40代で新しいキャリアを選択したエンジニアが語る、プログラミングの世界に起きている面白い変化とは

一昔前まで囁かれていた「エンジニア35年定年説」。
しかし近年では、技術に特化した専門職・ICなど、マネジメント職以外の選択肢も少しずつ増えています。エンジニアとしては、今後のキャリアをどのように考えるべきなのでしょうか。
ファインディでは「40代でキャリアチェンジした2人の本音は?混沌な時代を生き抜くエンジニアのキャリア戦略を考える」と題したイベントを開催。 ミドル世代で新たなキャリアを選択したメリカリ牧さんと、LINE Fukuokaきしださんをお招きし、お話を伺いました。
お二人は「マーケットトレンドの変化は今後起こりにくくなる」と前提しつつ、自分が納得する道を選ぶべきだと語られました。

パネリスト
牧 大輔さん/@lestrrat
株式会社メルカリ

jwxや peco の開発責任者。Go/Perl/Cプログラマ、講演、執筆、動画プロデュースなどを生業としている。過去には技術カンファレンスの運営に関わり続けていた(元YAPC::Asia Tokyo主催、元builderscon主催)。現在は外部向けイベント運営を主眼とした活動を担当している。3児の父。
<参考記事>:40歳を超えてエンジニアから異職種に挑戦。唯一無二を突き詰めて見出した、自分の価値 - Findy Engineer Lab - ファインディエンジニアラボ

きしだ なおきさん/@kis
LINE Fukuoka株式会社

九州芸術工科大学 芸術工学部 音響設計学科を満期退学後、フリーランスでの活動を経て、LINE Fukuoka株式会社勤務。Javaのスペシャリストとして知られ、登壇、執筆、コミュニティ活動を通してJavaの認知拡大・普及のために活動している。著書に『プロになるJava』など。
<参考記事>:技術に対するモチベーションが下がったらどうする?Javaスペシャリストを20年以上支えてきた思考法とは - Findy Engineer Lab - ファインディエンジニアラボ

40代前後で新しいキャリアを選択した理由は「自分の得意を追求」「時代の変化に合わせた結果」

──40代前後で新しいキャリアを選択された理由をお話いただけますか。

牧さん:私はコードを書き続ける人生を長く送ってきていて、OSS活動もしていました。自分のことを優れたプログラマーだとは思っていませんが、自慢できるところがあるとすれば、多くのコードを書けるという点でした。

しかし、40歳を超えたあたりから、単位時間あたりのアウトプット量が目に見えて減ってしまい……。その上、AIやML(Machine Learning: 機械学習)といったパラダイムシフト的な技術が登場し、プログラマーとしての“自分の限界”が見えたような気がしました。そこで自分の得意なことを追求した結果、イベント運営をメインとした活動にシフトしたのです。

──きしださんはいかがですか。

きしださん:僕はフリーランスとしてエンジニアキャリアをスタートしています。当時はインターネットバブルだった一方で、福岡には開発会社が少なかったんですよ。そうした背景もあり、フリーランスとして開発会社のお手伝いをしていました。

正社員としてジョインしたいなという思いもあったのですが、東京に引っ越さなくてはいけないのがネックで。どうしようか考えていたら、2013年にLINE Fukuoka株式会社ができたため、入社したという流れです。

──牧さんは自分の強みを分析した上で武器(ロール)を変えていて、きしださんは時代の変化に伴って新しいキャリアを選択されているのですね。

きしださん:そうですね。当時はWebサービス系が非常に盛り上がっていたため、その勢いに乗って正社員という道を選びました。

身体的な衰えは不可避?40代で感じた変化をきっかけに、プログラミングについて再勉強

──先ほど「アウトプットの量が減った」とお話されていましたが、それ以外に40代で感じた変化はありますか?

牧さん:身体的なところでいうと、視力の衰えは感じています。昔から視力が良くて現在も眼鏡やコンタクトはしていません。ただ、目の疲れを感じるスピードが早くなってきました。若手の頃は自分の視力が衰えるなんて想像もしていませんでしたし、40代になって初めて味わった感覚ですね。

──やはり体力的な面では大きく変化があると。

牧さん:個人差はあるでしょうが、加齢による影響はありますね。私の場合はモニターを長時間見つめることが難しくなったことが、アウトプット量の減少に繋がっていたのだろうと思います。

──プログラミングを長く続けるためには目のケアも必須ですね。きしださんはいかがですか。

きしださん:僕も最近はコードを書く量が減りましたね。ただ、LeetCodeというコーディング学習サイトの問題を解くようになるなど、コードを書くトレーニングはできていたように思います。また、若い時に想像していた「コンピューティングの未来」を一通り体験できたと思ったのは、40代に入ってからでしたね。

──なるほど。ご自身が想像していた未来を体験した後、何か変化はありましたか?

きしださん:自分の意識の変化はありました。「もう一度勉強し直そう」と思い、10年ほど前にリレーショナルデータベースを自分で実装したり、FPGAでプロセッサを書いたりしたんですよ。それによってプログラミングへの理解が深まりましたね。

2022年に出版したJavaの入門書『プロになるJava』では、上記の経験を活かし、プログラミング活動の基礎を提示できたのではないかと考えています。本を通して、言語を書くことでプログラムが動く楽しさを感じてもらえると嬉しいですね。

マーケットの成長は頭打ち。プログラミングの世界に起きている面白い変化とは

──ここからは「40代で意識するべきマーケットトレンド」といったテーマで、お話をお伺いしたいと思います。

きしださん:現在の情報通信産業は110兆円規模だと言われていますが、マーケット的には頭打ちになっているような気がしますね。国内のネット利用率は80%で、これ以上は伸びないだろうと言われています。また、スマートフォンの普及率は70%で、こちらも大きくは増えないでしょう。

今までは高トラフィックへの対応が課題でしたが、今以上に需要が伸びないのであれば、そういった問題も解消されるはず。技術的にも需要的にも、変化が起こりにくくなっていくと思います。

──牧さんはいかがですか?

牧さん:ちょっと岸田さんの言っていることとはずれますが、なんらかの壁にあたって業界の変化みたいなものが起こりつつあるな、と私も思っています。そんなこともあり、キャリアを考え直した口です。なんとなく古の自動車産業が通ったような道を今度は我々が手作業で組んでいたプログラムがAIやMLの浸透によって徐々に変わってきているのかな…と考えています。

──なるほど。今後はどのようなことに注視すべきなのでしょうか?

きしださん:セキュリティの重要性は増していくでしょうね。パソコンの普及率が上がる中で、コンピューターウイルスの被害にあう方が増えていますから。

車に例えると、以前は性能や見た目の美しさが重要視されていましたが、近年は法律の影響もあって安全を最優先にしたデザインのものが増えていますよね。それと同様に、インターネットにおいても、速度ではなく安全が優先される社会がくるのではないでしょうか。

──マーケットの変化が起こりにくくなることで、キャリア選択にはどのような影響があると思いますか?

きしださん:例えば40代に入るとマネージャーになるといった話が増えてきますよね。これまでは「マネージャーになってコードを書かなくなると、技術トレンドの変化についていけないのではないか」といった不安があったと思います。今後はそういった不安が解消されるのではないでしょうか。今ある技術を習得し、いかに次のキャリアに活かすのかといった視点が重要となるのだと思います。

牧さん:マネジメントに興味がなければ、IC(Individual Contributor)に挑戦するのもいいですよね。マネジメントをしたくない人がマネージャーになっても、みんなが不幸になってしまいますから。

──エンジニア業界全体のトレンドとして、なにか変化するものはあるのでしょうか。

きしださん:国をあげてDXが推進されているため、情報通信産業ではないところに情報技術が入り込む分野は依然として伸びる可能性があると思います。

また、技術の変化がないことで「つくったコンテンツが数年後には使えなくなる」といったことが起こりにくくなるはず。その分、プログラミング教育が盛り上がるのではないかと考えています。すでに小学校〜高校では必修科目となっていますし、エンジニアの中でもプログラミング教育に興味を持ち始めている人が増えているように感じます。人口が減少している中で「いかにハイスキルなエンジニアを生み出すのか」といった観点でも教育は重要ですし、面白い変化が起きていると思いますね。

キャリアチェンジによるマイナスはなし。プラスで得たものは「違和感の解消」

──ここからは参加者からの質問にお答えいただければと思います。まずは「牧さんは3児の父とのことですが、インプットやアウトプットに使う時間はどうやって確保されていますか?」といった質問です。

牧さん:時間をこまめに活用するしかありません。まとまった時間を確保する際は、子どものスケジュールを優先的に決めておいて、予定通りに進むように努力をする(笑)。そうすると、夜に1〜2時間ほどは時間が作れます。

私は雑誌の連載など強制的にアウトプットしなくてはいけない案件があるため、時間を確保するしかないと言いますか。継続的なインプットを実現するには、強制的なアウトプットの場を持っておくのが有効なのかもしれませんね。

──「キャリアチェンジをして良かったこと・良くなかったことはなんですか?それを踏まえてキャリアチェンジをやめた方がいい人・した方がいい人の違いはありますか?また、キャリアチェンジをした方がいい場合に、準備しておくべきことがあれば教えて欲しいです」という質問もいただいています。

牧さん:キャリアチェンジをして良かったのは「このままエンジニアを続けるべきなのか?」といった自分の中の疑問、違和感が解消されたことですね。良くなかったことは特にないです。

キャリアを選択する上で重要なのは「自分がやりたいことかどうか」だと思います。何を選択したとしても、全てのことが良くなることはないですし、全てがダメだというわけでもない。自分の中で折り合いがつけられるように選択をすることが大事なのではないでしょうか。

──自分で納得できる選択をすることが大切なのですね。きしださんはいかがでしょうか?

きしださん:僕はフリーランスから会社員になっていて「安定した会社はいいな」と実感することが多く、キャリアチェンジをして良かったと思っています。

ただ、必ずしもフリーランスより会社員が良いというわけではありません。それぞれのスキルや考え方、性格、所属している会社の規模や業績によって異なるでしょうね。

──最後に「若手と価値観が合わないこともあると思いますが、どうやって乗り越えていますか?」という質問が来ています。

牧さん:私個人としては、若手とぶつかった時は引くようにしていますね。自分の意見を押すのは簡単ですし、押し通すこともできます。ただ、できるなら若手に挑戦してもらった方が、お互いに新しい発見があるはず。経験がないからこその視点は若手ならではの強みですし、挑戦してみないとわからないこともありますから。

目の前の仕事に取り組みながら、自分自身が納得できる選択肢を見つけよう

──最後に40代のキャリアを考えている方に向けて、メッセージをいただけますか。

きしださん:先ほどもお話しした通り、マーケットの変化は起こりにくくなっていますし、やりたいことをやればいいと思います。目の前にあることに精一杯取り組んでいくことが大切なのではないでしょうか。僕も今やれることを頑張りたいと思います。

牧さん:一つ断言できることがあるとすれば、周りの意見でキャリアを変えるべきではない。自分あってのキャリアですからね。繰り返しにはなりますが、自分が納得できる選択をすることが大切だと思います。

もし今キャリアを変えたいという思いがあるのであれば、やりたいことから逆算してみるのがおすすめです。その結果、キャリアチェンジに繋がるのであれば、挑戦してみるのも良い。逆算して考えた時にキャリアチェンジする必要がないと判断したのであれば、無理する必要はないと思います。

──ありがとうございます。キャリア戦略において、誰しもに当てはまる“正解”はないのかもしれません。ただ、自分が納得できる選択をするためには、目の前のことに誠意を持って対応をしながら、挑戦を続ける必要があるのだろうと感じました。 きしださん、牧さん、本日はお時間をいただきありがとうございました!