AI時代の新たな職種として注目を集める、Forward Deployed Engineer(FDE)。国内でもFDEを募集する企業は増えつつありますが、その実態はまだ広く知られていません。顧客の最前線に入り込み、AIの社会実装に向けたラストワンマイルを埋めるFDEは、何を考え、どのように課題解決に向き合っているのでしょうか。
本連載「FDEの走り書き」では、不確実性の高い現場を走る当事者たちの、今だからこそ語れる試行錯誤を追います。初回は、日本におけるFDEの先駆者ともいえる株式会社LayerX Ai Workforce事業部 プロダクト部 Forward Deployed Engineer 恩田壮恭さんに話を伺いました。
「Ai Workforce」とは
「Ai Workforce」とは、LayerXが開発・提供するエンタープライズ企業に特化したAIプラットフォームです。企業固有の知識や業務ノウハウを学習し、企業の中で“AIが働く”環境を実現します。
> 「Ai Workforce」サービスサイト(https://getaiworkforce.com)
FDEの認知をつくるため、求人票に魂を込めた
― 貴社は2025年7月からFDEのJobDescription(求人票。以下、JD)を公開され、日本でFDEを広めた第一人者でいらっしゃいます。まだ知られていなかったFDEという職種名を打ち出した、当時のお考えを聞かせてください。
実は「Ai Workforce」の祖業にあたるブロックチェーン事業を推進していた2020年頃から、FDEモデルを生み出した米Palantir社を参考にしており、「私たちはブロックチェーン版Palantirになる」というような宣言までしていました。その頃から私の仕事はFDEだと自認していましたが、国内でのFDEの知名度があまりにも低かったので「FDEと言っても誰も応募してくれない」と考えて「AIワークフローエンジニア」や「LLMエンジニア」という名称を使っていました。
しかしある時から「流行っていないなら、自分たちで流行らせるくらいの気合いが必要なのでは?」という話になり、FDEのJDを公開したという経緯です。それと同時にLayerXのPodcastや、外部のYoutubeやPodcastなどに出演させてもらい、FDEについて発信する機会をつくってきました。*
JDを公開した当初はVC界隈で少し話題になり、それから徐々にSIやコンサル、技術顧問など、お客さまの課題を技術で解決することに誇りを持っている方々の口から「自分がやっている仕事ってFDEかも」という声を聞く機会が増えてきた印象です。
― この1年で着実に認知が広まり、エンジニアやコンサルからの関心も高まっています。認知拡大にあたって、特に気を使ったことはありましたか?
私たちが考えるFDEモデルが正しく伝わるよう、JDは魂を込めて書き上げました。
というのも、2024年9月に当時PalantirのGlobal Head of CommercialであるTed Mabrey氏が『Sorry, that isn't an FDE』という記事を出したんです。これはFDEを安易に模倣する他社を批判する内容だったのですが、私たちも同じだとは思われたくなかった。
代表CTOの松本からは「早く出そう」と言われたのですが、「出すならちゃんと出したい」と伝えて、2週間くらいかけてじっくり検討しました。
> LayerX Ai Workforce事業部 FDE JDを見る
「Ai Workforce」FDEの強みは、自社で磨くプラットフォーム
― 国内でもFDEを募集する企業が増えてきましたが、会社によってFDEの定義や求められる役割に違いがあるようです。Ai Workforce事業部におけるFDEとはどのような存在でしょうか?
Ai Workforce事業部におけるFDEは、「Ai Workforce」の本番稼働やデリバリーに技術的な責任を持ちながら、お客さまの重要なビジネス課題を解決していく存在です。
プロジェクトでは、案件の初期段階からDeployment Strategist(DS)と一緒に参画し、二人三脚で進めていくケースが中心になります。役割としては重なる部分もありますが、DSがas is分析やto be設計、業務フローの分解、プロジェクト全体の設計など、コンサルティングやプロジェクトマネジメントに近い領域を担う一方で、FDEはAIワークフローやエージェントの構築、LLMのアルゴリズムのチューニング、精度評価といった、よりエンジニアリングに近い領域から課題解決を支えます。またプロジェクトの過程で発生するAi Workforce自体の機能開発も自ら行っていきます。
FDEの業務内容は多岐にわたりますが、仕事の肝となるのは「お客さまの事業価値を最も引き上げることができる、イシューを見抜くこと」です。お客さまの業務のどこを変えれば価値につながるのか、どのようにLLMを使えば本質的な改善ができるのかを見極めることこそが、お客さまへの一番の価値貢献であり事業の根幹を担っています。
― なるほど、恩田さんがよくFDEを「社外CTO」のようだとおっしゃっていることと合点がいきました。では、他社にはない貴社のFDEの強みは何だと思いますか?
やはり「Ai Workforce」というプラットフォームプロダクトを持っていることです。私たちの主要顧客は金融や商社など日本を代表する大手企業なのですが、こうしたエンタープライズ企業には特有の要求があります。
例えばアクセス権限の設計は必須ですし、SharePointやBoxといったストレージサービスとのシステム連携や、Word / Excelへのエクスポート機能などは、どのお客さまも必要になる機能です。
「Ai Workforce」はこうしたAIで課題を解く前に必要となる機能をプラットフォームに備えています。SIerであればこれらも含めてフルスクラッチで開発するので年単位のプロジェクトになりますが、私たちはそれをショートカットしてお客さま独自の課題を解くところに取り掛かることができる。FDEの役割をエンパワーしてくれるプラットフォームを、FDE自らがつくっていることが最大の強みです。
― こうした強みを活かせた成功事例を教えてください。
「Ai Workforce リースソリューション」はその象徴的な事例です。リース企業さまのユースケースを汎用化させ、ソリューションとしてプラットフォームに実装しております。資産管理業務に特化したAIワークフローをあらかじめ構築してあるので、同業種の企業さまは「Ai Workforce」の導入後、自社に即した細かな部分の設定をするだけですぐに利用を開始することができます。
> 「Ai Workforce リースソリューション」(Ai Workforce 公式サイト)
― なるほど。汎用可能なワークフローを持つことで、スケールしやすいビジネスモデルになっているのですね。逆に課題や伸び代は、どんなところにありますか?
「Ai Workforce」はまだリリースから2年ほどのプロダクトですので、まさにこれから育てていくフェーズです。「Ai Workforce リースソリューション」のように、特定の業界・業務に特化したAIワークフローを増やしていくことで、より幅広いユースケースに対応できるプラットフォームへと成熟させていきたいと考えています。
ただしその進化には難しさもあります。というのも、AIやLLMを取り巻く変化のスピードがあまりにも速く、せっかく開発したプロダクト自体が負債になってしまう可能性があるからです。もしそうなってしまったら、プロダクトを壊すこともいとわず、どんどん前を目指す姿勢が必要でしょう。
今はまだ、世の中全体が「LLMをどう使えば価値になるのか」を試行錯誤している段階です。しかし、その答えが定まってからシステム化していては遅い。コモディティ化した解決策には、高い使用料が支払われることはないからです。だからこそFDEは、誰よりも早く、多く動き、まだ世の中が気づいていないイシューとその解き方を見つけ出し、それをいち早くプロダクトへ実装しようとしているのです。
事業成長のために、時にはプロダクト開発に専念する
― 恩田さんは直近の3カ月間、「Ai Workforce」自体の開発を主務としていると伺いました。FDEであっても、お客さまに対峙せず、プロダクト開発に専念する期間があるんですね。
基本的にはお客さまの案件にアサインされるのですが、今開発中の機能は事業成長に直結すると判断したので専念することにしました。
私のようにプラットフォーム開発にかかりきりになることはまれですが、お客様のプロジェクトでプロダクトに必要な機能を見つけたら、自分でつくってプルリクまであげる。そうした動きはAi Workfoce事業部のFDEに求められています。
― FDEは多様な役回りがあるのですね。恩田さんご自身としては、お客さまに向き合うこととプロダクトを磨くこと、どちらがお好きですか?
縦軸に「できること・できないこと」、横軸に「やりたいこと・やりたくないこと」をとった時に、私は原点でいたいと思っています。主観ではなく、事業の成長につながるか、お客さまのためになるかを判断基準に、優先順位をつけて取り組みたいと考えるようになりました。
これは入社以来、約6年間をかけて身につけた価値観です。最近では客観性を大事にするあまり笑顔が少ないと噂されているようですが(笑)、頭の中は常にシンプルになりました。

― 事業戦略とFDEとして注力していることを教えてください。
事業戦略としてはよりお客さまの基幹事業や重要な業務に入り込み、より大きな価値を出すことを掲げています。年に数回しか発生しない業務と、事業の中核を担う業務では、改善後のインパクトが大きく異なるからです。事業の売上にもつながりますし、私たちFDEがやりたいこととも一致します。FDEが価値ある課題を発見し、解くべきテーマを定めること自体が、Ai Workforce事業の根幹を形づくっているのです。
また個人的には、LLMを高精度かつ安定的に活用するためのエンジニアリングの向上に注力したいと考えています。今はAIワークフローで自動化していても、最終的に人の確認が必要になるケースはまだ多く存在しています。
例えば、テックブログを書かせても意図しない文脈を含んでいたり、見積書の読み取りでは枠の点線をカンマと読み間違えて正確に数値を読み取れなかったりなど、まだ人の目が必要なシーンが多い。LLMは確率的な挙動を示すコンポーネントであるのですが、それを自動制御したりリトライ制御しておくことで決定論的に扱えるようにするエンジニアリングが必要です。技術を駆使してLLMの精度の揺らぎを最大限に抑えることで、エンタープライズ企業の間違いが許されない業務でも信頼して活用できる領域を増やしていきたいと考えています。
― こうしたエンジニアリング技術の研鑽はどのように行っていますか?
やはり案件に入って、実際の事例に出会うことが一番大事です。
正直にお話しすると、これまでの案件において、思うように課題を突破できなかったケースもあります。しかし、こうした解ききれなかった課題は、プロダクトの発展のためにR&Dチームが再チャレンジしているんです。それほどに生きたイシューからは学ぶことが多い。
一方で解決できた事例については特許を取得する、特許戦略も行っています。知財チーム曰く、今、特許出願件数は非常に増えているそうなのですが、特許登録で最も重視されるのは、どんな課題を解決したのかという、課題の具体性やリアリティなのだと言います。
実績を築き上げ「LayerXのFDE」をブランドにする

― 今後ますますFDEモデルを取り入れる企業が増えていくと思います。恩田さんの目線で、日本におけるFDEの現状をどのように捉えていらっしゃいますか?
多くの方に関心を持ってもらえたことはとても嬉しいです。ただ少し心配しているのは、求職者の立場に立った時に「転職したけど、思っていたのと違った」ということが起こりやすいのではないか、ということです。
例えばFDEのJDで、プラットフォームエンジニアリングと、ソリューションアーキテクト、そしてソフトウェアエンジニアリング、この3つの役割を並行して担うというポジションだとしても、状況によってはどれかに偏ってしまうことはありえます。私が直近3カ月間、プラットフォームエンジニアリングに従事している状況もこれに当てはまりますが、こうした偏りがご本人の意図しないところだと、入社後のギャップにつながりやすい。
また当社の場合は、FDEが自ら開発してプルリクまで上げることを良しとしていますが、機能要望としてPdMにパスするという業務分担をとっている会社もあるはずです。
つまり求職者の皆さんにお伝えしたいのは、JDのタイトルだけで判断せず、面接でのすり合わせをより慎重になさってください、ということです。
今、FDEはみんなの夢の箱で、各社が理想を押し込んでいます。しかし、そのうちに類型化されてくるでしょう。そうなった時に「LayerXのFDEは他と違う」というブランディングを固めていきたい。そのためには実績が伴わないといけないので、今はとにかく行動量を増やし、名実ともに「LayerXのFDEブランド」を育てていきたいです。
― 最後にFDEに関心を持っている方に向けて、メッセージをお願いします。
AI・LLMによって働く環境が変化し、キャリアの見直しをされる方も増えていると感じています。最近では、クラウドベンダーやコンサルティングファームにお勤めの方、技術顧問のような役回りのフリーランスの方などからご応募いただいております。
当社のFDEとして働く魅力としては大きく2つです。自社でプラットフォームを持っているので、機能要望を上げるだけでなく、自分たちで開発ができる手触り感があること。そして、価値のあるイシューを見つけるという、AI・LLMに代替されない普遍的なスキルが磨けることです。
さまざまなバックグラウンドのあるチームで、支え合いながら成長していきたいと考えています。キャリアを広げていきたい方は、ぜひお声がけいただければと思います。
LayerXではFDEを募集中です
LayerXではFDEを募集しています。関心のある方は、以下の求人票をチェック「いいかも」を押して、関心を伝えてみましょう。
※1:参考リンク
LayerX 公式 Pod Cast|Forward Deployed Engineer (FDE) って何?AI時代の重要ポジションを徹底紹介【 cipe ×nrryuya 】(2025年)
LayerXエンジニアブログ|FDE募集開始から半年の振り返りと2026年の展望(2025年)
LayerX 公式 YouTube|【実は誤解だらけ?】業界注目の新職種FDEについてSIerとの違いから開発事情までギモンにお答えします/Forward Deployed Engineer/LayerX(2026年)
恩田 壮恭さん( @cipepser )
株式会社LayerX Ai Workforce事業部 プロダクト部 Forward Deployed Engineer
過去には大手証券会社で機関投資家および一般投資家向けの証券システムの開発や、暗号資産分野で新規事業の立ち上げに従事。LayerXではエンジニアとして秘密計算や差分プライバシーを用いたAnonifyの開発に貢献。Ai Workforce事業部では、FDEとしてLLMプロダクトAi Workforceの基盤開発や導入を担当

