Findy エグゼクティブエージェントが聞く——CTO・VPoEなど開発組織のトップ層のキャリア支援を行う同社エグゼクティブエージェントの石川が、「次のキャリア」の決断までのプロセスを追うシリーズ。第5回は、大規模な開発組織を率いてきたエンジニアが、成長期のスタートアップへ飛び込むまでの話だ。
「ニコニコ動画」への熱量から、新卒で株式会社ドワンゴに入社した諏訪 智大(@tsuwatch)。Ruby/Railsをキャリアの軸として、株式会社ZOZOでは「WEAR」の開発責任者を務めた。そして2026年8月、クリエイタービジネス総合プラットフォーム「FANTS(ファンツ)」を手がける株式会社スタジアムのVP of Engineering(以下、VPoE)に着任する。
規模も、役割も、大きく変わる。成熟した大規模な組織から、あえて小規模な環境へ。長く開発の第一線を率いてきたエンジニアは、何を天秤にかけ、何を決め手にこの決断へ至ったのか。その意思決定の内側を、石川が聞いた。
話し手|諏訪 智大(すわ ともひろ)
株式会社スタジアム VP of Engineering(@tsuwatch)
2015年に新卒で株式会社ドワンゴへ入社し、複数の新規サービス立ち上げに従事。2021年より株式会社ZOZOにて、ファッションコーディネートアプリ「WEAR」のエンジニアリングマネージャー(EM)および開発責任者を歴任。2026年8月、株式会社スタジアムにVPoEとして参画し、現在に至る。
聞き手|石川 拓(いしかわ たく)
ファインディ株式会社 エグゼクティブ領域専任エージェント
CTO・VPoEなど開発組織のトップ層のキャリア支援を専門とし、年間100名以上のハイクラス面談を担当。本シリーズのインタビュアー。
「ニコニコ動画」に心を奪われ、エンジニアの道へ
諏訪が通っていたのは、システム工学系の少し変わった大学だった。プログラミングを学びながら、デザインや建築にも触れ、コンペのように企画を立ててはプレゼンする。手を動かしてコードを書くことと、アイデアを形にしていくこと。その両方を同じ場所で学んだ。
「学生時代のほとんどを、ニコニコ動画に費やしていました」
惹かれたのは、動画コンテンツそのものではない。ユーザー同士が盛り上がり、コメントが飛び交い、そこにコミュニティが生まれていく。彼の言葉を借りれば、それはどこか「インターネットらしくない」場だった。
「こんなに感情を動かされるサービスってあるんだ。そう思っていましたね」
折しも、ソーシャルゲームの隆盛でtoC(一般消費者向け)サービスを展開するIT企業が人気を集めていた頃だ。就職活動では、ニコニコ動画を運営し、当時「エンジニアの天国」とも呼ばれたドワンゴに一球入魂で臨んだ。
入社してみると、イメージ通りの会社だった。完全裁量労働制のため、始業・終業時間に決まりはない。社内を歩けば、ゲームに興じる人や昼寝をしている人がいる。自由な代わりに、責任もきちんと伴う。「それが自分にすごく合っていました」と諏訪は振り返る。

ドワンゴでの6年間で取り組んだのは、大きなサービスの運用ではなく、0から1を生む新規開発だった。小さなチームで、いろいろな経験を積みたい。その志向は、学生の頃から一貫していた。
転機は、20代後半に訪れる。エンジニアとしてものづくりは続けていた。ただ、手応えが薄れていた。
「成長が停滞している感覚があったんです」
こなしている感覚が出てきた、と諏訪は表現する。エンジニアとして価値を出すだけでなく、関われる領域そのものを広げたい。ジェネラリストとして、プロダクトや組織にも踏み込みたい。同時に、自分の力が社外でどこまで通用するのかも知りたかった。別の役割、別の環境で試してみたい。そう考えて外に目を向け始めたところ、声をかけてくれたのがZOZOだった。
ZOZOに転職後、諏訪は「WEAR」のエンジニアリングマネージャーから開発責任者へと役割を広げていった。ピープルマネジメント、チームビルディング、プロダクト組織の方向づけ。技術の外側にある仕事が、比重を増していく。そこで直面したのが、合意形成の壁だ。エンジニアだけでなく、PdM、デザイナー、QA、ビジネス職。職種ごとに前提も関心も違う相手に、一つの方針を納得してもらう。
「コンセンサスを取るのが本当に難しいと感じていました」
説明の角度を変え、相手の困りごとを聞いて回る日々。立場が上がるほど、現場は遠ざかる。コードを書く時間は、ほとんどなくなった。「寂しくはなかったのか」と石川が尋ねると、諏訪は少し間を置いて答えた。
「バックエンドのメンバーと現場で一緒に開発するのは、本当に楽しかった。だからこそ、そこから離れるのは寂しかったですね」
ただ、諏訪は「現場に戻りたい」とは思わなかった。手を動かしたくなったら、そのつど自分から現場に降りていけばいい。寂しさはあっても、それに強く囚われることはなかった。
現場でコードを書く楽しさを手放すことに、寂しさを覚えるエンジニアは少なくありません。マネジメントや組織づくりへ関わりを広げるほど、手触りのある仕事からは距離ができていきます。それでも、諏訪さんのように「関われる領域を広げたい」という動機で踏み出せる方は、その先のキャリアの選択肢が広がっていきます。手を動かす能力を維持しつつ、人や組織へ軸足を移していける人にこそ、次の景色が開けているように感じます。
助走している場合じゃない。大きくジャンプしたい
開発責任者になって数年。会社が新たな中期経営計画を掲げ、それに伴って諏訪に求められる役割も少しずつ変化していった。それが、外へ目を向けるきっかけになったという。他社は今どんな取り組みをしているのか。そのなかで、自分にはどんな可能性があるのか。「まずは話を聞いてみよう」程度の軽い気持ちだった。
だが、話を聞くうちにその気持ちは少しずつ変わっていった。他社の現場を知るほど、自分の可能性や市場価値が具体的に見えてくる。軽い情報収集のつもりが、いつしか「本気で動くなら、どこへ」という問いに変わっていた。
堅実な道もあった。ZOZOに残るか、もっと規模の大きな組織へ移ってマネージャーとして力を試すか。だが、そうしたキャリアパスに諏訪の心は動かなかった。
なぜ、スタートアップにばかり惹かれたのか。石川がそう尋ねると、諏訪はしばらく考えてから答えた。
「最初は深く考えず、いろいろな会社の話を聞いてみようと思っていました。ですが、気づけば選ぶのはスタートアップばかりだったんです」
「いま振り返ってみると、大きなチャレンジができる場を探していたのだろうなと思います」

誰かがつくり上げた組織に加わるより、最高の組織を自分の手でつくりたい。求めていたのは、小さな会社に飛び込み、開発組織全体を率いることだった。
どれだけ大きなチャレンジができる会社か。それを見極めるために、彼のなかには2つの軸があった。
一つは、カルチャーフィット。組織はこうあるべきだ、という自分のマネジメント観が相手の会社と重なるか。そして、プロダクトに前向きな興味を持てるか。ここは譲れなかった。
もう一つは、大きくジャンプできるかどうか。着実な成長より、がむしゃらに大きな山に登りたい。世の中に何かを残せたと思える、そんな仕事がしたい。
背景には生成AIの登場がある。プロダクトの作り方も、エンジニアリングも、組織のあり方までもが根底から覆されようとしている。そんな時代に、ゆっくり構えてはいられない。
「助走している場合じゃない。ジャンプする前に終わってしまう。だから『行くなら今しかない』と思っていました」
組織の規模は一気に小さくなる。大手ECから、成長期のスタートアップへ。普通なら、「うまくいかなかったらどうしよう」と不安がよぎるはずだ。ところが、諏訪には「不安はあまりなかった」という。
理由は後になってわかる。飛び込む先の会社が、それだけ「合っていた」からだ。
大規模な開発組織から、あえて小さな組織へ。一見すると意外な選択に思えるかもしれません。ですが、ハイレイヤーの方ほど「今の自分がどれだけ大きく踏み出せるか」を軸に選ぶ傾向があります。すでに多くを成し遂げてきた方ほど、難易度の高い挑戦に飢えているからです。とくに生成AIの登場で前提が揺らぐ今、多くの方が「動くなら今」という感覚を口にされます。大切なのは、勢いではなく、自分の価値観と挑戦の大きさが噛み合う場を見極めること。諏訪さんが挙げた2つの軸は、その見極めの好例だと感じます。
原点も価値観も重なる、運命のような一社との出会い
その出会いをつないだのは、エージェントの石川だった。転職活動を通じて、諏訪が頼りにしてきた相手でもある。
「すごくフラットにアドバイスをくれるんです。こちらの立場に立って、客観的に分析して導いてくれる。ほかのエージェントとは、少し違いました」
「この人とこの人は合いそうだ」と感じた相手同士を引き合わせるのが、石川の紹介スタイル。そして今回、諏訪に「会ってみませんか」と勧めたのが、株式会社スタジアムで当時VPoEを務めていた小林 一樹氏(現・同社取締役)だった。クリエイタービジネス総合プラットフォーム「FANTS(ファンツ)」を手がける、成長期のスタートアップである。ちょうど小林氏がVPoEの後任を探し始めた矢先のことだった。

小林氏と実際に会い、スタジアムが大切にしている価値観を聞いて、諏訪は思わず膝を打った。
「自分がZOZOで、言い方こそ違えど掲げてきたこととほぼ同じだったんです」
その価値観とは、勝つこと、そして最高のチームをつくること。小林氏の言葉は、まっすぐ頭に入ってきた。
「マッチ度合いで言うと、スタジアムは圧倒的でしたね」
なぜ、これほど響いたのか。理由は、諏訪がこの数年でたどり着いた確信にある。ZOZOでマネジメント経験を重ねるうち、人と組織そのものへの興味が、どんどん強くなっていった。メンバーが成長し、活躍し、喜んでいる。その光景を見るのが、たまらなく好きだった。
「人と組織で、良いチームをつくりたい。そこに人一倍のこだわりがあって。チームの力を誰よりも信じているんです」
だからこそ、諏訪が目指したのはCTOではなく、VPoEだった。技術の頂点に立つよりも、人と組織を通じて強いチームをつくる。それがモチベーションの中心にある。そしてスタジアムも、人と組織に同じ重さを置いている。その一致が、決定的だった。
響いたのは、価値観だけではない。スタジアムが手がける「FANTS」は、クリエイターが月額会員制のコミュニティを作ったり、オンラインレッスンなどのサービスやデジタルコンテンツをファンに直接販売できる、クリエイターとファンを繋ぐ BtoBtoCサービスだ。その根っこにある思想が、諏訪の記憶を呼び覚ましたのだ。
ニコニコ動画には、「ニコニコ宣言」と呼ばれる考え方がある。クリエイターが自由に活動し、感情あふれるインターネットをつくろう、という理念だ。スタジアムの経営陣が語る「インターネットをやり直す」という思いは、それと重なって聞こえた。
昨今のSNSでは、アテンション、つまり注目を集めることを優先せざるを得ない状況にある。数字のために、本当はやりたくないことまでやる人もいる。送り手も受け手も幸せではない状況に、諏訪はかねてより違和感を抱いていた。
スタジアムが目指すのは、それを解決することである。好きなことに情熱を注ぐ人が集まり、共感でつながり、良いコミュニティが育っていく。かつてニコニコ動画に感じたあの熱が、「FANTS」の向かう先にも見えた。
入社前は小林氏と週に一度ほど対話を重ねていたが、これからは仲間として、より頻繁に言葉を交わしていくことになる。
「私にとっては師匠みたいな存在ですね。マネジメントで嬉しいと感じるポイントまで、まったく同じでした」
引き合わせから転職の決断まで、あっという間だった。それでも、噛み合うべきものが、見事に噛み合った。
最後の決め手が「価値観の一致」になる方はとても多いです。スキルや条件でマッチする会社は複数あれど、価値観まで一致する相手はそう多くありません。私の役割は、案件を勧めることではなく、その人が本当に合う相手と引き合わせること。とくに、目指すゴールを一足先に通ってきた先達との出会いは、意思決定の解像度を大きく上げます。諏訪さんと小林さんの縁も、そうした一つの形でした。
経営と現場の距離が近い、強い組織をつくりたい
着任後、まず何から手をつけるか。諏訪の答えは、いきなり上から差配することではなかった。まずは現場に降り、自分でコードを書き、プルリクエストを出してみる。組織がどう回り、開発がどう進むのか。その解像度を上げるために、かつて手放した「手を動かす仕事」に取り組みたいという。
組織もまだそれほど大きくないぶん、当面はVPoEだけでなく、部長やエンジニアリングマネージャーの役割も担う。そして、エンジニアリングマネージャーを採用し、VPoEに集中できる体制をつくる。それが最初の一歩だ。ただ、役割の線引きを厳密にするつもりはない。
「縦割りにしすぎず、みんなで話しながら、染み出しながらやっていきたい」
染み出すとは、自分の担当の枠にとどまらず、周りの領域にも関わっていくことだ。技術選定にもプロダクトにも、必要なら首を突っ込む。落ちているボールがあれば、拾えばいい。
「ボール拾いが、ちょっと楽しいんです」
整いすぎた組織なら、拾うボールもない。あちこちに落ちているからこそ、自分の出番がある。そんなスタートアップの現場を、諏訪はむしろ面白がっている。
これまで大規模な組織を率いた経験を、新天地でどう生かすのか。石川がそう問うと、諏訪はまず、これまでの経験で得られた学びや教訓から語り始めた。
「経営層と現場の距離感を、どう縮めるか。それがすごく難しい」
経営が「こうしよう」と決めても、現場がまったく同じレベルで理解し、納得感を深めることは簡単ではない。見えている解像度が、そもそも違うからだ。だからこそ、このギャップを埋める取り組みが欠かせない。ルールのつくり方や組織の形、1on1や定例の進め方など、AI時代だからこそアップデートできることは数多くある。経営と現場の間はもちろん、プロダクト組織とビジネス組織の距離も近い「なめらかな組織」をつくること。それこそが、彼が自らに課したテーマだ。
3年後、そして5年後。組織は10倍に、プロダクトの数も増えているだろう。人が増えれば、組織は管理職を増やしていくのが普通だ。だが、諏訪はそうとは限らないと見ている。
「今はAIがあるので、管理職が一人で見られる範囲も広がっています。できるだけフラットにして、みんなが快適に働ける組織にする余地は、まだいっぱいあると思うんです」
手放した現場の感覚と、新たに引き受ける経営への責任。その両方を、彼はひと続きの設計として捉えている。大きな組織から、小さな組織へ。何かを失うためではなく、自分の役割をつくり直すためのものだった。
最後に、次のキャリアに迷うエンジニアへ。大きな組織からスタートアップへ、と聞くと、大きな賭けに見えるかもしれない。だが、諏訪の受け止めは違った。
「自分にベットする、と言うと大げさですが、そんなに大それた決断じゃないんです。ドワンゴ時代、数々の新規プロダクトを立ち上げてきましたが、すべてが思いどおりにいったわけではありません。それでも、挑戦から得たものは財産として残りますから」
「ただ小さな会社では、一緒に働く人といい仕事ができそうか、そこだけは見極めたほうがいいと思います」
手放したものと、引き受けるもの。その先に次のステージが待っている。

多くの方は、「方向性が固まってからでないと動けない」と考えます。ですが実際は、動いてみて初めて見えるものが少なくありません。「自分は何をやり切ってきたのか」「次に何を引き受けたいのか」。それを一緒に言葉にする壁打ち相手がいると、この輪郭は早く、くっきりと浮かび上がります。
キャリアの選択肢を広げたい方は、ぜひ一度エグゼクティブ面談でお話しさせてください。まだ募集前の段階の情報や、非公開求人の情報もお伝えできます。方向性が定まっていない段階でも構いません。一緒に整理するところから始めましょう。
キャリアの「選び直し」を、ひとりで考える必要はありません。
Findyでは、CTO・VPoE・開発部門責任者などのハイクラス人材、またはCTO・VPoE・開発部門責任者などを目指すテックリードやEMなどの方を対象にエグゼクティブ面談を実施しています。まずはお気軽に、次のキャリアの選択肢を一緒に整理してみませんか。

