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「登壇なんて、自分にはまだ早い」「イベントを主催するのは、よほど情熱と体力がある一部の人だけ」。そんなふうに思って、最初の一歩を踏み出せずにいるエンジニアは、きっと少なくないはずです。
でも、長く続いている場をのぞくと、それを支えているのは情熱だけではありませんでした。あったのは、属人化を防ぐ「型」と、聞き手が何を持ち帰れるかから逆算する「設計」、そして肩の力を抜いて続けるための小さな割り切りです。
企業スポンサーに頼らない“手弁当”の勉強会でありながら、たった1人で12年。それが「吉祥寺.pm」です。そこから派生した大型カンファレンス「大吉祥寺.pm」も、いまや毎年多くのエンジニアが心待ちにするイベントに育っています。
「義務感が出てしまった瞬間に、もうやれなくなるんです。『何のためにやってるんだっけ』って。だから、自分のペースでやれるサイクルを先に決めておく」
そう話すのは、吉祥寺.pmを主宰するMagnolia.Kさん。気負わずに無理なくイベントを続ける「仕組み化」と、明日からでも踏み出せる第一歩について話を聞きました。
たった1人で12年。続ける秘訣は、情熱より「無理をしないこと」
—— まず、お一人で12年というのが本当にすごいなと思うのですが、続けてこられた一番の要因は、ご自身ではどこにあると感じていますか?
やっぱり「無理をしない運営」をすることですね。それが結構大事だったなと思っています。
そもそも、「何年やってるんですか?」と聞かれて「12年です」と答えて、自分でびっくりするんですよ(笑)。長いなぁって。頑張って続けたというより、無理のない形にしていたら、気づいたらここまで来ていた、という感覚に近いです。
吉祥寺.pmは、開催ペースを「3カ月に1回」と先に決めているんです。このサイクルだと、1回やってしばらくしてから次の企画を考えるので、準備がかぶらない。実は最初の頃は月1回くらいでやっていて、さすがに追いつかなくて疲れちゃって(笑)。それで「3カ月に1回」に決め切りました。
運営のやり方も“型”を決めて繰り返す。こういうボランティアのイベントって、義務感が出てしまった瞬間に、もうやれなくなっちゃうんですよね。「何のためにやってるんだっけ」って。そうならないサイクルを先に決めておく、というのはずっと意識してきました。
—— 12年もあると、一度くらいは「もうやめようかな」と気持ちが折れた時期もありそうですが……。
それが、不思議とないんですよ。たぶん、モチベーションが自分の内側だけにあるわけじゃないんですよね。皆さんが参加してくれて、「面白かったよ」「次回はいつですか?」と言っていただけるのが、本当にありがたくて。その人たちがいる限りは続けている、という感覚なんです。
ただ、その代わりに「終わる条件」のほうは先に決めています。1つは、事件・事故が起きたとき。人間関係のトラブルや怪我など、個人でやっているイベントでは責任を取り切れないことが起きたら、そこでやめると。もう1つは、毎回同じ人しか発表しない状態になったとき。ありがたいことに、どちらもまだ起きていないんですけどね。
—— どちらの条件もまだ起きていないとのことですが、そうした状態を保つために、運営として意識していることはありますか?
なるべく関係性に濃淡が出ないように、内輪感が出ないように気をつけています。吉祥寺.pmって、コミュニティと言いながら、イベントとは別の飲み会も、DiscordやSlackみたいな常設の場も、あえてつくっていないんです。人が集まるのはイベント当日の懇親会だけ。それしかやらないようにしている。
内輪感って、外から見ると結構ハードルが高いんですよね。特定の人だけで盛り上がっていると、新しい人は入りづらい。フラットに続けるからこそ、参加する側も運営する側も、同じペースでいられるのかなと思っています。
そして、入りやすい雰囲気を保っているからか、毎回必ず「初めて登壇します」という方が来てくださる。もう1つの「同じ人しか発表しない状態になったらやめる」というほうも、そのおかげで一度も心配せずに済んでいます。新しい人が来てくれること自体が、結局は一番の続ける理由になっているんですよね。
—— こうしたコミュニティを持っていることが、普段のお仕事に返ってくる実感はありますか?
ありますね。一番大きいのは「顔が見える情報収集」ができることです。
たとえば、新卒の人に1on1で「社会人としてどう振る舞うといいか」みたいなブログを紹介するとき、自分が知っている人が書いたものだと、リンクを貼るだけで話ができる。「この人はこういう仕事をしているから、こういう発言になるんだよ」と一言添えるだけで、伝わり方が全然違うんです。
しかもそれは、その日の発表を聞いて終わり、じゃない。一度顔を知っておくと、その人があとで書いたブログや別の登壇も、「あの人の発信だ」と背景込みで読める。一度きりじゃなく、そこからずっとつながっていく。それがすごく大事だなと思います。
「自分が知りたい」から始まる、テーマの使い分けと広がり
—— 公募制でテーマを絞らない「レギュラー回」と、「ターミナルナイト」のようにテーマを絞る回。どう使い分けているんでしょう?
レギュラーの吉祥寺.pmは、先着順で「発表してください」というスタイルです。毎回テーマを設定するんですが、わりと抽象的にしているので、皆さん意外とちゃんと拾って話してくれるんですよ。手前味噌ですけど、自分で見返しても「いいテーマだなあ」と思うものが多くて(笑)。
一方で、「この人の話を聞いてみたいな」という当て書きのような発想もあって。「設計ナイト」「Terminal Night」みたいなイベント名を思いついたときに、「あの人ならきっと話してくれるんじゃないかな」と顔を思い浮かべながら企画します。テーマ別の回は招待制が多いですが、一部は公募もする。そうすると思わぬ広がりも出てくるので、バランスを取っています。
—— テーマの「着眼点」は、どこで見つけているんですか?
本当に、純粋に自分の作業の中から、ですね。私はよく「僕得イベント」と言うんですけど、結局は自分が知りたいこと、面白いと思うことが起点なんです。たとえばターミナルナイトは、新しいターミナルソフトの設定を自分でいじっていた時期に思いつきました。情報を集めていると、「あ、今これに注目している人がいるな」と気づくんですよ。ちょうどAIエージェントがコマンドラインで動くようになって、みんなが改めてターミナルに入門したり、懐かしいツールの話で盛り上がっていたりして。「これをイベントにしたら、話したい人がいっぱいいるんじゃないかな」と、ふっと思うんですよね。
その肌感覚は、わりとうまく当たることが多くて。設計ナイトもMarkdown Nightも、やってみたらいきなり結構な人数が集まりました。
「マネジメントする人される人ナイト」も、マネージャー向けのイベントはたくさんあるのに“される側”のイベントは見たことがないな、とふと思ったのがきっかけです。そういう日常の小さな違和感が、そのままテーマになることも多いですね。
—— ターミナルナイトは、すぐに2回目を開催したと伺いました。よほど熱量が高かったんですね。
そうなんですよ。「面白かった」以上に、「これ、自分も話したいです」「次は登壇したい」という反応がすごく多くて。AIの時代で個人ブログなんて何のために書くの、という話もある中で、実際に会って話すと「いやいや、話したいんですよ」という人はちゃんといっぱいいるんだなって。みんな、それくらい話したいことを持っているんだなと、毎回驚かされます。
—— オフラインで「話したい人」が集まる熱量がある一方で、コロナ禍では物理的に集まれなくなりました。オンラインに切り替えたことで、コミュニティにはどんな変化がありましたか?
2020年の2月に予定していたオフライン開催を中止して、6月にオンラインで再開しました。やってみたら東京以外の方も参加してくださるようになって、すごく広がったんです。島根や、遠いところだとアメリカから参加してくださる方まで現れて。結局、コロナ禍のあいだは3年半くらい、ずっとオンラインだけで続けていました。
あの頃って、みんなどこか少し寂しかった時期だったと思うんですよね。だからか、トークの後にZoomをつなぎっぱなしにして雑談する時間をつくったら好評で。「みんな、話す場が足りなかったんだな」と、ひしひしと感じました。規模も読めなくて、通常80人くらいの回が、スペシャルゲストを呼ぶと同時接続400人になったこともあって。connpassのグループも毎回100人単位で増えて、今では3,000人を超えています。
しかも、この話には続きがあって。今度の大吉祥寺.pm 2026では、その頃から何年もオンラインで参加し続けてくれた、島根とアメリカ在住の方が登壇してくださるんです。アメリカの方なんて、時差の関係でいつも朝4時に「眠いです……」と言いながら登壇してくれていて(笑)。それが今回、初めて日中にリアルでお会いできる。何年も画面越しだった方とようやく同じ場所で会えるって、自分でもすごくいい話だなあと思うんですよね。

2025年1月に開催されたオフラインイベント「吉祥寺.pm37」のオープニングの様子
情熱に頼らず回す「運営の型化」と、自然体の集客
—— イベントの形式やツールを固定していることの、運営側のメリットを具体的に教えてください。
吉祥寺.pmは、前半に15分のトークが何本かあって、休憩を挟んでLTが何本か、最後に懇親会、という流れです。実はこれ、自分が初めて参加したコミュニティ「Perl Beginners」のスタイルを、ほぼそのまま踏襲しているんです。
自分でイベントを立ち上げるとき、「あのやり方を真似ちゃえばいいや」と思えたのが大きくて。おかげで最初の企画から、ほとんど何も考えずに済む。時間配分を考えるだけでも結構な負荷がかかるので、プログラムを考える負荷は極限まで下げています。基本は「前回と同じように」で、ずっとやってきました。
—— 当日のオペレーションで、あえて「やらない」と割り切っていることはありますか?
通常回では、まず受付をやらないんです。会場に入ってきたら「前から詰めて座ってください」としか言わない(笑)。公共の会議室を5,000円〜1万円くらいで借りて、事前チケットも用意せず、終わった後に「会場費のカンパをお願いします」と募るだけ。集まる額が黒字でも赤字でもないくらいに落ち着いていて、それで続けられています。事前チケットは用意するだけでも負荷がかかるので、当日だけで完結するように、自分1人で運営できる範囲に要素を絞り込んでいるんです。
こうして準備の負荷を徹底的に下げているから、平日の夜に100人規模が集まっても、「重いな」と感じる瞬間がそもそもあまりない。1人で続けていても燃え尽きないのは、たぶんそこが大きいです。それに、吉祥寺.pmに全部を懸けているわけでもなくて、いろんな活動の中の1つくらいの距離感でやっている。その身軽さもあるんだと思います。
—— 集客についても、ツールに頼りきりではなく、人と会う中で広がっているそうですね。
そうなんですよ(笑)。私、月2〜3回はいろんな場に一般参加者として顔を出しているんです。ただ、集客のために行っているわけではなくて、あくまで純粋に「面白そう」「聞きたい」と思ったから行っているだけで。
そうやって自分の興味のある場に足を運ぶと、同じことに興味を持つ人と自然と仲良くなれる。その会話の流れで、吉祥寺.pmのロゴのステッカーを渡しながら「こういうイベントやってるんですよ」とお伝えする。告知のための告知じゃなく、雑談の延長だからこそ、意外とそれが一番来ていただけるのかもしれません。
チームで挑む「大吉祥寺.pm」と、偶然が生まれるアンカンファレンス
—— 普段の1人運営とはガラッと変わる「大吉祥寺.pm」は、ご自身にとってどういう場なのでしょうか?
最初にやったのが2024年で、ちょうど吉祥寺.pmが10周年だったんです。「せっかくだから、1回くらいカンファレンス形式で朝から晩まで丸1日やってみたいな」と。運営経験のある方に協力してもらって、教わりながら始めました。
実は1回だけで終わろうと思っていたんですよ。「10年に一度のお祭りだな」くらいの感覚で。でも皆さんが「楽しかった」と言ってくださったので、翌年もやって、今年もやることに。本当に、その一言が原動力ですね。
スタッフにいろんな方が入ってくれると、自分では絶対に思いつかないアイデアが出てくるんです。デザインのグッズやプログラムの案とか。正直、1日もつ量のコンテンツは1人ではつくりきれない。今年は20名のコアスタッフがいて、その一人ひとりのスキルが集まるからこそ成り立っている、というところは大きいですね。
—— 今年のテーマ「かわるもの、かわらないもの」には、どんな想いが込められているんでしょう?
やっぱりこの時代なので、AIは大きいなと思っていて。ここ1年で、ずっとコードを書いてきた人が「もう全部AIに書かせてる」というくらいドラスティックに変わった。でも一方で「変わらないこともたくさんあるよね」という話も皆さんされていて。それをそのままテーマにしたら面白いんじゃないかなと。
変化に乗れている人も戸惑っている人もいて、きっとそれぞれに一言ある。それが記録として残るので、5年先・10年先に見返したときに、また面白いんじゃないかなと。
—— 昨年の大吉祥寺.pmでは「アンカンファレンス」が特に好評だったとか。
メイントラックは事前のプロポーザルで登壇者が決まりますが、アンカンファレンスは当日、ホワイトボードに「これ聞きたい」「これ話したい」と書いてもらって、時間と場所だけ区切っておくんです。そうしたら本当にいろんなテーマで話してくださって。
中には、普段なら登壇をお願いするのも恐れ多いような方が、ふらっと来て話してくださることもあって。「こんな贅沢なアンカンファレンスってあります……?」って、思わず声が出ちゃいました(笑)。事前に何も設計していないからこそ生まれる、偶然の出会いですよね。その場に集まったからこその効果だなと、しみじみ思いました。

アンカンファレンスの様子。ホワイトボードはすぐに埋まったそう。
—— 「集まったからこそ話したくなる」というお話、すごく印象的です。その"話したい"を、ご自身が体現したのが「RejectKon(リジェクトコン)」だったのかなと思いました。プロポーザルが落選したときに企画されたそうですね。
そうなんです。別のカンファレンスでプロポーザルが通らなくて、でもどうしても話したくて、いろんな方に協力してもらって開きました(笑)。
良かったのは、イベント本編の後にやったことで、本編の記憶がより定着するんですよ。1つのイベントが一回で終わらないので、楽しかった記憶が何倍にもなって残る。告知した瞬間に「自分も落ちたから話したい!」という人が現れたりもして。やっぱり、場があればみんな話したいんだなって、本当にそう感じます。
「持ち帰り」から逆算する登壇設計
—— 大吉祥寺.pmに限らず、普段のイベントでも応募内容に目を通す機会は多いと思います。そうやってたくさんのプロポーザルを読む立場から見て、「もったいないな」と感じてしまうケースはありますか?
一番もったいないのは、内容と発表時間のバランスが合っていないことです。5分なのにものすごい量が詰め込まれていると「聞く人が消化不良を起こさないかな」と感じてしまうし、逆に30分の枠なのに「これで30分もつのかな?」と中身が想像つかないこともある。そうなると、せっかく採択しても時間を有効に使えない。だから、時間と内容のバランスが取れているように読めるか。ここはすごく大事だと思います。
あとはテーマとの整合性ですね。吉祥寺.pmは抽象的なテーマなので緩いほうですが、それでも「このテーマで参加する人が興味を持つだろうか」というのは、いつも気にしています。
—— 実際に登壇する側として、気をつけるべきコツはありますか?
みなさん、わざわざ聞こうと思って来てくださっているので、話すペースや分量をコントロールすることですね。読み切れない量のスライドだと目が滑ってしまうので、理解できるペースで資料をつくって、あとはやっぱり練習です。15分の登壇なら、2〜3回は練習しないと時間通りには話せない。「導入部ではここまで理解してほしい」「結論ではこれを覚えて帰ってほしい」と、聞き手の聞き方を想像しながら構成をつくる。それだけで全然違います。
それに、話そうとすると、自分の考えがまとまるんですよ。なんとなく思っていたことが、人に話そうとして初めて整理されて、「自分はこういうことに関心があったのか」とクリアになる。それがもう一回、自分に返ってくる。話すこと自体が、自分への一番のフィードバックになるんですよね。
「欲しい場」がないなら、型を使って自分でつくる
—— 「登壇してみたい」「小さなイベントをやってみたい」と思いつつ、なかなか一歩を踏み出せないエンジニアに、アドバイスをお願いします。
吉祥寺.pmは12年続いていますけど、みんながそんなに長く続ける必要はないんですよ。1回で終わってもいいし、10年ぶりの開催でもいい。「自分のイベントをやってみたいな」と思ったら、気負わずにやってみたほうがいいと思っています。
最近は地域の名前を冠したローカルなイベントもどんどん増えていますよね。ああいうのを見ていても、いざやってみると、意外なくらいちゃんと人が集まってきてくれる。それがそのままモチベーションになる。最初から完璧なものを目指そうとしても、そんなのは誰にもできないので。本当に5人とか10人とか、そのくらいの規模で始めてみるといいんじゃないかなと思います。
—— 最初の一歩を踏み出すために、ほかに意識するといいことはありますか?
「背中を押してくれそうな人」に話してみることですね。私自身、アイデアを話したときに「それ面白いよ」と言ってくれる人がいたから、一歩を踏み出せたんです。そういう人って意外といらっしゃるんですよ。「こうやればできるよ」「あの人なら一緒にやってくれるんじゃない?」って。
だから、アイデアを話すなら背中を押してくれそうな人に話すのがいい。そういう人と出会うためにも、コミュニティに行ってつながりを広げていく、というのは大事かもしれませんね。
まずはやってみる。やっていく中で、深めていけばいい。それくらいの気持ちで、ぜひ次は、あなたが場をつくる番だと思って踏み出してみてほしいです。

