2026年5月15日に開催されたオンラインイベント「Data Career Talk #2 AIエージェントを支えるデータエンジニアの仕事」。メルカリとZOZOのデータエンジニアが登壇し、AI時代におけるデータエンジニアの役割の変化と自身のキャリアについて語りました。
株式会社ZOZOの塩崎 健弘さんは、同社のデータ基盤をBigQueryで立ち上げたデータエンジニアです。現在はCCoEや開発AIツールの推進も担っていますが、利用者の手を煩わせない仕組みづくりや、AIの提案に流されない技術選定の勘所は、いずれもデータ基盤の現場で身につけたものだといいます。
本記事では、塩崎さんの講演をもとに、データエンジニアの経験がAI時代のキャリアにどう活きるのかをお伝えします。
塩崎 健弘
株式会社ZOZO IT統括本部 技術戦略部 CTOブロック
- ZOZOのデータ基盤をBigQueryに作った人
- 最近はCCoEとか開発AIツール推進とかのお仕事も
上司の一声で突然始まったデータエンジニアのキャリア
塩崎さんがデータエンジニアになったのは、実は本人の意思ではありませんでした。新卒で入った会社では、バックエンドエンジニアとしてRubyを書く日々。メンターに「データベースって、要するにCSVですか?」と聞いてしまう程度には、データ領域との縁は薄かったといいます。
2017年、所属企業がZOZOの前身であるスタートトゥデイの子会社に。その後何度か社名が変わって現在のZOZOに至ります。塩崎さんの仕事が一変したのは、この子会社化の直後のことでした。突然上司に会議室へ呼び出され、告げられた「ZOZOのデータをBigQueryに集めてほしい」の一言。すでにRedshiftで構築中の基盤がローンチ間際まで来ていましたが、それを廃止してよいのかもわからない。大量のデータをBigQueryに集約するベストプラクティスも見当たらない。戸惑いながらも、手探りでデータの集約を始めました。
当時、塩崎さんの役割には名前がありませんでした。「データエンジニア」という言葉が日本で普及し始めたのは2018年頃のこと。塩崎さんがその存在を知ったのは、日本のデータエンジニア界隈で広く知られるゆずたそ(@yuzutas0)氏のブログ記事「データ基盤エンジニアの面白さ」を読んだときでした。「自分がやっていたことに名前があるのか」と初めて気づいた瞬間でした。
名前のない職種には固有の苦しみがあります。どんなキーワードで検索すればよいかわからないから、ベストプラクティスにたどり着けない。同じ仕事をしている人が少ないから、横のつながりもつくれない。結果、手探りで構築した基盤のアーキテクチャは、後から見れば惨憺たるものでした。
信頼性の低いデータソースからデータを取り込んだせいで微妙にデータがずれ、パイプラインは多段化してBigQueryにデータが揃うまでに無駄な時間がかかる。「根元が腐っていれば、上に積み上げたものはすべて腐る」と身をもって学んだといいます。

出典:塩崎 健弘|ZOZOTOWNの事業を支えるBigQueryの話
データエンジニアの成熟期を経て、職域の拡張へ
2〜3年かけて負債を返済し、要領がつかめてきた塩崎さんは、今度はデータ基盤チームの立ち上げとメンバーの育成に取り組み始めました。一人で抱えていた仕事を、チームで戦える体制に変えていくフェーズでした。
技術的にも高度な領域に踏み込んでいきました。SQL Server以外のデータベースとの連携やログデータの収集、SaaS系データの連携省力化。基盤がカバーする範囲は着実に広がっていきました。
なかでも塩崎さんが「一番印象深かった」と振り返るのが、リアルタイムデータ同期の構築です。2020年頃、BigQueryに格納されているデータは日次バッチで取り込まれており、最大1日の遅延がありました。データ鮮度を求める声が上がり、CDC(データベースの変更差分をリアルタイムに取得する仕組み)をBigQueryにストリーミングで流すパイプラインをほぼフルスクラッチで構築します。
現在であればGoogleのDatastreamで比較的簡単に実現できますが、当時はそのサービス自体が存在しませんでした。リアルタイムデータを投入してみると、さまざまな部署が活用してくれて、特に機械学習やAIのチームからは「このデータは非常に助かる」と感謝されたそうです。
こうしてデータパイプラインの構築を重ねていくうちに、データエンジニア以外の仕事が舞い込んでくるようになります。塩崎さん自身が売り込みに行ったわけではなく、「データエンジニアのチームにGoogle Cloudに詳しいやつがいる」という噂が社内で広がった結果でした。
最初はDedicated Interconnect(オンプレミスやAWSとの閉域ネットワーク接続)の管理を任され、気づけば全社ネットワークの中のGoogle Cloudに関する部分の設計まで担うことに。データエンジニアがネットワーク設計に関わるのは本来の守備範囲ではありませんが、Google Cloud側の接続ポイントを管理しているうちに、自然とそうなっていったといいます。続いてGoogle CloudのCCoE(Cloud Center of Excellence)として会社全体のクラウド活用方針やガバナンスの強化に関わり、さらには開発AI推進として、Claude CodeやCodexといったAI開発ツールの社内活用を推進する立場になりました。
データ基盤という一つの専門領域に根を張った結果、守備範囲が自然と広がっていく。塩崎さんのキャリアは、計画して切り拓いたものではなく、目の前の仕事に応え続けた先に形づくられたものでした。

出典:塩崎 健弘|いつの間にかデータエンジニア以外の業務も増えていたけど、意外と経験が役に立ってる
ケーススタディ:Claude CodeのOpenTelemetryログ収集に、データエンジニアの経験がどう活きたか
今回の登壇のきっかけとなったのは、塩崎さんが書いたテックブログでした。Claude Codeの実行ログを社員数百人規模で収集し、BigQueryで分析できるようにした取り組みを紹介したものです。
このプロジェクトには、データエンジニア時代の経験が随所に活きていました。
まず、Claude Codeのログデータをストリーム的にCloud Runで受け取り、BigQueryに格納するデータパイプラインを構築しました。やっていること自体は、データエンジニアの本業のような仕事です。
技術選定にも経験が効いています。AIに「OpenTelemetryの情報を分析したい」と聞くと、GrafanaやLoki、Elasticsearchといったツールを提案してきます。しかし塩崎さんは、自社にすでにBigQueryの構築済みアセットがあることを知っていました。AIの提案を鵜呑みにせず、自社環境との相性で判断できたのは、データ基盤を長く運用してきた経験があったからです。なお、これを参考にして似たような仕組みを構築したい場合、OpenTelemetryの仕様はオープンなので、BigQueryに限らず各社の構築済み環境に取り込むのがよいと塩崎さんは補足しています。

出典:塩崎 健弘|いつの間にかデータエンジニア以外の業務も増えていたけど、意外と経験が役に立ってる
塩崎さんが「利用者に何もさせない思想」と呼ぶ考え方も、データ基盤時代に培ったものです。テーブルの整理ひとつとっても、利用者に対応を呼びかけて全員が動いてくれるとは限りません。こうした経験から、利用者の手を煩わせず裏側で仕組みとして解決するアプローチへの関心が高まったといいます。OpenTelemetryの設定配布でもこの思想が活きました。全社員に設定ファイルの書き込みを依頼するのではなく、MDMとしてZOZOで導入しているIntuneを使ってバックグラウンドで配布。気づいたらファイルが入っている状態にしたそうです。
仕組みを社内に広げていくときの心得も、データ基盤時代の延長線上にあります。データ基盤を社内に定着させる取り組みを経て、塩崎さんは「知識を持ってもらうことが最終目的ではない。分析してインサイトを得てもらうことが目的だ」と考えるようになったといいます。AI開発ツールの導入でも同じことが言えます。SNSで日々流れてくる大量の情報を全社員に伝えることが目的ではなく、開発業務の効率が上がることが目的。手段と目的を取り違えない姿勢は、データ基盤時代に身につけた感覚でした。

出典:塩崎 健弘|いつの間にかデータエンジニア以外の業務も増えていたけど、意外と経験が役に立ってる
「特化しながら汎化する」AI時代のデータエンジニアのキャリア
AIエージェントがこれだけ発展した時代、データ基盤の主な利用者が人間からAIに移っていく未来は遠くないと塩崎さんは見ています。いかにAIにとって使いやすい基盤をつくるかが問われるようになる。定型的なコードを書く仕事は減る。そして、設計や監督といったアーキテクトとしての仕事がメインになっていくだろうといいます。
一方で、塩崎さんはデータエンジニアを「潰しが効くキャリア」だとも感じています。どうしても全体を見る立場になるため、個別最適ではなく全体最適のバランスを取るスキルが自然と身につく。組織横断でさまざまな部署と関わるなかで培われる調整力も、特定の技術スタックに依存しない汎用的な力です。データエンジニアの仕事をコードを書くことだけで捉えるとキャリアは行き詰まりますが、一段高いところから俯瞰して捉え直せば、他の職種でも活きるスキルが見えてくる。塩崎さん自身のCCoEやAI推進への展開が、まさにその実例でした。

出典:塩崎 健弘|いつの間にかデータエンジニア以外の業務も増えていたけど、意外と経験が役に立ってる
データ基盤という専門領域で培った全体最適の視点は、この先どんな役割を担うことになっても効いてくるはずです。特化した仕事をしながら、自分の汎用性を高めていく。塩崎さんのキャリアは、その可能性を示す一つの事例といえるでしょう。
データエンジニアのキャリアの“次の一手”を考える
株式会社ZOZOでは、データ基盤の構築・運用を通じて身につけた全体最適の視点や組織横断の調整力を、幅広い領域で活かせる環境があります。関心のある方は、以下もあわせてご覧ください。
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