Findy Engineer Lab

エンジニアの"ちょい先"を考えるメディア

NTTを変えることで日本のIT業界を変えたい。転職ではなく転籍という選択で見つけた「大義」

NTTを変えることで日本のIT業界を変えたい──転職しないという選択で見つけた「大義」

NTTコミュニケーションズでエンジニアとして勤務する傍ら、ポッドキャスト『fukabori.fm』配信やさまざまなイベント登壇など、幅広く活躍されている岩瀬義昌(@iwashi86)さん。意外にも、新卒でNTT東日本に入社した際は現在のような多忙なキャリアを描いておらず、「無理せず生きていきたい」と思っていたそうです。

入社して5年ほどたったときに成長に頭打ちを感じ、「本当に自分はこの道を歩みたいのか?」と悩んだ岩瀬さん。なぜ転職ではなく、NTTグループ内での転籍という道を選んだのでしょうか。

その選択で得た刺激、デブサミで受けた衝撃、意外な人事部への異動……。「日本のIT業界を変えたい」という現在の思いに至るまでのキャリアについて、お話を伺いました。

「無理せず生きていけたら」とNTT東日本に入社

── まずは岩瀬さんの現在の業務について教えていただけますか。

岩瀬義昌さん(以下、岩瀬) 現在はNTTコミュニケーションズで、組織全体のアジャイル開発やプロダクトマネジメントを支援するチームのリーダーをしています。

開発がうまく回っていないときに相談を受けて、チームメンバーと一緒に開発の実態を調査してティーチングやコーチングをしたり、研修を提供したりするのが主な業務内容です。サービスをリリースするまでのプロセスをより良いものに変えていく活動なども行っています。

── 岩瀬さんはその他にも早稲田大学で非常勤講師として教えたり、ポッドキャスト『fukabori.fm』で情報発信されたりと精力的に活動されています。新卒当初から現在のようなキャリアを描いてこられたのでしょうか。

岩瀬 いえ、そんなことはないんです。実は新卒の就職活動をしていたときは、これといった明確なキャリアを持っていなかったんですよ。

大学院ではコンピューターネットワーク系の研究をしていたので、就職活動でもそういった研究内容を生かせる企業への就職を希望していました。

ただ、私は徹夜などのハードワークやお酒を飲むことが難しい体質なんです。体を大事にしながら働ける企業でないと生きていけないという意識があったので、いわゆる「ホワイト企業」のイメージがあるところを中心に受けていました。大きなネットワークを持っていて、なおかつホワイトな印象のある企業……その代表が「NTT」だったんです。

── バリバリ働いて、どんどんキャリアアップしていくぞ、という感じではなかったと。

岩瀬 体に支障がない範囲で、好きなことをある程度やりながら生きていけたらいいな、くらいの気持ちでしたね。

── そこで就職されたのがNTT東日本だったわけですね。実際、働き始めて職場環境はいかがでしたか。

岩瀬 希望した通りの環境で満足でした。事業ドメインもネットワーク系でしたし、残業も少なく休みもしっかり取得できるカルチャーでした。むしろ、休みが少ないと指摘されるくらいで。働かせ過ぎないように会社が気を配ってくれていましたね。今でも最高の会社の一つだと思います。

入社5年で感じた「頭打ち」、キャリアパスへの疑問

── NTT東日本からNTTコミュニケーションズに転籍されたきっかけは何だったのでしょうか。

岩瀬 ターニングポイントになったのは、入社して5年ほどたった30歳のときです。

それくらいのキャリアを積むと、ずっと関わってきた特定の技術領域についてはかなり詳しくなるんです。社内でも私が一番詳しいような立場になったことで、自分の成長が頭打ちになったように感じていました

周りの先輩社員はどうなのか見てみると、だいたい決まったルートを通っているんですね。研究所などのグループ企業に転籍して、そこで何年かキャリアを積んで、戻ってきて、その次は別の部署に異動して……と。今後の社内でのキャリアパスが見えてしまった。そこで、「本当に自分はこの道を歩みたいのか?」という疑問が湧いてきたんです。

それに加えて、当時は外部からも刺激を受けていました。通勤中に聞いていたポッドキャストで宮川達彦(@miyagawa)さんの『Rebuild.fm』という番組があり、最新のIT事情が語られていたんです。例えば、当時の最先端だったコンテナ技術なんかの話を聞いていて、ものすごく面白いなと思っていました。

また、外部のエンジニア勉強会などに参加すると、そこでも面白い話が聞けるんです。Amazonなんかは1日でものすごい回数のデプロイをしているなんて話を耳にすると、「いいなぁ。それに比べるとうちは一つのシステムに対して、1年に数えられる程度しかデプロイできないな……」とか。

ただ、当時の私の業務範囲は信頼性が全てのシステムを扱っていました。アグレッシブな最新技術などはとてもコアシステムに導入できない状況でしたが。

── 確かに、NTT東日本が扱っているのは全国のネットワークインフラですから、何よりも安定性が大事ですよね。

岩瀬 はい。例えば緊急通報の「119番」の制御信号なども扱っていて、そこに安易に手を加えてトラブルが発生すると、救急車を呼べないといった可能性もあるわけです。だから、慎重にならないといけないのはその通りです。そのサービス特性上、この開発プロセスには腹落ちしていました。

とはいえ、いくら外部で面白い技術に出合っても、それを仕事に生かせないことにエンジニアとしてもどかしさを感じていたのも事実です。そうした板挟みの中で、自分の次の道を考えるようになりました。

プライベートも含めた総合的な判断で選んだ「転籍」

── “次の道”としてはどのような選択肢があったのでしょうか。

岩瀬 取りうる選択肢の一つが「異動」です。一般的には社内での定期異動を待つ、これは受け身ですよね。ただ、社内にはネットワークインフラではなく、尖った技術を活用できる部署もありましたから、異動を希望してそこに配属されるのを期待する、多少は積極的な方法もありました。

ただ、いずれにしても社内異動は必ずしも希望通りになるとは限りません。少なくとも2014年ごろはそうでした。いわゆる“ガチャ”みたいなもので、さらに何年も同じ部署で過ごす可能性だってある。

また、運良く異動できたとしても、当時のNTT東日本の部署はコードを書きまくるハッカーカルチャーみたいな環境はあまりなかったんですよね。私は最新技術を使って「自分で手を動かしまくってみたい」という気持ちも持っていました。そう考えると、社内異動は厳しいなと思いました。

そうなると、残る選択肢は2つです。「転職」するか、「転籍」するかです。

── そこで、NTTコミュニケーションズに移ることを選択されたわけですね。転職を選ばなかったのはどうしてでしょう?

岩瀬 転職するかどうかも迷いました。同じ大学の先輩のスタートアップから誘われたこともあって、正直、心が動きました。

そんな中、NTTコミュニケーションズで今の上司になる人と話す機会があり、良い意味でNTTらしからぬ攻めた内容を聞けたんです。ここならやってみたいなと思えるものでした。

もう一つ、転職ではなくグループ会社を選んだのは、プライベートな理由もあります。ちょうど第一子が生まれたタイミングで、ここで転職すると環境が大きく変わって、リスキーかもしれないと考えました。

── もともと体調のこともあり、無理はできないということでしたね。

岩瀬 ええ。誘われていた会社はスタートアップだったので、たぶん転職したら激務が待っていたんじゃないでしょうか。やりたいことができる会社ではあったのですが……。

新たな環境とカルチャーで自分自身も変化していった

── NTTコミュニケーションズに移られて、環境はどのように変わりましたか。

岩瀬 がらりと変わりました。まず、服装がスーツからパーカーになりました。Web業界でエンジニアといえばラフな服装のイメージがあるかもしれませんが、NTT東日本だと意外とスーツのエンジニアが多かったんです。

また、以前はExcelなどのOfficeソフトでドキュメントを扱うケースが多かったのですが、NTTコミュニケーションズに移ってからはコードを書く時間が圧倒的に多くなりました。移ってきた当初、チームメンバーが開いているPCの画面がOfficeソフトではなく、黒背景のエディタやコンソールだったのが印象に残っています。

── まさに岩瀬さんが望んでいた環境だったと。

岩瀬 そうですね。職場の雰囲気も全然違っていました。ドメインが異なるので当然なのですが、Web系のコミュニティ活動もさかんで、UI/UXデザインの専門のチームもいました。さまざまなコミュニティのトップリーダーがそこらじゅうにいる。

私が興味を持っている領域の技術の話も思い切りできる。もちろん、NTT東日本でも技術の話はできたのですが、私が当時より興味を強くしていたWebに近い領域はNTTコミュニケーションズの得意領域でした。私にとっては、本当に恵まれた環境でしたね。

── 新しい環境で、岩瀬さんご自身の活動にも変化はあったのでしょうか。

岩瀬 私自身も刺激を受けて新しい活動に取り組むようになりました。例えば、部内ランチ勉強会を開催して人脈を広げたり、社内のコミュニティ活動に積極的に参加し始めたり。そうしたコミュニティ活動やイベントの主催などを自分たちでやるのが当たり前というカルチャーがたまたま参加したチームに根付いていたので、「私もやります」と言いやすかったんです。

デブサミで受けた衝撃「あちら側に行ってみたい」

── 職場の外の活動についてもお聞かせください。岩瀬さんは現在、ご自身でポッドキャストを配信されるなど情報発信を積極的に行っておられます。対外的なアウトプットを行うようになったきっかけはあったのでしょうか。

岩瀬 きっかけになったのは、転籍の少し前、2013年のデブサミに参加したことです。現在NTTコミュニケーションズの技術顧問でもある吉羽(龍太郎、@ryuzee)さんのデプロイ自動化についての講演(「ワンクリックデプロイ 〜いつまで手でデプロイしてるんですか?~」)を聞いて衝撃を受け、自分も発信する側に回りたいと思いました。

── それまでは発信することはなかったのでしょうか。

岩瀬 なかったですね。コミュニティや勉強会でも聞くばかりでした。

── それは大きなマインドチェンジですよね。吉羽さんの講演の何が岩瀬さんにそう思わせたのでしょう。

岩瀬 うーん……何でなんでしょうね。実は自分でもよく分からなくて。吉羽さんの講演もたまたま立ち寄って、会場の最後方の隅で立って聞いていたんです。それで、講演が終わる頃には「自分もあちら側(変化の速い世界および登壇側)に行ってみたい」と思っていました

── 不思議ですね。でも案外人生のターニングポイントというのは、そういうものなのかもしれませんね。

岩瀬 本当にそう思います。

── その後、2016年には岩瀬さんご自身もデブサミに登壇されました。

岩瀬 2014年に転籍してからは、小さなコミュニティや勉強会では登壇していて、そろそろ人前で話すことにも慣れてきていたので、次は大きなイベントに出たいなと思っていました。それでデブサミの公募にエントリーしたら通してもらえたんです。

今でも覚えているのは、デブサミの控室に入ったときです。ずらりとエンジニア界隈の有名人が並んでいて、「この空間はヤバいぞ」と思いました(笑)。登壇前は死ぬほど緊張した記憶があります。たぶん、人生で一番脈拍が早くなった瞬間だったんじゃないでしょうか。

── 「行ってみたい」と思っていた場所での講演はどうでしたか。

岩瀬 達成感がすごかったですね。印象的だったのが、話し終わった後にAsk the Speakerコーナーがあって、参加者から「同じことで悩んでいました」とか「自分もやってみようと思いました」といった声をダイレクトにいただけたんです。それで、自分自身が社内だけじゃなく社外にも影響を与えられるんだという充実感を得られました

参考リンク▶ 外注が主な企業でどのように内製開発を立ち上げ・進化させているのか? / how we start in-house developement in enterprise? - Speaker Deck

── 2018年からは『fukabori.fm』をスタートされています。番組ではエンジニアの方をお招きしてテーマを掘り下げていくトークを配信されていますが、なぜポッドキャストというメディアを選ばれたのでしょう。

岩瀬 音声メディアを選んだのは、開始コストが小さかったからです。また、以前から『Rebuild.fm』を聞いていたのはやはり影響が大きかったですね。

NTTコミュニケーションズに入ってしばらくたって、知り合いも増えてきていた時期でした。社内には本当にユニークな人材がたくさんいるんですよ。技術ドメインを横断して彼らと話しているととても面白い話ばかりで、「これは外に発信しないともったいないな」と思ったのがきっかけです。

参考リンク▶ 0. Fukabori.fmについて

── お話をお聞きしていると、ものすごい行動力をお持ちのように感じますが、もともとそういった性格だったりされるのでしょうか。

岩瀬 どうなんでしょうね。普通は何事も最初の一歩はハードルが高いものかもしれませんが、どうやら私はそのへんのブレーキが壊れているらしくて……。

── ブレーキが壊れている?

岩瀬 例えば、知らない人にDMを送って何かをお願いするのって、「断られたらどうしよう」とか考えて怖くなったりすると思うんです。でも私は「断られても当然だし、もしかしてうまくいくかもしれないなら連絡するべきだろう」と考えて、すぐ連絡してしまうんですね。

最初は1通のDM作成に2時間かけていたこともあったんですけど(笑)。何回かスムーズに進んだ成功経験が積まれて、ライトに考えるようになりました。そうやって一度動き出してしまえば、後は意外と勝手に進んでいくものなんですよ。

本気でグループ全体を変えるため人事部に異動

── 理想的な環境に移り、発信活動も積極的に行うようになって、転籍してからはまさに思い描いていた道を歩まれているように感じますが、その後、2020年に人事部に異動されたんですよね。ちょっと意外なキャリアチェンジのように思いますが……。

岩瀬 人事部(ヒューマンリソース部)に異動したのは、及川(卓也、@takoratta)さんと話をしたときに「岩瀬さん、本気でやり切ってないですよね。辞める気になって働きかけてみましょう」と言われたのがきっかけで。

当時は自分のプロダクト開発と、片手間でNTTグループ向けにエンジニア対象のイベントを開催していたんです。例えば、パフォーマンスチューニングコンテストや競プロ(競技プログラミング大会)など。自分のプロダクト開発を通じてチーム開発の楽しさを知って、グループ内で同じようなチームやプロダクト開発を増やしたいと思っていた時期です。でも及川さんに言われて「グループ内に変化を起こすことを本気ではやっていなかったな」と。

それで、グループ全体を根本から変えるために、もっと「会社の軸」に行った方がいいなと思って人事部を希望しました。全社にインパクトを与えられる部署ですし、人事部にエンジニア出身の私が入ることで、プロダクトマネジメントやアジャイル開発の概念を人事部に根付かせられます。

外から意見を言うだけではなく、人事部に入って“当事者”になり、中からアプローチする方がいいと考えたんです。

── 組織としての一体感を高めたり、職種間の距離を縮めたりする役割を担われたのですね。

岩瀬 逆に、私自身も人事部で多くの学びを得ました。というのも、人事部っていろいろな部署から異動してきた人がいるんです。セールス組織ではこんなふうに仕事を進めていましたよ、みたいに違う部署のカルチャーについて教えてもらえたり。

そうやっていろいろな部署の話を聞くことで、会社を見る解像度が上がり、視座が高まったように思います。

── 人事部には何年くらい在籍されたのでしょう。

岩瀬 2年です。その後、エンジニアチームに戻り現在に至ります。

日本のIT業界をもっと元気にしていきたい

── 今後はどんな活動を行い、キャリアアップしていきたいと考えていますか。

岩瀬 デブサミなどに登壇するようになって気付いたのですが、NTTグループの取り組みは多くの会社に影響を与えるものなんです。「2016年の発表を見てこうするようになりました」とか、本当に結構な回数言われて。

NTTグループが変わると、日本の企業が変わる──。これは人生面白いぞ、と。もちろん難しいけど、やりがいがある。私はここに「大義」を見出したんです。せっかくそんな組織に身を置いているわけですから、日本のIT業界をもっと元気にしていけたらいいですね。

参考リンク▶ なぜ変化を起こすのが難しいのか? - 数年以上にわたって難しさに向き合い・考え取り組んできたこと / The reason why changing organization is so hard - What I thought and faced for more than several years - Speaker Deck

── 新卒当時のキャリアに対する考え方が、現在は大きく変化したように思います。

岩瀬 本当にそうですよね。仮に15年前の学生だった自分に「日本を良くしたい」なんて言ったら、「何言ってんだこいつ、意識高過ぎだろ」という反応になると思います(笑)。今そう思えるのは、15年でいろいろな経験を積んできた結果ですね。

── 岩瀬さんのように、入社後数年たってキャリアに悩むエンジニアは多いと思います。そんな方に向けてメッセージをいただけますか。

岩瀬 「やりたい」と思ったら、あまり考え過ぎずにやってみる。それが全てのように思います。

私が会社を転籍したのも、結局はより面白そうな道に入っていっただけですし、コミュニティ活動への参加もポッドキャスト配信もイベント登壇も全部同じ動機です。

仮に間違えたと思っても、引き返せばいいんです。というよりも「失敗」なんてないんです。失敗とは単なる仮説検証にすぎません。仮説検証の結果から学んで、最終的に自分が納得すればいいわけですから。

NTTを変えることで日本のIT業界を変えたい──転職しないという選択で見つけた「大義」

取材・構成:山田井ユウキ
制作:はてな編集部

【アーカイブ動画】Findy Engineer Lab アフタートークイベント

fukabori.fmのiwashiさんを深掘り!NTTグループ内での転籍で見つけた「大義」とその後 -Findy Engineer Lab After Talk Vol.5-

fukabori.fmのiwashiさんを深掘り!NTTグループ内での転籍で見つけた「大義」とその後 -Findy Engineer Lab After Talk Vol.5-
・開催日時:2023/8/10(木)12:00~12:40
・アーカイブ視聴方法:こちらから
※視聴にはFindyへのログインが必要です。ご登録いただくと、Findy上でその他の人気イベントのアーカイブ視聴も可能となります。