「仕事はこなせているが、技術力が伸びている実感がない」――。
SIerやITコンサルで数年働いてきた人の中には、そんな感覚を覚える人もいるのではないでしょうか。かといって、業務時間外に何を勉強すればいいのかは、誰かが教えてくれるわけではありません。
本連載では、株式会社本田技術研究所や株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)を経て、現在はフューチャーアーキテクト株式会社でシニアアーキテクトを務める渋川 よしきさん(@shibu_jp)に、SE・ITコンサルタントが直面しやすいキャリアの悩みについて解説いただきます(全6回予定、過去記事はこちら)。
第4回のテーマは「業務外での技術習得との向き合い方」。渋川さんは、自主的な勉強のメリットを「自分の可能性を広げること」だと語ります。どんな題材を選び、いつやり、どう残していくのか。今回は、カリキュラムのない学びを自分で設計するための考え方を伺いました。
IT業界にいると、「勉強する」「勉強しないと」という言葉をよく聞きます。実際、新しい技術が登場すると、まずは趣味で触ってみて、それから実務で活用するという流れがあります。
学校での勉強にはカリキュラムがありますが、業務外での技術習得は違います。何を学ぶのかも、いつやるのかも、基本的に自分で決められます。裏を返せば、すべて自分で決めなければなりません。自発的な勉強の経験が少ないと、「どこから手をつければいいのか」と少し身構えるかもしれませんが、その感覚は決して不思議なことではないと思います。
この回では、業務外の勉強の「決め方」について考えていきます。
そもそも、業務外の勉強は必須ではない
業務に必須の学習は本来、業務時間内に行われるものです。フューチャーアーキテクトでは、新入社員研修でJavaとVue.js、SQLを使ったアプリケーション開発を学びます。私が新卒で入社した会社では、危険物取扱者の丙種を取りました。こうした「学ばないと業務に支障がある」「法律上、資格がないと必要な作業ができない」というものは、業務時間内に学ぶ機会が提供されるべきです。
一方、当社も含めて、クラウドの認定試験などに合格すると報奨金が出る制度を用意している会社は多いでしょう。こうしたものは業務時間外に行うのが基本で、必須ではありません。
カリキュラムのように決められたやり方がないからこそ、社会人の学習は、興味を持ってやるものです。逆に言えば、興味がなくなればやめてしまってもいいのです。興味が移るたびに新しいものに手を付けていっても、責められることはありません。
とはいえ、せっかく時間を使うのなら、自分に合ったやり方を選びたいと思うはずです。ここからは、私の経験も踏まえて、何を、いつ、どう学ぶのかを紹介します。
それでも自分から学ぶ理由は「可能性を広げる」こと
自主的に勉強することのメリットは何でしょうか。私は、自分の可能性を広げられることだと思っています。
仕事の中で学べるなら、それが一番です。お給料をもらいながら勉強もできるのですから、これに勝るものはありません。私自身、自分がリーダーで採用技術をコントロールできる立場にあるときは、一緒に働くメンバーの希望を聞いて、仕事を進めながら自然と学びにつながるようなものにすることを心がけています。
ただ、いつもそうできるとは限りません。自分がリーダーではなかったり、すでに枠組みが決まっていたりして、仕事の中の学びを自由にデザインできないことのほうが多いでしょう。
あの技術を使ってみたかった。もう少し深いところまでやってみたい。今回はほかの人と分担したけれど、次は一人で全部やってみたい。そうした気持ちが残っているなら、今後に備えて、自分でキャッチアップをしておく、いわば「素振り」をしておくことをお勧めします。 そこで自分の可能性を広げておくと、仕事でチャンスが回ってきたとき、より多くのものをつかめるようになります。
さらに、後の章で触れるように「学んだことをアウトプットとして残しておく」ことで、自分に何ができるのかをリーダーらに伝える材料になります。結果として、自分のやりたい仕事を引き寄せることにもつながります。
続けられるテーマ選びの鍵は、自分の動機や性格
自分で決められる以上、テーマは「やっていて楽しいと思えるもの」か、「仕事に役立つ手応えのあるもの」が中心になるでしょう。会社の同僚と一緒に勉強するなら「皆で楽しく学べるもの」という基準も加わります。
何を選ぶかは、勉強に何を求めるかによって変わります。目安として、動機別に整理してみます。
- みんなでわいわい勉強したい:すでに流行っているもの。一緒に勉強するメンバーに、その技術に詳しい人がいるもの
- 仕事に生かしたい:プロジェクトで使っている技術のうち、自分が手薄なところ。これから使いそうなもの。会社が推奨している資格
- 知識を極めたい:競技プログラミング。気になったものをとことん深堀りする。クラウド認定などをコンプリートする。国内ではまだ取り組んでいる人が少なそうな最新技術やニッチな分野
- 安心して学びたい:体系的にまとまった技術書を最初からきちんと読み 、最後に認定を取る
テーマを決めるときは、自分の性格も大事な判断材料です。一人で勉強を進められるのか、誰かと一緒に勉強するほうが向いているのか。プロジェクト内の詳しい人に聞ける安心感がほしいのか、自分だけの道を突き進むほうが楽しいのか。朝がいいのか、夜のほうが向いているのか。
世の中にはさまざまな勉強法が提案されていますが、モチベーションの上がらない方法を無理に短期間やるよりも、自分に合った方法で継続するほうが、最終的な効果は大きくなります。
例えば、皆で勉強する場合は読書会がよく開かれます。担当制で分量を決めて読んでくるスタイルが一般的ですが、私が今のお客さまとやっているのは、全員でまず10分ほど黙読し、その後に議論するやり方です。
事前の準備が不要で、勉強会の時間だけで完結するため、長く続けられています。 ほかにも、「モクモク会」という名前で集まり、各自がコーディングをしたり本を読んだりする形もよく見かけます。
時間はどうつくるか。仕事やプライベートとの両立
社会人になると、まとまった時間は自然には空きません。生活環境によって使える時間は異なるため、全員に当てはまる正解はない、というのが前提です。
以前、勉強法の本を書くために自主学習のタイミングについてアンケートを取ったことがあります。そのときに多かったのは、通勤中の読書、早めに出勤してからの始業前、終業後、そして週末のどこかでした。学習時間を確保する際は、同居する家族や周囲への影響にも配慮し、互いに無理のないペースや時間帯を相談しておきましょう。会社の同僚と相談して、毎週決まった勉強タイムを設けるやり方もあります。
学んだことをアウトプットとして残す
業務外の勉強は興味ベースで自由に学べる一方、テストや成績表のような節目がありません。だからこそ、少しでも何かを残すことを意識すると、自分がレベルアップしている感覚を得られます。
私がやっているのは、学んだことをまとめてブログの記事にすることです。アウトプットできるぐらいに理解することで、ある程度の段階まで学んだという証跡になります。また、手を動かしてプログラムをつくってみるのもいいでしょう。検索エンジンの本を読んだら、自分の得意な言語で実装してみる、といった具合です。ほかに分かりやすいのは、認定資格を取ることです。特にクラウド系の資格は、最近周りでも取る人が多いです。
学生時代の暗記のような覚え方は、年齢を重ねるにつれてだんだんつらくなりますし、数カ月もすればすっかり忘れてしまうものです。しかし、残しておいたブログやプログラムを見れば、当時学んだことをすぐに思い出せます。
こうして残したものは、自分のための記録であると同時に、ほかの人に読まれる可能性もあります。何をどこに書いていくかという技術発信の話は、この連載の第6回で改めて取り上げます。
AIは「答えを出させる」より「質問攻めにする」
プログラムを書くといったアウトプットに、AIを活用する人も増えてきました。ただし、軽い指示を出しただけで物ができても、自分の知識や経験は増えません。使い方を選ぶ必要があります。
私は文章を書くとき、あえて初手ではAIを使いません。内容に悩んだときや、自分の理解が怪しいなと思うところは、徹底してAIを質問攻めにします。自分で書いた文章を渡して、間違っているところがないかを指摘させるのもいいでしょう。
一方、自分が詳しくない領域のプログラムを書くときは、最初からAIと対話しながら実装することもあります。不得意な分野だとトークンを無駄に使いますし、最適な設計がわからずに行ったり来たりすることもあります。それでも「理解しよう」という意思を持って、何度も質問し、提案してもらいながらつくることで、未知の分野も効率よく学べます。
こうした使い方は、まとまった時間が取れないときにも向いています。スマートフォンは混雑した車内でも扱いやすいので、私も通勤時間によく質問攻めをします。例えば、つくってみたいプログラムの仕様について、とことん議論してみるといった具合です。
また、資格試験の対策にも使えます。スクラムの認定更新試験を受けるときには、類似問題を大量につくらせて解いていました。
「自分で決めること」は楽しくもある
自分で自由にデザインできる勉強は、楽しいものです。モチベーションを保って長く続けられるように工夫しながら、成果を少しずつ積み上げていく。それがこの回でお伝えしたかったことです。
「いつまで学び続ければいいのか」が気になる方もいるでしょう。私がよく話すのは、Webフロントエンド、サーバー、データベース、通信など、どんな技術でもいいので上から下まで一通り経験してみよう、ということです。新しい技術は、たいてい過去の技術からのアップデートとして登場します。一通り触れておくと、その後のキャッチアップもかなりやりやすくなります。
ぜひ、自分の可能性を広げるチャレンジをしてみてください。
次に何を学ぶか、外からの視点で整理してみませんか
記事にもあったように、業務外の勉強は自分で自由にデザインできます。一方で「何を学ぶべきか」は、これからどんな仕事をしていきたいのかと切り離せません。
Findyの専任アドバイザーによるキャリアサポート面談では、転職の相談だけでなく、年次・職種ごとのキャリア傾向や、エンジニア転職市場のトレンド、現在のスキルでの想定年収といった情報も知ることができます。そうした客観的な情報の中から、次に学ぶべきものが見えてくるかもしれません。
転職するかどうかの結論を急ぐ必要はありません。まずは一度、今とこれからのキャリアについて整理してみませんか。
