今回は株式会社カケハシのエンジニアリングマネージャーであり、『アジャイルチームによる目標づくりガイドブック』の著者でもあるいくおさんと書簡を交換していきます。テーマは「組織のゴールとチームの自律性を両立させる目標づくり」です。いくおさんは、前職時代からOKRや組織の目標づくりに関する記事や講演などを多く発信されていますよね。私も最近は開発組織全体の目標設定や実行プロセスの検討に取り組んでおり、ぜひ実践的な知見を伺えればと思います。
天野 祐介(あまの ゆうすけ)
週3日サイボウズのスクラムマスター、その他は個人でアジャイルコーチなどしています。東京→仙台移住しました。スクラムフェス仙台実行委員会。すくすくスクラム仙台運営。社内外のチームをお手伝いしながら、最高のプロダクトを作れるチームワークを探求しています。
note:スクラムマスターの頭の中
小田中育生(おだなか いくお、いくお)
株式会社ナビタイムジャパンでVP of Engineeringを務め、2023年10月にエンジニアリングマネージャーとして株式会社カケハシにジョイン。
薬局DXを支えるVertical SaaS「Musubi」をコアプロダクトに位置づけ、「しなやかな医療体験」を実現するべく新規事業のプロダクト開発にコミットしている。
著書:『いちばんやさしいアジャイル開発の教本 』『アジャイルチームによる目標づくりガイドブック』
ブログ:note
良いゴールを設定するのはすごく難しい
From: 天野
まず私の目標づくりに関する意見を表明すると、「ゴール設定スキルはめちゃくちゃ重要だけど良いゴールを設定するのはすごく難しい。だから毎日たくさん実践して練習しよう」と思っています。
この考えは、スクラムマスターとしてチームのスプリントゴールやプロダクトゴールの設定支援を重ねる中で培われました。いくつものチームを支援する過程で、ゴールをうまく設定できるチームとそうでないチームがあり、ゴールに対するチームのスタンスもさまざまであることを実感しました。前向きに取り組むチームでは、スプリントを通じてユーザーに届ける価値について真剣な議論が交わされる一方で、ゴール設定に後ろ向きなチームでは「スプリントゴールを設定してもしなくてもバックログを上から作るだけですよね?」という声に出会うこともありました。
これらの経験から、価値に向き合いゴールを設定し、その達成に全力を尽くすチームと、漫然とプロダクトバックログアイテムを開発するチームとでは、まったく異なる成果が生まれることを学びました。スクラムマスターとして、私は前者のような価値を生み出すチームを実現したいと考えています。そのためには、個々のチームのゴール設定スキルを高めることはもちろん、組織全体としてチームの指針となる目標を見える化し、日々の検査と適応を可能にする仕組みが不可欠だと気づきました。
いくおさんは、これまでどのような思いで目標づくりに向き合ってこられたのでしょうか。
From: 小田中
天野さん、よろしくおねがいします!
私がマネージャーと名のつくロールに就いてから10年以上が経過しているのですが、目標づくり次第でチームが生み出す成果や個人が実現する成長に大きな違いが出てくるという実感があります。
マネージャーとしては自分のチームが、そしてそのチームに所属するメンバーが最大限成果を発揮できる状況をつくることが責務になってきますので、数ある仕事の中でも「目標づくり」が占める優先順位は常に高い位置をキープしています。
天野さんも触れていますが、実はアジャイル実践者、その中でもスクラムを実践している場合、目標づくりというのは身近な存在です。そのプロダクトのゴールは何か、これから取り組んでいくスプリントのゴールはどこにあるのか。スプリントの終端でなっていたい状態を明確に描いてそこに向かっていくのか、ひたすらバックログを上から作っていくのか。スクラム実践者であれば前者を目指していくことになりますが、組織、チームの目標づくりというのも本質的にはこれと同じです。スプリントよりは長い期間が対象になっていきますが。
自分が目標づくりの大切さ、そしてその威力をはっきりと意識したのは、2018年に『Measure What Matters』という書籍と出会ってからです。気後れするくらい高い目標(Objectives)を掲げ、それが達成したことを示す主要成果(Key Results)を設定するOKRについて、実践例を含め詳しく解説された本書は私が自分の組織にOKRを導入するおおきなきっかけを与えてくれました。
当時、自組織の目標づくりで感じていた課題はふたつありました。ひとつが組織の期待と個人の行動にズレが生じてしまうこと、もうひとつが「できる範囲」の目標を設定してしまうため期待を大幅に超えるような目覚ましい成果が出づらいことでした。
Measure What Mattersでは、上位のOKRと下位のOKRで方向性を揃えること(アラインメント)について言及されていました。また、Objectivesについては「達成できるかわからない」くらい高いものを掲げるとよい、とされていました。そして、実際にそのOKRを活用して信じられないような成果をあげてきた企業の事例がいくつも紹介されていました。これは、自分が今感じている目標づくりに対する課題を解決してくれるものになる――。そう直感しました。
OKRの自組織への導入を決めたあとは、対話、フィードバック、承認が適切に行われるよう組織のコミュニケーション設計を行っていきました。いざやってみるとKey Resultsを多く設定しすぎてしまったり、上位のOKRと下位のOKRを接続するのが意外と大変だったりとさまざまな課題が出てきましたが、全体的にはよい手応えが得られました。前年度までと比べてグッと成果が出るようになったのです。
OKRを導入するところまででずいぶん熱量を込めてしまったので、いったんここで天野さんにお話を伺いたいです。「ゴール設定スキルはめちゃくちゃ重要だけど良いゴールを設定するのはすごく難しい」とのことですが、どういった点でそう感じられていますでしょうか?
目標へのオーナーシップを育てるには
From: 天野
ゴール設定が難しいと感じたのは、スクラムマスターとして最初の数年間、どのチームでもスプリントゴールの設定に苦労した経験からです。当初は自分の関わるチームが特に難しい環境にいるのだろうと考えていました。しかし、スクラムマスターとして複数の組織――大企業から数人のスタートアップまで、コンシューマ向けアプリからtoBの業務システムまで――を支援する中で、ゴール設定の難しさが組織やプロダクトの性質を超えた普遍的な課題であることを学びました。
当時は私自身のゴールに対する理解も浅く、効果的なゴール設定の支援ができていませんでした。典型的な例として、次のようなスプリントゴールをよく目にしていました:
チケット #3102 #4401 #9341 #6722 を開発する
XX機能の開発を進め、パフォーマンスチューニングと不具合改修も行う
3月中にYY機能をリリースする
2020年版のスクラムガイドによると、スプリントゴールは次のように定義されています。
スプリントゴールはスプリントの唯一の⽬的である。スプリントゴールは開発者が確約するものだが、スプリントゴールを達成するために必要となる作業に対しては柔軟性をもたらす。スプリントゴールはまた、⼀貫性と集中を⽣み出し、スクラムチームに⼀致団結した作業を促すものでもある。
上記の例のスプリントゴールが、スプリントの唯一の目的としてチームが一致団結し、かつゴールを達成するためにスコープ調整を可能にするものになっているとは感じられずモヤモヤしていました。現在では、次のように見えています。1と2は単にやることのリストになっており、スプリントの目的(Why)を示すことができていません。3はチームが一致団結できる可能性はありますが、リリースが目的になりその先のユーザーに届ける価値に目を向けられていません。言い換えれば、チームは一致団結してゴミを作る可能性があります。
ゴールの理解が進むにつれ、ゴールとは「いつまでに何をする」という活動やアウトプットを表現するのではなく、「スプリントの結果どんな状態になり、誰がどんな風に嬉しいのか」のような、状態やアウトカム(成果)を表現することが大切なのだと思うようになりました。
特に重要な気づきは、アジャイルな仕事の進め方に慣れていないチームにとって、アウトカムベースのゴール設定とそれへのコミットメントがまったく新しい経験だということです。だからこそスクラムチームでは、スプリントごとのゴール設定を通じて、この新しいマインドセットを育てていく必要があります。
ここまでお話しさせていただき、私といくおさんはそれぞれ異なる視点から目標づくりに向き合ってきたことが興味深く感じられます。OKR導入後の具体的な取り組みや、その過程で得られた成功・失敗の経験についてぜひ詳しくお聞かせください。
From: 小田中
OKR導入後すぐに始めたのが、マネージャー層で実施する毎日の朝会です。背景を補足すると、私が最初にOKR導入を進めた組織は30名程度の規模で、その中に4~5人で構成されたチームがいくつかある構造でした。各チームの運営はそれぞれのチームのマネージャーに任せていて、週次で集まって状況を共有するくらいだったのですが、各チームが連携し組織レベルの目標にコミットしていくためには密な連携が必要だと判断し、マネージャー朝会を実施することにしました。
そして、毎週月曜にはそれぞれのチームのOKRについて進捗を確認するようにしていました。中には数値として変化が現れてくるのに1週間以上かかるものもあるのですが、それを含めて状況を共有し、目標に対する現在地を正しく認識するようにしました。
もうひとつの取り組みが「ウィンセッション」です。OKRが進捗していること、進捗しているために取り組んだことに焦点を当て、成果と努力に対して称賛を送る場を月に1回の頻度で実施していました。マネージャーからの発信ではなく、メンバーがチームの代表として自分の言葉で話す場にしたかったので、メンバーをシャッフルして4~5人のグループに分けてその中で共有しあうようにしていました。
これらの取り組みは目標へのオーナーシップを育み、結果としてOKR導入前では考えられなかったような目覚ましい成果が得られるようになっていきました。一度うまくいくとよい循環が生まれるもので、周囲の組織もOKRを導入していくなど自分たちの取り組みを起点にOKRがひろがっていきました。これは嬉しかったですね。
もちろん、うまくいったことばかりではありません。OKR導入2年目に、あるチームでOKRの達成率が全然上がっていかないという状況が発生しました。これはなんとかしなければということで、マネージャーはもちろんのことメンバーにもヒアリングをしていったのですが、そこでわかったのは「OKRがメンバーの自分ごとになっていない」ということでした。自分たちのOKRを達成できるとは思っていない、そもそも目指したいとも思っていない――。そういった状況になっていました。
そのチームのマネージャーは、良かれと思って目標設定を自分で巻き取っていました。メンバーは開発に集中したいだろうから、という善意から来る行動です。けれども、それが結果としてOKRに対するオーナーシップを損なうことにつながってしまいました。このチームでは、あらためてインセプションデッキに立ち返り、そこからメンバー主導でOKRを再設定していきました。その新しく作られたOKRに対しては主体的な取り組みが行われ、チームに期待されている成果を生み出すことにもつながっていきました。
うまくいったこと、うまくいかなかったこと。両面のエピソードから学んだのは、高い目標を達成していくためには自律性が重要であるということです。いかに自分ごとに落とし込むか。目標達成にむけての動きがいまいちだと感じたら、まずメンバーにとって自分ごとになっているか?から点検するのがよいという実感があります。
組織のゴールとチームの自律性を両立させるときに生まれる3つの課題
From: 天野
OKRを自分ごと化して主体的に取り組めるようにするためのさまざまな工夫、とても参考になりました。組織の目標づくり全般に言えることだと思いますが、マネージャーや一部の上位者が設定した目標を単に上から下に伝えるだけでは、現場で活動するチームの十分な共感は得られません。高い目標に向けてチームがモチベーション高く自律的に活動するためには、目標へのオーナーシップを育み、いかに自分ごと化できるかが鍵なのだと改めて感じました。
私の所属するサイボウズ開発本部では、これまで各チームの自律性を重視し、トップダウン的な目標設定はほとんど行ってきませんでした。しかし、プロダクトと組織の規模が拡大する中で製品戦略をより効果的に実現していくため、今期は本部全体で「アラインメント」をキーワードに仕組みづくりに取り組んでいます。
まず着手したのは、チームより上位の各レイヤーにおける目標の設定と可視化です。本部全体の注力テーマを最上位の目標とし、その下にプロダクトごとの目標を配置して上位目標との紐付けを行いました。各目標にはオーナー(責任者)を設定し、オーナーの責任のもとでチームが実行する形を採用しています。関連する目標のオーナー同士やプロダクトに関わる他チームとの密な連携が必要なため、適宜同期を取り進め方を相談できる場(アラインメントミーティング)も設けました。目標達成に向けて行った活動とその結果、さらには阻害要因などは週次のレポーティングで共有され、誰でも閲覧できる状態にしています。これらの目標は3ヶ月ごとにふりかえりと見直しを行い、クォーターごとに検査と適応を繰り返すプロセスを実装しました。
まだ試行錯誤の段階ではありますが、この仕組みを導入する前と比べて、はるかに物事が前に進むようになった手応えを感じています。一方で、次のような課題も見えてきました:
複数の目標が特定のチームに集中し、チームが過負荷になってしまうケースがある
目標として明示的に表現されていない重要な業務(障害対応や成熟〜衰退期のプロダクト開発など)に携わるメンバーが主体性を感じにくい
効果的な目標設定の難しさは依然として高く、ユーザー視点の価値が不明確だったり、成否の判断が困難だったりするものがある
いくおさんは、このような課題にどのように対処されたのでしょうか。
From: 小田中
全体の注力テーマと目標を同期させチーム同士でアラインメントしていく仕組みづくりは、組織が目指したいところへ向かうモメンタムを生み出す仕掛けとして良いな、と感じました。
そして天野さんが提示された課題は、組織全体をアラインメントしようとしたときにトレードオフとして不可避的に出現してくるものです。ひとつひとつ、見ていきましょう。
複数の目標が特定のチームに集中してしまうケースについて。全体の目標を達成するために必要な目標が複数あるとして、単純に計算すると目標の数/チームの数で割って分担することになります。チームはそれぞれ異なるケイパビリティを保有していますが、ある目標に対して達成するケイパビリティがあるのは特定のチームだけ、という状況が往々にしてあります。たとえばLLMを活用したプロダクトに注力したいという方針があり、そこに対して複数の目標を持つケースがあったとします。目標達成のために高い専門性が求められる場合、その目標を追いかけることができるチームは限られてくるでしょう。
ここに対しては2つのアプローチが考えられます。ひとつは、普段から組織内でジョブローテーションを行うなどして、そこにいる人たちが複数のケイパビリティを持っている状態をつくることです。チームをまたいだペアプログラミングやモブプログラミングを業務の中に取り入れていくのも有効です。
新規開発を集中的に行いたいフェーズなどではこの作戦が取りづらいかもしれませんが、こういった取り組みを早い段階から当たり前に行っている組織はどんどん強くなっていきます。なので、組織規模が小さい段階から取り組むことをおすすめします。
もうひとつは、目標の数を減らすこと。スコープを絞る、と言い換えてもいいでしょう。さきほど提示した「そこにいる人たちが複数のケイパビリティを持っている状態をつくる」ことは理想的なあり方ですが、実現は決して容易ではありません。となると、自分たちの現在地にあわせてスコープを絞っていくやり方が現実的かつ効果的なものになります。
目標の数を減らすとなると、それは逃げではないのか、そんな弱気な姿勢でいいのか、といった批判にさらされることがあります。けれども、大切なのは立派な目標をたくさん掲げることではなく、実際に成果を出し、価値を生み出し、世の中を変えていくことです。できもしない目標を形ばかりコミットメントするよりも、絶対にここはやりきるぞ、という少数の目標にコミットメントし、実際に形にしていくことのほうが価値につながっていきます。
目標として明示的に表現されていない重要な業務に携わるメンバーが主体性を感じにくいという課題について。こちらは、まず重要な業務なのになぜ目標として表現されていないの?という点を掘り下げていきたいところです。障害対応は何のためにやるのか?いますでにプロダクト・サービスを使ってくださっているユーザー・顧客が困っている状況を少しでも早く解消するためです。成熟〜衰退期のプロダクト・サービスをなぜ保守運用するのか?その先に価値を享受しているユーザー・顧客が存在するからです。
ここからは自論になってしまいますが…OKRの教科書的には、上記のような新しく何かを生み出すわけではないものはOKRとして設定するのは不適切とされている面もあります。当たり前にやるべきものは、当たり前にやれという姿勢は、ある種正しいものではあります。それでうまくいくならそうすればいいし、目標として明示しないことでメンバーの主体性が損なわれる、逆に目標として明示することで主体性が生まれるなら、目標として表現するのがよいでしょう。そして、目標として設定したところでメンバーのモチベーションが引き出されないのであれば、問題は別のところにあります。そもそもその業務に意義が感じられない、という状態かもしれません。その場合は、なぜそれが必要かを明確に示していくことが必要です。
効果的な目標設定の難しさは依然として高く、ユーザー視点の価値が不明確だったり、成否の判断が困難だったりするものがあるという課題について。難しいですね!!
全てをエンドユーザー面にもっていくと、例えばインフラ周りでやりたい取り組みなどはどのような価値を創出するか表現が難しかったりします。このとき、価値の受益者をエンドユーザーではなく、直接的に価値を享受する人々に設定すると創出価値が明確になります。前述のインフラ周りの整備であれば会社としてコスト面や安定面でメリットがある、など。で、いったんイメージしやすいところを仮想ユーザーにして、そこから「それはエンドユーザーにとって何がうれしいんだろう?」を辿っていくと、ユーザー視点の価値が明確になります。
成否の判断が困難なものについては、定量的な指標に落とし込んでいくのがセオリーです。ですがそれが難しい場合は少なくありません。特に、新しいチャレンジをしている場合はそれの良し悪しを推し量る指標が世の中に存在しないこともあります。そういったときはその目標達成に関係のあるステークホルダーが成否判定を定性的に行っていくことになります。なぜその成否になったのかがわからないと納得感が生まれないので、ステークホルダーには成否判定の基準を見える化してもらえるよう働きかけるといいでしょう。
組織レベルで目標をつくる際の難しさとしては、組織の抽象度ではまさに成否の判断が定量的に推し量ることができないケースが多い、という点に尽きます。P.F.ドラッカーは著書『経営者の条件』の中で、「根本的な問題は、組織にとって重要な意味を持つ外部の出来事が、多くの場合、定性的であって定量化できないところにある。」と主張していました。まさにこのとおりで、自分たちの活動がどのように世の中を変えたのか?といった問いに対しての答えは定量的に得ることができないのです。ここを無理に定量化しようとすると、それっぽいけど実際には意味がない虚栄の指標(バニティメトリクス)になってしまいます。だから、無理に定量化しようとせずある程度定性的に判断することを許容すること、そして定性的に判断するのは直接目標を追っているチームの外側で行うことが適切です。チームの外側で判断するのは、自分たちが追っている目標に対してバイアスをかけず判断することが難しいからです。
ここまで目標についてさまざまな観点からアプローチしてきましたが、こうしてみると組織のゴールとチームの自律性を両立させることは、難しいけど決して無理ではないことがわかるかなと思うのですが天野さんいかがでしょう。
良い目標を通じて「ワクワクの輪」を広げよう
From: 天野
さまざまな示唆に富んだ実践的な知見をありがとうございます。これまでの対話を通じて、今回のテーマである「組織のゴールとチームの自律性を両立させる目標づくり」について多くの学びがありました。自組織での経験とあわせて、重要な点を整理してみたいと思います。
以下の3つの観点が特に重要だと考えています:
目標の本質的な理解
目標とは「やることリスト」ではなく、「目指す状態」を表現するもの
アウトプット(何を作るか)ではなく、アウトカム(誰がどう嬉しくなるか)を重視
単なる数値目標ではなく、チームをワクワクさせ前進の原動力となるビジョンを示す
直接的・間接的な価値の受益者を明確にし、その価値を具体的に表現する
アラインメントとチームの自律性の両立
組織の方向性と個々のチームの活動をつなぐ明確な目標体系の構築(OKRなど)
トップダウンの押し付けではなく、チームの主体的な関与による目標の「自分ごと化」
適切な数の目標設定による実行可能性の確保と、チームが集中できる環境づくり
目標達成に向けた効果的な仕組みづくり
定期的な進捗確認と課題共有の場の設定(朝会、週次レポーティングなど)
成果を称賛し、学びを共有する機会の創出(ウィンセッションなど)
定期的な検査と適応のサイクルの確立(クォーターレビューなど)
さらに付け加えれば、これらの取り組みは、完璧な設計を目指すのではなく、トライ&エラーを通じて自組織に合ったやり方を見つけていく過程そのものが重要だと感じています。
以上が私なりのまとめになりますが、いかがでしょうか。
From: 小田中
わかりやすくまとめていただきありがとうございます!!目標というものを本質的に理解すること、組織とチーム、個人がつながるようにアラインメントしながら、チーム・メンバーが主体的に目標づくりに関わることで自律性をもたらすこと、そして目標達成に向けてチームの力を結集するために仕組みづくりをすることは、まさに目標づくりにおいて重要なポイントです。
これまで私が登壇で発表してきた内容や『アジャイルチームによる目標づくりガイドブック』で解説しているものは、より多くの現場へ適用することを目指しているためある程度抽象度が高いものでした。この往復書簡では、天野さんが自身の現場で直面している具体的な課題を提示いただいたこともあり、かなり具体的な話ができたという手応えがあります。
この往復書簡の内容をもとに、天野さんの現場が今以上にワクワクした目標を立てそこに向かっていけるようになると嬉しいですね。そして、これを読んでいただいた方々の現場でも、ワクワクの輪が広がっていったら最高です。
From: 天野
今回の往復書簡では、いくおさんと具体的な実践知を交換することができ、とても勉強になりました。特に印象的だったのは、「目標づくり」という普遍的な課題に対して、スクラムマスターとエンジニアリングマネージャー、それぞれの視点から得られた気づきや工夫を深く掘り下げられたことです。実践者同士だからこそ共有できる精緻な議論ができたのではないでしょうか。
この対話を通じて、組織でアジャイルを実践するにあたり、あらゆるレイヤーでワクワクする目標を立てられることが重要な鍵になると改めて感じました。最初から完璧を目指す必要はありません。それぞれの組織の状況に応じて、できるところから目標づくりに取り組んでいくことが大切だと思います。
私自身も引き続き自組織での実践を重ね、さらなる学びを得ていきたいと考えています。そして、この往復書簡を読んでくださった方々の現場でも、いくおさんの言葉をお借りすれば「ワクワクの輪」が広がっていくことを願っています。ありがとうございました。