本記事では、エンジニアがつくってきた“自分仕様のAIツール”や“AI活用術”をご紹介します。エージェントやBot、LLM連携ツールなど、実用的なものから、ちょっと遊び心のあるものまで。プロンプト設計やUIの工夫、うまくいかなかったことや思いがけない発見を通して、AIとの付き合い方をのぞいていきます。AIをどう使うかだけでなく、どんな距離感で付き合っているのか。誰かのAIとの向き合い方が、あなたとAIのちょうどいい“さじ加減”の手がかりに。
どうもお疲れさまです、株式会社エクスプラザでCPOをやっています、みやっち(X: @miyatti)です。「生成AIエバンジェリスト」という肩書きで、普段はAIを使ったプロダクトマネジメントの実践や発信をしています。
AIを仕事に取り入れ始めて約1年。やればやるほど、「どこまでAIに任せて、どこで人間が判断するか」という問いにぶつかります。今回は、その試行錯誤の過程で見えてきた「さじ加減」について書いてみたいと思います。
使っているツール・システムとその役割
Cursor — ノンエンジニアのAI開発
AIツールとの付き合いは、Cursorから始まりました。エンジニアではない自分が、AIに「これやっておいて」と伝えるだけで、計画からファイル作成まで自律的に進めてくれる。コードエディタなのに「AI付きメモ帳」として日常業務に使えるという発見が衝撃でした。この体験をnoteに「Cursorエージェント超入門」として書いたところ、1,000いいねを超える反響がありました。
Notion AI — コンテキストが自然と集まる
次にハマったのがNotion AIです。Cursorとの一番の違いは、チーム全体のコンテキストを把握してくれること。Cursorはひとりの作業には最適ですが、ビジネスワークでは周囲の情報が欠かせません。Notion AIはノンエンジニアにも使いやすいので、チームメンバーが自然とNotionに情報を書くようになる。結果として、AIが参照できるコンテキストがどんどん集まっていく。
こうしたツールを日々使う中で、自分なりのこだわりが生まれてきました。
こだわりポイント — どこまでAIに任せるか
「何を見せて、何を見せないか」
CursorやNotion AIを使っていて最初に気づいたのは、AIに渡す情報の質がすべてを決めるということでした。
プロジェクトが進むと、議事録、Slackの会話、ドラフトと情報が膨れ上がります。全部渡せば正確になるかというと、逆。ノイズが増えて出力の質が落ちる。試行錯誤の末、「成果物が一番角度の高いコンテキスト」だと気づきました。途中の議論ではなく、完成した成果物とその周辺だけを渡す。そしてAIが出力したら必ず人間が確認する。何を見せるか、どこで人間が判断するか。これが最初の「さじ加減」です。
PM業務をまるごと型にする — AIPM
次にやったのが、こうした実践を「コマンド」として型にすることです。
たとえばバグを見つけたら、コマンドひとつで内容分析からチケット作成、タスク登録、Slack通知まで1分。リサーチ、タスク分解、仕様作成といったPM業務も、同じように型にしていきました。「AIに任せる単位」を決めて、その中にコンテキストの渡し方やHITL(Human-in-the-Loop)のポイントも組み込む。
この仕組みを AIPM としてオープンソースで公開したところ、GitHubで300以上のスターをいただきました。同じようにAIでPM業務を回したい人が、想像以上にいたのです。考え方や具体的な使い方はnoteの記事にまとめています。ポイントは、前述のコマンドの中身をPM業務に特化させたことです。PMBOKなどを参考に、プロジェクト憲章やWBS、ステークホルダー分析といったPMが実務で繰り返し使うものをコマンド化しました。これにより、経験の浅いジュニアPMでも、プロのPMと同じフレームワークに沿った思考タスクをAIと一緒に実行できるようになっています。
コマンド化だけでは足りない — aipoの誕生
でも、コマンドが増えるほど、今度は「どれを、いつ、どの順番で使うか」の判断が重くなります。部品は揃った。でも組み立てる人が必要。
それなら、組み立てもAIに任せよう。そうしてつくったのが aipo(AI Product Owner) です。GOALを渡すと、AIがプロダクトオーナーのようにタスク分解と戦略を立て、必要なコマンドを選び、自律的に実行していく。人間はHITLのポイントで方向性を確認するだけ。
aipoの核心は、GOALから逆算してタスクを再帰的に分解・実行していくところにあります。考え方や設計思想はnoteの記事に詳しく書きました。AIPMとの大きな違いは2つあります。
まず、タスク実行の前に、AI自身が「どのコマンドを、どの順番で実行すべきか」という戦略を立てるフェーズがあること。AIPMでは人間がコマンドを選んで実行していましたが、aipoではその判断自体をAIに任せます。
そしてもうひとつは、実行フェーズに入ったらAIがその場で必要なコマンドを生成しつつ、HITL(Human-in-the-Loop)で人間の確認を取りながら進めること。これにより、主体をAI側に持たせて「全任せ」に近い運用ができる一方、人間がチェックポイントで方向性を確認し実行責任を取るという形で、任せっぱなしのリスクを補える仕組みになりました。
AIに全部任せるくらいの感覚で、実際にかなりうまく回りました。でも、使い続けるうちに、この仕組みにも壁があることに気づきます。
AIを使い続けて見えた課題 ロングコンテキスト問題とその対処
aipoを使うと、1日で大量の成果物が出ます。タスク分解、仕様書、設計ドキュメント。プロジェクトの骨格が一気にできあがる。ここまでは快適です。
問題はその後です。MTGでフィードバックをもらったり、状況が変わったりして、成果物の一部を修正したくなる。これがとても難しい。
なぜか。既につくった膨大な成果物の中から、修正したいポイントに連鎖して変わるべき箇所を全部見つける必要があるからです。AIはこれがめちゃくちゃ苦手です。 一部分は直せても、その戦略修正で本来変わるべき他の箇所が古いまま残ってしまう。
エンジニアのみなさんには身に覚えがあるかもしれません。つくったシステムを運用・保守していくうちに、技術的負債がどんどん溜まっていくあの感覚です。AIとの仕事でも同じことが起きます。成果物が増えれば増えるほど、部分修正の整合性を保つのが難しくなる。私はこれを「ロングコンテキスト問題」と呼んでいます。
たどり着いた対処法は、定期的な「リセットと引き継ぎ」 でした。膨らんだコンテキストを一度まっさらにして、人間が成果物を精査し、本当に必要な情報だけを次のセッションに渡す。崩して、選んで、引き継ぐ。このサイクルを意図的に回すこと自体が、もうひとつの「さじ加減」でした。
実際にAIで何がどう変わったか
コンテキスト収集 — 探す時間が消えた
一番変わったのは、情報を探す時間です。社内に無造作に溜まったMTGの議事録、自分でもいつどんなふうにやったか覚えていない議論、ちょっとしたメモ。こうした情報がNotionやSlack、Google Docsなどツールをまたいで散らばっている。以前はこれを手作業で探し回っていて、数日かかることもありました。
今はAIがツール横断でコンテキストを集めてくれます。ネットの最新情報も含めて、必要な情報がまとまった状態で出てくる。コンテキストスイッチが最小限になったことで、数日かかっていた作業が数時間に縮まりました。
タスク分解から実行まで — シームレスに流れる
前述のaipoによって、丸1日かかっていたタスク分解と実行が30分で終わるようになりました。以前はタスクを分解した後、個別にコンテキストをコピペして渡し直したり、前のタスクの結果を手動で繋いだりしていた。その手間が丸ごと消えた。GOALを渡したら、あとはAIに乗っかるだけ。雑に任せても大丈夫という安心感が、スピードに直結しています。
本質に集中できる
この安心感と速さの上に、一番大事な変化があります。アウトカムについて考える時間が増えたことです。
そもそもお客さんはこれを良いと思うのか。ユーザーが喜ぶか。ビジネスとして成り立つか。社内MTGでも、こうした本質的な議論にどんどん時間を使えるようになりました。ステークホルダーからの質問や疑問に答えるのもPMの大事な仕事ですが、それも爆速です。作業から解放された分、考えることに集中できる。これが一番大きな変化です。
これからの展望
エンジニアのAI活用から学ぶこと
エンジニアのAI活用は間違いなく最先端で、PMの自分は常にそこから学んでいます。
一方で、不確実性の高い状況でAIを長期的に使い続ける経験は、PM領域の方が先行しているかもしれません。コードには正解がありますが、PM業務には正解がない場面が多い。その中でロングコンテキスト問題に対処しながら、AIとの協働を設計する。こうした「メタ的なAIの使い方」は、エンジニアの方にも「なるほど、そういう視点もあるのか」と思ってもらえるかもしれません。
さじ加減は変わり続ける
AIは進化し続けます。今はロングコンテキスト問題に対処するためにリセットと引き継ぎを繰り返していますが、いずれAIがもっと長いコンテキストを正確に扱えるようになるかもしれません。そうなれば、任せる範囲はさらに広がるでしょう。
でも、「人間が判断する部分」は無くならないと思っています。どの方向に進むか。この成果物で本当にいいのか。ステークホルダーの意図をどう汲み取るか。こうした判断は、AIがどれだけ賢くなっても残り続ける。変わるのは、さじ加減の「位置」です。
もうひとつ確信しているのは、コマンドという型を蓄積していくことの価値です。ひとりの工夫がチームの資産になる。チームのAI活用が底上げされる。さじ加減は個人の感覚ではなく、組織の仕組みとして進化していく。
まずは小さなコマンドをひとつつくってみることから始めてみてください。自分なりの「さじ加減」が見えてくるはずです。より深い話はブログでいろいろと書いていますので、興味があればぜひ。

