150種類を超える読書法を試したエンジニアが教える“読書がうまくなるコツ” 苦手な人は「読む前」と「読んだ後」を意識しよう

娯楽にも自己研鑽にも役立つ読書。次々に新しい言語や仕様を覚えなければならないエンジニアにとって、本から知識やノウハウを身につけることは必要不可欠と言ってもよいのでは。

しかし、読書が重要視されるわりには“読書のやり方”を教わる機会が少ないのもまた事実です。いざ本を買ってみても、「どう読み進めたらいいの?」「もっといい読み方があるのでは」と悩むこともしばしば。

エンジニアとして金融関連のプロダクト開発に従事した後、現在はアジャイルコーチとして働いているaki.mさんはそんな読書の難しさと向き合って数多くの読書方法を試み、スクラムの初心者からエキスパート、ユーザー企業から開発企業が集まる「Scrum Fest Osaka 2022」で発表しています。

speakerdeck.com

約150種類の読書方法を実践し、そのうちの50種類を記載したスライド(2022年発表)はなんと200枚超の大ボリューム! また、2024年には「時間が取れない」「読んでも記憶に定着しない」といった悩みに応じて、おすすめの対策方法を紹介していくスタイルでの発表を行っています。

speakerdeck.com

「読書が上手になりたくて、自分で色々と試行錯誤した」と語るaki.mさん。その過程や読書法を深堀りしてみたい!

ということで今回は、aki.mさんに膨大な読書方法を試行錯誤することにした理由や効果的な読書の仕方を追求して変わったこと、実際に役立つノウハウを伺いました。

なぜ読書法を試行錯誤するようになったのか

――読書法を研究するようになったきっかけはなんだったのでしょうか。

元々私は学生時代はまったく本を読んでおらず、読書が得意なわけではありませんでした。読書のやり方といってもみんながしているように「本の頭から最後まで通読する」という方法しか知らなかったんですけど、きょんさんという方が書かれた読書法についての記事を読んでこんな方法があるんだと知ったのがきっかけでした。

記事には飛ばし飛ばしで読んでもいいから全体をつかむといったものや、本の内容を身につけるための振り返りの方法などが書かれていました。それで「本って頭からシンプルに読まなくてもいいんだ」と強烈なインパクトを受けたんです。記事のやり方を試してみたら、今まで数十ページで止めていた本が読めるようになって、そこから読書が好きになっていろいろ読書法を試すようになりました。

――確かに、本の読み方って通読以外には教わらないですからね。

読書のプロセスを変えるだけで得られる結果も変わるのが非常におもしろくて。そこからは、技術書や自己啓発本、語学書、専門書などを中心に読書しています。

あとはアジャイルの考え方を、読書のプロセスに当てはめて実験してみるという意味合いもありました。

たとえばスプリントを読書で試すのと、ウォーターフォールモデルでやるのではどう変わるのかといった検証ですね。プランニングして読み方を1時間単位で計画してみて「どう読むか」「どこから読むと価値が最大化されるのか」ということを考えながら読書をしています。

読み終えたあとは「YOW」という振り返りのフレームワークを使って、自分が本を読んで学んだことや、読書の精度を評価しつつ、「読書が上手くいったか」「上手くいかなかったのはなぜか」ということを検証してまた次の読書に活かすようにしています。

speakerdeck.com

――なるほど。発表された読書法の数々は、aki.mさんが読書で得られる価値を最大化するために試行錯誤されてきた軌跡というわけですね。

そういうことですね。読書記録もしっかりつけています。

感想のほか、本のページ数や読み進める速度、どれくらい内容が自分の頭に入ったかなどを記録して、次の本を読むときに再現性を出せるように心がけています。何の記録もなく読みっぱなしだと、何がどう作用して本が読めているのか、読書が上達しているのかがわからないままです。「読書が上手になる」とはどういうことなのか、メカニズムを考えて読書をしていますね。現在も検証を続けているところです。

――感想メモを残す人は多いですが、スピードやアプローチ方法などここまで詳細な読書記録を付けられているとはすごい……。

やはりエンジニアは技術の入門書だけでも何十冊になったりと、とにかく読書量が多い職業だと思います。「この技術について知るならあの技術も知らなければいけない」というようにねずみ算式に読まなければならない本が増えていきます。そのため、いかに効率よく、効果的にノウハウを習得するかがことさら重要です。

読書法を試し始めた最初の頃は「本をたくさん読めばいい」という考え方が自分のベースにあって1年間で230冊ほど読んでいました。今は数以外に読書の質にもウェイトを置いているのでペースは落ちましたが、効果的に読書ができているなと感じます。

――読書法を研究して効果的に本を読むようになってから、仕事にどのような変化がありましたか?

仕事のやり方は変わりましたね。以前は自分の経験だけを大事にして、次に周りの方の意見を聞いてという形だったんですけど、今はまず本を読んで「教科書的にはどう進めるか、何から考えていくか」を意識するようになりました。自分の経験や知識も本を読むことで体系化して考えられるようになり、うまくいく理由を明確にすることができるようになったかなと。

それに誰かにアドバイスするときも読書が役立ちましたね。今までは自分の経験を元に話していたところを、きちんと論拠を示して再現性を持って伝えられることが多くなりました。後輩との1on1をやることも多かったんですが、「なんとなくの経験でやっていたことを説得力を持って整理してくれるから助かる」と言ってもらえることも多かったです。そこは大きく変わったところですね。

読書法を比較して感じた「写経」の効果の高さ

――さまざまな読書法を試されてきたaki.mさんですが、今自分にフィットしているなと感じる読書法はなんでしょうか。

これはみんなに真似してとは言わないんですが、僕的には「写経」が合っているなと感じました。文字通り、本の文章を全部書き出すことですね。

元々僕は読書の目標を多読にしていて、数多くの本を読もうとしていたんです。だから知らず知らずに癖がついてしまったのか、自分の中で意味のあると感じた情報を固まりにして、自分が思い込んだ形で処理するといった読み方をしてしまうようになりました。

それゆえけっこう読み飛ばしも多くなってしまって。入門書やビジネス書ならまだそれでいいかもしれませんが、技術書だと内容を追いきれず段階を経るごとにもうわけがわからなくなってしまいます。その状態で本の内容を振り返ろうとしても不完全ですし、自分の知っている情報で理解しようとするけど、実は本の意図とは違っているということが起こります。

その点、写経だと文章を書き写す過程でじっくり内容を理解できますし、コンテキストも頭に入りやすくなります。時間はかかるけど本を丁寧に読み込めるんです。基本的に最初から写経しますが、理解が難しい箇所を個別に写経することもあります。

――写経して、本の内容を身体化していくというか。

そうですね。結果的に読み返しも減るので、早く内容を理解することができます。

一時期、1回目は目次だけ読んで、2回目は自分の知らなそうなところだけ読んで、3回目は通読するという読書法を試していたこともあったんですが、合計すると1回丁寧に写経したほうが早くて理解度も高かったんです。僕は情報の記録をスクリプトで加工して役立てたいので、写経すると物理の本をデータベース化して取り出せるようになるのも大きな利点でした。

ただ、全部の本を写経するわけではなく、「今の自分のレベルからジャンプアップして読まなければいけない本」などある程度条件を満たしたものに限っています。写経が今の自分のベストというわけでもありませんし、状況に応じて変わっていくものだと考えています。写経を誰かに強く薦めようとも思わないですし、読書法に正解はないので、それぞれにフィットした心地よい方法で読書をしてほしいなと思います。

初心者は「読む前の準備」と「読んだ後の振り返り」が大切

――読書に苦手意識を持つ人に基本的な読書法のアドバイスをするとしたらどのような方法をおすすめしますか?

ひとえに読書法と言っても、本を読むだけではなく読む前の心構えや読書環境を整えるのも読書法の一部です。ですので、「読む前」「読んだ後」の2つの観点からアドバイスできればと思います。

――「読む前」はどのような準備をしたらいいでしょうか。

本を読む前に、自分の中で問いを用意しておくといいかと思います。そうすると理解度が高まりますし、その問いの答えを探す形で本を読むので、情報の検索の速度が速くなって得られる学びもわかりやすくなります。「本は全部読まなければいけない」と思って読書から遠ざかっている方はまず問いを立てるとスムーズになるかと思います。

あとは読書をするためのコンディションを整えておくことも大事ですね。疲れてヘトヘトになっている状態では内容も頭に入りにくいです。しっかり体力を整えて、万全の状態で臨みましょう。お気に入りのカフェで読んだり、何かお菓子などを用意して食べながら読んだりと、自分が好ましい読書環境を作ることもおすすめします。

――「読んだ後」はどうでしょう。

読み終えた後はしっかり内容の振り返りをすることが肝心です。読書の目的は一冊の本を読み切ることではなく、内容を理解することにあるためです。

「YOW」の仮説検証のプロセスに従って、読んだ本の内容と、そこから学んだことを記録してフィードバックするとさらに理解度も高まります。具体的には、MRYYさんの記事を参考に、原因と結果と原因が結果を起こすメカニズムという3つを出せるだけ出してみています。

そうすると、自分の理解度が浅いということや、実は本自体の内容が薄かったということもわかるので、より読書やそもそもの本選びが上達すると思います。

――ただ漫然と読書をするのではなく、読む前の準備と読んだ後の振り返りを意識するとより読書の価値を最大化できますね。

その他、誰かと一緒に読むのも効果的だと思います。テーマを決めて同僚や友人と輪読したり、読書会に参加したりするのもいいでしょう。

これから試したいこと

――他のインプット方法に比べ、本を読んで学習することの利点はどんなところにあると感じますか?

自分で考える時間が増えるのは本の非常に良いところだと思いますね。

たとえば誰かと勉強会に行って話を聞いても、その話が今の自分にどれだけ有効だったのかをすぐに評価することは難しいです。その点、本だとひとりで考える時間をゆっくり取ることができますし、自分のペースで学びを深めることができます。紙も電子もありますが、ここは好みでいいかもしれません。

――最後に、aki.mさんが今後チャレンジしたいことや目標があれば教えてください。

現在は人が学習していくプロセスや、いかにして効率的な学習をするかに興味があります。学んだことをどう知識として現場に適用するかなど、その精度を読書という形で上げられるように今後も模索していきたいですね。現在は生成AIを使った読書法を試しています。

今後も読書法について研究していくつもりですし、その中で読書が上手くなる過程も言語化できればという野望があります。もしかしたら研究の過程ですごく効率的な読書方法が生まれるかもしれませんし、最終的に「この読書法がいいですよ」と発表できるようになればいいなと思っています。

――今後の発表が楽しみですね。今回はありがとうございました!

取材執筆:神田匠