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「ソフトウェアは書けるけど、電子工作はちょっと…」。そう感じているエンジニアは、たぶん少なくないはずです。はんだごてなんて中学の技術の授業以来、握った記憶もないし、失敗したら…と思うと不安。
でも、その“怖い”を、まるごと引き受けてくれる場所があります。
朝からみんなではんだ付けをして、昼からはそれをGoで動かす。全国を巡りながらそんなワークショップを開いているのが、日本のTinyGoコミュニティ「TinyGo Keeb」です。神戸から始まって、東京、仙台、福岡、金沢、大阪…そしてついに海を越えてシンガポールまで。2024年8月のスタートから、もう10回以上。参加者は延べ120人近くにのぼります。
「楽しいこと以外、やらないんですよ、うちは」
そう笑うのは、TinyGo Keebの中心人物であるtakasago(sago35)さんです。TinyGoの日本での普及をずっと引っ張ってきた“中の人”であり、自作キーボードのファームウェアを自分でTinyGoに実装してしまった張本人でもあります。今回は、初心者の不安をどう取り除いているのか、そしてこのコミュニティがなぜここまで広がったのかを聞きました。
「やりたいね」の立ち話から、2カ月で第1回開催へ
―― まず、TinyGo Keebってどんなコミュニティなんでしょう?
日本のTinyGoコミュニティです。というか、TinyGo単独のコミュニティって、たぶん世界でもうちくらいしかないんじゃないかな(笑)。今はコアメンバー8人(sago35、micchie、ysaito、taknb2nch、satoken、senoue、makki_d、tam)で、同人誌を書いたり、10月にはカンファレンスをやったり。でも1番の看板は、全国を回ってはんだ付けのワークショップをやる「TinyGo Keeb Tour」ですね。
つくるのは、zero-kb02っていう自作のマクロパッドです。12個のキーに、ジョイスティック、ロータリーエンコーダ、小さいディスプレイまで載っている。朝からはんだ付けして組み立てて、昼からはそれをTinyGoで動かして、キーを光らせたり、押したときの動きを書いたりする。はんだごても貸し出すので、参加者はPCひとつ持ってくれば手ぶらで大丈夫です。

完成したzero-kb02を見せてくれているGo界の有名人 Dave Cheney氏
―― そもそも、どうやって始まったんですか?
けっこう成り行きなんですよ(笑)。もともと僕、自作キーボードが好きで、TinyGoもずっとやっていて。2022年にTinyGoの本を出したんですけど、その内容を厚くするために、USBキーボードをつくれる機能を自分でTinyGo本体に実装してみたんです。本を出したあとも、ずっとそのキーボードで遊んでいました。
それで2024年6月、Go Conference 2024での立ち話で、micchieさんと「TinyGoでハンズオンやりたいね」って盛り上がって。そうしたらysaitoさんが「はんだ付けできる場所もこっちで用意するから、やらない理由ないよね」って外堀を固めてくれて、一気に動き出しました(笑)。そこにtaknb2nchさんも加わって、その週のうちにオンラインで4人で話して、7月頭にキックオフ。それまでに基板を急ピッチで設計・発注して…で、8月4日には神戸で第1回をやってました。
こんなにトントン拍子で進んだのも、TinyGoと自作キーボードを掛け合わせるのが、自分の中ではごく自然な流れだったからかもしれません。
「失敗しても、全部直す」。だから、はんだ付けは怖くない
―― 「はんだ付けが怖い」という人、多いと思うんです。そういう人の不安は、どう和らげているんですか?
まず、募集の時点で「はんだ付け初めてでも大丈夫です」ってしつこいくらい書いています。Xでもずっと言い続けている。それでも当日はやっぱり不安そうな人がいるので、イベントの冒頭で、こっちが実際にはんだ付けの手本をやって見せます。
あとは最初に、はっきり言ってしまいます。「壊しても部品あるよ」、「リワーク班がいるから、何をやらかしても直すよ。だから安心してください」って。実際、今まで直せなかったことは一度もありません。
道具も、地味だけどすごく大事で。安いはんだごてって、本当にはんだが乗らなくて、やってて辛くなるんです。「はんだ付け楽しくない」って人の原因はけっこうそこだったりする。だから、ちゃんとしたこてを10台くらい用意して貸しています。
―― 教材も、開催のたびに改善されているそうですね。1番効いた工夫は何ですか?
基板の「裏表」ですね。基板って表と裏があるんですけど、見た目がほとんど一緒なんですよ。だから最初のころ、逆向きに部品を付けちゃう人が続出して。これ、リワークがすごく大変で、剥がすのには一定の時間がかかります。
それで、まず「こっちが裏、こっちが表」って説明するページをつくっています。さらに、表側にマスキングテープでシールを貼ってもらうようにした。これで裏表ミスはガクッと減りました。ゼロにはならないけど(笑)。
こういう改善を、もう13回、毎回ちゃんと反省しながら積み重ねてるので、だいぶ良くなってると思います。
「つくれた!」が、1番楽しい
―― takasagoさんご自身にとっての「楽しい」って、どんな瞬間なんでしょう。
自分がつくりたいと思ったものが、つくれた瞬間ですね。ソフトでもいいんですけど、物理のものだとそれがよりわかりやすい。組み込みって、実はGoを始めるより前からの趣味なんですよ。
その「つくれた」の感覚を、他の人にも味わってほしい。はんだ付けが終わってニコニコしてる参加者を見るのが、とても好きなんです。
うちのイベントでは、はんだ付けが正しくできたか確認する治具を用意してるんですけど、そこでちゃんと光ると、みんなで拍手して迎えるんです。最後にハードが完成して、ファームウェアを書き込んで動いたら、また全員で「わー」ってなる。最近はそれがエスカレートして、コアメンバーのmicchieさんが完成の瞬間をチェキで撮って、プレゼントするようになった。これがすごく素敵なんです。

TinyGoメンテナー Ron Evans氏の完成をお祝いするmicchieさんと参加者たち
盛り上げようとしてるわけじゃないんですけど、自然とそうなる。ベテランが猛スピードで終わらせて「もう終わったの!?」ってなったり、後半は同じくらいのペースの人が残って、自分より後に完成した人に「よくやったね」って拍手したり。はんだ付けが終わるころには、みんなワイワイしてる。その空気のままお昼ごはんに行く感じです。
―― 参加されるのは、どんな方が多いんですか?
1番多いのは、Goに何かしら関わりのある人ですね。それとは別に、「自作キーボードは気になってたけど、はんだ付けが怖くて手を出せなかった」っていう層もけっこういます。ソフトは全然書いたことがない、っていう人まで来てくれます。
正直、僕らの想像を超えた人が来てくれます。それがまたいいなと思っていて。自作キーボードは2〜3万円ぐらいするものが多いのですが、パーツだけなら今は1万円ちょっとでつくれる。昔と比べて、すごく安くなったんです。ライブラリも整ってきたし、3Dプリンタでケースも気軽につくれる。AIが来るより前から、ものをつくるハードルはどんどん下がっていた。だから、こういうイベントもやりやすくなってるんですよね。
―― 参加者には学生も多いと伺いました。料金も工夫されているんですよね。
そうですね。一般は4,500円で、学生さんは2,000円で来てもらっています。正直、やや赤字になる回も多いんですけど、まあそれはそれで、という感じで(笑)。
―― 赤字になることもあるのに、続けているのはどうしてですか?
うちのコアメンバーは1番若くて30代半ばで、僕なんかもう47歳ですし。だから若い人が来てくれるのが単純に嬉しいんです。飲み会で喋っていても、若いのにちゃんとお金を出して来てくれてる分、モチベーションが高い人が多い。やる気に満ちあふれてる。
ソフトの世界の人って、ハードウェアはあんまり触ったことがない人が多いんです。そういう人に「え、こんなに簡単につくれるんだ」ってきっかけを渡したい。「こんな感じなら、家の照明とかセンサーとか、身の回りのものも自分で動かせそう」、そう思ってもらえたら、もう最高だなって。
次の世代が育っていくのは、やっぱり嬉しいので。そこはこれからも大事にしたいところですね。
行き先も、「楽しいかどうか」で決める
―― 全国ツアー、開催地はどうやって決まっていくんですか?
早いもん勝ちです。というのも、このイベントで1番難しいのって、実は「はんだ付けができる会場を確保すること」なんです。そこさえ解決すれば、あとは行くだけ。だから、会場が取れた県から順に、って感じになる。
僕たちは現地スタッフの方とともにイベントをつくっていきます。その時に現地スタッフの方々にまずお願いしているのは、その会場探し。あとは懇親会のお店選びとか、地元のおすすめスポットとか(笑)。金沢でやったときは、Kanazawa.goの人たちが動いてくれました。オープニングでは「Kanazawa.goってこんなコミュニティですよ」って喋ってもらったりもした。Goをやってない大学生が、友だちのつてで来てくれたりするので、そういうつながりが生まれるのも狙いのひとつです。僕らはツアーでその土地を通り過ぎていくだけですが、イベントをきっかけに現地のコミュニティと参加者がつながって、その土地に少しずつ根づいていってくれたら、すごく嬉しいですね。
こっちはもう何度もやってきて、ドキュメントも手順もそろっているので、現地の方にはできるだけ楽をしてもらえるようにしています。ありがたいことに、声をかけてもらえる機会もすごく増えていて。正直、今から新しくご相談いただいても、実際に開催できるのはかなり先…下手すると早くて半年後、遅くて一年以上後になってしまうくらいで。申し訳ないんですけど、それくらいスケジュールが埋まっている状況なんです。
―― 行き先は、どうやって選ぶんですか?
実際に開催が決まるのは、さっき言ったとおり会場が取れた順なんですけど、「どこに行きたいか」の希望でいうと…正直、食べ物です(笑)。高知でやりたいってずっと思ってるんですが、やるなら初ガツオか戻りガツオの時期がいいなって。次にやる福井は、もう完全にカニ狙いです。「カニを食べたいから11月以降だよね」って、そういう相談をしてます。
僕らのコミュニティってみんな自費で移動しているから、半分旅行みたいなものなんです。だからこそ、美味しいものとか行きたい場所があると、モチベーションが湧く。日本には47都道府県あるので、いつか全部塗りつぶしたいなとは思ってるんですけど、趣味でやってるから毎月は無理で。同じ場所で2回目もやりたいし…たぶん、全部回るのに15年くらいかかる計算です。
「世界初」も、海外進出も、始まりはノリだった
―― 2025年には「世界初のTinyGoカンファレンス」も開催されました。どういう経緯だったんでしょう。
完全にノリです(笑)。「世界初なんだから、やったら楽しいんじゃない?」って言い出して。「海外からTinyGoのコアメンバーも呼んじゃおうよ、お金ないけど」みたいな話をしてるうちに、本当にやることになった。TinyGoだけを扱うカンファレンスって、たぶん世界でもうちだけなんですよ。
カンファレンスってやっぱり重いので、しばらく僕も悩んでたんですけど、去年の春先に「じゃあやります、みんな協力お願いします」って定例ミーティングで宣言して。そこから10月まで走りました。ずっと会いたかったTinyGoのコアコントリビューターが海外から来てくれて、展示も発表もしてくれて。僕がTinyGoに深く関わるきっかけをくれた人なんです。だから、すごく感慨深かった。

Conejo氏、GopherCon SingaporeオーガナイザーのValentine Chua氏と
去年1番人気だった展示はフォースフィードバックのハンドルです。ゲームで車がぶつかると、ハンドルにガチャンって力が返ってくるやつ。TinyGoで動かしていて、現物をつくってるのは世界でたぶん作者のnobonoboさんと僕だけ。今回はnobonoboさんが展示してくれたんですけど、超盛り上がってました。TinyGoは動くハードをつくれるから、手で触れる展示が並ぶ。そこがうちのカンファレンスの面白いところですね。参加してくれた方にも楽しんでもらえたと思うし、何より僕自身が超楽しかったです。

フォースフィードバックのハンドルを楽しむ参加者
今年も10月10日に開催します。「もっとはんだ付けをしたい」という声が多かったので、ワークショップ部屋を1つ増やし、去年よりも広げる予定です。海外からもTinyGoのコアメンバーが来てくれそうで、今まさに調整しているところですね。
―― そして、ついにシンガポールへ。
GopherCon Singaporeのオーガナイザーが、うちのカンファレンスに来てくれてたんですよ。その人がまた飲むのが大好きで、飲み会で盛り上がって「ほな行くか」って(笑)。
でも、行くと決めてからが大変でした。英語のドキュメントを最新版に追従させて、そもそも「はんだごてって飛行機で持ち込めるの?」というところから確認しました。熱を持つ工具だから、機内持ち込みOKかを確認してもらったり。現地に着いた翌日には、なぜかワークショップの日程が変わってたりもして。
ワークショップの参加者は10人で、Goを日常的に書いてる人はたぶん4〜5人。つまりGo以外の人にも届いた。「開催してくれてありがとう」と、すごい歓迎ムードで嬉しかったですね。
―― takasagoさんご自身にとっても、初めてづくしだったんですよね。
僕自身、英語で発表するのも、海外のカンファレンスに行くのも初めてで、パスポートも久しぶりに復活させました。しかも英語でライブコーディングです。スライドならカンペを表示できるけど、コードを書いてる最中は画面がコードだけになるから、カンペが出せない。たくさん練習して臨みました。終わってホッとしていたら、英語での質疑応答まで。台本にないやつはさすがに焦りましたけど、自分の専門の話なので、なんとか答えられたはずです。が、英語は本気で勉強しようと思いましたし、今もトレーニングを続けてます。次は台湾に行きそうな気配です。美味しそうなものもたくさんありますし(笑)。

GopherCon Singaporeでの登壇の様子
楽しさは、勝手に広がっていく
―― コミュニティを続けてきて、ご自身に返ってきたものはありますか?
つながりが、すごく増えましたね。自分が行っていないイベントでも、コアメンバーが「TinyGo Keebです」って名乗って展示をしてくれる。それがもう、たまらなく面白いし嬉しいんです。昔は「TinyGoっていう何かをやってる変な人」くらいの認知だったのが、今は「TinyGo Keebの人たち」としてちゃんと知ってもらえるようになった。参加者も、スタッフを除いてもう120人近く。そのぐらい大きくなれたのは、すごくいいなと思います。
あと、グッズが勝手に生まれるんです。ある時、仙台の会場に行ったら、ツアータオルが「できてた」。つくろうって相談したわけでもないのに、メンバーのsenoueさんがこっそりつくってて(笑)。最近はテーブルクロスまであって、参加者のみんなとそれを掲げて記念写真を撮るのが定番になってます。

恒例となった記念写真。イベントの終わりにはみなさん自然と笑顔に
―― ゲームエンジンまで自作してるの、すごいですね。
koebitenっていう、zero-kb02の上でゲームを手軽につくれるエンジンなんですが、これは本当につくっておいてよかったなと思っています。時々、新しいゲームをつくってるんです。最新作はパズルボブル風のやつですね。しかも最近は、AI Agentにこのエンジンのリポジトリを読ませて「こんなゲームつくって」って言うと、だいたいつくれる。いい時代になりました。
壁はある。でも、みんなでやれば案外あっさり越えられる
―― 最後に。「ハードって難しそう」と、一歩手前で止まっている人へメッセージをお願いします。
最初の一歩って、やっぱり難しいですよね。はんだ付けも、ハードウェアも、組み込みも、TinyGoも。でもその壁って、みんなで取り組むと、案外あっさり突破できるんです。
うちのTinyGo Keeb Tourに来てもらえれば、はんだ付けの入門も、ハードウェアの入門も、TinyGoの入門も、たぶん1日で全部できちゃう。そこから先には、いろんな楽しいことが待ってる。だからぜひ、一歩踏み出して、新しい発見をしてほしいなと思います。
それに、こういうイベントは別にTinyGoじゃなくてもいいんですよ。他の言語でも、他の界隈でもやってほしい。実は今、PicoRubyやpicoPHPの人たちと、「朝からみんなではんだ付けをして、昼からそれぞれの言語でソフトを書く」みたいな合同イベントができないかなって話しているところで。企画倒れにならないように、頑張りたいですね。
TinyGo Keebは、8月に愛媛(松山)、11月に福井(鯖江)、そして10月には東京でTinyGo Conference 2026と、まだまだ全国を巡っていきます。もし近くで開催があったら、ぜひはんだごてを握りに来てください。何をやらかしても、リワーク班が必ず直しますから(笑)。そして完成したら、みんなで拍手をしてお祝いしましょう!

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