【Findy エグゼクティブエージェントが聞く】CTO歴10年のエンジニアがプレイヤーに戻った理由のトップ画像

【Findy エグゼクティブエージェントが聞く】CTO歴10年のエンジニアがプレイヤーに戻った理由

投稿日時:
ファインディ編集部のアイコン

ファインディ編集部

Xアカウントリンク

Findy エグゼクティブエージェントが聞く——CTO・VPoEなど開発組織のトップ層のキャリア支援を行うFindy エグゼクティブエージェントが、「次のキャリア」の決断までのプロセスを追うシリーズ。第1回は、CTO歴10年超のエンジニアが「プレイヤーに戻る」と決めるまでの話だ。

20代でCTOに就任し、以来10年以上にわたって開発組織を率いてきた伊林 義博(@chan_san_jp)。直近の8年間は、国内有数のゲームメディア運営企業でCTOを務めた。

この春、プレイヤーとして新たなフィールドに飛び込む伊林。肩書きを手放したのではない。AI時代の変化の中で、今もっともレバレッジがかかる役割を選んだ結果が、プレイヤーだった。

キャリアは、一方通行じゃない。これは、CTO歴10年超のエンジニアが、もう一度「自分にベットする」と決めるまでの物語だ。

聞き手:石川 拓(ファインディ株式会社 Findy転職事業部 エグゼクティブ領域専任)

「関わる人を幸せにしたい」と走り続けた8年間

大手メーカーで7年間、組み込みシステムの開発に携わった。大小さまざまな機器を相手に、オシロスコープを相棒としながらソフトウェアを書く日々。手を動かす充実はあったが、いつからか「CTOになりたい」という思いが芽生えていった。

転機は、学生時代の先輩からの誘いだった。教育系スタートアップに飛び込み、社長と先輩と自分の3人で事業を始める。ところが入社から1年後、誘ってくれた先輩が会社を去り、繰り上がるようにCTOの肩書きが回ってきた。まだ20代だった。

「CTOという肩書きをもらえたことが、純粋にうれしかったですね」

CTOといっても、社員は数人。やっていることは現場リーダーと大きくは変わらない。それでも、CTOという肩書きがつけば求められる水準は変わる。経営の視座で会社の未来を描くことを期待されたが、まだその力が追いついていなかった。

周囲もそれを感じていたのだろう。“本当にCTOのままでいいのか?”、“つらくないか?”と問われることが何度もあった。「すごく悔しかった」と伊林は振り返る。自分の力不足はわかっている。それでも、CTOという役割から外れるつもりはなかった。

経験の引き出しが足りないなら、手数で埋めるしかない。あちこちでトラブルが起き、火を消し、報告して怒られる。それでも手は止めなかった。

「常に会社を主語にして考える。失敗も、次の成長の糧に変えていく。それをずっと意識していました」

個人の失敗で終わらせず、組織の学びに変える。当時の自分にできる唯一の戦い方だった。

その後、診断系サービスの会社でVPoEを経験し、国内有数のゲームメディア運営企業のCTOに就任する。ここからの8年間が、伊林のマネジメント哲学を形づくっていく。

一貫していたのは、ひとつの信念だった。

「関わる人を幸せにしたい。この人のパフォーマンスが最大になるにはどうすればいいか、それをずっと考えています」

exe_ibayashi_01.jpg

組織が小さかった頃は、自らも手を動かすプレイングマネージャーだった。開発の進め方を自分で定義し、現場に浸透させた。しかし組織が拡大するにつれ、特定のリーダーにあらゆる開発が集中するようになった。スピードは出る。だがその人にかかる負荷は限界に近づいていた。関わる人を幸せにしたいと言いながら、目の前の人が疲弊している。属人性をなくし、チームで回す組織に生まれ変わろう——そう腹を括った。

「平常時は、個人ではなくチームで開発が回る状態をつくる。そんなマネジメントを意識していました」

ただし、それは放任ではない。メンバーに任せた後も、日々のアウトプットや行動を静かに確認し続けた。

「干渉はなるべくしないようにしていましたね」

見ているが、口は出さない。平常時にチームで回る体制を整えておくからこそ、有事には必要な人間が迷いなく動ける。そういう組織を目指して。

マネージャーが増え、メンバーが増え、自分の目が届かない範囲が広がっていく。それでも「関わる人を幸せにしたい」という軸は変わらなかった。8年間、伊林はその信念とともに走り続けた。

「自分にベットする」今、プレイヤーに戻る決断

8年間、伊林のモチベーションが揺らぐことはなかった。メンバーの力を引き出し、チームで開発を回す。そこにCTOとしてのやりがいを感じていた。

そんな日々を過ごす中で、徐々に風向きが変わっていった。

2023年、生成AIが急速に広がり始めた頃、伊林は「AIで組織をもっと強くできる」と考えていた。

「AIを前提に価値創出できる組織文化をつくりたい。みんながAI時代に取り残されないように、価値を発揮できる人材になってほしいという思いがありました」

やる気に満ちていた。

だが、2025年に入ると景色が変わった。AIの進化によって、開発プロセスだけでなく、エンジニアの役割や価値の出し方そのものが書き換わり始めた。

「AIの進化が速すぎて、これまでの延長線上で戦い続けること自体が、本当に最適なのかを問い直すようになったんです」

CTOという役割は、常にトップランナーであり続けることを求められる。技術の方向性を見極め、事業の未来を描き、組織としてどこに向かうのかを示し続ける存在だ。

「CTOは、みんなの未来を背負っていると思っています。どういう成長機会を用意するか、どういう環境に連れていくか。ある意味で、人生を預かっているような感覚に近い」

その役割は、自分が大切にしてきた「関わる人を幸せにしたい」という信念と一致していた。だからこそ、ここまで走り続けてこられたという実感もあった。

ただ、AI時代の急激な変化の中で、ひとつの前提が揺らいだ。いま自分は、どこに立つのが最も大きな価値を出せるのか。

「CTOはレバレッジをかける役割ですし、それ自体がすごく重要なのは変わりません。ただ、今のタイミングでは、自分自身が最前線に立つことが、自分にとって一番の挑戦になるとも感じました」

40歳を迎えるタイミングでもあった。10年以上にわたって技術と組織の両方を見てきた経験がある。だからこそ、ここであえて延長線ではない選択を取る意味があると考えた。

「変化が激しい時代だからこそ、今の自分にとって一番レバレッジがかかる場所を選ぶべきだと思ったんです」

その問いに向き合った結果の選択が、プレイヤーへの転身だった。

「正解があるわけではないと思っています。だからこそ、その時々で自分にとって最適だと考えた選択に対して、自分自身にベットして進んでいくしかない。その力はCTOとしてずっと鍛えてきたので、自信はあります」

exe_ibayashi_02.jpg

転職先を探す中で、伊林は一度、ある企業でAIを前提にした組織をゼロからつくる道を選びかけている。だが途中で気づいた。「組織をつくること自体が目的なら、現職でもできる」。組織づくりの、さらにその先に進んでいる場所で勝負したかった。

その条件に本質的に合致していたのが、LayerXだった。

「決め手は、中の人です」

伊林はそう即答する。選考過程で出会ったエンジニアたちに、一様に感じたものがあった。

「誰に聞いても、事業の現在地と課題を、自分の言葉で語れるんです。役割としてではなく、本当に当事者として事業に関わっている感覚がありました」

技術の話だけではない。言われたことをやっているのではなく、全員が事業の当事者として動いている。その空気に、伊林は引き込まれた。

AIへの向き合い方にも本気度を感じた。共同経営者である2人とも学生時代からAIに取り組み続けており、創業当初から築かれてきたエンジニア文化には、AI時代にも通じる再現性があった。さらに、元CTO経験者が何人も在籍している。マネジメントを経験した上で、それでもなおプレイヤーとして価値を出そうとしている人材が集まっていた。伊林は、そこに自分の次の戦い方を重ねて見た。

もうひとつ、伊林の背中を押した言葉がある。社内のある人物が語っていた、「会社は大きくなってきたが、世界から見ればまだまだ小さい。世界レベルの会社にするには、CTO級の人材がもっと必要だ」という一言だ。すでにAIを前提に価値を出すための組織として高い視座や文化的な素地は揃っている。その先で、まだ本気で大きくなろうとしている。

「これだけのメンバーがいる環境だからこそ、自分もより高い水準で価値を出さなければならない。その緊張感自体が魅力でした」

事業に向き合う人たちが自然と感じている緊張感——その中に、伊林もこれから身を置く。こうしたキャリアの選び直しは、いま経験を積んだエンジニアたちの間でも広がりつつある。

Findy 石川 拓のエグゼクティブキャリア・ノート
CTO経験者の選択肢としては、起業、他社CTO、VCアドバイザーなどが一般的です。しかし近年、プレイヤーに戻るという選択が増えています。

背景にあるのは、AI時代の技術の変化のスピードです。マネジメントに専念していると、技術の最前線から離れてしまう。自分の手で触れていないと判断の精度が落ちるという危機感が、経験豊富な人ほど強い。

一方で、危機感だけではありません。この変化が楽しくてワクワクして仕方がない、最前線で自分の手を動かしたい——そうした前向きな衝動が、キャリアの転換を後押ししているケースも多く見られます。

加えて、ICの市場価値そのものが上がっています。一度マネジメントに行ったら戻れないという時代ではなくなりつつある。キャリアの可逆性が高まっていることを、支援の現場でも強く感じています。

キャリアの次の一手について考えている方は、ぜひ一度エグゼクティブ面談でお話しさせてください。まだ方向性が定まっていない段階でも構いません。一緒に選択肢を整理するところから始めましょう。

まず飛び込め。経験した先に、次の選択肢が見える

プレイヤーに戻ることへの率直な気持ちを聞くと、伊林は少し間を置いてこう答えた。

「ちょっとビビっています(笑)」

今までCTOの立場で開発組織を見てきた人間が、一人のプレイヤーとしてやっていけるのか。使う言語もRubyからGoに変わる。

「技術スタックが変わること自体がディスアドバンテージになることはわかっています」

ただ、伊林はこうも言う。

「開発の基本的な部分は変わらないんです。どういう設計にするか、ユーザーストーリーをどう考えるか。そこは言語が変わっても同じです」

10年以上、技術とビジネスの両面を見続けてきた経験は、コーディングとは別の次元で効いてくる。不安はある。だが、それだけではない。

キャリアについて、伊林にはひとつの持論がある。

「肩書きに関係なく、プレイヤーなのか、CTOなのか、あるいは別の道なのかをフラットに考える。何歳になっても、自分がやりたいと思えることをやれるようにしていたい」

exe_ibayashi_03.jpg

キャリアは一本道ではないので、そのときの自分にもっともレバレッジがかかる場所を選びたい。新たな役割を引き受けることも、フィールドを移ることも、もう一度手を動かすことも、すべて等しく「選択」だ——伊林はそう考えている。

そうフラットに考えられるようになったのはなぜか。伊林の答えは明快だった。

「一度、CTOを経験したからですね」

CTOを経験したからこそ、肩書きを外すことを恐れなくなった。組織を率いた経験が、プレイヤーとしての自分にも還元される。CTOとして見てきた景色があるから、どこに行くにも自由になれる。

では、これから先はどこを目指すのか。

「いずれは、やはり大きな責任を持つ立場で価値を出していきたいと思っています」

プレイヤーとしての再出発は、ゴールではない。ここから再び経営の役割を担うこともあれば、別の道を選ぶこともある。伊林にとって、キャリアとはそういうものだ。

最後に、これからCTOやマネジメント層を目指すエンジニアに向けて、伊林はこう語った。

「CTOは、みんな一度は経験した方がいいと思っています。肩書きがつくと、周囲からの見られ方が変わる。社長からの期待値もまったく違うものになります。それによって視座が上がる効果は、確実にあります」

自分にはまだ力が足りない。そう思っていても構わない。チャンスがあるなら、掴みに行ったほうがいい。任せてもらえたということは、期待が寄せられているということだ。

「可能な限りCTOになるチャンスを掴みに行ってほしい。とにかく、その役割に挑戦することです」

まず、飛び込め。経験した先に、次の選択肢が見えてくる。伊林はCTOを「辞めた」のではない。経験を積み重ねた上で、今もっとも力を発揮できる場所を選び直した。キャリアは一方通行ではない。ただし、それを知るには一度、飛び込むしかない。

exe_ibayashi_04.jpg

撮影:芝山 健太

キャリアの「選び直し」を、ひとりで考える必要はありません。

Findyでは、CTO・VPoE・開発部門責任者を対象としたエグゼクティブ面談を実施しています。次のキャリアの選択肢を一緒に整理してみませんか。

エグゼクティブ面談のご予約はこちら(専用日程調整フォーム)