【Findy エグゼクティブエージェントが聞く】9年で1,000名組織を築いたVPoEの次のキャリアのトップ画像

【Findy エグゼクティブエージェントが聞く】9年で1,000名組織を築いたVPoEの次のキャリア

投稿日時:
ファインディ編集部のアイコン

ファインディ編集部

Xアカウントリンク

Findy エグゼクティブエージェントが聞く——CTO・VPoEなど開発組織のトップ層のキャリア支援を行うFindy エグゼクティブエージェントの石川が、「次のキャリア」の決断までのプロセスを追うシリーズ。第4回は、成果も仲間も揃った場所を9年かけて築き上げ、それでも離れる決断をしたリーダーの話だ。

SIer、ベンチャーを経て株式会社SHIFTに入り、数名だったエンジニア組織を9年で1,000名超へと育て、VP of Engineering(以下、VPoE)を務めた池ノ上 倫士(@IkenoueRinto)。2026年3月、140年の歴史を持つインフラ企業の東京ガス株式会社に、同じくVPoEとして着任した。

成果が出て報酬も上がり、信頼できる上司と仲間もいた。それでも池ノ上は、その組織を離れる決断をした。しかも、それは「一大決心ではなかった」という。満たされた場所を、なぜ、どう離れたのか。石川が、その決断までのプロセスを聞いた。

話し手|池ノ上 倫士(いけのうえ りんと)

東京ガス株式会社 VP of Engineering(@IkenoueRinto

SIer・ベンチャーを経て2017年に株式会社SHIFTに中途入社。エンジニア組織を立ち上げ、9年かけて1,000名超・約100億円規模へ育成。 技術統括部 統括部長 兼 VPoEとして、エンジニア採用・評価制度設計・組織文化の醸成に取り組む。 2026年3月より東京ガスVPoEに着任し、内製開発組織の変革と技術力強化を推進中。

聞き手|石川 拓(いしかわ たく)

ファインディ株式会社 エグゼクティブ領域専任エージェント

CTO・VPoEなど開発組織のトップ層のキャリア支援を専門とし、年間100名以上のハイクラス面談を担当。本シリーズのインタビュアー。

組織を築き、信頼を積み上げたSHIFTでの9年

ソフトウェアテスト・品質保証を主力事業として成長してきたSHIFTは、2017年のアジャイルQA支援開始を一つの起点に、DX支援領域へとサービスを広げてきた。池ノ上がこの会社に加わったのも、ちょうどその頃だった。

以来9年。数名だった開発組織を、1,000名を超える規模にまで育てた。多様なバックグラウンドのエンジニアが集まり、カルチャーも開発スタイルも入り混じる。その急拡大の渦中で、採用から評価制度、組織文化づくりまでを担い、のちにVPoEとして技術組織を率いた。社内での信頼残高も、厚く積み上がっていった。

SHIFTでの9年を、池ノ上はこう振り返る。

「私の在職中に売上は80億円から1,300億円まで伸びました。楽しかったですね」

成果は出て報酬も上がり、信頼できる上司と仲間がそばにいた。

「まさか辞めることになるなんて、思ってもみませんでした」

20260630_fi-57.jpg

満たされた場所ほど、離れがたい。池ノ上を取り巻くすべてが、彼をそこに留める理由になり得た。

それだけのものが揃っていて、なぜ転職を考えたのか。石川がそう尋ねると、池ノ上は自分の仕事の変化に話を向けた。

立場が上がるにつれ、任される仕事はトラブルシューティングと、新しい部署の立ち上げに偏っていく。M&Aで加わった会社を預かり、責任者のいない新規事業を引き受ける。最後にはAI関連の部署も、自ら立ち上げた。

「最大で6部門ほど兼任していたこともありました。新しい取り組みが立ち上がるたびに、技術のことは決まって自分に回ってくる。それだけ頼りにしてもらえていたということだと思います」

組織が大きくなるほど、開発現場からは遠ざかっていく。日々の充実のなかに、ひとつだけ引っかかりのようなものが残っていた。

「いつかまたコードを書きたいと、ずっと思いながら過ごしていました」

📝 石川メモ

ハイクラス層の相談を受けていると、次の一歩を動かすのは不満ではなく、開発の現場から遠ざかる寂しさであることが多い。地位が上がり信頼されるほど、担う仕事は本来やりたかったものからズレていく。だが、それは成長の裏返しでもあり、止めるべきものではない。分かれ目は、そのズレの先が、まだ自分の望む方向と重なっているかどうかだ。

混乱の面白さと、経営の危機感に惹かれて転職

開発組織を率いてきた池ノ上のもとには、他社からの転職オファーが届くこと自体は珍しくなかった。

「転職活動をしていたわけではありませんが、声をかけていただければ、時間の許す限り話を聞きに行っていました」

転職の意思とは別に、採用に関する一次情報を収集しにいくリーダーは少なくない。池ノ上の場合も、理由ははっきりしていた。

「どんな会社が、どんな人材を、どれくらいの条件で求めているのか。VPoEとして、エンジニアの市場価値を把握しておく必要がありました」

東京ガスも、池ノ上に声をかけていた一社だった。社内に開発体制を築こうと動いていることは、以前から耳にしていた。イベントでもよく見かけるなど接点のある相手だったからだ。実際に話を聞いてみると、会社の状態はおおむね知っていたとおり。採用プロセスを進めるなかでも、その印象は変わらなかった。

「とにかく何かしなきゃ、という強い意志は伝わりました。ただ、当時は何をやりたいのかがまだ言葉になりきっていない状況だったようです」

池ノ上の目には、それが魅力的に映っていた。

「混乱している状況を整理していくのは、面白そうだと思いました」

何もない状況に、一人で飛び込んでいくのが好きなタイプなのか。石川がそう尋ねると、池ノ上は首を振った。

「そんなことはないですよ。一人で何かを成し得たことなんて一度もありませんから。ただ、その状況には惹かれるものがありました」

20260630_fi-252.jpg

もう一つ、池ノ上を動かしたものがある。生成AIの登場だ。

「Kubernetesが出たあたりから自分で手を動かしていないので、正直、現場の技術についていくのが大変でした。それが、生成AIを使うようになって『今なら追いつけるかな』と感じたんです」

その希望と東京ガスの誘いが、ちょうど同じ時期に重なった。

決め手になったのは、東京ガスの本気度だった。

「ソリューション事業に3か年で2,000億円を投資する。現在50億円ほどの利益を、280億円まで持っていく(※)。トラディショナルな企業をいくつも見てきましたけど、ここまで腹をくくっているのは見たことがありません」

その本気度の出どころを、池ノ上は経営陣の姿から感じ取っていた。

「入社35年になる経営陣が、『この会社は潰れるかもしれない』という危機感を持って中期経営計画を書いているんです。潰れる可能性は極めて低いはずなのに。それでも『なんとかしなきゃ』と。これには心を動かされましたね」

急成長を続けてきたSHIFTと、140年の歴史を持つ東京ガス。一見すると真逆だが、池ノ上には通底するものが見えていた。どちらも、あぐらをかいていない。常に危機感を持って動いている。

もっとも、トラディショナルな大企業でこの危機感が保たれるのは珍しい、と池ノ上は言う。経営トップが数年の任期で成果を求められる立場では、自分の代で大きなリスクは取りにくい。個人の資質ではなく、仕組みの問題だ。そのなかで、東京ガスは例外だった。だからこそ池ノ上には、この会社が「何十年も成長を続けた先のSHIFTのように見えた」という。

劇的なきっかけがあったわけではない。エンジニアとしての思い、AIという追い風、混乱の面白さ、経営の本気度。いくつもの要素が、同じ時期に静かに重なっただけだった。

📝 石川メモ

次の一歩の決め手になるのは、意外にも前向きな感覚であることが多い。技術の潮目が変わって手札が増えた、あの現場にもう一度戻れそうだ、といった手応えだ。池ノ上さんの場合、そこに東京ガスの経営陣への信頼が重なった。盤石といえる立場にありながら安住せず、経営陣は常に危機感を持って学び、成長と変革を続けようとしている。ここまで本気で会社を変えようとしている経営のもとでなら、腰を据えて挑めるだろう。そう思わせるだけの姿勢が、東京ガスにはあった。

※ソリューション事業に3か年で2,000億円を投資し、同事業のセグメント利益を50億円から280億円へ引き上げる計画は、東京ガスグループの中期経営計画に沿う(出典:東京ガスグループ「2026-2028年度 中期経営計画」2025年10月29日公表)

やることは変わらない。ただし、ゼロからのスタート

東京ガスの社員はどんな人たちなのか。石川が尋ねると、池ノ上は例として経営陣の話をした。

「自分のインプット力にはかなり自信があったのですが、東京ガスの経営陣には勝てないと思いました。一つキーワードを渡しておくと、次に会うときには『そこまで調べるのか』と驚くほど勉強してきて、ちゃんと説明できるようになっている。すごくストイックなんです」

真面目に、愚直に取り組む。SHIFTとは種類の違う熱量がそこにはあった。社員に対しても誠実で、よい人たちだ。そんな東京ガス社内を、池ノ上は敬意を持ってこう言い表した。

「私からすると、『最後の桃源郷』みたいな会社です」

環境は大きく変わったが、仕事の本質は変わらないのか。石川がそう確かめると、池ノ上はうなずいた。

20260630_fi-16.jpg

「やっていることは変わらないですよ」

今の取り組みは、SHIFTでやってきたことの延長線上にある。責任を持って貢献できる人に正しい報酬を払い、一人ひとりが自分とチームを高めることに集中できる。そういう組織を、東京ガスでもう一度つくろうとしている。

「SHIFTで新しいサービスをたくさん立ち上げてきたので、今回もその一つという感覚でいます」

ITサービスの会社から歴史あるインフラの会社へ。さまざまなギャップを感じる場面はあるが、「それは入る前からわかっていたことなので、予定どおりという感じです」と話す。

ただ一つ、SHIFT時代と決定的に違うことがある。

SHIFTでは、トップが「やる」と決めれば、その一声で組織が動いた。しかし、東京ガスはそういう組織ではない。そして、さらに大きな違いがある。

「SHIFTには信頼できる仲間がいましたが、ここではゼロからのスタートとなります」

「これをやればみんなが幸せになる」という事業の方向性は、社内でも合意が取れる。難しいのはその先だ。なぜ進まないのか、と理由を一つずつ辿っていくと、途端に行き詰まってしまう。合意を実行に変えるには、それを一緒に最後までやり切ってくれる仲間が必要だからだ。その仲間が、ここにはまだいない。だから、ここからつくっていくしかない。

それでも、池ノ上はこの状況を面白がっている。

📝 石川メモ

環境が大きく変わった先で消耗しにくい人には、共通する構えがある。目の前の違いを「想定外」ではなく「想定の範囲」として受け取れることだ。それは培ったやり方を、場所が変わっても転用できる「型」として捉えているからでもある。ただし、型は転用できても、それを支えていた仲間や関係はそのまま転用できない。ここを取り違えると、着任後に足をすくわれてしまう。池ノ上さんが、やることは変わらない、ただ仲間はゼロからだと切り分けているのは、その線引きができている証だ。

「第3の創業」を内製開発の変革で実現する

エネルギーの需給構造は、大規模・集中型から分散型へ、一方向から双方向へと急速に変わりつつある。その渦中で、2025年10月に創立140周年を迎えた東京ガスは、エネルギーを供給する会社から、社会や企業の課題をデジタルで解く会社へと、事業の重心を移そうとしている。東京ガスはこの転換を「第3の創業」と位置づけ、これまでの枠組みを超えていく覚悟を掲げた。そしてその実現を担う内製開発組織を率い、変革を進めているのが池ノ上だ。

「重責を担っていると感じています。何を目指すかの方向は決まっていますが、それをどう実現するかは、これから設計していくところです」

20260630_fi-229.jpg

池ノ上は、会社の中期経営計画に対応する開発側の計画を、自ら書いているという。3年後に目指す姿を、開発が財務に貢献している状態、特定の事業部だけでなく全社の課題をデジタルで解いている状態、社外に認知されている状態、と定義する。そこへ至る体制と投資、誰が何を担うのかという役割分担まで、一つずつ設計していく。

経営陣とは、「目指しているのはこういう姿ですよね」「この解像度で合っていますか」と確かめながら、合意を重ねている。既存のやり方にも、長く続いてきただけの意味がある。だから池ノ上は、「無理に変えようとは思わない」という。

同じ岐路に立つ、開発組織のリーダーへ。今いる組織を離れるか迷っている人に、伝えられることはあるか。石川が最後に尋ねた。

池ノ上の答えは二つ。まず、円満に去ること。

「世の中は狭い。特にIT業界は狭いです。元上司がお客様になったり、元部下が上司になったりも普通に起こり得る。だから、円満にしておいたほうがいい」

池ノ上自身、SHIFTを離れたことを、決別とは考えていない。

「一大決心からの『さようなら』ではないんです。麻布台(SHIFT)の高台から道を降りてきて、ここ大門(東京ガス)にたどり着いた程度の感覚です。前職とは今も連絡を取っていますよ、同じ業界ですからね」

もう一つの答えは、やり切ること。円満に去れるかどうかは、その前に、今の仕事をやり切れるかどうかにかかっている。

「今の仕事はやり切ったほうがいい。全部やり切ってから次のことを考えてほしい」

一大決心でも、決別でもない。やり切ったうえで円満に去り、地続きのまま次の場所を選ぶ。愛着ある組織を離れることを、池ノ上は劇的な決断にはしなかった。

20260630_fi-427.jpg

撮影:西村 法正
Findy 石川 拓のエグゼクティブキャリア・ノート
池ノ上さんの話を聞きながら、転職で後々まで効いてくるのは、次の会社の選び方以上に、前の会社の去り際なのかもしれない、と改めて感じました。愛着ある組織を離れるとき、きっぱり縁を切るように去るのか、つながりを残したまま離れるのか。池ノ上さんは後者を選び、その前提に「今の仕事をやり切る」ことを挙げています。

次の一歩で迷う方の多くは、「まだやり切れていない」という手応えの薄さを抱えているように思います。だからこそ、自分が何をやり切ってきたのか、次に何を求めているのかを、一緒に言葉にする壁打ち相手が必要です。

キャリアの選択肢を広げたい方は、ぜひ一度エグゼクティブ面談でお話しさせてください。まだ募集前の段階の情報や、非公開求人の情報もお伝えできます。方向性が定まっていない段階でも構いません。一緒に整理するところから始めましょう。

キャリアの「選び直し」を、ひとりで考える必要はありません。

Findyでは、CTO・VPoE・開発部門責任者などのハイクラス人材、またはCTO・VPoE・開発部門責任者などを目指すテックリードやEMなどの方を対象にエグゼクティブ面談を実施しています。まずはお気軽に、次のキャリアの選択肢を一緒に整理してみませんか。

エグゼクティブ面談のご予約はこちら(専用日程調整フォーム)