20代の若手がメインターゲットなんです。どんな職種でも技術の継承は重要だと思っていて、エンジニアも特定の技術だけでなく、働き方や生き方も継承すべきものじゃないかと。「生き残ってきた人が、これから生き残っていく人に伝えるイベント」がきのこカンファレンスなんです。

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きのこカンファレンス2025の様子。日本酒好きで知られるariakiさん(1番右端)。懇親会では、参加者から自慢の日本酒の差し入れが多数集まり、大いに盛り上がった。

成功した話だけではなく、迷ったことや失敗したこと、選ばなかった道も含めて聞けることに価値があると思っています。若い人にとっては、完成されたキャリアの話よりも、どう悩みながら選んできたのかを知ることのほうが、未来を考えるヒントになるはずです [1]

—— 若手エンジニアが、ベテランの紆余曲折を知ることは、AI時代の焦りの中でどんなヒントになるのでしょうか?
AI時代に限らないかもしれないですけど、技術に乗り遅れたら自分がエンジニアでいられないかもしれないというタイミングは、これまでもいくつかあったと思うんですよ。例えば、パソコンが普及したとき、インターネットが誕生したとき、Windowsが登場したとき、iモードが普及したとき、などですね。そうした新しい技術が登場するたびに、それを乗りこなす人もいれば、変化についていけず苦労した人もいたはずです。もちろん、そこには生存バイアスもあります。ただ、その偏りを自覚したうえで、ベテランがどう向き合い、どう選択してきたのかを聞くことには、大きなヒントがあると思うんです。

仕事を始めたばかりの20代の方からして、20年後、30年後に自分がどんな仕事をやっているかって全く想像がつかないと思うんですね。だからこそ、遠すぎる未来を前にして打ちひしがれないための考え方や、紆余曲折の中で自分なりに道を選び続ける考え方を聞いていけば、もっといい人生を歩み始められるんじゃないかなと。

—— ベテランの経験を知り、実際にその場に関わることで、自分自身のキャリアを見つめ直すきっかけにもなりそうですね。
そうですね。昨年の「きのこカンファレンス」でも、ある参加者が「ここで喋る機会があったから、自分のキャリアの整理になった」と語ってくれています。

ベテランたちの迷いや選択のプロセスに触れることで、自分の未来を思い描くヒントが見つかるはずです。聞くだけでなく、コミュニティの一員になるという気持ちで来てほしいですね。

一人で抱え込まず、みんなでワイワイしよう

—— 最後に、キャリアや学びに不安を感じながらも、コミュニティへの一歩を踏み出せずにいるエンジニアに向けて、メッセージをお願いします。
エンジニアは誰もが学び続けなきゃという焦りをどこかに持っていると思うのですが、それはあなただけではなく全員が持っているものだと知ってほしいです。

コミュニティで同じ関心や属性を持った人たちが集まって会話する中で、「みんなで本書いてみない?」とか「今度カンファレンス一緒にやろうよ」とか、自然発生的にいろんなことができていけばいいなと思うんですね。一人で悩むよりは、コミュニティに入ってみんなでどうしようと分かち合った方が楽しいですし、未来が少しずつ見えるようになると思っています。

みんなでコミュニティに入ってワイワイしましょう、というのが私からのメッセージです。

脚注
  1. 若手参加者に向けた記事「若手こそ、きのこカンファレンスへ」も公開されています。

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