シフトレフトやAIによるテスト自動化の進展により、QAエンジニアの役割は大きく拡張しています。一方で、QA組織のあり方やキャリアパスは会社ごとに千差万別。確立した「型」がない中で、自分のキャリアの描き方に悩むQAエンジニアも少なくありません。
今回取材したのは、ナレッジワークで組織横断での品質向上を推進する河野 哲也さんと、プロダクトの品質保証を担当する綿貫 朱里さんです。
複数社のQA組織を経てナレッジワークに加わった河野さんと、SEからQAへのジョブチェンジを経てキャリアを重ねてきた綿貫さん。世代も経歴も異なるお二人の対話から、自分のキャリアを動かしていくヒントを探ります。
QAエンジニア/河野 哲也(tettan)さん
工業高校卒業後、日本無線でハードウェアQAに従事。電気通信大学でソフトウェア品質を学び、博士号を取得。日立製作所、DeNA、メルカリを経て2023年にナレッジワークへ入社。現在は品質保証の仕組みづくりやQAエンジニアのイネーブルメント支援など、組織横断の品質向上に取り組む。 プライベートではKindleで「QAエンジニア転職戦記」を出版するなど、QAのキャリア論を発信している。
QAエンジニア/綿貫 朱里(ぐんちゃ)さん
新卒では業務アプリの受託開発を行うSIerに入社し、SEとしてキャリアをスタート。エムスリーキャリアでQAエンジニアにジョブチェンジ。2022年9月、2人目のQAエンジニアとしてナレッジワークに入社。現在はAIエージェントを組み込んだプロダクトの品質保証を担当。
周囲から惜しまれても突き通した、ジョブチェンジの理由
― お二人がQAエンジニアになった経緯を教えてください。
綿貫:私が新卒で入社したのは、食品メーカー向け業務アプリケーションの受託開発を行う小規模なSIerでした。文学部出身なので、ITの知識はゼロでしたが、コンフォートゾーンから出て、自分が一歩ずつ階段を上れるような仕事に就きたかったんです。
プロジェクトを一通り経験した頃、「最初に違和感を持ったことを放置してしまうと、納品までのテストフェーズの段階ですごく燃えてしまう」という課題を感じていました。「どうすれば、この問題を防げたんだろう?」と当時の同僚と話していた時に、QAエンジニアという仕事があると知ったんです。
しかも、開発のテストフェーズを担うだけではなく、「シフトレフト」と呼ばれる上流から品質をつくり込む活動も行っているんだとわかって。私も専門性を持って頑張りたいと思い、2社目のエムスリーキャリアにQAエンジニアとして転職しました。
― 当時、まわりからの反応はいかがでしたか。
綿貫:「テストするためのエンジニアになるのはもったいない」と言われたこともありました。しかし私自身は、プロダクトやプロジェクトの状況に応じて適切なテストをすることへの奥深さを感じて探究心を持っていましたし、QAエンジニアの仕事はテストだけに留まらないと知っていたため、まったく気になりませんでした。当時は、いわゆる「Will・Can・Must」のCanがまだ少なかったのですが、世の中が求めていることと、自分のやってみたいことの重なりに「品質保証」があったので、挑戦してみようと思ったんです。
― ベテランの河野さんから見て、綿貫さんのジョブチェンジのお話はどう映りましたか。
河野:日々の業務への課題意識を持ち、そこに着目してキャリアチェンジするのは、すごくいいモチベーションの持ち方だと思いますね。課題に敏感になっていない人は、そうしたキャリアの変遷はできません。問題に目を向けることができる人は、QAエンジニアにすごく向いていると思います。
― 河野さんご自身は、どのようにQAエンジニアの道へ進まれたのですか。
河野:実は、キャリアの「軸」という考え方は、過去の自分にはなかったんです。
工業高校卒業後、就業しながら大学に通える制度があった日本無線に入社しました。働きながら夜間の電気通信大学に通い、ゼミを選ぶ際に「この分野でなら飯が食えそうだ」という考えで、コンサルタントの経験もあった西 康晴先生の研究室に、1期生として入りました。そこから今のQAエンジニアにつながる道が開けていったんです。計画的に進んできたわけではなく、振り返ってみると、気づいたら今の場所にいた、というのが正直なところです。
「自分の仕事しか見ていなかった」チャレンジで広がった視座
― 綿貫さんがナレッジワークに入社された当初、QAの体制はどんな状況でしたか。
綿貫:2022年9月、私ともう1人の同僚QAエンジニアが入社した当時は、正社員のQAが1人、協力会社からの業務委託が3人ほどの状態でした。社員QAとしては「2人目・3人目」というタイミングでしたね。
― その半年後に河野さんが入社されてから、お二人の間では、どのような協働が始まりましたか。
綿貫:最初に河野さんと一緒に取り組んだのが、TestDesignDocの導入でした。それまで自分はマインドマップでテスト設計をしていたんですが、私の使い方が悪くて、あとから見ても、どういう意図を込めたかがまったくわからない成果物になってしまっていました。
河野さんに「DesignDocのようにテスト設計の成果物も文章にすることで、成果物の分かりやすさに加えて自分たち自身の文章作成能力も向上させることができるのでは」と指摘いただき、テスト設計の最終成果物としてTestDesignDocのテンプレートを、相談しながら一緒につくっていけたんです。あとから振り返ってもわかりやすいし、つくっていく中で自分たちのスキルも向上する。こういう仕組みをつくる側に関われたのは、入社時にやりたかったことでもあったので、本当にうれしかったです。
― 河野さんは、シニアQAとしてメンバーと関わる際に、どんなことを大事にされていますか。
河野:キャリアを重ねれば重ねるほど、ほかの人のために時間を使う優先順位を高くしないといけないと思っています。僕1人が動ける範囲は1人分しかないので、ほかの人が成長して自律的に動けるようにしていくほうが、チームとしてのパフォーマンスは大きくなる。それに、僕が綿貫さんのような若手から教わることだってたくさんあるわけですから。
― 綿貫さんが直近で力を入れてきた取り組みについても教えてください。
綿貫:大きかったのは、AI活用の取り組みです。2025年の夏くらいまでは、目の前のテスト設計やテスト実行を1プロダクトで1人で回すのに精一杯で、新しい技術をキャッチアップする余裕がほとんどありませんでした。
そんな中、2026年1月のQuarterly Session*で、別のチームのエンジニアから「QAの人たちがあまりAIを使っていないんじゃないか?」「CLI型コーディングエージェントで全部の仕事をやるくらいの勢いで触ってほしい」という熱いメッセージがあって。そこまで言ってもらえるのであれば、なにかあるんだろうと、1月中は取り組む業務全てに対してClaude Codeを使おうとしてみたところ、課題も見つかりましたが同時に強い手応えも感じて。そこから河野さんと一緒に、QAの業務をスキルとして仕組み化していくところまで進みました。
* 毎四半期ごとに3日間かけて全社で目線合わせをするオフサイトセッション
― AIによる自動化のプロセスを通して、ご自身の中ではどんな変化がありましたか。
綿貫:正直、ここまで熱心に背中を押されなければ、AIエージェントのすごさに気がつくことができませんでした。それは自分の仕事のレイヤーでしか物事を見ていなかったから。きっと、もっと広い視野を持っていれば、自分から気づけたはずなんです。
だからこれからは、QAという職種・自分の仕事のレイヤーだけではなくて、プロダクトサイドとして何を目指しているか、会社としてどういうプロダクトをつくりたいか、社会にどう貢献していくか。短期だけではなくて中長期で、つながりを持って語れるようになりたいと思っています。
河野:綿貫さんはとにかくフットワークがめちゃめちゃ軽いんですよ。打席に立つ数が圧倒的に多くて、ヒットもちゃんと打っている。自分でやってうまくいったことを「隣の人もできるようにするには」「ワンランク上に上げるには」というところにつなげていけると、もう一段視座が上がると思います。事業全体が見えるようになるし、ほかの人からも、もっと評価されやすくなるので期待していますね。
キャリアの手綱は、自分で握れ
河野:話を聞いていて感じるんだけど、綿貫さんは、自分のキャリアを自分でコントロールしている感はあるでしょ?
綿貫:はい、ありますね。なにかに流されてここに来た、という感覚はあまりないです。
河野:やはりそれが圧倒的に正しい姿勢だと思うんです。世の中には、自分のキャリアを自分でコントロールしている感がない人が圧倒的に多い。自ら動かしているという感覚がないと、モチベーションは下がってくるし、仕事全体に対してもやらされ感が生まれてくる。
コントロールできる環境にいるのに、放棄している人もけっこう多いと思います。とりあえず上司に言われたことを淡々とやっている。すると、自分のキャリアをほかの人が決めるようになって、ある日突然「自分でコントロールしよう」と思ったとしても、その時にはもうできなくなっている。日本のサラリーマンには圧倒的にこちら側の人が多いと感じます。
― 河野さんがキャリアをコントロールするために続けてきた工夫はありますか。
河野:一つは、家族のキャリアに対する期待値を、なるべく下げ続けてきたことですね。家族の反対で転職や挑戦ができなくなるパターンって、けっこうありますよね。日立製作所にいた時も、妻には「そんなに出世できないよ」と事前に話していました。すると、転職すると伝えても、「いいんじゃない」と。人生の選択を自分でコントロールできるように準備しておくことはかなり大事だと思います。
もう一つは、自分のキャリアを客観的に見る仕組みを持つこと。Findyのような転職サイトへ経歴を登録しておくと、企業からのスカウトを通じて自分のキャリアの現在地が見えてくる。スカウトが減った、まったく来なくなったならば、キャリアが干上がってきている可能性があるサインです。職務経歴書を定期的にアップデートしておいて、スカウトが来るかを見ているだけでも、定期的に自分のキャリアを棚卸しできます。
シニアは「危機感を持て」AI時代を生き抜くために
― AI時代を迎え、QAエンジニアのキャリアはどう変わっていくとお考えですか。
河野:これからのQAエンジニアは、割とヤバいと思っています。僕自身も含めて同じシニアのQAエンジニアたちは、強く危機感を持っていて、「そもそもシニアのQAってどんな価値を発揮できるんだっけ?」という議論にもなってきていると感じます。
今、自分が担当している業務の大部分は、AIに置き換わるだろうという感覚があります。決定論的なテストの範囲は、AIで簡単に代替できる。一方で、非決定論的な部分や、顧客の課題が本当に解決できているかどうかの判断は、まだ人間が介在しないとできない。これからのQAエンジニアは、そうした深い部分に入っていく必要が出てきていると思います。逆に言えば、若い人にとってはチャンスでしょう。僕みたいなおっさんを置き換えられるんじゃないかな、と。
― 河野さんほどのキャリアがあっても、それほどの危機感を持たれているとは驚きました。これからのQAエンジニアには、どんな軸が求められるのでしょうか。
河野:QAの肩書だったとしても、なんでもできる時代になってきています。だからこそ、自分のセンターピンを持ったほうがいいと思います。品質という軸を持って、そこからほかの業務に染み出していく。例えばカスタマーサクセスの業務を少しやってみて、お客さまから出たインサイトをもとに、自分のロールをPdMに付け替えて要件を立ててみる。そして、最終的にはお客さまの課題解決ができているかをQAエンジニアとして検証する。そんなふうに職種の枠を染み出していかないと、ほかの職能に置き換えられてしまうかもしれません。

― 綿貫さんは、今のお話を聞いてどう感じましたか。
綿貫:私自身も、河野さんがおっしゃる「染み出し」を自分なりに重ねてきました。例えば、自分が所属しているプロダクトとは別のチームでインシデントが起こった際に、積極的に対応に参加して、コマンダーとして収束のマネジメントをしたり。自分のプロダクトをリリースする前には「デモセッション」というかたちで、ほかのプロダクトを担当しているエンジニアやCSの人たちにも機能を共有する場をつくったり。お客さまから見ればナレッジワークは、一つのチームです。自分が担当するプロダクトしか知らない、という状態は避けたいと思っています。
ただ、自分1人が手を動かすだけだと、ほかの人が再現できないし、私のキャパシティもオーバーしてしまいます。だから、自分が学んだことをほかの人もできるように、AIスキルとして仕組みに落とし込んでいきたいと思っています。これまでにインシデント対応のコマンダーが次に何を指示すべきかを答えてくれるスキル、ポストモーテムというインシデント振り返りドキュメントの作成を支援してくれるスキル、リリース前のデモセッション資料を作成してくれるスキルなどをつくってきました。
自分が「これをやりたい。よし、できた」で終わるのではなくて、ちゃんと足跡を残すこと。私がすごいって褒められるかたちではなく、チャレンジしたことをしっかり組織の力にしていく意識を持つようにしているところです。
河野:そういう「染み出し」がやりやすいかどうかは、組織構造にもよると思います。ナレッジワークでは、QAグループという独立した組織ではなく、QAエンジニアは各開発チームに所属するかたちになっています。開発チームに所属するからこそ、「自分はQAだからQAの仕事しかしません」ではなく、開発チーム全体に必要なことに広く関われる。組織の壁がない状況で働けるので、近い将来QAのロールが変わる時にも、組織的な制約を受けることなく活躍しやすい組織形態を意識しています。
結局のところ、「品質保証」という軸を持ちながら、その軸からどう動いていけるか。そこに、自分のキャリアを動かしていくための鍵があるんじゃないか、と。
― 最後に、自身のキャリアに対し「このままでいいのか」とモヤモヤを感じている読者へ、お二人からメッセージをお願いします。
綿貫:私が語るのはまだまだおこがましいと思ってしまいますが、私自身はこれまでのキャリアを振り返って、「やらなきゃよかった」と思ったことが基本的にないんです。もし、思ったような結果が得られなかったとしても「ここが悪かったんだな」と次に活かせばいい。もしかすると、私に恐れがなさすぎるのかもしれないんですが、まず自分がやりたいこと・世間や組織など周囲から求められていることをやってみたら、次の道が見つかると思います。
河野:AI時代に突入し、僕自身がキャリアに強い危機感を覚えています。もし僕と同じくらいのキャリアを積んできた方は、同じような危機感を抱いていると思います。高い給料をもらって指示だけ出している存在になってしまっていると、これからの時代、AIに聞いたほうが的確な答えが返ってくる可能性が高いので、そのうちAIに置き換えられてしまうかもしれません。
今までの延長線で歩んでいくと、かなり危ないし、生き残れたとしても予見できたゴールにしか辿り着けません。一方で激動の時代で先が予見できない分、チャレンジする人にとっては「想像していたより、いい終わり方」になる可能性も高い。だからこそ、現状に安住するのではなく、しっかり挑戦を続けていくべきだと思っています。私もその渦中にいます。自分の人生を「楽しかった」と思える、新しいチャレンジに踏み出してほしいですね。
自分のキャリアを動かしていくには、まずは対話から
「QAエンジニアとして、何を軸に成長していくのか」「今、自分のキャリアはどこに向かっているのか」──情報や選択肢があふれる中、こうした問いを1人で抱え込むのは、簡単なことではありません。
Findyのコンサルタントとの面談では、これまでの経験や今、感じているモヤモヤを整理しながら、「何を大切にしたいのか」「どんな環境であれば成長できるのか」を一緒に言語化していきます。転職するかどうかの結論を急ぐ必要はありません。まずは一度、キャリアのモヤモヤを相談してみることから始めてみませんか。

