将来のキャリアプランを考えた時、技術のスペシャリストを目指すのか、マネジメントに転向するのか悩むエンジニアも少なくありません。加えて、転職してキャリアアップを図るのか、社内でステップアップしていくのか、キャリアを形成していく手段は人それぞれです。
そこでファインディでは、2022年2月8日(火)に「西場氏とばんくし氏が語る、エンジニア転職の今」と題してイベントを開催。エムスリーから転職した西場さんと、ばんくしさんを迎えて、エンジニアのキャリアと転職について語っていただきました。
本稿では、イベント中にお二人から語られたキャリアプランの考え方や転職に至った理由、マネジメントのコツについてまとめています。
パネリスト
西場 正浩さん/@m_nishiba
Sansan株式会社 VPoE / 技術本部 研究開発部 部長
大手銀行で数理モデル開発に従事。その後医療系IT企業でエンジニアや事業責任者、採用人事などを幅広く務める。
2021年にSansan株式会社へ入社。技術本部研究開発部でマネジメント業務に当たり、現在はVPoEとしてエンジニア組織の整備と強化を担う。
ばんくしさん/@vaaaaanquish
CADDi株式会社 AI Lab Tech Lead
Sansan、Yahoo! JAPAN、エムスリーにて機械学習エンジニアや機械学習チームのチームリーダーを勤めた後、2021年11月CADDi株式会社にジョイン、AI Lab Tech LeadとしてAI Lab立ち上げに従事。
エムスリー エンジニアリングフェロー、Bolder'sアルゴリズムエンジニア。
趣味ではLightGBMなど機械学習に関連するOSSのメンテナ、コミッターとして活動。休日は1歳になる娘と遊ぶ日々。
転職のきっかけは「新しいチャレンジ」に対する熱い思い
ー転職のきっかけについて、ばんくしさんから教えてください。
ばんくし「ずっと開発に注力していたんですが、エムスリーに入社してからキャリアの方向性が変わりました。それまでもプロジェクトマネジメントは経験していたんですが、西場さんと壁打ちや1on1を続ける中で、プロダクトや事業全体を見るようになったんですね。当時のキャディではAI系ビジネスをまだ持っておらず、これから注力していくフェーズでした。エムスリーで広がった視野を活かし、チームの立ち上げや機械学習のテックリードに挑戦したいと思ったため、転職をしました。」
ー西場さんはいかがですか?
西場「辞めるということは決めていました。エムスリーのメンバーが成長していて、私がいなくても現場がうまく回るようになっていましたから。私が抜けた方がメンバーに責任のあるポジションを任せられますし、より強いチームにできると思ったんです。
そこで『辞める』とツイートしたら、100社ぐらいからお声がけいただきまして。40社ぐらいとカジュアル面談しました。最終的にSansanを選んだのは、CTOの藤倉さんと以前から知り合いで、何より急成長している会社だからです。グローバルに挑戦しようとしていると聞いて、私もそこに加勢する形で入社しました。」
ー会社での経験や人との出会いがきっかけでキャリアアップしたり、新しいチャレンジに繋がっていったんですね。
「周囲からの期待」と「自分のやりたいこと」。どちらを重視するかはケースバイケース
ー家庭の事情や条件面など、キャリアを考える上で悩んだことはありますか?
西場「機械学習エンジニアになりたくてエムスリーに入社したため、マネジメント業務が増え始めた時はとても悩みました。
結果として、今はほとんどコードを書いていません。マネジメントに専念しようと思ったきっかけは、後戻りができない状況だと判断したからです。エンジニアという評価軸では、私はどこにも受からないかもしれない。マネジメントだからこそ、評価していただいていると思っています。決して悲観的な考えではなく、マネジメントを通して自分の視野が広がっていますし、面白い仕事ですよ。」
ばんくし「エンジニア人生で一番悩んだのは、キャディへ転職するかどうかです。最初はキャディの技術に興味があり、簡単なカジュアル面談をしていただきました。しかし実際に入社するまでには、1年ほどのタイムラグがあるんです。
なぜかというと、キャディに行って技術を追求するか、エムスリーでマネジメントを極めるか、二択で悩んでいたからです。しかし、ある方に『お金などの問題が解消した段階で本当にやりたいことは何?』と聞かれて、答えが出せました。私は自分が最も望んでいる『技術の追求』を実現するため、キャディに転職することを選んだんです。」
ーお二人共悩んだ結果、ばんくしさんはやりたいことを貫き技術を選び、西場さんは周囲に求められるものを極めてマネジメントに転向されたのですね。公私やお金のバランスについて何か変化はありましたでしょうか?
ばんくし「以前は年収を重視していましたが、子どもが生まれてからは生活にフォーカスするようになりましたね。」
ーライフスタイルの変化は大きいですよね。西場さんはいかがですか?
西場「私は転職する際も本来の希望額より低く伝えたり、自分の価値を低く見積もったりはしないようにしています。相場よりも低い数字を受け入れてしまったら、転職市場の歪みにも繋がりますから。 例えば自分が所属している会社で、上司の給与が低いのであれば、メンバーの給与がそれ以上になることはあまりないんですよね。メンバーの給与を上げるためには、上に立つ人間が給与交渉をして、トップラインを上げなくてはいけません。
外資系のテック企業と比べ、日本のエンジニアの給与相場は高いとは言えません。しかし、他国ができているのであれば、日本の企業も今以上の給与を払えるはず。給与については、今後もシビアに交渉していきたいと考えています。」
成長を促す一番のポイントは「本気でぶつかり合える相手」を見つけること
ーエムスリーではマネジメントする側、される側だったお二人ですが、当時の経験が現職で活きている部分はありますか?
ばんくし「一番思い出に残っているのは、西場さんと毎日行っていた1on1での壁打ちですね。技術選定や開発の進め方、チーム、ビジネスなど、決められたテーマについてお互いがどう思っているのか、ぶつけ合いをしていました。これはとても体力と精神力を使う行為なんですよ。
ただその時に気づいたのは、こちらが本気でぶつかっていけば、並走してくれる人がいるということ。
そうした経験を通して、自分が西場さんと同じような立場になった時のために、いろいろ準備しておこうと考えるようになりました。キャリアの形成や先を見据えた技術選定などについても、西場さんとの1on1がきっかけでより深く考えられるようになりましたね。」
西場「1on1を通して私自身も勉強になりましたし、精神力も体力もつきました。
また私がマネジメントに専念できたのは、ばんくしさんをはじめとする当時のエンジニアメンバーのおかげなんですよ。自分の開発タスクをメンバーに任せるとなった際、私よりも彼らの方が上手に進めてくれるという状況になりました。そのおかげで、私は新しいことにもチャレンジできたんです。
加えて、優秀なエンジニアは転職市場での価値が高いため、他に面白いプロダクトがあれば退職してしまう恐れもあります。メンバーの退職を防ぐためにも、マネジメント側としては面白い仕事を用意しなくてはいけない。ばんくしさんがいることで、私にはかなりのプレッシャーがかかっていました(笑)。当時の経験は今でも役に立っていますね。」
ー1on1での壁打ちはお二人にとって成長した大きな出来事だったのですね。
ばんくし「自分の成長を促すためには、本気でぶつかり合える人の存在が重要なポイントだと思います。これは西場さんとの1on1を通じて、身を持って感じたことです。
そのため、私はキャディに転職してから、CTOの脇さんやEM、外部役員の方々と1on1をするようにしています。本気で対話する機会を意識的に増やしていますね。」
ー信頼関係を構築してお互いに本気でぶつかり合ったからこそ、双方にとって価値のある経験を生み出すことができたのですね。
場所は違えど、新たなステージに向けて、これからも歩み続ける
ーでは最後に、これからチャレンジしたいことや今後のキャリアの方向性についてお聞かせください。
西場「今後チャレンジしたいことは、Sansanをいかにグローバルカンパニーに変えていくか、その1点です。その上で、雇用が創出できたら楽しそうだなと。
私が博士をやっていた時は『博士では食べていけない』と言われていましたが、そんな世の中を変えていきたいですね。勉強したい人、研究したい人が正当に評価され、かつ楽しく研究できる世の中にしたいですし、そういう場所を作りたい。そのためにも、Sansanをグローバルテックカンパニーに成長させたいと思っています。」
ー熱いビジョンを語っていただきありがとうございます。ばんくしさんはいかがですか?
打倒m_nishibaします #nishivan_findy
— ばんくし (@vaaaaanquish) 2022年2月8日
ばんくし「打倒@m_nishibaですね。キャディではAI Labを立ち上げています。西場さんもエムスリーに入社されてからAIチームを立ち上げていますよね。西場さんがビジネスや技術フロー、技術選定などを考えて、現在のエムスリーAIチームがあります。それを圧倒するスピードで成長することこそが、私個人としてはもちろん、キャディ AI Labの目標でもあります。」
ー貴重なお話をありがとうございました!西場さん、ばんくしさん本日はどうもありがとうございました!
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転職は人生における大きなイベントでもあります。西場さんやばんくしさんのように、自身のやりたいことやキャリアを考慮した上で転職する方は珍しくありません。「転職をどう思うか?」という質問に対しては、お二人とも「ライフステージの変化や会社のフェーズに合わないと感じるのであれば、転職を検討するのもいいと思う」とお話しされていました。
ファインディはこれからも様々な選択や挑戦を応援していきます。