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技術愛好家のタイムスケジュール〜梅田 龍介さんの場合〜

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株式会社グリッド / CTO/執行役員

梅田 龍介

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エンジニアの働き方や技術との向き合い方は、決してコードを書くだけに留まりません。日々の業務に加え、学習や執筆、イベント登壇など、その活動は多岐にわたります。本シリーズでは、こうした「技術愛好家」たちの1週間のスケジュールに密着し、その多彩な活動と時間の使い方、そして根底にある想いに迫ります。

第3回は、株式会社グリッドでCTO / 執行役員を務める梅田 龍介さんです。大学卒業後、エネルギー関連企業を経てグリッド社に未経験のデータサイエンティストとして転職。わずか入社から4年でCTOに就任したという稀有なキャリアの持ち主です。

現在、多忙なCTO業務をこなしながら、海外の大学院でコンピュータサイエンスやAI関連分野を学び続けている梅田さん。その原動力は何なのか、濃密な1週間のスケジュールから学び続けるCTOの素顔と情熱を探ります。

海外大学院で学ぶCTOの1週間のスケジュール

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― 梅田さんはCTOという忙しい立場にありながら、海外の大学院で学んでいると聞き、ぜひお話しを伺いたいと思っていました。まずは、代表的な1週間の過ごし方について教えていただけますか?

梅田 基本的に、平日の日中は株式会社グリッドの業務を行っています。プロジェクトの定例会議やお客様との打ち合わせ、社内ミーティングなどが主な活動です。

そして、業務が終わった平日の夜間や、週末の土日の日中を利用して、オンラインで海外の大学院の授業を受講したり、その課題に取り組んだりする時間を確保しています。学ぶ内容はコンピュータサイエンスが中心です。

― 毎日出社しているわけではなさそうですね。

梅田 私たち管理職が出社しなければならない日と定められている毎週水曜日は、必ずオフィスに出社しています。それ以外の曜日については、担当しているプロジェクトの状況や個々の業務内容に応じて、自宅からのリモートワークも柔軟に活用しています。

― 現在、梅田さんはグリッド社でどのような業務を担当されていますか?

梅田 CTOとしての役割は多岐にわたりますが、中心となるのはプロジェクトマネージャーとしての動きですね。担当プロジェクトにおいて、エンジニアへのタスク割り振り、日々の進捗状況の管理、そしてお客様への定期的な報告といった業務を責任者として行っています。CTOに就任する前から継続して担当しているプロジェクトもあるので。

また、営業チームと協力してお客様へ技術的な提案を行うプリセールス活動や、実際にお客様の元へ足を運んでの打ち合わせも、週に1回程度はあります。

ありがたいことに、技術カンファレンスや社外のイベントで講演させていただく機会も月に1回ほどあり、その登壇資料の作成や発表準備も重要な業務のひとつです。

― スケジュールを見ると、仕事と大学院で多忙な中でも趣味の時間をしっかり確保しているのが印象的です。何か特別なタイムマネジメント術があるのでしょうか?

梅田 特別なテクニックというほどではないかもしれませんが、意識しているのは、テニスやジム、将棋などの趣味の時間を先にセットして、他の時間で仕事と勉強を割り当てることでしょうか。

趣味の時間は心身のリフレッシュにつながるため、日々のパフォーマンスを維持するために欠かせないものです。この時間を犠牲にしてまで他のことを優先するという考えは、あまりありませんね。

しっかりとリフレッシュの時間を確保することで、結果的に仕事や学業への集中力も高まり、効率的に時間を使えるようになると感じています。

学びと仕事の両立は大変。パフォーマンスを落とさないための工夫

― 海外大学院では具体的にどのようなことを学んでいますか?

梅田 私が学んでいるのはコンピュータサイエンスです。その中でも、ロボティクスやマシンラーニング、AIに関連する分野を選択しています。

授業は基本的にオンラインで、講義動画を視聴したり、課題に取り組んだりといった形で進めています。

― まさに最先端の分野ですね。しかし、日々の業務との両立は相当大変なのではないでしょうか?

梅田 正直、厳しいと感じることは多いです。時間が足りず、課題の理解や考察が不十分なまま提出することも少なくありません。それでも、リモートワークで通勤時間を学習に充てられるのは大きな助けになっています。もし毎日出社なら、今の生活は困難だったかもしれません。

あと、業務の都合で思うように学習が進まないこともあります。たとえば、お客様との会食が急に入って、夜に予定していた勉強時間が確保できなくなるとか。そういう場合は、どこかでリカバリーするしかありません。残念ながら、土日の家事が犠牲になることが多いですね(苦笑)。

― 忙しい日々の中で、パフォーマンスを維持するために気をつけていることはありますか?

梅田 睡眠時間の確保、これだけは譲れないですね。1日のうち、平均して8時間くらいは確保するようにしています。

以前、プロジェクトの繁忙期や試験前などで睡眠時間を削ってしまった時期もあったのですが、やはりうまくいかないんですよね。日中の集中力も思考力も明らかに低下してしまって、かえって効率が悪くなることを実感しました。ですから、今は何よりも睡眠を優先するようにしています。

― 海外の大学院で学ぶ際、時差で困ることはないですか?

梅田 時差を大きく感じる場面は少ないです。というのも、ほとんどの授業が録画されていて、自分の好きなタイミングで視聴できるオンデマンド形式なんです。ですから、自分のスケジュールに合わせて柔軟に学習を進められます。

ただ、リアルタイムでの参加が必要な場合もあります。たとえば、オフィスアワーというZoomなどで教員やティーチングアシスタントに直接質問できる時間や、他の学生とのグループワークなどです。

そういった場合は、日本時間の早朝や深夜に対応する必要が出てくることもありますが、頻度としてはそれほど高くないので、今のところ大きな支障にはなっていません。

― 仕事と学びの両立を継続してみて、変化はありましたか?

梅田 この生活を始めてから8か月ほど経ちましたが、なんとなくペースがつかめてきたこともあって、最初に比べるとリズムが整ってきました。

もちろん、今でも楽ではありませんし、課題の締切前などは「ここまでやらないと寝れない」と自分を追い込むこともあります。やるべきことをこなすために無心で取り組むような感覚ですね(笑)。

「まず業界を知る」成長の秘訣は2段階の学習アプローチ

― 梅田さんがグリッド社に入社した際、未経験ながらデータサイエンティストとして採用されたそうですね。

梅田 はい。グリッドに入社した当初はデータサイエンティストとしての実務経験はありませんでした。そのため、最初にアサインされた電力業界のお客様のプロジェクトでは、大きく2つのことを学ぶ必要がありました。

1つはデータサイエンスそのものの知識や技術。そしてもう1つが、お客様の業務や電力業界特有の専門知識、お客様が何を考えているのか、といったドメイン知識です。

― 未経験でいきなり2つの大きなテーマに取り組むというのは、相当なプレッシャーがあったのではないでしょうか。当時、特に困難を感じたのはどのような点でしたか?

梅田 お客様との会議ですね。最初の頃は、データサイエンスの知識も業界知識も乏しかったため、会議に参加しても何を話しているのか、何が論点なのかを十分に理解できませんでした。何も発言できずに終わる状態が2、3回続いてしまって。このままではいけない、と強い危機感を覚えましたね。

― その状況をどのように打開されたのですか?

梅田 当初はデータサイエンスと業界知識の両方を同時に勉強しようとしていました。ですが、このまま両方とも中途半端に勉強していては、プロジェクトが終わるまでに何も貢献できないのではないか、と感じたんです。

そこで、ドメイン知識のほうに勉強の軸足を振り切りました。

まずは、お客様と同じレベルで会話ができるようになることを最優先に、電力業界に関する書籍を読み漁り、お客様からいただいた資料を徹底的に読み込みました。業界特有の用語やお客様の業務プロセスを必死で頭に叩き込みました。

データサイエンティストとしての専門的な話はまだできませんでしたが、お客様の業界や業務について真剣に学んでいる姿勢が伝わったのだと思います。次第に、「うちの業界のこと、よく勉強しているね」と声をかけていただけるようになり、お客様の方からいろいろと教えていただける機会が増えました。

― 顧客との信頼関係を築き、プロジェクトの状況を把握できるようになった後、どのようにデータサイエンスの学習へとシフトされたのでしょうか?

梅田 お客様とのコミュニケーションが円滑になり、情報が集まりやすくなると、プロジェクトの全体像が見えてきて、自分が何をすべきかが明確になってきました。そして、自分のコントロールでプロジェクトが動かせるようになってきたタイミングで、データサイエンスの学習に本格的に取り組みました。

当時は今ほど学習資料が豊富ではありませんでした。私が主に扱っていたのは数理最適化という分野だったのですが、専門書も少なく、インターネットで関連情報を探したり、海外の論文を読んだりしながら、手探りで学んでいくしかありませんでしたね。

― まさに独学で道を切り拓いてこられたのですね。今、当時のご自身の学び方を振り返って、「こうしておけばよかった」と思われることはありますか?

梅田  一番強く思うのは、もっと人に頼ればよかったな、ということです。

当時は、とにかく自分で調べて解決しようという意識が強すぎて、専門書を何冊も読んだり、長時間かけて情報を検索したりしていました。でも、今になって思えば、その分野に詳しい専門家や経験者を探して直接話を聞きに行った方が、はるかに早く、そして深く理解できたはずですから。

その経験から、現在は若手育成において、私がアポイントを取って専門家を紹介するなど人脈形成の手助けをするよう意識しています。

なぜ学び続けるのか? 私を駆り立てる「好奇心」と「焦燥感」

― CTOとしての激務に加え、海外大学院での学びも継続されている梅田さんですが、その尽きないエネルギーと学び続ける原動力について教えてください。

梅田 主に2つの感情が原動力となっています。まずは純粋な好奇心です。さまざまなことを学びたい、知りたいという欲求が強いんです。一方、ある種の焦り、つまり焦燥感も抱いています。

現代は技術が驚くべき速さで進歩しています。その中で、日常業務から得られる情報や経験は、どうしても範囲が限られてしまう。

積極的に外部の新しい情報に触れ、日々変化するものを自ら取りに行く努力を怠れば、視野の狭い人間になってしまうのではないかという危機感があるんです。特に変化の激しいIT業界においては、常に新しい情報を吸収し続けなければ、すぐさま時代に取り残されてしまうという思いがあります。

― その危機感が学びへの強い動機となっているのですね。では、もう1つの好奇心は、どのような対象に向けられているのでしょうか?

梅田 好奇心の対象は、最新技術に限りません。むしろ、既存の技術であってもまだ知らないことが数多くあります。

私はIT業界に入るのが遅かったため、知識に偏りがあると言いますか、基礎知識や古くから存在する技術について未習得な部分が少なくありません。特定のプロジェクトで深く関与した分野は詳しいものの、他の分野では一般的なITエンジニアが有する知識に及ばない場合もあるんです。

そのため、まずはITエンジニアとして備えておくべき知識を体系的に習得し、その上で最先端技術の追求も継続していきたいと考えています。

― そのお考えが、海外の大学院で学ぶという選択につながったのですね。

梅田 はい。自主学習では興味のある分野に偏りがちで、新たな発想や広い視野を得るには限界があると感じていました。そこで、一見興味がない分野や未知の領域も強制的に学べる大学院の環境を選びました。独学ではカバーしきれない知識を吸収し、意図的に視野を広げることが目的です。

― たしかに、大学院であれば網羅的に学ぶことができますね。ご自身の学びのスタイルという点では、過去に比べて変化はありましたか?

梅田 学習スタイルは大きく変化しましたね。特に近年、独学が非常に行いやすくなったと感じています。たとえばChatGPTのようなAIツールの登場は大きいでしょう。

かつては情報を手探りで収集し、難解な専門書を読み解くのが一般的でしたが、現在はAIに質問すれば即座に回答が得られます。コーディング支援なども含め、学習の容易さは格段に進歩したと実感しています。

ともに学び合う環境で、やりたいことに挑戦し続けたい

― 梅田さんを筆頭に、グリッド社には学ぶことが好きなメンバーが多いのでしょうか?

梅田 はい。みんなで学ぼうという雰囲気が強いですね。個々人が学ぶだけに留まらず、得られた知識や経験を積極的に社内で共有する文化が根付いています。メンバーが自発的に勉強会を開いたり、学んだことを資料にまとめて共有したりといった光景は日常的です。

― キャリアチェンジで入社される方もいらっしゃるとのことですが、そういった方々もスムーズに馴染めるものですか?

梅田 そうですね。私自身も同様の経験がありますが、異業種からIT業界へ、あるいはAIエンジニアへとキャリアを大きく転換したいという意欲を持って入社するメンバーは少なくありません。

入社当初は不安もあるかと思いますが、当社にはそうした方を受け入れ、支援する風土があります。そのため、キャリアチェンジされた方でも疎外感を感じることなく、自然と楽しみながら学習に取り組めるような環境が整っています。

社員同士のコミュニケーションも活発です。プロジェクトで直接的な接点がないメンバー同士でも、勉強会や社内イベントを通じて自然な交流が生まれています。 「いつの間にあの2人は親しくなったのだろう」と感じることも多いくらいです。

― グリッド社にはどのような考え方を持つ方々が集まっているのでしょうか。

梅田 メンバーに共通して感じられるのは、「何かを本気で解決したい」という強い思いや、課題に向き合う熱意です。技術的なスキルや経験以上に、そうした課題解決への意欲や、入社後も継続して学び続けられるポテンシャルを大切にしています。

現に、これまでのキャリアを大きく転換してでも、AI技術で社会課題の解決に貢献したいという高い学習意欲を持つ人材が多く集まっていますね。そして、会社もその意欲を後押ししてくれます。

以前、私が「多方面に関心がある」と経営陣に伝えた際には、「あなたがやりたいと表明したことは、基本的にすべて挑戦してかまわない」と言ってもらえました。もちろん、そこには相応の責任が伴いますが、会社としては機会も資金も提供するから、存分に力を発揮してほしいと考えています。

― 最後に、梅田さんの今後の展望を教えてください。

梅田 全体のバランスを見ながらですが、その時々で興味を引かれたことに積極的に挑戦していきたいです。

技術面では、現在の大学院での学びを基盤に、知識の幅をさらに広げつつ、特定のテーマについて専門性を深く追求したいと思っています。

ビジネスや経営の観点では、CTOとして会社運営や事業成長への理解を深めたいという思いがあります。将来的にはPhD取得や、経営に関する知識の習得など、いろいろなことにチャレンジしたいです。また、海外で働くことにも関心を持っています。

ですが、当面の目標としては、まず現在籍を置いている大学院を修了することですね。

取材・執筆:河原崎 亜矢

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