皆さんこんにちは。株式会社ログラスの佐藤(@Yuiitoto)と申します。今回「大AI時代で輝くために今こそドメインにディープダイブしよう」というテーマでお話します。
ログラスはクラウド経営管理システムを開発している会社で、「いい経営を作ろう。」というミッションを掲げています。組織としては、現在は全体として約200名ほどの規模で、そのうちエンジニアが約50名在籍しています。
AIエージェントとエンジニアの必要性
早速ですが、今回は「AI時代のエンジニアキャリア」ということで、AIエージェントの登場により「エンジニアもいらなくなるのか?」という話について少し掘り下げてみたいと思います。
O'Reillyが語る「The End of Programming as We Know It」
O'Reillyの「The End of Programming as We Know It」では”今私たちが知っている形のプログラミングが終わる”という話が出てきたり、XなどSNSでも「ソフトウェア会社はなくなる」といった極端な意見なども聞かれます。
ただ、私はこれはあくまで**“現在の形”でのプログラミングが終わるというだけで、エンジニアの存在自体が消えるわけではない**、と思っています。昔はアセンブリ言語で書いていたけれど、今はRubyなど別の言語で書くように、時代や技術によって手法は常に変わっています。今回のAI時代もその進化の一環で「エンジニアは今後も必要だけど変わっていかないといけないよね」ということかと捉えています。
AIエージェントとは
AIエージェントは定義としては「AIを活用し特定のタスクやサービスを自律的に実行するシステム」です。要はゴールを設定し、そのゴールを達成するまでトライアンドエラーを繰り返してくれることが強みになります。
例えば、AIエージェントに複数のファイルを読み込ませて、そのファイル群で処理を共通化しリファクタリングしたりと、、エンジニアが対応してほしい部分を自動で作り込んでくれます。
おもしろかったのは「コンパイルが通るまでやってね」と命令できる点です。コンパイルエラーやテストの失敗があれば自動で修正し続けてくれて、Cursorではインテグレーションテストで使うルールを設定しておけば、会社独自の書き方に沿ってテストデータや検証も行ってくれます。
今日までのAIエージェントの進化
AIエージェントの誕生前の話としては、ChatGPTやGitHub Copilotなどが挙げられます。この二つは「何か聞いたら答えてくれる」、「コードをサジェストしてくれる」などやり取りが同期的であり、自分が知らない間にタスクを進めてくれるという存在ではありませんでした。(現在はGitHub Copilotにもエージェント機能は存在します。)
ただ昨年からはCursorのエージェントモードが登場し、「コンパイルが通るまで」とか「テストコードが通るまで」といった、もう少し大きなタスクを任せられるようになりました。5〜10分くらいの作業をAIが勝手に回してくれるというのは、かなり革新的だと感じています。
さらに最近のDevinのようなAIツールだと、もう少し長いスパンで任せられるようになりつつあります。 将来的にはこの5分という時間がどんどん伸びていき、1〜2日や、1週間規模にもAIが対応する可能性があるかもしれません。
今後のAIとエンジニアの役割
今後、AIがより長いタスクに対応するようになると、Devinなどがさらに高機能化していくでしょう。加えて、AIが複数同時に働く「AIネイティブなチーム」に、人間が少数で参加するような形も考えられます。
そうなってくると、エンジニアの役割は**「AIが動く環境や要件を整え、より高次の意思決定や戦略的思考を担うこと」**にシフトしていくのかなと感じています。
いずれにしても、エンジニアが完全に不要になるわけではなく、むしろAIを活用しつつ自分自身も進化させる必要がある、ということです。
ログラスのAI活用状況
そんななかログラスにおけるAIツールの活用状況もお伝えすると、ログラスではCursorとDevinの2つのAIエージェントを活用して、エンジニア全員にCursorをビジネスプランで配布しています。現状、特定のプロジェクトでは、30~50%のコードを常にAIが生成していて、だいたい4~5人で組んだチームが2~3人でも回るようになったという肌感があります。
活用方法として、私自身がやっているのは、リポジトリを2つクローンしてタスクを並行して走らせるという方法です。
別リポジトリを用意して2つのチケットを同時に進めるようにしていて、1つは難しい実装を自分とペアプロしつつ、もう1つはシンプルなリファクタリングをAIに任せるイメージです。
さらにもう1つの方法として、細かいチケットを2つをAIに任せて、自分が仕様策定に専念するケースも試しています。
1人で3人分のパワーが出せる時代になってきたのは、正直すごいことだと感じています。
4象限で比較する、エンジニアの役割とAIの限界
AIエージェントの限界と人間エンジニアの役割
ここまで、AIエージェントの活用についてお伝えしてきましたが、ただ「AIエージェントってすごいんだね」という話だけでなく、その限界と人間エンジニアの役割についても考えたいところです。
実際に使ってみてわかったのは、AIはオープンな情報がないと解決が難しいという点です。手元で必要な情報をすべて把握できる“完全情報ゲーム”ならどれだけ複雑でもいずれ解けるようになるかもしれませんが、非公開データや暗黙知が絡む問題には人間の手が欠かせません。
オープンとクローズドの違い
例えば、難しいけど情報がオープンな場合。
数千万レコードの数値を1秒以内に集計するのはかなり高度な処理ですが、キャッシュを使うとか、別の手法で計算するなど、方法論は色々あります。ゴールさえはっきりしていれば、AIが解決策を見つけやすい問題になります。
一方で不得意なのは、難しいかつ情報がクローズドな場合。
売上が数兆円規模の消費財メーカーで「最適な経営管理をどう実現するか?」という問いがあるとしても、今の経営管理の実態がわからないと、AIはゴールを設定することすら難しくなります。訪問してヒアリングしないと得られないような情報があると、AIだけでは解けません。
ここから考えると、問題を縦軸にオープン/クローズド、横軸に簡単/複雑を取った4象限に問題を分類することができます。現状、「オープン×簡単」な問題ならAIで完結できると思います。たとえばテトリスを作るとか簡単なRPGを作るというのは、X(旧Twitter)などでも話題です。
では2~3年後どうなるかというと、「オープン×複雑」と「クローズド×簡単」な問題は、エンジニアの出番が少なくなる可能性があると予想しています。情報がオープンでさえあれば、どれだけ複雑でもAIが自己学習して進めてしまうかもしれませんし、クローズドでも簡単な問題であれば、仕様をしっかりまとめてAIに渡せばスムーズに進められるかもしれないです。
クローズド×複雑領域の難しさ
しかし「クローズド×複雑」な問題に関しては、少なくとも今後10年ほどはエンジニアが必要だと思っています。アクセスしづらいドメインの知識や細かい技術要件など、両方を深く理解して実装に落とし込む領域です。
例えば「Excelを取り込む機能」を考える場合でも、「どんなExcelを想定するのか」「ピボットテーブルやグラフは含むのか」「データ量はどのぐらいか」「ユーザーの運用フローはどうなっているか」など、実際にユーザーが抱える業務やユースケースに即した要件をまとめないと使いづらい機能になってしまいます。全てのケースに対応し、汎用的にデータを取り込もうとするなら設定項目が多くなり、かえって使い勝手が悪くなります。
加えて、事業×プロダクト戦略という時間軸の要素もあります。「大企業の導入が今後増えそうだから将来を見越した実装にしよう」とか、「この機能は半年後にこういう価値を持たせる予定」など、ロードマップを踏まえた決定はクローズドな情報が多いです。ユーザーの市場情報や社内戦略をわかっていないと、そもそもプロンプトの方向性をAIに指示できないという難しさがあります。
クローズド×複雑な領域で活躍できるエンジニアは、AI時代で一つのロールモデルになる
つまり、こうしたクローズドで複雑な領域で活躍できるエンジニアこそ、AI時代において重要なロールモデルになるということです。具体例としては、ユーザーへのヒアリングを直接行う、商談動画を分析してドメインモデリングを組み立てる、業務フローを理解して適切に設計へ落とし込む。そういったスキルを持ったエンジニアです。
深いビジネス理解と高い技術力が必要になるため、BtoB SaaSの現場なら、お客様のところに訪問して要件を整理し、会社に戻ったらすぐ実装まで落とし込める人材は、今後10年は間違いなく求められ続けると自分は感じています。
ログラスはクローズドで複雑な領域に挑戦できる会社です。エンジニアも積極募集中です。興味のある方はぜひお話しましょう。[1]
-
本記事は、2025年3月18日に開催されたイベントの内容を元に編集した記事です ↩