結婚式場のクチコミサイトを1999年に日本で初めて作成した株式会社ウエディングパーク。エンジニア組織では「技術のウエディングパークを創る」を掲げ「技術」に力を入れ、2021年には「デザイン」を加えて、「技術とデザインのウエディングパーク」として双方から経営を推し進めています。経営判断にエンジニアとデザイナーの視点を取り入れるべく、BTO(Beyo-nd Technical Officer)とBDO(Beyo-nd Design Officer)という役職を創設しました。1年任期で若手を抜擢し、経営陣とともに施策を進めていきます。
今回は、初のBTOとして1年間の任期を終える永井美波さんに、仕事内容や施策、その成果などを伺いました。
経営判断にクリエイター的な考え方を取り入れるBTOとBDO
――ウエディングパークの事業と、新しく作られたBTOというポジションについて教えてください。
私たちは「結婚を、もっと幸せにしよう。」という経営理念をもとに、「21世紀を代表するブライダル会社を創る」というビジョンの実現に向けて日々邁進しています。1999年から結婚式場のクチコミサイトをスタートし、現在はメディア事業を中心として、DXや教育関連の事業も手掛けています。
BTOとBDOというポジションが作られたのは、2021年にスタートした「デザイン経営」からの流れです。それまでも力を入れていた「技術」に加え、「デザイン」の力を経営に取り入れ、「技術とデザインのウエディングパークを創る」というロードマップを具現化するための施策です。
エンジニアの代表がBTOで、デザイナーの代表がBDOになります。経営チームにはクリエイター(エンジニア・デザイナー)がいないため、経営判断にクリエイターの視点を反映させる役割を担います。
もともと、私たちウエディングパークには、能力だけでなく、考え方や熱意をもとに役割を与えるカルチャーがあります。年齢に関係なくチャンスを与えるという意味で、若手が選ばれたのだと思います。そのポジションを目指す人が増えてほしいという意図で、任期を1年として、毎年そのポジションを空けるようになっています。
――そんな中でBTOに選ばれた永井さんですが、経歴と、任命されたときの気持ちを教えてください。
2018年に新卒で入社し、エンジニアとして開発業務をやりながら、WPPJ(現カルチャー推進室)というチームにも所属していました。2021年にRingraph(リングラフ)という結婚指輪・婚約指輪のクチコミサイトの専任エンジニアになりました。2023年1月にマネージャーに昇格し、10月にBTOになった、という経緯です。
Ringraphの担当とBTOを兼務する形になり、タスクの割合はBTOが1~2割くらい。でも、もっと経営や組織に携わりたいと考え今年の2月に全社でエンジニア組織の技術指針を考え、実行する組織「TECH戦略室」を提案し、RingraphにかけていたリソースをTECH戦略室に移しました。
BTOに選ばれたときは……それまでにない役職だったので驚きました。たくさんのエンジニアの中で選んでもらえたことは、嬉しかったです。スキルではなく考え方で選ばれたとは聞いていましたが、「私にできるだろうか」という思いもよぎりました。でも、「できる」と思ったから抜擢してもらえたんだろうと考え「力がないなりに頑張ろう」と思いなおしました。
目標シートの導入と、ビジネスグロースアワードの開催
――BTOとして、どのような仕事からスタートして、進めていったのでしょうか?
どこから始めればいいか迷いましたが、まず、経営チームと一緒に、「技術とデザインのウエディングパークとは」というところから解像度を上げて認識を合わせました。社長室に集まり、全員で横並びになりポストイットを活用しながら議論しました。最初はぎこちなかったと思いますが、2ヶ月ほどで認識を揃えられたと思っています。そこで定まったのが、「クリエイターがデザイン思考×具現化力を武器に事業成長をリードする」という言葉。これをもって、全社に浸透させていく動きに移行していきました。
具体的な施策としては大きく2つあります。ひとつは、クリエイターの目標設定方法のテコ入れです。経営チームとの会議で、クリエイターに事業成長をリードするよう変化してもらうには、「目標設定」の部分へのアプローチが効果的だろうと考えたのです。
「ビジグロシート」(ビジグロはビジネスグロースの略)というフォーマットを作成し、これまで「何を作るか」になりがちだったクリエイターの目標を、「何のために作るか」「どういう成果を求めるか」と思考できるようなフォーマットに作り替えたのです。
また、「事業成長をリードする」の具体例を全社的に伝えていくために、「BUSINESS GROWTH AWARD」を開催しました。これが2つ目の施策です。クリエイター全員に事業をリードしたと思える今期の事例を提出してもらい、その中からファイナリストを選び、最終的に優勝者を決めます。ファイナリストには7分間でプレゼンをしてもらい、その後3分間の質疑応答を設けます。プロセスや成果だけでなく、思いを語るメンバーも多く、とても盛り上がりました。
クリエイターは全員が現地に集まり、クリエイター以外は希望者のみ配信またはアーカイブで見られるようにしました。そのため、プレゼン内容はクリエイター以外にも伝わるように作成してもらいました。クリエイター全員分のシートを読み込んで8人を選ぶのはすごく大変でしたし、ファイナリスト8人の中から社長、BTOである私、BDOの3人で優勝者を決めるのもとても難しかったです。
――2つの施策は、どのような反響がありましたか。
「ビジグロシート」は、一部のメンバーにトライアルとして使ってもらったところ、「以前より事業成長に対する解像度が上がった」「マネージャーと会話がしやすくなった」というフィードバックをもらっています。それをもとにブラッシュアップして、次からはクリエイター全員に導入する計画です。
「BUSINESS GROWTH AWARD」は、クリエイターから「具体的な事例を知ることができた」「『事業成長をリードする』さまざまな形をインプットできた」という感想をもらいました。クリエイター以外からも、「考えや大事にしている思い、頑張っていた理由を知れてよかった」「なかなか見えないクリエイターのプロセスが見られた」というフィードバックがありました。
特に、経営チームからはとてもよい反応をもらいました。これまでは「事業成長をリードしてほしい」と伝えても、「例えば」の具体例を言えなかった。でも、これからはリアルな具体例とともに語れます。
当社には「No.1にこだわる」というカルチャーがありますが、数字で見えるセールスなどと比較して、クリエイターが体現する場がなかなかなありませんでした。そのため、クリエイターが一番を目指す試みとなったことも評価してもらえました。
経営チームとクリエイターの視座の違いや、考えを浸透させる難しさを実感
――特に難しかった点や、戸惑ったことはありましたか?
最初は経営チームとの視座の違いに戸惑いました。また、私自身は「技術とデザインのウエディングパーク」という言葉を、「クリエイター発信でイノベーションを起こせたらかっこいい」というイメージで捉えていました。ところが、経営チームからみると、イノベーションは手段でしかなく、その先の顧客体験や組織の持続性が大事。点で見ている私と、何年も先を見ている経営とで見ているところが違い、最初はなかなか噛み合いませんでした。
クリエイターが当たり前に感じている感覚が経営チームの感覚とは異なるため、「どうしてそういう考え方なのか」「どういう言葉ならワクワクするのか」など深掘りしてもらって、クリエイターの考えに対する認識を揃えていきました。
それぞれの違いを知り、私たちからはクリエイターの考えを、経営チームからは会社を成長させるための観点を伝え合い、それらを咀嚼して現場に伝えていくことにしたんです。
ただ、伝えていくのも簡単ではありませんでした。私たちが定めた「クリエイターがデザイン思考×具現化力を武器に事業成長をリードする」という言葉は、それを見せられても「何を変えればいいの?」「何が変わるの?」という疑問が浮かぶだけ。発表後にクリエイターの声を集め、言葉を出すだけでは伝わらないと思い知りました。実現するための施策を散々議論した結果「目標設定」と「アワード」を実行することにしたのです。
しっかり考えるフェーズと、どんどん実行していくフェーズで動き方が大きく変わると学びました。経営チームとの数ヶ月の議論があったからこそ、浸透する時に迷わず実行できます。考え方が揃っていれば、判断基準が定まり、任せてもらえます。この経験は、今後のあらゆる仕事で生きてくるだろうと思えました。
経営やビジネスを知っているクリエイターとしてキャリアを積みたい
――今回の経験を踏まえ、今後のチャレンジやビジョンとして考えていることを教えてください。
経営チームとクリエイターで、「当たり前」と思っていることは違うと知りました。だからこそ、クリエイターの経営に対する理解は重要。1年間やってきて学んだことはたくさんありましたが、経営やビジネスを知っているクリエイターとしてはまだまだです。能力よりも考え方で選抜されたので、これからは能力も追いついていきたいと考えています。
スペシャリストとして突き抜けるより、マネージャーとしての組織づくりに面白みを感じており、自分で立ち上げたTECH戦略室で、半年前から組織の成長を目指しています。
BTOが終わるのとほぼ同じタイミングで産休に入るので、それまでにやり切ろうと走り続けてきました。育休から戻ってきたときのエンジニア組織の成長は、私たちが取り組んできたことの答え合わせでもあると思っています。どんな組織になっているか、今から楽しみでワクワクしています。
取材・執筆:栃尾江美