コンテキストスイッチを減らすために、3児の母エンジニアが辿り着いた“やらないこと”のトップ画像

コンテキストスイッチを減らすために、3児の母エンジニアが辿り着いた“やらないこと”

投稿日時:
神谷 優のアイコン

株式会社サイバーエージェント / AIドリブン推進室 マネージャー

神谷 優

Xアカウントリンク

「もっと成果を出さなきゃ」「スキルを増やさなきゃ」。そんな焦りに押され、やることを積み重ねていないでしょうか?けれど、本当に働き方を変えるのは“足し算”ではなく、“引き算”かもしれません。この企画では、エンジニアたちがあえてやめたことと、その後に訪れた変化をたどります。ムダをそぎ落とした先に残る、本当に大切な仕事や自分らしい働き方とは。誰かの“やらない選択”が、あなたの次の一歩を軽くし、前向きに進むヒントになりますように。


こんにちは。神谷(@_yukamiya)です。現在は株式会社サイバーエージェントにて、新設されたばかりのAIドリブン推進室にてマネージャーとして所属する傍ら、小学生から保育園児まで3人の子育てをしています。また仕事とプライベートの中間に属するPodcast『momit.fm』のホストをはじめとしたサイドプロジェクトも複数持っています。

周囲からは「いったいどうやって両立しているのか」とよく聞かれますが、結論、両立はして(できて)いません。

本稿では、「やらないこと」の他に、「仕事とプライベートのドメインを融合させることで時間を捻出し全方位でパフォーマンスを発揮する」アプローチをご紹介いたします。

今の私のスタイルをつくった、「ドメインを融合させる」という考え方

私は日頃から仕事とプライベートのコンテキストスイッチをなるべく発生させないようにするためドメイン知識を融合させるようにしています。
例えば、業務知識の習得に3時間、子育てや自己学習にまつわる知見の習得に3時間かかるとします。単純計算でトータル6時間かかるわけですが、それぞれの習得時間の仮に1時間を両者に役立つ知識習得に充てることで重複が発生しトータル5時間で済ませる、という考えです。
ドメインを融合させるという考え方.png

では、実際に著者がやってきた具体的な方法をご紹介します。

時間が足りない。だから“学びを融合できる”部署へ移動した

私は第一子の出産から第二子の復帰にかけて、音楽配信サービスの開発チームに所属していました。チームメンバーにも恵まれ業務も刺激的で面白かったのですが、一つ課題がありました。技術的な実装以前にストリーミング技術や音源フォーマットなど、音楽配信サービス特有のドメイン知識を新たに習得する必要があったのです。可処分時間を多く取れた産前であれば喜んで勉強していたであろう新たな知識ですが、未就学児2人を抱えてのフルタイム勤務、ただでさえ業務で成果を出さないとと焦っていたため、なかなか勉強時間を捻出できない。どう考えても物理的に時間が足りませんでした。

そこで、せっかく時間をかけて新たな知識を習得するのであればプライベートでも役立つものにしたいと考え、子ども向けプログラミング学習サービスを展開する部署へ社内異動をしました。

異動先の部署では、子どもがプログラミングを最初に学習する際の選択肢であるScratchなどビジュアルプログラミングの知見を得た上で、開発したりサービスを展開したりしました。もともと興味のあった分野ということもあり、業務とプライベートとのコンテキストスイッチが大幅に減りました。

また副次的な効果として、自分ごととして業務を遂行することができ、結果的にモチベーション高く取り組むことができました。

学習の時間が取れないので、日常そのものを“英語化”した

端末の設定やAIと対話する際のプロンプトは基本的に英語にしています。これはもちろん学習のためというのが大きいですが、急な英語でのミーティングや海外旅行の際に億劫にならない効果も期待しています。

産前はオンライン英会話を長い事やっていたのですが、AI時代になり人間の代わりにAIと会話する時間が圧倒的に長くなりました。相手がAIなので気兼ねなく誤った文法で話せるし、音声入力も抵抗がないです。そうやって時間もお金も節約し、プラスアルファの学習時間を取らなくても良いようにしています。

またこちらも副次的な効果として、「神谷さん確か英語いけるよね」と声がかかり、機械翻訳サービスを用いたコンテンツ翻訳の業務を行ったこともあります。外資ではない弊社においては稀有な機会、かつ技術的なスキルアップにも繋がりまさに個人でも勉強したいことが業務でも取り組めた事例となりました。

人前で話すのが苦手だった私が、Podcast配信のおかげで“話せる私”に

「子育てをテクノロジーでハッピーに」をコンセプトにしたPodcast『momit.fm』を元インフラエンジニアの先輩と長年ゆるりと続けています。

もともとはWomen TechmakersというグローバルなWomenTechコミュニティのAmbassadorを務めていたこともあり、「IT業界に女性エンジニアが少なくロールモデルが極めて少ない問題」解決の一助として、ある種の使命感を持って始めたものでした。何より私自身Podcastが大好きで長い育休中はずっとTech系Podcastを聴いており、身近なおしゃべりを聴けるメディアとして重宝していたことも大きいです。

そんなPodcast配信ですが、編集・配信コストも馬鹿にはなりません。これが業務でもプライベートでも関係のない活動であれば続かなかったでしょう。しかしPodcast配信もまた、大いに業務に繋がっています。
一番の効果は、自分の考えを話すことが億劫ではなくなったということです。元来人前で話すことが苦手な性分にも関わらず、徐々に登壇の機会が増えていた時期でした。年次的にもマネージャー業務が増え、開発だけやっていたら良いわけにもいかなくなっていました。笑

今ではIT技術を育児に適用するための試行錯誤や、ハマっているAI活用など、肩ひじ張らずに検証中のものも含め自分の考えを筋道立てて話すトレーニングの場となっています。

こちらもまた副次的には、イベントやカンファレンスで「Podcast聴いてます」と話しかけてくれる方がいたり、Podcastホスト同士のイベントで繋がりがあったりと、ネットワーキングにも役立っています。

AIが、仕事とプライベートの流れをひとつにしてくれた

ChatGPTの出現を皮切りに民主化された生成AIですが、プロダクティビティ厨でもある私にとってAI活用は私の生活と相性が良いことを一瞬で察し、そこからAI活用の虜となりました。

仕事においても一丁目一番地の注力分野であり、またプライベートにおいても大活躍しています。例えば、子どもの宿題サポート用のチャットボットを作ってみたり、請求書処理などちょっとしたワークフロー自動化スクリプトを書くにも要件さえ指示すれば良くなったことで開発時間は大幅に削減。久々に開いたGASのメンテなども億劫ではなくなりました。

さらにPodcast配信にまつわるワークフローも、AIエージェントをフル活用し、書き起こしから記事生成など自動化を行っています。

仕事でもAI活用についてよく熱弁しているうちに、気がついたらAIドリブン推進室というまさにAI開発ど真ん中の部署に異動となり立ち上げをしている最中です。笑

物理的に時間もない中すべてをこなし、社会人生活も折り返し地点である現在、好きなことを仕事にする姿勢は貫き通していきたいと思っている今日このごろです。

上記のように、仕事とプライベートの境界を作らず全方位で無駄なく楽しむことで、QOLも向上しているように感じます。

とはいえ、テーマの本筋でもある”やめたこと”、”減らしたこと”も考えてみればいくつかあります。

やめたこと1:“自分で全部やらなきゃ”という思い込みを捨て、認知負荷の高いタスクは適切に配分するようにした

例えば、引き継いだ社内システムの定期診断があるとします。以前の私であれば、依頼されたことに対し「できないとは言えない、自分でやらなきゃ。」というマインドセットでした。

ところがある程度の経験を培ったいま、「そもそも該当システムの仕様把握を経た上で依頼されたタスクについての判断を行う」という認知負荷が高く時間も持っていかれるタスクについては「これは本当に自分がやるべき案件なのか?それとも他のメンバーに任せたほうが組織全体として効率的ではないか?」を精査するようになりました。

やめたこと2:“細切れにミーティングを詰め込む”のをやめ、集中できる時間を確保するようにした

エンジニア職においてキャリアアップ、スキルアップのためには自己学習が欠かせません。私としてはインプットの時間をかなり重視しているため、子どものお迎えといったタイムリミットがある中、”集中できる時間の確保”は死活問題です。

ミーティングが細切れに入っていると、当然その合間の時間では集中した作業ができません。可能な限りミーティングを寄せたり棚卸ししたりして、まとまった時間を捻出しインプットや集中力を伴うタスクに充てるように意識しています。

ドメインを融合させることで、人生の境界が軽くなっていった

仕事とプライベートを「別々のもの」として捉え、それぞれに時間を割り当てようとすると、どうしても時間が足りず何かを妥協せざるを得なくなります。しかし、同じスキルや知識が両者に役立つ領域を見つけ、そこに集中することで、投下した時間以上のリターンを得ることができると考えています。何より無駄なく効率的に人生を進めることで充実感も得られます。

AI活用、プログラミング教育、英語学習、情報発信——これらはすべて、仕事でもプライベートでも価値を生み出すスキルです。

もちろん、この方法が万人に当てはまるわけではありません。私の場合は、たまたま興味のある分野と仕事の領域が重なり、それを実現できる環境があったという幸運もあります。

それでも、「仕事とプライベートを分ける」という固定観念を一度疑ってみることは、誰にとっても意味があるのではないでしょうか。境界をなくすことで、もしかしたら新しい可能性が見えてくるかもしれません。