「SIer・ITコンサルと事業会社、どちらへ転職すべきか」
「マネージャーとスペシャリスト、どちらへ進むべきか」
キャリアに悩むエンジニアにとって、こうした問いが浮かぶことは少なくありません。一方で、SEやITコンサルタントのキャリアについて、体系的に語られる機会はあまり多くないのが実情です。
本連載では、株式会社本田技術研究所や株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)を経て、現在はフューチャーアーキテクト株式会社でシニアアーキテクトを務める渋川 よしきさん(@shibu_jp)に、SE・ITコンサルタントが直面しやすいキャリアの悩みについて解説いただきます。今後は「AI時代に求められるスキル」「技術発信の始め方」などもテーマとして取り上げる予定です(全6回予定)。
第1回は、「SIer・ITコンサルか事業会社か」というラベルだけでは見えない、キャリア選択の考え方について掘り下げます。
エンジニアのキャリア形成において、SIerやITコンサルといったクライアントワークの世界でどのような経験が積め、どのような成長が期待できるのか。その実態がオープンに語られる機会は、意外と多くありません。
以前、ファインディさん主催のイベント「システムエンジニアのネクストキャリア戦略会議~『手を動かし続けるSE』のキャリア設計図 」に登壇した際も、多くの方からキャリアに関する悩みや疑問が寄せられました。そこで今回から全6回の連載を通して、キャリアの岐路に立つみなさんに、新しい視点や選択肢を提示できればと考えています。
なお、本連載では「技術を武器に価値提供したいエンジニア」を主な対象とするため、戦略・ビジ
ネスコンサルについては言及せず、便宜上SIerとITコンサルを合わせて「クライアントワーク」と
して解説を進めます。また、事業会社もB2C / B2Bなどの違いがありますが、本稿ではその点については触れません。
私の経歴を簡単に紹介すると、新卒で本田技術研究所(ITが主軸事業ではない事業会社)に入社し、その後DeNA(ITを主軸事業とする事業会社)でモバイルゲームの基盤開発を経験、そして現在はフューチャーアーキテクト(ITコンサルティングファーム)に籍を置いています。
これまで、それぞれ性質の異なる3つの環境で様々なプロジェクトに関わり、現職では多様なお客さまの現場を見る機会があります。その経験を基に、私が感じてきたことを紹介します。
思ったほど変わらない?クライアントワークと事業会社
それぞれの立場を経験して感じたのは、クライアントワークか事業会社かといった「枠組み」による本質的な違いは、実はそれほど大きくないということです。ユーザーと直接対話する立場であれば、その傾向は顕著です。
特にWeb系の事業会社は、「エンジニアが自由にアイデアを実装する」というイメージを持つ方も多いかもしれません。しかし、一定規模以上の組織であれば、基本的には「ビジネス(企画)担当」と「開発部門」で役割分担されています。つまり、「ビジネス側が定義した課題や要件に対し、エンジニアが最適な実装を考えてサービスをつくり上げる」という役割分担の構造自体は、どちらの業態でも共通しています。
もちろん、縦割りのチームを越えて、必要な課題に応じて柔軟に人が集まるような組織もありますが、それは「業態の違い」というよりは「企業の文化や個性の違い」といえるでしょう。
なお、これまでITを主軸事業としない事業会社のIT部門は、少ない人数で社内システムの保守運用を行うような、やや「守り」のイメージを持たれることもあったかもしれません。
しかし近年は、AIコーディングエージェントの発展によって状況が変わりつつあります。自社の業務を横断的に理解している現場の人がAIを使うことで、自ら課題解決に取り組みながら必要な実装まで行えるようになり、「攻め」の役割も担いやすくなると感じています。
数年前からDX(デジタルトランスフォーメーション)として事業会社のIT投資の機運が高まっていますが、それと相まってこうした「攻め」の役割は、現在伸びしろが大きい領域かと思っています。私は現在、そのような技術支援のプロジェクトにも幾つか関わっており、現場の方の成長を間近で感じています。
では、違いはどこにあるのか。渋川さんの実感
クライアントワークと事業会社の違いとして、まずイメージしやすいのは「ビジネス側」と「開発側」で会社が分かれており、「契約」が介在する点かもしれません。しかし実際は、事業会社でも外部の企業にQC(品質管理)などの専門スキルを提供してもらいながら、1つのプロジェクトとして進めることがあるため、ここに大きな違いは感じません。
実際の大きな違いとして挙げられるのは、「案件の性質」です。事業会社では特定サービスの「保守・運用・改善」が主軸になるケースが多い一方で、SIer・ITコンサルでは「新規開発や大規模刷新」のプロジェクトを渡り歩くケースが多くなります。
もちろん、継続的な保守運用案件に関わることもあるので一概には言えませんが、例えば当社のインフラエンジニアを見ていると、短期間で多様なプロジェクトのインフラ設計やIaC(Infrastructure as Code)整備を経験しています。
私の経験上、事業会社では一度決めた技術スタックを長く運用するケースが多い印象です。そのため、新しい技術の導入も、長期的な保守運用を見据えて慎重に判断されることが多いでしょう。
一方クライアントワークでは、プロジェクトの構築タイミングに応じて、その時点で最適だと思われる技術を選択できるケースも多くあります。もちろん完全に自由なわけではありませんが、多様な技術に触れやすい点は、魅力の1つだと感じています。
この辺りは私の転職時には意識していませんでしたが、お客さまも「すぐに陳腐化しないモダンな技術スタックにしたい」「モバイル端末からも使える、今どきの使い勝手の良いウェブシステムにしてほしい」という気持ちを持っていることが多いので、うまく工数の折り合いをつければ、お互いにWin-Winになれる点だと思います。黒い画面の旧システムの使い勝手をそのまま再現……みたいな“都市伝説”は私の経験上はありませんでした。
「事業会社では自分の仕事を公言できるが、クライアントワークだとそうではない」ということを思われている方もいるかもしれませんが、それもまた正しいとはいえません。サービス名=会社名の企業であれば比較的オープンにしやすい傾向はありますが、事業会社であっても新規事業立ち上げについては言えないことがほとんどでしょう。特に取引先がいるケースでは、極めて厳しいかん口令が敷かれます。
業態という“ラベル”ではなく、「裁量」と「経験」で見極める
自分のキャリアを振り返ると、仕事の満足度を左右したのは「業態」ではありませんでした。事業会社であっても、技術選定が済んだ後の実装工程が中心になる現場もあれば、ITコンサルであってもゼロから技術選定をリードできる現場もあります。もちろん、その逆のケースもあります。
お客さまやチームメンバーと直接話をしながら、自分の意思をプロジェクトに込められるかどうか、そういう成長チャンスがあるかどうかは、業態に関係なく、どのような役割を任せられるのか、どれぐらい裁量が与えられるか次第です。同じ会社であっても、プロジェクトや置かれる環境によって変わります。
フューチャーアーキテクトは、プライムベンダーとしてお客さまとダイレクトに仕事を行うITコンサルティングファームです。従って、要件定義から実装まで一貫して行うスタイルで、社内では営業や開発などの役割が完全に分かれているわけではありません。
そのため、面接では「コードだけ書いていたいという方には合わないかもしれません」とお話しすることが多いです。これを「プレゼン資料をつくって話をしないといけない」「開発の時間が少ない」と捉えるのか、「ビジネスの経験も積める」と捉えるのかは、その人次第です。
「クライアントワークだから」「事業会社だから」と入り口で選択肢を絞りすぎるのは、非常にもったいないことだと思います。自分にとっての「理想の裁量」がどこにあるのか。その視点を持つことが、納得感のあるキャリアへの第一歩になるはずです。
ラベルにとらわれず、「自分に合う環境」を整理してみませんか
記事でも触れられていたように、「クライアントワークか事業会社か」といったラベルだけでは、自分に合う環境を判断しきれないことがあります。その会社ではどれぐらいの裁量があるのか、どのような経験を積めるのか、自分はどんな環境を求めているのかによって、働き方や成長実感は大きく変わります。
Findyのコンサルタントとの面談では、1人ひとりの経験や今感じている悩みを整理しながら、「どんな経験を積みたいのか」「どんな環境で働きたいのか」を一緒に言語化していきます。転職するかどうかの結論を急ぐ必要はありません。まずは一度、自分に合った環境について整理してみませんか。

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