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力技はいつか「当たり前の選択肢」になるかも──BunのRust移行、オンデバイスAIなど8選

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株式会社X-Tech5 / 取締役CTO

馬場 俊彰

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こんにちは。馬場(netmarkjp:Bluesky/X)です。

わたしは「#ばばさん通信ダイジェスト」として、BlueskyやThreadsに毎日少しずつ、賛否を問わず話題になった/なりそうなものを共有しています(Bluesky検索)。

これらをベースに、特にクラウド/インフラ/SRE/オブザーバビリティ/運用等のキーワードに関する話題を中心にお届けします。

「Working Backwards」の新しい形

Amazon CTOのWerner Vogelsさんが自身のブログで「Working Backwards」の新しい形について紹介しています。

タイトルを見るとチームサイズの話のように思えますが、AI時代の「Working Backwards」について、Amazon Quick desktopチームの事例をもとに語られています。

AI時代になり、特定の条件を満たした場合に新しい形の「Working Backwards」を採用すると、従来よりもより効果的にプロダクト立ち上げに取り組むことができたという話です。

「Working Backwards」だとPR/FAQを書いてから承認を得る工程があり、ここで仮説検証の前に相応の期間がかかります。しかしAI時代になりプロトタイプ作りのコストが小さくなったため、正式な投資判断の前にプロトタイプを作って仮説検証を進めやすくなりました。プロトタイピングのコストが小さいので、却下や軌道修正となってもロスや手戻りの痛みは比較的小さく抑えつつ学びが得られます。

とはいえ「Working Backwards」は開発のロスや手戻りを防ぐことだけが価値ではなく、顧客視点を徹底するためのプロセスという側面が大きくあります。

ですから、新「Working Backwards」が効果を発揮する前提条件は『When you have conviction about the customer problem but have genuine uncertainty about whether your approach will work.』(顧客が抱える課題に確信がある一方で、解決のアプローチがうまくいくかは心からの確信が持てない時)なのです。

銀の弾丸がないのは残念ですが、技術の発達によって取れる選択肢が増えていることは素晴らしいです。

BunのZigからRustへの移行

JavaScript実行ランタイムのBunのブログで、BunをZigからRustに書き直した話が紹介されています。

移行の過程が非常に興味深いです。あとブログの中のアニメーションがかわいいですね。Bunはアイコンもかわいいです。

アイコンはさておき、移行についてです。足元からの大幅リニューアルにおいて極めて短期間で移植できるというのもさることながら、コードフリーズの期間を短くできるのはとても助かるシーンが多いでしょう。

事業のフェーズが変わり適切なツールが変わったのでプログラムをいちから全部書き直したい、すこーし油断してアプリケーションランタイムのバージョンアップをサボっていたら、いざやるときに後方互換性が大きく壊れる変更が多数あって大規模な修正が必要、といった事態はままありますよね。

もちろん同じアプローチが流用できるとは限らないものの、いままで不可能だと思われていた力技が実現可能になり、いつか力技だとすら思われない「当たり前の選択肢」になる日がくるかもしれません。例えば30年前はネットワーク越しにみんなが動画を送るなんて力技は「技術的に不可能ではない」程度のものでしたが、いまは当たり前になっています。

前提条件(自動テストによる品質保証が極めて高度に実現されている等)を満たせば、このような移行方法も夢ではなくなった、その事例が出てきているのは面白いですね。

AI時代のデータフォーマットOKF

Google CloudのブログでAIエージェントと人間の両方が読み書きしやすいドキュメントとナレッジのオープン仕様であるOKF(Open Knowledge Format)について紹介されました。

OKFでは、ドキュメントフォーマット(YAMLフロントマターとMarkdown)、ディレクトリーレイアウト、予約ファイル名とその意味に関する規約を定めています。

OKFはGitHubリポジトリ knowledge-catalog/okf at main · GoogleCloudPlatform/knowledge-catalog で公開されています。この中の『Why OKF?』では8つの特徴を訴求しています。

  • Human- and agent-readable.
  • Version-controllable out of the box.
  • Portable and lock-in free.
  • Mixes structured and unstructured data deliberately.
  • Minimally opinionated, freely extensible.
  • Composes with existing tooling.
  • Progressive disclosure built in.
  • Graph-shaped, not just tree-shaped.

内容は素朴で、例えば『Progressive disclosure』にあるように、ディレクトリーを辿って対象を具体化し、必要に応じてインデックスファイルを読んでそのディレクトリーの概要を把握しながらツリーを辿っていきます。

このようにツリーを辿っていくさまは、往年のディレクトリー型検索エンジンを彷彿とさせます。ツリー構造のほかには、タグによるカテゴライズや、ファイル同士のリンクもあります。相互リンクもできますね。

素朴な規約にみんなが則ることで可能性が広がるさまは、まさにこれぞインターネットという感じがします。

手元のデバイスの力を解き放つvo

k1LoWさん作のOSSであるvoを紹介します。

macOS 26以降のApple Silicon搭載MacにおいてCLIで動作する、macOSのSpeech APIを利用したリアルタイム文字起こし・翻訳ツールです。

「macOSのSpeech APIを利用した」というのがポイントで、音声認識・書き起こしと翻訳は端末上で処理されるため、音声や文字起こし結果を外部のAIサービスへ送らずにローカル端末上ですべて処理できます。

「LLMサービスを使い倒して生産性向上!」「フロンティアモデルが最強!」というご時世ではありますが、すべての課題を大規模な汎用モデルで解く力技が長続きするとは限りません。

課題にはそれぞれ適した解決策があるわけで、フロンティアモデルではなく、LLMの比較的小規模なモデルやSLM、ML、ルールベースのプログラムを活用し、小規模な計算や、なんならオンデバイスで処理がすばやく完結するのであれば、それは素晴らしいことです。オンデバイスで完結するのはコストやセキュリティの面でもうれしいですね。

IT技術の発展は螺旋で、コンピューティングモデルとしては集中と分散を行き来しています。ここ15年ほどはクラウドサービスに集中する流れでしたが、また分散する流れが来るかもしれません。

またクラウドサービスの普及は「所有から利用へ」の流れでした。この流れも行き来するかもしれません。もちろんすべての領域で、ではないでしょうが、特定領域では「利用から所有へ」という流れが生まれるかもしれませんね。

量子コンピューターのわたしたちへの影響

Cloudflareのテックブログで、量子コンピューター時代の署名アルゴリズムを待てない理由が解説されています。

世間はAIの発達でシンギュラリティにより“ギュられる”話題でもちきりですが、こちらは量子コンピューターの発達によって、現在の公開鍵暗号やデジタル署名の安全性が損なわれ、インターネットの安全や信頼の前提が崩れるかもしれないという話題です。

量子コンピューターは現在主流のコンピューターとは異なる動作モデルです。ですから計算能力が現在のコンピューターの延長線上になく、特定の領域の計算能力が非連続に向上、つまりジャンプアップする可能性があります。現段階では、そのジャンプアップが実現し、「新しい計算方式✕特定領域での実用的な高い計算能力」によってインターネットの安全や信頼に影響が出る可能性が、無視できないほどに高いと考えられています。

いまよく利用されている公開鍵暗号の安全性は「現実的な計算時間では解読(第三者が復号)できないであろう」ということと、デジタル署名が「現実的な計算時間では偽造できないであろう」というのが根拠になっています。しかし量子コンピューターを使うと、この「現実的にはできないであろう」が突破されてしまうことが懸念されています。

わたしたちがインターネットで扱う通信の多くはHTTPSですから、暗号化されており、また公開鍵基盤とデジタル署名によって通信相手の正当性が保証されているからこその安全です。しかしこの安全が崩れる可能性が出ているのです。

そこでMicrosoft、Google、Cloudflareはそれぞれ期限を前倒しし、2029年を目処にこの懸念への対処を進めることにしたそうです。量子コンピューターでも容易に解けない暗号化方式やデジタル署名には、耐量子(Post-Quantum)という接頭辞がつきます。

量子コンピューターによって、暗号化されたデータを保存しておけば、あとから解読できる可能性が出てきます。しかし情報の価値には鮮度があります。実際にPost-Quantumな公開鍵暗号やデジタル署名がいつ不可欠になるのかは今はわかりませんが、情報は新しいほど価値が高いことが多いので、量子コンピューターが実用化されるよりだいぶ前に切り替えておくことは、世界平和のためにとても重要なことです。

動画視聴で土台を固めてAI活用でのレバレッジを強化

「も読」、わたしも読んでいます。ということで、今回はmaguroさんの投稿を紹介します。

日々AIとお仕事をしているわけですが、DORA Reportにあったように『AI is an amplifier』を日々強く感じます。

DORA Reportが言う『AI is an amplifier』は、技術系ではCIやQA・プラットフォームなど、組織系ではチーム間の連携などが整っているからこそ、AIによって高速で走っても事故が起きにくい(一方で弱いところも増幅されて顕在化しやすい)という話ですね。

同様に個人レベルでは、AIでレバレッジを効かせるためには、土台の強さ、つまり基礎の確かさが大きく影響しますよね。

個人レベルの土台を確かにするにはいろいろな手段があります。書籍が定番ですが、書籍よりも動画のほうが性に合う人もいます。土台強化の選択肢に動画を加えてみるのはいかがでしょうか。

GitHub Actionsセキュリティを見直すきっかけに

GMO Flatt SecurityのテックブログでGitHub Actionsのセキュリティに関する解説が連載されています。

今年に入りこのような脅威がより身近に・より強く感じられるようになってきました。

不安を不安で終わらせず、適切に対処し、根拠を持って安心するには知識と行動が必要です。

連載の一つひとつを読み解くのはそれなりに苦労するかもしれません。それぞれ個別の、GitHubだけの話としてのパターン学習ではなく、機序や性質まで理解するようにしていくと、応用の効く知識となりわたしたちの技術者としての土台の強化になります。

SRE NEXT 2026が開催されました

2026/7/10(金)、11(土)にSRE NEXT 2026が開催されました。わたしは一般参加者として参加しました。

たいへんな人出で大盛況でした。しかし息苦しさ・狭苦しさを感じることはなく、快適に聴講・交流できました。スタッフの皆さんありがとうございました。

今年は大枠でコミュニケーションの話題が多く、他者との関わりにおいては、相手方の価値観・価値基準・思考方法・立場・状況で考えて行動する必要があり、自分が取り組んでいる素晴らしいことの価値をわかってもらおうというアプローチではすれ違うのが道理だよねという話が多かったように感じます。

個人的には昨年までと比較してエンジニアリングの話題が増えたように感じており嬉しかったです。

いわゆる「カンファレンスの廊下」でたくさんお話できたのも有意義でした。AIによる開発加速でオブザーバビリティとQAの重要性がさらに高くなる話、トレンドのどまんなかだった技術スタックがトレンドの移り変わりで新規参入者の確保に苦労するようになった話などをしていました。

次回のSRE NEXT 2027は2027年7月9日(金)、10日(土)に開催予定とのこと。

場所は今回と同じく東京のTOC有明です。楽しみですね。

おわりに

直近の話題から、わたしが気になったものを中心にお送りしました。

Blameless&Keep Constructiveで、Humility Respect Trust溢れるご意見・ご感想、誤りの指摘などいただけると幸いです。

さて、最近はこのコーナーで毎回トラコン(ICTSC: ICTトラブルシューティングコンテスト)の情報を紹介しています。

ICTSCはネットワーク・サーバー・ミドルウェア等の情報通信インフラを主な対象領域としたトラブルシューティングのコンテストです。参加はチーム戦で、本戦ではチームごとに論理的な演習環境と物理機器がアサインされ、物理機器を含めたトラブルシューティングも出題されます。

このICTSCは参加者が学生、運営も学生という珍しいイベントです。運営する学生たちを社会人の実行委員が支える形で10年以上運営してきています。最近は一次予選・二次予選・本戦があり、本戦では予選を勝ち上がった学生たちと運営でおよそ100名の「情報通信インフラに興味があり、行動力と相応の技術力を持つ」学生が集います。

ICTSCは完全ボランティアの任意団体でして、今年度からわたしが会長を務めることになったので、一生懸命宣伝しています。若者や入門者を育て裾野を広げることは、業界の持続に不可欠だと思って続けております。

SRE NEXT 2026のmini LTで少し時間をいただいてお話したのですが、まだスポンサーを募集しています。賛同いただける方・ご協力いただける方はぜひお声掛けくださいませ。

ではでは。

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