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クラスターとREALITYエンジニアが語る、メタバース業界のキャリアと今後の将来性

世界的に大きな注目を集めている「メタバース」。 日本でも大手通信会社や家電メーカーがメタバース事業に参入するなど、盛り上がりを見せています。 今回はクラスターの倉井さん、REALITYの増住さんをお招きし、clusterのメタバース空間でイベントを開催しました。 メタバースエンジニアになる方法をお伺いした際には、お二人とも「特別なスキルは必要ない」と回答。イベント参加者から届いた、技術に関する質問にも答えてくださいました。

本稿では、イベントの中で語られたメタバースエンジニアに必要なもの、今後のメタバースに関する考察についてまとめています。

■パネリスト
倉井 龍太郎さん クラスター エンジニアリングマネージャー
北海道大学大学院でコンピュータサイエンスを専攻後、株式会社はてなに新卒入社。 ソフトウェアエンジニアとして経験を積んだ後、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)にて研究員として勤める。その後、金融系スタートアップにてCTOとしてチームを掌管。2021年1月よりクラスターに入社。

増住 啓吾さん REALITY エンジニアリングマネージャー
2017年にGlossom株式会社に入社し、iOS/Android向けアプリの開発やデータ分析基盤の構築、広告ログ集計システムの開発・運用などに従事したのち、グリーグループ内公募制度を利用し2019年にREALITY株式会社にジョイン。 REALITYではiOSアプリの開発や、ライブ配信・ビデオチャットのリアルタイム通信基盤の構築などを担当。

メタバースとは「UGCが流通して経済圏が成立」している世界

──まずはクラスター、REALITYが考える「メタバース」についてお話いただけますか。

倉井さん:クラスターでは「メタバースはフィジカルとデジタルが逆転した人類の生活スタイル」だと考えています。

クラスターのビジョンは「バーチャル経済圏のインフラを作る」です。好きな場所から自由な姿(アバター)で参加し、双方向のコミュニケーションが可能で、ユーザー・ジェネレイテッド・コンテンツ(以下:UGC)が流通している世界。そこで暮らしてそこで稼ぎ、そこで生活することができる世界こそがメタバースだと思っています。

増住さん:メタバースについては、業界としての統一解釈は存在していません。その上で、REALITYは「リアルタイムアバターコミュニケーション」「ユーザーの手で創造拡張される空間」「クリエイターエコノミー」といった三つでメタバースを定義しています。

一つ目の「リアルタイムアバターコミュニケーション」は、別の体(アバター)を通してのコミュニケーションですね。音声や身振り手振りでリアルタイムコミュニケーションができるのは、メタバースの特徴だと言えるのではないでしょうか。

──なるほど。残り2点についてもお話いただけますか。

増住さん:「ユーザーの手で創造拡張される空間」と「クリエイターエコノミー」は、倉井さんのお話と共通している部分です。前者は、UGCを意味しています。要は、プラットフォーム側が作ったコンテンツだけではなく、ユーザーが世界を広げていくことができる空間です。

後者は、現実世界と交換性のある経済圏が成立している世界を意味しています。

REALITYではこれら三つの要素を満たしているものがメタバースだと考え、それを実現するべく開発を進めています。

メタバースエンジニアに必要なものは特別なスキルではなく「モチベーション」

──お二人はどのような経緯でメタバースエンジニアになられたのですか?

増住さん:関わっていたサービスがクローズした際に、タイミングよくREALITYのメンバーから声をかけていただいたことがきっかけです。メタバースエンジニアになろうと思っていたわけではなく、気がづいたらなっていたという感覚ですね(笑)。

倉井さん:私はクラスターにジョインする前に、「cluster」のワールドを作ったことがありました。コロナ禍でおうち時間が増えたため、興味本位で初めてUnityをインストールしてワールドを作ったのです。苦労して作ったワールドをアップロードすると、知らない人が入ってきた。その場で会話が成立した時は、非常に嬉しかったですね。いずれメタバースが日常に浸透する世界がくると確信を持ったため、クラスターに応募しました。

ジョインしたばかりの頃はUnity初心者で、Webフロントエンドの知識があるくらいでした。そのため、最初はWebフロントエンドの開発に携わりながら、ユーザーの行動分析や可視化といったデータ分析を担当。次第にマネジメントもするようになり、徐々にやれることを増やしていったというイメージですね。

──メタバースエンジニアになるために、必要な技術はありますか?

倉井さん:メタバースは現実にあるものをバーチャルな空間で再現しようとしているものです。そのため、メタバースに特化したものがあるのではなく、あらゆるIT技術が必要だと考えています。

「cluster」を例に出すとすれば、現在皆さんが集まっている空間はUnityをベースに開発しています。clusterはiOS/Androidアプリ、VRデバイス、PCとクロスプラットフォームでサービスを提供中です。つまりは、Unityエンジニア、ネイティブアプリエンジニア、Webフロントエンジニア、サーバーエンジニアなど、さまざまなスキルを持ったエンジニアが在籍しています。研究所もあるため、機械学習が得意なエンジニアもいますね。音声の精度を向上するため、音響に詳しいエンジニアも活躍しています。

増住さん:私も倉井さんと同意見です。

「REALITY」はSwiftやKotlinで実装したiOS/Androidアプリがあり、その中でUnityによる3D空間も展開されています。また、それに伴いアプリと通信するサーバアプリケーションはGoやNode.jsで実装されており、Kubernatesクラスタの上で動いています。

こうして見ると、一般的なアプリと大差ないですよね。

──例えば、フロントエンジニアやサーバーエンジニアからメタバースエンジニアになるために、しておいた方が良いことはあるのでしょうか?

倉井さん:特には思い当たりません。内部的な管理やUGC、ワールドの管理にはWebが便利ですし、クラスターでもWebエンジニアが活躍していますよ。

アプリやWeb、Unityの空間の中から来たリクエストを捌く、サーバーエンジニアもいます。「cluster」の場合、WebはGo言語で開発しているため、そこに知見のある方であれば、技術の障壁はありません。

──チームメンバーのバックグラウンドもお伺いしたいです。

増住さん:REALITYはグリーグループですので、スマホゲームやWebゲームを開発していたエンジニアが多いですね。WebサービスやVRを開発していた人は1~2割でしょうか。私含め、広告系出身のエンジニアもいますよ。ただ、これはあくまで一例であり、会社によってさまざまだと思います。

──なるほど。メタバースエンジニアに転職する際、年齢的な制限があるのかどうか気になります。

倉井さん:本人のモチベーション次第なのではないでしょうか。クラスターには40歳を超えてから転職されてきた方もいらっしゃいます。メタバースは発展途上の業界ですし、専門性の高いエンジニアは多くありません。他業種からの転職も可能だと思います。

メタバース発展の鍵は、全プラットフォームにおけるアバターの共通化

──参加者からいただいた質問にもお答えいただきたいです。一つ目は「Unityで開発したメタバースアプリを、ネイティブアプリではなくWebに載せてブラウザベースアプリにするのは厳しいのでしょうか?」といった質問です。

倉井さん:UnityはWebGLでの出力も対応しているのである程度は可能だと思います。しかし、クラスターでは技術や事業の検討をした結果、現時点でやるのは適切ではないという判断をしています。

──「メタバースエンジニアになるためには、UnityとUnreal Engineのどちらを勉強するのがいいのでしょうか?」といった質問も来ています。

増住さん:私見ではありますが、メタバースの要素の一つであるUGC方向に発展がしやすいという点においては、Unityがオススメです。ただ、どちらも利点がありますので、言い切ることは難しいですね。

──「アバターを全てのプラットフォームで共通化することはできるのでしょうか?」という質問もいただいています。

増住さん:答えはYESです。むしろ、これが実現できなければメタバースの発展はありえません。

全てのプラットフォームで共通のアバターが使えるということは、同じ価値を共有できるということです。現実世界ではお金の価値を共有できているからこそ、円とドルを交換できる。

メタバースも同様で、アバターの価値を共有できなければ、経済圏として成立しないのではないでしょうか。

──「メタバース空間が普及していくと、人と人のコミュニケーション、関係性はどのように変化するのでしょうか?」という面白い質問もきていますね。

倉井さん:二つほど考えていることがあります。

一つは、アバターが“その人そのもの”として認識される世界。対人関係において、アバターが本人のアイデンティティとして認識されるようになる可能性もありますよね。

もう一つは、距離の概念が変わるのではないかということ。現実世界では「遠距離のコミュニケーションは大変だ」とよく言われますが、メタバース空間では実際の肉体がある場所は関係ありません。極端にいえば、地球の裏側にいる人とも気軽に会話ができるようになるのです。現時点でもチャットやSNSを通して全世界の人とやり取りすることはできますが、オフラインと同質のコミュニケーションを取るのは難しいでしょう。しかし、メタバースが浸透すれば、オフラインよりも“密なコミュニケーション”ができる可能性もある。幼い頃に見たSFストーリーのような世界が、現実のものになる日が来るかもしれませんね。

「UGCが普及する場」「なりたい自分で生きる社会」の実現を目指し、メタバースの開発は続く

──メタバースエンジニアの需要は、今後増えていくのでしょうか?

増住さん:メタバースは資本が集まってきていて、世界的にも注目を集めている分野です。30年先のことはわかりませんが、この先6~10年は加速的に伸びていくと考えています。

倉井さん:つい先日、クラスターのEMで「社内のエンジニアが2~3倍に増えた場合、どのようなタスクが増えるのか」をシミュレーションしました。結果、増えたとしてもエンジニアの数が全く足りていないことが判明したのです。実現したいけれどできてないことが大量にありますし、メタバースエンジニアはもっと必要だと思っています。あくまでクラスターとしての意見ではありますが、メタバースエンジニアの需要は増えていくのではないでしょうか。

──最後に「クラスターとREALITYが実現していきたいメタバース」についてお話しいただけますか。

倉井さん:UGCが普及する場を作っていきたいと考えています。

Webの初期には「UGCをみんなで楽しむ→流通する→バズる」といった現象を多く目の当たりにしてきました。少し前には某大手動画サイトから多くのクリエイターやアーティストが誕生しましたよね。「cluster」内からも有名なクリエイターが生まれたり、新たな職業が生まれたりすると面白いなと。実際に「cluster」のなかでお金を稼いでいる人は、既に存在しているのですよ。

より多くの方に「cluster」を使っていただけるように、豊かな表現ができるプラットフォームを目指したいと考えています。

増住さん:REALITYの最終目的は「なりたい自分で生きられる社会を作る」ことです。現実世界では複数のSNSアカウントがあり、それぞれにキャラクターを使い分けている人も珍しくありませんよね。アイコンや話し方、ユーザーネームも異なるかもしれない。そう考えると、精神面では既に「複数の自分」が存在している。あとは肉体だけだと思うのです。

メタバースなら、なりたい自分をアバターとして表現することができます。現実世界よりもデジタル空間の方がデザインの自由度が高いですし、より「なりたい自分」に近づけるのではないでしょうか。

とはいえ、現実世界を捨てるわけではなく、生活する世界は複数あっても良い。いくつかのキャラクターを使い分けているように、肉体も使い分ける時代が来るのかもしれません。メタバースを通して、そんな世界を実現したいですね。