Findy Engineer Lab

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日本とアメリカでエンジニアの違いは?現地のリアルな情報やキャリアの実情を聞いてみた

新型コロナウイルスの影響により、海外に在留する日本人は減少傾向にあります。(参考:外務省「海外在留邦人数調査統計」)とはいえ、現在も海外で活躍している日本人エンジニアが数多く存在しているのも事実。「いつか海外で働いてみたい」と考えているエンジニアも少なくないのではないでしょうか。

ファインディでは、海外で働くことや、海外の案件に興味があるエンジニアを対象に「アメリカで働くエンジニアのグローバルキャリア論 vol.3」と題したイベントを開催。

Metaの坂田さんとPlayStationのバスケさんに、渡米の経緯や現地での苦労話、夢を叶えるために必要なことをお伺いしました。

パネリスト
坂田 真さん/ @sakatam
Meta Software Engineer

大学在学中にウェブプログラミングを独習。フリーター、SES企業、リクルートRCO、国内外スタートアップでの勤務を経て2016年にFacebook (現Meta) に入社。翌2017年シリコンバレー本社に転籍。2021年より南カリフォルニアでフルリモート勤務。

バスケさん/ @basuke
PlayStation Software Engineer

フリーランスのプログラマーとして活躍したあと、スタートアップに参加、起業してWebサービス「関心空間」を開発。2011年に渡米し、Marvell Technology GroupでIoT向けのJavaScript実装に携わる。レイオフをきっかけに転職し、現在はSony Interactive Entertainment (PlayStation)に在籍。

アメリカで活躍するエンジニアの共通点は、自らチャンスを掴みにいく姿勢

──渡米するに至った経緯をお話いただけますか。

坂田さん:アメリカで働くことを真剣に考え出したのは、30代に差し掛かった時です。アメリカとの接点を作るため、まずはじめに取り組んだのは、日本支社がある米国スタートアップへの転職でした。しかし、数年間働いたものの渡米はできなかったため、次はアメリカへの進出を目指している日本のスタートアップに転職しました。結果として、そこでも夢は叶わずじまいで。どうしようかと悩んでいた時、タイミングよくFacebookのリクルーターからお声がけいただいたんです。「これはチャンスだ」と思い、Facebookに入社しました。

入社後しばらくは日本支社で働いていて、本社にいる上司に「アメリカに行きたい」と猛アピールしていました。すると、入社して1年ほど経った時に本社のポジションに空きが出たんです。アメリカにいきたいとアピールし続けた効果なのか、上司からお声がかかり、2017年に渡米することになりました。渡米を計画してから実際にアメリカに行くまで、8〜9年ほどかかりましたね。

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──ありがとうございます。バスケさんのお話もお聞かせください。

バスケさん:僕は自身が開発したWebサービス「関心空間」をクローズした際、今後のキャリアについて悩んでいました。その時点で既に40歳を超えていたため、日本でエンジニアをするという考えがなかったんですよ。なぜなら、当時の日本ではエンジニアのキャリアが確立されておらず、選択肢が少なかったからです。また自分にはビジネスの才能がないと思っていたため、再び起業することは考えていませんでした。

そういった背景がある中で今後のキャリアを考えていた時に、東日本大震災が発生して……。震災を経験したことによって自分のやりたいことが明確になり、エンジニアとして再スタートすることを決めました。その際、エンジニアリングに集中できる環境が欲しいと思い、自分の中で渡米する案が浮上したんです。というのも、過去に1年間ほどアメリカにいたことがあり、現地に知人がいたんですよ。妻も渡米に賛成してくれたため、アメリカにいる友人に声をかけてみたところ「自分が働いている会社で募集が出ているから来る?」と言われて。その友人は、元AppleのエンジニアでQuickTimeを開発した方なんです。優秀な彼の下で働けるということに魅力を感じ、渡米することにしました。

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英語を理解するには苦労もある。技術面では日本もアメリカも大差なし?

──アメリカで働く上で、苦労されたことはありますか?

坂田さん:やはり英語は大変です。渡米前に外資系企業で4年ほど働いていたこともあり、ある程度は話せるようになっていたんですが、現地はレベルが違います。特に電話会議は音質が悪いため全く聞き取れず、何を言っているのかわからなくて、いつも泣きそうになっていました(笑)。録音した音声を会議後に書き起こして確認するといった作業も大変でしたね。

──現在は書き起こしアプリの精度が上がっていますが、昔はそういったツールもなく、大変でしたよね。

バスケさん:僕も渡米前から少しは英語が話せていましたが、スーパーなどでの会話もおぼつかないレベルで、仕事では会話を聞き取るだけで精一杯でしたね。渡米してから10年以上経ちましたが、会話のキャッチボールについていけているのかどうか、未だに判断できません。完璧に把握することは難しいですし、わかるところだけかいつまんで理解しようと割り切るまでは大変ですね。

──技術面において苦労されたことはありますか?

坂田さん:私は技術的に尖っているわけではなく、ジェネラリスト寄りのエンジニアだと思います。その上で、日本で培った技術はアメリカでも活かせていますね。一般的な知識があれば、アメリカでも通用すると思います。

バスケさん:僕も技術面での苦労は感じていませんね。渡米前から自分の技術力に自信がありましたし、アメリカに来てからも周りに負けていると思ったことはありません。日本の技術は、アメリカでも通用するのではないでしょうか。実際に、僕がここ10年で一番すごいと思ったエンジニアは、PlayStationの東京オフィスで働いている方です。表舞台には出ていなくとも、優秀なエンジニアは日本にも大勢いらっしゃると思いますよ。技術トレンドの移り変わりの速さについても、日本とアメリカで大きな差はないように感じます。

──なるほど。日本とアメリカ、それぞれの国で働くエンジニアには、どういった違いがあるのでしょう?

バスケさん:アメリカ人はコミュニケーションスキルが圧倒的に優れています。コミュニケーションスキルとは、単純な会話能力だけでなく、相手にどう伝わったかを理解しながら話していく能力ですね。個人差があるとはいえ、アメリカ人は自分の意見を周囲に発信する力があり、プレゼンテーションにも強いです。

坂田さん:報酬の面でも大きく異なりますよね。日本と比べてアメリカは物価が高いものの、それを踏まえた上で給与水準が高い。アメリカのIT業界は常に人手不足で売り手市場が続いており、自ずと報酬も上がっているといった状況ですね。

また日本ではハードワークと聞くと、長時間労働などを想像することが多いと思うのですが、アメリカではそういったことはありません。

──アメリカでは、役職が上がるにつれ労働時間が長くなるイメージです。

坂田さん:あくまで個人の感想ですが、必ずしもそうであるとは言えないと思います。ただアメリカの場合はアウトプットを期待されるため、心理的プレッシャーはありますね。そのためアメリカでハードワークと聞くと、心理的プレッシャーが高い仕事だというイメージです。また役職が上がるほど、アウトプットのハードルは上がっていきます。ただ働く時間の長さとアウトプットの質には関連がないですし、アメリカでは長時間労働をしている方はあまり多くない印象ですね。

バスケさん:企業によって異なるとは思いますが、日本と比べて働き方の自由度も高いですよね。以前夜中の12時過ぎに仕事のコメントをした際、上司から「きちんと寝なさい」と言われたことがあります。企業文化として、健全な働き方をするという意識が根付いているのでしょうね。

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英語を克服するコツは、完璧を求めずにコミュニケーションを取ること

──ここからは参加者から届いた質問にお答えいただきます。まずは「アメリカではどれほど尖ったスキルが求められますか?」という質問です。

バスケさん:スペシャリストは国に関係なく求められますね。一方でジェネラリストも必要とされていますし、コミュニケーションスキルと幅広い知識を持っておくことが重要なのではないでしょうか。技術トレンドは日々変化しているので、勉強し続けることが大切です。

坂田さん:幅広い知識を持っている人もいれば、特定の領域に尖っている人もいる。スペシャリストといえど、尖り方は人それぞれですね。アメリカでは立場が上になるにつれ、何かのスペシャリストでありながら、他のエリアにも詳しい人が多いように思います。

──英語のトレーニングはされていますか?

バスケさん:特別なことはしていませんが、いかに楽しく英語を覚えるかというのは意識するようにしています。ただ一つ伝えたいのは「英語を完全に理解する必要はない」ということです。日本人は、英語がわからないことを気にしすぎている人が多いように感じます。わからなければ正直に伝えればいいですし、自分の解釈が合っているか不安なら確認すればいい。大切なのはコミュニケーションを取ることです。

坂田さん:確認作業は大切ですよね。トレーニングでいうと、私は文章力に課題を感じているため、社内にある“良い文章”を積極的に読んで参考にするようにしています。

──ビザで困ったことはありますか?

バスケさん:僕の場合はビザよりグリーンカードの取得が大変でした。取得するまでに5年間かかりましたね。ビザについては、一般的な企業でのH-1Bの取得は不可能に近いのではないでしょうか。大企業であればスムーズに取得できるとは思います。

──Ph.D.の方はやはり重宝されるのでしょうか?

坂田さん:重宝されます。専門分野と言ってもさまざまなものがあると思いますが、需要と供給がマッチした際には、学位がない方と比べて報酬が跳ね上がります。ビザについても学位がある方が有利だと思いますね。

──アメリカに進出している日本のスタートアップと、日本支社のあるアメリカのスタートアップでは、どちらの方がおすすめでしょうか?

坂田さん:日本にエンジニアリングオフィスがある米系企業は、片手で数えられるくらいなのではないでしょうか。

バスケさん:どちらがいいかは判断しかねますが、ビザのことを考えるのであれば、大手企業がおすすめです。

──アメリカでのリモート事情を教えてください。

バスケさん:PlayStationはチームによりますが、フルリモートは続いています。

坂田さん:私のチームではカナダやイギリスからフルリモートしているメンバーもいますね。規模に関係なくリモートワークを推進している企業が増えていますし、国境を超えて働くケースが今後増える可能性はあると思います。

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自分の技術に自信を持ち、挑戦し続ければ道は開ける

──今後のキャリアの方向性、リタイア後の計画があればお話いただけますか。

坂田さん:長期的なキャリアについては、あまり考えていません。これまでも、目の前の興味があることに挑戦してきました。言えることがあるとすれば、ピープルマネージャーなどのキャリアは目指しておらず、エンジニアを続けていきたいと思っています。

住む場所については、いつか帰国することも考えていますが、できる限りはカリフォルニアにいたいですね。サーフィンが趣味で、家から30分ほど車で走ったところにいい波のスポットがあるため、今の環境を気に入っているんですよ。足腰が立たなくなるまでは、アメリカに住み続けたいです。

──バスケさんはいかがですか?

バスケさん:僕は現在子育て中ですし、子どもが大学に入学するまではアメリカに住み続ける予定です。子どもが大学に入学した後のキャリアについては想像もつきませんが、リタイアは考えていません。アメリカで子育てをする以上、お金の心配は常につきまといますし、働き続けるでしょうね。子育てが落ち着いたら、お金に縛られず好きなプログラミングができる環境を作りたいです。

──お二人とも仕事も私生活も充実されているのだなと感じました。最後にメッセージをお願いします。

坂田さん:ビザの取得は年々厳しくなっていると言われており、言語の面でも大変なことが多くありますが、その分挑戦しがいがあります。興味がある方は、ぜひチャレンジしてみてください。

バスケさん:まずは自分の技術力に自信を持って欲しいですね。頑張って続けていれば、何かしらの技術が身につくはずです。壁にぶつかることもあるかもしれませんが、その時は再度勉強すればいい。大事なことは、自主性と自信を持つことだと思います。

──坂田さん、バスケさん、本日は貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました!