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ごきげんは、気合じゃなく設計。変化を楽しむメンタルモデルは“やらない”からつくる

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株式会社メルカリ Digital Platform Engineering / 一般社団法人Gophers Japan 代表理事

micchie

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こんにちは、micchieと申します!現在はメルカリ ホールディングス IT部門のDigital Platform Engineeringという部署でマネージャーをしています。社内のIT部門のエンジニア(プロジェクトマネジメントもする)たちと一緒に働いています。

昨今はAIの進化によって、エンジニアの仕事のバリエーションが急速に変わりつつあります。「自分はこの先、生き残れるのか」「ICとして専門を深めるべきか、マネージャーとして幅を広げるべきか」。さらに最近では「そもそも職種そのものを越えることまで視野に入れるべき!?」。そんな不安や迷いを、よく目(耳)にするようになりました。時代やテクノロジーの変化に、希望だけではなく戸惑いを感じる人もいるのではないでしょうか。

わたしはこの20数年、バックエンドエンジニア、エンジニアリングマネージャー、プロジェクトマネージャーと役割を行き来し、ときにはSalesのチームに身を置き、今は事業側ではなく、会社のITを担う部門にいます。職種や役職にとらわれず、ずいぶん幅広くやってきた……と思います。そのような状態で「不安はなかった?こわくなかった?」と聞かれれば、まちがいなく「ずーっと不安だったし、自分自身のゆらぎが怖かった!」です。

しかし、今ではそんな人生をおもしろいと感じられるようになりました。ふりかえれば、おもしろがれる心の状態を、時間をかけてつくってきたことに気づきました。

変化を恐れず楽しめるかどうかは、性格や才能で決まるものではないと、わたしは考えています。それは日々の小さな「やること」「やらないこと」の意思決定の積み重ねでつくられる、一種のメンタルモデルです。この記事では、わたしがそのメンタルモデルをどうつくってきたかを、「やらないと決めた4つのこと」と「やると決めた2つのこと」に分けてお話しします。現代で求められる越境に不安を感じている方の、心の整え方のヒントになれば嬉しいです。

メンタルモデルは「決意」ではなく「習慣」でつくる

「変化を恐れずおもしろがろう」と決意したところで、人はすぐには変われません。少なくともわたしにはムリでした。不安は反射的な感情だからです。職種や職場を変えるとき、自分への期待が変わるとき、自分自身で選んだ道とはいえ、感じてしまう不安を意志の力で止めることはできません。

でも、ひととおり不安に苛まれたあとに「どう考えるか・捉えるか」のクセは、変えられます。筋トレと同じで、続ければ確実に効果が出ます(わたしは筋トレはしていませんが)。わたしにとっての「トレーニングメニュー」にあたるのが、これからお話しする習慣です。「やらないこと」は変化に不安を感じるクセを取り除き、「やること」は変化をおもしろがれるクセをつくります。

やらないこと① 人と比べること

1つ目の「やらない」は、他人と自分を比べることです。

かつてのわたしは、周囲と比べては、じっくり落ち込むことの多い人間でした。同世代・同性の人々の活躍を見ては落ち込み、若い人々の勢いに焦り、専門を一本に絞って突き抜けている優秀な人を見ては不安になる。職種を越えて働くキャリアでは、比較の対象がどんどん増えていきます。マネジメントをすれば他のマネージャーと比べ、コードを書けば優秀なエンジニアと比べ、ドメインを跨げば、1つのドメインで突き抜けてきた人と比べる。どこへ行っても敵わないように見えてしまうのです。自分の無力さを感じるのですね。

比較をすることがなぜ越境の足かせになるのかというと、せっかく積み上げてきた居心地の良い場を捨てて、新しい場の最下位からやり直すように感じてしまうからです。これでは、変化はいつまでも脅威のままです。

だからある時期から、比較そのものを意識的にやめることにしました。やることは「比較をしそうになったら立ち止まる」、それだけです。ただ、このシンプルさに比べて、実行するのはメチャメチャ大変でした。胸がざわっとしたら、その瞬間に1度目をつぶって、「あ、今、わたしはまた比べたな」と気づいて深呼吸する。感じてしまったことそのものは否定しません。比較をゼロにするのではなく、比較に飲み込まれる前に気づく回数を増やすイメージです。

立ち止まったあとは、自分自身の目標を思い出します。わたしの目標は「必要とされるエンジニアでありたい」というものです。「あの人と比べる自分」ではなく、「目標に近づいている自分」を思い出します。そうすると、いつの間にか越境を怖がらなくなっている自分がいます。

やらないこと② 年齢らしくあろうとすること

2つ目の「やらない」は、「歳相応」であろうとすることです。

ある程度の年齢になると、世間にはいろいろな「らしさ」の圧力があります。いわく、いい歳なのだからそろそろ落ち着くべき。いわく、歳相応のファッションをするべき。見苦しい!とか言われちゃったりね。厄介なのは、この声が外からだけでなく、自分の内側からも聞こえてくることです。「今やっている活動(仕事以外にも、技術コミュニティなど)はそろそろ卒業するべき?」「もっと家族に目を向けた時間のつかいかたをすべき?」「こんなファッション、年齢的には恥ずかしくない?」。年齢を理由にした心の問答は、越境の選択肢を静かに削っていきます。

この内なる声と向き合うきっかけになったのが『モダンエルダー』という本との出会いや、同世代の仲間との1on1でした。長生きの時代、年金や将来の不安もある中で、わたしたちはおそらく想像以上に長く働くことになります。わたしが100歳まで生きることを考えると、50 代はまだ折り返しを過ぎたばかり。その長い道のりを「歳相応」という足かせをはめたまま歩くのは、あまりにもったいないことです。むしろ、経験と謙虚さをもって周囲から必要とされ続ける存在、つまり「求められるアクティブシニア」を目指すほうが、ずっと現実的で、ずっと楽しいです。

50 代でバックエンドエンジニアをもう1度選んだのも、今いる新しい環境に飛び込んだのも、この決心の延長にあります。判断材料は「必要とされているか」「おもしろそうか」で十分です。そこに年齢を混ぜない、と決めました。おかげで「micchie だから」で声をかけてもらえる場面が、少しずつ増えてきたと思っています。年齢の足かせを外すと、経験の厚みが残ります。もちろん、ファッションもね!好きにすればよいのです。

やらないこと③ 限界まで我慢すること

3つ目の「やらない」は、我慢を積み重ねて、限界が来るまで耐えることです。

わたしは30代で1度燃え尽きています。当時のわたしは「つらいのはみんな同じ」「ここで音を上げたら負け」と、我慢をどこか美徳のように扱っていました。その結果どうなったかというと、心と身体が限界を迎え、仕事どころか日常まで立ち行かなくなりました。我慢は一見、責任感や成長意欲の表れに見えます。でも、限界まで我慢した先にあるのは成長ではなく、故障です。そして故障からの回復には、我慢していた時間の何倍もの時間がかかります。

だから今は、我慢に気づいたら早めに白旗を上げる、と決めています。違和感は小さいうちに口に出す。ひとりで抱え込まない。そして、環境を変えるという選択をいつでも選べる状態にしておくのです。我慢をやめることは、逃げではなくメンテナンスです。

これは越境の話とも地続きです。変化をおもしろがるには、体力と心の余白が必要です。すり減った状態では、どんなチャンスが来ても「おもしろそう」とは思えず、ネガティブになってしまいます。変化を楽しむ力は、健全な心と体に宿ります。燃え尽きから学んだ、わたしの1番高くついた教訓です。

やらないこと④ キャリアの正解を、先に決めてしまうこと

4つ目の「やらない」は、キャリアを綿密に計画しすぎることです。

「5年後の理想像を描いて、そこから逆算しましょう」と語られることがあります。否定はしません。でも、わたしはやりません。理由はシンプルで、すぐに変化してしまうからです。5年前のわたしは、自分がSalesのチームで働くことも、社内ITチームのマネージャーをやることも、AIと一緒に仕事をする日々が来ることも、まったく予想していませんでした。変化の速い時代に精密な地図を描いても、地形のほうが先に変わってしまいます。

代わりに決めているのは、方角だけです。わたしの場合は「職業人としての人生を、必要とされるエンジニアとして締めくくりたい」。この方角さえ合っていれば、途中の道は、そのとき1番おもしろそうなものを選べばいい。IC かマネージャーか、事業か社内ITか、といった分岐も「一生の決断」ではなく「今回はこの方角から登る」という程度の、一時的なルートの違いです。

正解を先に決めないことには、もう1つ効用があります。想定外の出来事の意味が変わるのです。精密な計画を立てすぎると、想定外は「計画の失敗」に見えてしまうかもしれません。方角だけを決めていれば、想定外は「新しい道の発見」です。同じ出来事でも、受け取り方がまるで違う。変化の多い時代には、後者のほうがずっとごきげんに生きられます。

やること① いつもごきげんでいること

ここからは「やる」と決めていることです。1つ目は、いつもごきげんでいること。

わたしはこれを、変化をおもしろがるメンタルモデルの土台だと考えています。人は、心に余裕がないときに変化を脅威と感じることがあります。疲れ切っているとき、我慢を重ねているときに新しいチャレンジが来ても、「おもしろそう」より先に「疲れそう」と感じてしまうのは当然です。逆に、ごきげんなときの自分は、同じ話をより好意的に受け取れる。つまり、変化を楽しめるかどうかは、変化が来たその瞬間ではなく、日頃のコンディションでほぼ決まっているのです。

ごきげんでいるために必要なのは、自分に足かせをはめないこと、そして自分にとって気持ちの良い環境を常につくろうとすることです。先の「やらないこと」4つは、わたしにとっての足かせ——「誰かとの比較」「らしさ」「我慢」「決めすぎた計画」——を外す作業でした。足かせを外した上で、気持ちの良い状態を能動的につくりにいきます。

ポイントは「気持ちの良い状態・環境」は人によってまったく違う、ということです。誰かにとっては1つの技術に深く潜ることかもしれないし、誰かにとっては多くの人とコミュニケーションが取れる環境かもしれません。わたしの場合は、新しいものに触れているとき、そして肩書きと関係なく技術をおもしろがれる場にいるときが、1番ごきげんです。長年携わっている大好きな Go コミュニティの運営は、わたしにとってまさにそういう場所です。正解はありません。自分のごきげんの条件を知っていることが、強さになります。

もう1つ心がけているのは、ごきげんを「気合」ではなく「設計」で保つことです。気持ちの良い状態は、放っておくと日々の忙しさに削られていきます。自分が何をしているときに機嫌が良く、どんなときに損ねるのかをよく観察して、前者が自然と増える環境を選ぶ。わたしにとっては、キャリアの選択もこの「環境の設計」の一部です。我慢を積み上げて限界を待つより、気持ちの良い状態をつくりにいくほうが、結果として長く働けます。

やること② チャンスと新しいものを、おもしろがって受け入れること

2つ目の「やる」は、目の前に来たチャンスや新しいものを、おもしろがって受け入れることです。

ごきげんという土台の上に、この行動を意識的に乗せています。ポイントは「おもしろがる」ということです。おもしろいと「感じる」のを待つのではなく、おもしろがりに「いく」。あらゆるチャンスに対して、まず「どこが自分にとっておもしろいか」を探すところから入る、と決めているのです。どんな変化にも、最初からおもしろいポイントが見えるとは限りません。でも探せば必ずあります。Sales の現場には、お客さまの生々しい声がありました。社内ITには、会社全体の働き方を技術で変えられるという、事業開発とはまた違うダイナミズムがあります。まずはとりあえず「それおもしろいですね!」と声に出すことにしています。

そして、越境した先で気づくことがあります。職種が変わっても、持ち運べるものは想像以上に多いのです。エンジニアリングで培った問題の分解のしかた、マネージャーとして学んだ人と組織の動かし方、などなど。AI が職種の境界を溶かしていくこれからの時代、この「持ち運べるものの多さ」に気づいている人ほど、変化を楽しめるはずです。

また今の時代、AIは越境のコストを劇的に下げてくれる存在でもあります。慣れない領域の知識を素早くキャッチアップするのも、久しぶりの技術の勘を取り戻すのも、以前よりずっと身軽にできるようになりました。職種の境界を越えるときに重たかった「ゼロから学び直す」という億劫さも、AIが並走してくれるおかげで、ずいぶん軽くなりました。境界を溶かすものは、境界を越える味方にもなったのです。AIによって増えた「おもしろがる対象」と、AI のおかげで軽くなった「越境の一歩」をどう味わうか。人生はおもしろいことだらけです。

その結果どうなったか

この6つの習慣によって得られたものは、何でしょう?

事業撤退という、自分ではコントロールできない出来事が起きたときも、必要以上に落ち込まずに「さて、次はどこで何をおもしろがろうか」と考えることができました。役割や職種の移動は、人生を左右するけれども、一生の決断というほどではありません。エンジニアもマネージャーもSalesも社内ITも、過程のひとつ!そう捉えられるようになると、キャリアの選択がずっと軽く、そして自由になりました。

もう1つの変化は、キャリアを「締めくくり」から逆算して考えられるようになったことです。健康に、機嫌よく、長く働き続けて、必要とされるエンジニアとして職業人生を終える。そのゴールから逆算すると、目の前の選択は「今、正解か」という重たい問いではなく、「自分のゴールに向けて、今はどの経験を積むか」という軽やかな問いに変わります。エンジニアとマネージャーの両方の視点、Salesチームで得た現場感覚、社内ITで見えてきた会社全体の景色。越境のたびに増える引き出しは、遠回りではなく、ステキな積み重ねです。今は心からそう思えています。

マネージャーという立場でも、伝えたいことがあります。メンバーの越境や役割の往復を、組織はもっと自然なものとして扱っていいと思っています。挑戦する人が増えることは、会社組織にとっても喜ばしいことですよね。わたしにできるのは、まず自分自身が越境してみせること。そして「どちらに進みたい?」ではなく「次はどんな経験を積みたい?」と問うことだけです。

さいごに

さいごに、この記事を読んでくださったみなさんへ。

AI時代の越境に不安を感じるのは、まっとうな感覚だと思います。でも、変化を楽しめる人が特別な才能を持っているわけではありません。ただ、変化を怖くさせる足かせを外し、自分自身がごきげんでいられる状態を整え、おもしろがる訓練をつづけているだけです。つまり、いつでも始められるのです。

まずは、自分がごきげんになる条件を1つ、見つけてみるといいかもしれません。そして何かしらのチャンスが来たら、まずは「おもしろいポイント」を1つだけ探してみるのです。そして「おもしろそう!」と口に出す。その小さな繰り返しが、変化を恐れないメンタルモデルを少しずつつくっていくのです。

人と比べず、環境や歳相応にとらわれず、限界まで我慢せず、将来を決めすぎず、ごきげんにおもしろがる。これが20数年かけてたどり着いたわたしの生存戦略です。一緒に、ごきげんに、ずーっと楽しくやっていきましょう!

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