「もっと成果を出さなきゃ」「スキルを増やさなきゃ」。そんな焦りに押され、やることを積み重ねていないでしょうか?けれど、本当に働き方を変えるのは“足し算”ではなく、“引き算”かもしれません。この企画では、エンジニアたちがあえてやめたことと、その後に訪れた変化をたどります。ムダをそぎ落とした先に残る、本当に大切な仕事や自分らしい働き方とは。誰かの“やらない選択”が、あなたの次の一歩を軽くし、前向きに進むヒントになりますように。
みなさん、こんにちは!LayerXで「バクラク申請・経費精算」というプロダクト開発チームのエンジニアリングマネージャーをしています、あらたま(@ar_tama)と申します。
今回は、「やらないこと」と決めて貫き通していることではないのですが、最近「勇気を出してやめてみたことと、その結果」について書いてみようと思います。
事業成長で増えるマネージャーの責務に、どう立ち向かうか
私は今、ファーストラインの(最も現場に近い)マネージャーとして、自身も手を動かしながら職能横断チームの運営を行っています。LayerXのバクラク事業部におけるファーストラインマネージャーは、その職務は多岐にわたります。内容やそれぞれの比重はプロダクトのフェーズに合わせてにはなりますが、チームマネジメント・エンジニアのピープルマネジメントのほか、技術的な課題を整理しPdMとロードマップを練ったり、広報・採用活動を行ったり、また現場の解像度を保つためにコードを書くことも並行して行うなど、文字通り「担当プロダクトの成果を最大化するために、なんでもやる」ポジションです。
ともするととてもハードに見えてしまうのですが、私たちはこれを「少人数チーム」を条件として成立させています。つまり、メンバーもマネージャーも持つべきコンテキストを少なく保つことで、それぞれのカバー範囲を広げ、俊敏に動けるようチーミングを行います。それによりマネージャーは「そのときにチームに必要なことを見極め、必要なだけやる」ことにフォーカスできるのです。
とはいえ、事業やプロダクトの成長に応じて、コンテキストが広く・深くなっていくことは避けられません。私の担当するプロダクトも大変嬉しいことにたくさんのお客様にご愛顧をいただき、たとえば「Webアプリとネイティブアプリ」というような複数のコンテキストを同時に取り扱う必要が生じ、そのために必要な仲間の数も増えていきました。
そうした事業状況の変化の中、先日、元々あった2つのチームを統合し、さらに構成メンバーをシャッフルする形で、新しく2つのチームを立ち上げることにしました。どちらも私が管掌するためピープルマネジメントの対象も増え、更にそれぞれのチームビルディングや目標・計画作りにも一定時間を割く必要があるため、とにかく 「自分の時間の使い方をシビアに判断しないと、何もかもが中途半端になってしまう。カレンダーを棚卸ししなければ」 という危機感が強くあったのを覚えています。
そこでいくつかの対応を行ったのですが、ここからはその中でも「定期の1on1をやめる」という決断にフォーカスしてお話しします。
1on1は不可侵であるべき、という前提を疑ってみた
私は、メンバー向けに「コミュニケーションサイクル」というドキュメントを書いて運用しています。これは1on1にかぎらず、目標設定から振り返り・評価に至るまでのレポートラインで発生するイベントについて、「なぜやるのか」「何をやるのか」などをまとめた文書です。そのドキュメント上では1on1について以下のように説明しており、隔週に1回のペースで実施しています。
> 自身の業務遂行・目標達成のためにマネージャーを「使う」ための場。1on1における主役はあなたです!
「メンバーのためにあるべき場」という位置づけをしたこともあり、私はこれまで「いくらマネージャーが忙しくても、マネージャーの都合で1on1をスキップしてはならない」というスタンスで臨んでいました。「共有できるメモを用意しておいて、事前にトピックが持ち込まれなかったら1回スキップする」など、お互いに良い時間とするための工夫をしながら運営していましたが、前述のように自分の時間の使い方を強く問い直すことが「もしかして、不可侵だと思っていたこの時間にも、一旦メスを入れてみてもいいのかも……?」と思うきっかけとなったのです。
1on1の機能を問い直してみた
1on1は、クローズドな場だからこそ安心して話せる、キャリアなどの個人にフォーカスした話を掘り下げられるなどのとても重要な役割を担っています。1on1を定期的に行うことで、忙しくてついつい流れてしまう日常に振り返りとアクションのリズムをもたらすことができます。また、特に新入社員にとっては、業務知識だけではないコンテキストの共有を密に行うことによってオンボーディングを促進できる側面もあり、1on1というサポート手段は有効にはたらきます。
とはいえ、「課題を持ち込み、それを一緒に解決する場」としては1on1は適さない場面もありそうです。たとえばチームに対する課題であれば、マネージャーを介さず、チームの振り返りのタイミング、あるいはDaily Standupのような日次の会議体で提起・解決されることが理想ですし、そうできるための環境を整えることこそマネージャーが果たすべき責務とも言えます。
こうした整理を行い、その上で改めてチームの状況を見てみたとき、以下の条件が揃っていることに気づきました。
- チームが再編されたとはいえ、業務知識・プロダクトやドメインの知識が豊富なメンバーが多く、またシニアエンジニアの比率も高いこと
- メンバーそれぞれの相互理解が一定以上担保され、チームでの困りごとはチーム内で解決できる環境が作れていること
- もともと定期の1on1とは別に、月次で個人目標を振り返る機会を設けており、この会に1on1の機能を一部持たせられそうなこと
これにより「目的を持っていたとはいえ、これまで前提を疑わずに1on1を実施してきたけど、目的に合わせてもう少し柔軟に調整してみてもいいのかもしれない」「私がスキップしてはならないと考えていたように、メンバーも同様にとらえていたら?」など様々な考察が生まれ、葛藤を抱えながらも「定期の1on1を一旦やめてみる」という選択肢について検討を進めていきました。
実際に1on1をやめてみた。結果は?
メンバーが不安に感じないよう、この変更は、直接口頭で伝えるだけでなく、前述の「コミュニケーションサイクル」に対してCHANGELOG [1]という形で、変更の目的や理由を明確に残しました。
また新入社員向けにはオンボーディングの一環として1on1を行っているため頻度に変更はないこと、徐々にこちらのスタイルに寄せていくことを説明し、切り替えのタイミングはメンバーに委ねつつ、月次で確認の機会を設けることとしました。

この試みを始めて数ヶ月が経ったので、実際にメンバーから感想を募りつつ、結果を振り返ってみます。
始める前から明確に良い影響を見込んでいたものに、「メンバーが集中して作業する時間を多く取る」がありました。マネージャーにとっては予定が連続しているため「今日はみんなと1on1の日!」と割り切れたとしても、メンバーには「集中できてきたと思ったら1on1で中断されてしまった」という体験になりかねません。実際にメンバーからも、より集中できるようになったとの声がありました。
また、マネージャーのカレンダーが空くことで、突発的な相談をしやすくするねらいもありました。実際に私はチームの会議に参加しやすくなり、「メンバーからマネージャーに相談する」「マネージャーが現場の情報を取りにいく」の双方をやりやすくできた感触があります。月次の振り返りで挙がったトピックを更に掘り下げるためのアドホックな1on1を行ったり、リーダー格のメンバーとは別途方針共有の時間を取ったり、「月次よりもう少し短い頻度でコミュニケーションしたい」と言ってもらって対応したりと、柔軟に「おかわり1on1」の手段を講じることができたのも、自分自身のカレンダーの棚卸しが叶った結果です。
個人的には、コミュニケーション頻度が下がることによって情報格差が開かないかを心配していました。メンバーの感想を聞く限りでは、チーム内で流通される情報量を増やす、みんなで同期で読み合わせる、前述のおかわり1on1などの手段によって、今のところはカバーできているようです。
もちろん、良いことばかりではありませんでした。一対一の接点が「月次の振り返り」のみになったことで、課題の顕在化が遅くなったこともありました。中にはもう少し早くキャッチできていれば問題を小さくできていたかもと反省する内容もありましたが、傾向を掴むことができたので、次からは先回りして対処できるはず、と考えています。
また、人によっては1on1を「目標と日頃の活動の接続の場」として活用していたため、フィードバックのサイクルが停滞してしまったように感じられた、という感想ももらいました。メンバーの側からも1on1の意義を問い直し、他の場では代替できない、あるいは独力では難しいことをマネージャーの力を借りて遂行するというアクションにつなげてもらえることを嬉しく思います。
仲間への信頼とちょっとの勇気があれば、「やらないこと」はお試しできる
現在では2チームとも混乱期 [2]を脱しつつあり、目標達成のために建設的かつ忌憚のない意見が飛び交っています。チームを立ち上げるためのエネルギーをみんなで集中させるために取った「定期1on1をやめてみる」施策は、今回の私たちにおいては有効に働いたと言えるでしょう。
もちろん、これまで述べてきたように、1on1にしかもたせられない機能・効果はありますし、新入社員のオンボーディング以外でも有効な場面はたくさんあります。私も、1on1の場において事前に話したいネタがなかったときでも、せっかくだからと集まったことで偶発的に生まれたアイデアがチームを前進させた、という経験が過去に何度もありました。トレードオフとはいえ、それが失われてしまうことは一抹の不安や寂しさが今でもないと言えば嘘になります。
ただ、かつての私のように「前提を疑わずに固定で実施し続ける」という選択肢しか持たないのではなく、目的や「今集中すべきことはなにか」を整理したうえで「やめる」というオプションを持てるほうが、私たちが目指したいゴールにより速くたどり着けることでしょう。
「やらないことを決める」というのは、トレードオフを受け入れる決断をするということです。難しいのは、それによって何を失うのかを理解する猶予が与えられない状態で決断しなければならないこと。人間は一般に、結果がわからない・コントロールできない状況を不安やストレスとして感じやすい性質を持っています。ともすれば損失回避バイアスが強く働いてしまうこうした状況の中で、決断を「重すぎるもの」にしないために必要なのが、「後戻りできる」選択肢を見極めることです。一見すると一方通行に見える課題も、視野を広げることで後戻り可能なことに気づくこともあるでしょう。知らず知らずのうちに凝り固まっていた自分の固定観念を振り返りによって棚卸しすることで、きっと柔軟に・軽やかに、「やらないこと・やめること」を決められるようになるはずです。
とはいえ不安はつきもの。そんなときに必要なのは、「もし上手くいかなかったらごめん!頑張るけど、フォローしてくれたら嬉しい!」と頼れる仲間たちと、「よし、いっちょやってみるか」と一歩を踏み出す勇気の2つです。本記事が、不安に足をすくませるあなたの背中を支え、押すきっかけとなれたら、こんなに嬉しいことはありません。
