もしもいま、技術広報をイチから学び直すとしたら? 株式会社ヌーラボ Angelaさんに聞く学習ロードマップ

ヌーラボでPRを担当しているAngela (@posi0202)です。PRとして、メディアリレーションなどに挙げられる一般的な社外広報や、社内報の作成、エンゲージメント施策といった社内広報の他、「ソートリーダーシップ」と呼んでいる、ヌーラボ社員のコミュニティ活動や登壇を支援することで「ヌーラボっていい会社だよね!」という評判作りを行う技術広報的なミッションを持っています。

また、プライベートでは、アクセシビリティカンファレンス福岡の運営などにも関わっています。(今年は2024年11月30日(土)の開催です!)

これまでのキャリアの中で、

  • 技術広報:ITエンジニア向けのWebサービスの企画・運営・渉外(Tech Brandingに近いポジション)

  • HR:採用枠の7割以上をエンジニアが占める人事担当(採用、広報、制度、研修)

  • PR:現職

という経験をしている少々稀なキャリアだったりします。

今回は、私がある日突然、ITについて何もわからない社会人1年目の状態まで戻ったとしたら、何から勉強するのか考えてみました。

もし今イチから「技術広報」を学び直すとしたら

これまでの10年以上の社会人経験の中から、「これはやっておいてよかった!」というポイントを思い浮かべながら、社会人1日目の自分へのアドバイスとしたいと思います。

1.テックカンファレンスのスタッフに申し込む

まずは社会人1日目のうちに、テックカンファレンスのボランティアスタッフに申し込みます。できれば、当日の運営ボランティアではなく、準備から長期間関わるものがいいですね。コミュニティの“中の人”になることがポイントです。

これは、1日も早く、テックコミュニティのコミュニケーションの“空気”を体感し、自身も体得したいからです。そのためには、コミュニティの外から観察するのでは足りず、自らが飛び込んでしまうのが良いでしょう。

私自身、2015〜2017年にかけてPyCon JPに運営スタッフとして参加したことで、コミュニティ運営を基礎から教えてもらうことができました。ちなみに、今でこそプロジェクト管理ツールの会社に所属していますが、初めてプロジェクト管理ツールを使ったのもPyCon JPの運営です。また、スポンサーチームに所属していたこともあり、カンファレンスの盛り上がりとスポンサーの利益をどう両立するのか考えながらセッションを企画するのも大変勉強になりました。

コミュニティの中でビジネスをしたい、という気持ちで仕事はしていませんが、コミュニティへの貢献なくして広報活動は成り立たないとも感じます。それならば、まずは自分がその領域に飛び込んでしまい、GIVEをしながら勉強するのが一番の近道だと思います。

至って普通のことではあると思うのですが、現実世界では、この「中に飛び込む」をやらずに、コミュニティの外から糸を垂らして何もせず待つケースって散見されませんか?

  • カンファレンスに登壇するような人材を採用したいと言いながら、自身はカンファレンスに行かない

  • SNSでの発信力が強い人材がほしいと言いながら、自身はSNSを見ない

  • 自社製品についてテックブログを書いてほしいといいながら、自分は書かない

まずは自分がやる。そのためにも自ら運営するのが、周囲を巻き込む上でも納得感がある行動だと思います。

2.「作るもの・作る人・作り方から学ぶ 採用・人事担当者のためのITエンジニアリングの基本がわかる本」を読む

私が社会人になった2012年当時は、IT専門職種以外の人が読むエンジニアリング本はほとんどありませんでした。強いていえば“システムインテグレーターの業界構造がわかる本”のようなものくらい。Webサービス企業の勃興期だった当時は、知識を得るのも大変でした。

その後出版されたのが『作るもの・作る人・作り方から学ぶ 採用・人事担当者のためのITエンジニアリングの基本がわかる本』です。

この本は、「採用・人事担当者のための」という枕詞があるものの、エンジニアと働く全ての人の必読書だと思います。10年近く前、「エンジニア採用担当がプログラミングを学ぶ」がブームになった時期がありました。もちろん、自らプログラムを書いてみることもいいのですが、必要なのは「開発すること」ではなく「開発の全体像を捉えること」ではありませんか?無理にプログラムを書く前に、まずはこの本を10回読みます。

3.他社の求人票 100本ノック

実際に新人時代にやった勉強法です。毎日違う会社の同じ職種を数十枚印刷して隅々まで読み込みました。今では考えられないですが、毎朝出社したら求人を印刷していました(笑)。

例えば、「サーバーサイドエンジニア」「ゲーム業界のエンジニア」「UXデザイナー」「内定辞退された方が選んだ会社(笑)」などとその日の深掘りテーマを決め、複数の会社の求人を同時に見比べるんです。 見比べることで、何が魅力的なキーワードで、何がマイナスに感じる要因なのか、共通項が見えてきます。そうすることで、徐々に自社や自社製品について語る語彙力も自然と上がります。日々の発信は、自社を深く知ること以上に、他社を知っていることが重要なんですよね。

そこでやっと、自社と他社の差別化ができるようになると思います。これも新人時代にやっておいてよかったトレーニングの一つです。

4.業界メディア 1000本ノック

これも私が新人時代にやっていた勉強法です。毎朝、その日にIT系のメディアから発信されたニュースの「タイトル」をRSSリーダーを使って1,000本ほど一気に目を通していました。

当時は人材エージェントでWeb業界専門チームにいたので、顧客に関係しそうなニュースを10〜15本ほどピックアップして、NAVERまとめ(懐)にまとめ、社内配信するという新人らしい仕事を2年間続けていました。

これが広報としての新聞をはじめとしたメディアへの目の通し方を身につけることにつながった気がします。また、X(旧Twitter)を眺めるスピードにつながったかもしれません(つまり、ツイ廃ってことです)。

これらのトレーニングを重ねると、どのレベルまでいける?

昨今はエンジニアはじめIT専門職と一緒に働く場面が、職種問わず増えていると思います。私は営業・渉外、事業企画、人事、広報を経験してきましたが、どの職種でもエンジニアに関わることが多かったこともあり、コミュニティや職種に関する知識は必要不可欠だったと思います。

何かの業務ができるようになるスキルではありませんが、土台となるのは間違いないので、勉強すればいいスタートダッシュが切れるはずです!

ちなみに私のキャリアの中では、これら3つのことを社会人5年目までの時間をかけてやってきました。1年目に詰め込んでおいたらもっと違った人生だったかも…と思ってしまいます。

社会人1年目の思い出は「何がわからないか、わからない」でした。その結果「わからないから、未達なのにやることがない」という、なぜか暇な日々を過ごした時期もあります(笑)。少なくとも、そんな暗黒時代は即刻抜け出せただろうと思います。

お詫び:質より量の勉強法です

最後に、これらの取り組みは全て、「質より量」の取り組みです。近道だと言いながら紹介はしていますが、決して短い距離ではありません。長距離を爆速で走る方法とでも言いましょうか(笑)。近道が知りたかった方はごめんなさい。

最近は職種が専門特化してきています。例えば、昔は「企画」「マーケティング」くらいだった職種名が、細分化されてきており、私の会社だけでも数チームに分かれて仕事をしています。

技術広報という業務は、名前こそ専門特化してそうな雰囲気ですが、実は多様な経験と知識が力になる職種ではないでしょうか。

もし、これから技術広報を目指す方がいたら、技術広報以外の職種の経験も大切にし、強みに変えて欲しいと思っています!