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文化の狭間で、組織の「現実」を書き換える試行錯誤

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東京ガスiネット株式会社 / DXスペシャリスト部 兼 オープンインフラユニット

村山 領

本記事では、2026年2月26日に開催されたオンラインイベント「技術選定を突き詰める Online Conference ――逆境を乗り越える意思決定プロセス」内のセッション「文化の狭間で、組織の『現実』を書き換える試行錯誤」の内容をお届けします。

同セッションでは、東京ガスiネット株式会社の村山 領さんが登壇。エンタープライズ企業における技術選定の難しさを構造的に紐解きながら、価値につながる技術選定を現場で成立させるためのチームづくりや、可観測性を軸にした具体的な取り組みについてお話いただきました。


村山:今回は、「文化の狭間で組織の現実を書き換える試行錯誤」というテーマでお話しします。

私は2009年に東京ガスiネット株式会社へ入社し、以来インフラ系のエンジニアとして仕事をしてきました。得意な領域はアジャイルや可観測性で、最近は生成AIの領域もキャッチアップしています。アジャイルやDevOps、プロダクト思考のアプローチが好きで、課題にこだわって価値を出したいと考えています。

東京ガスiネット株式会社は、2024年からグループ本社の1部門という位置付けになりました。以前よりも、グループ全体のITを引っ張っていく役割が明確になったと感じています。ただし、組織図を変えただけで文化や慣習が急に変わるわけではありません。まだまだ逆境の最中にあるというのが正直なところです。

私にとって技術選定とは、解決したい課題とチームの状況を踏まえ、価値に向かうための意思決定です。価値を起点にしなければ、どれほど優れた技術でも価値につながらないことがあります。エンタープライズ企業の中では、価値を軸に意思決定をすること自体が難しい場合もあります。それでも、価値を軸に意思決定できるチームを作ることは諦めたくありません。

今日は、そのために現場で何を考え、どう動いてきたのかをお話しします。

価値を軸にした技術選定はなぜ難しいのか

まず、価値という言葉の定義をお伝えします。私は、「価値とは誰かの課題を解決すること」だと考えています。

価値の定義

誰かの痛みや困りごとがあり、それに対して解決策がある。その重なった部分が価値です。だからこそ、課題を正しく捉え、その課題に解決策を適用していくことが重要になります。

では、その価値を軸にすることがなぜ難しいのか。根底にあるのは、権限、責任、能力の不一致だと考えています。エンタープライズのITでは、ビジネス上の権限や最終的な責任は事業会社側にあります。しかし、技術的な判断能力が事業会社側に十分に蓄積されていないケースは珍しくありません。IT専門人材ではない方も多く、責任も重く、学習の余力も確保しづらい。さらに急な異動もあるので、構造的に難しい状況が生まれやすいのだと思います。

権限・責任・能力の不一致が生むもの

こうした構造の中では、発注側は技術判断の負荷を避けたいと考えやすくなります。その結果、技術的な妥当性よりも、社内説明のしやすさや監査耐性が優先されやすくなります。契約でそれを担保したいので、役割や成果物を厳密に定義したくなる。さらにフェーズ分割をして、リスクを管理しやすくしたくなるわけです。

権限・責任・能力の不一致が生むもの

受注側もまた、技術的能力があっても仕様決定権や事業責任を持てないので、どうしても相手に合わせる方向へ寄りやすくなります。契約遵守が最優先になり、スコープ外を明確にしないと仕事が回らない。不確実性を含む価値追求型の提案が、合理的ではなくなってしまいます。

このような状況では、現場でいびつなことが起こります。たとえば開発側がCIパイプラインや自動テストを整備しても、維持管理担当から不要だと言われることがあります。インフラ側がTerraformで環境整備をしても、運用へ渡す段階で手順書を求められ、コード自体は使われないこともあります。

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